陽だまりをくれる人 外伝─Überlieferung─   作:粗茶Returnees

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 二次創作の外伝って何なんでしょうね。我ながら思います。




1話

 

 学年が上がって、1学期のちょっとしたドタバタも終わった私達は、夏休みに遊びに行ったりライブをしたりと充実した生活を送ってた。2学期に入って、まさかのこの時期の修学旅行があったんだけど、なんだかんだで楽しめた。友希那とリサと同じ班だったしね。

 今年に入ってから、リニューアルしたスタジオがあった。名前は『Galaxy』。リニューアルオープン記念に、ポピパ、アフロ、ハロハピ、Roseliaが出た。私たちAugenblickとパスパレは出なかった。さすがに事務所NG。私は個人で行ってみようかと雄弥に相談したんだけど、やめとくように言われた。雄弥にそう言われたのは意外で、その事を疾斗に話しても似た感じだった。

 

「うーん、なんとかならないかなー」

「結花何に悩んでるの?」

「雄弥を落とす方法」

「は?」

「冗談だから! 目が怖いよリサ!」

 

 わざと紛らわしい言い方にしたんだけど、リサ相手にこれはやめといた方がいいね。優しい瞳が一瞬で獲物を捉えた鋭い眼に変わったし、冷や汗が止まらないし。心臓に悪いったらありゃしない。

 私の席の前に座ったリサは、呆れたようにジト目を向けてくる。リサからしても今のは冗談のつもりらしい。冗談とは思えない怖さだった。

 

「それで、雄弥がどうかしたの?」

「うーん、雄弥がどうってわけでもないんだけどね。ほら、リサたちはGalaxyでライブしてるじゃん? 私たちもやってみたいな〜って」

「結花たちも? さすがにやめといた方がいいよ。結花たちの集客力で考えたら客席が狭すぎるもん。ネットで炎上するよ?」

「そんな彩のSNSじゃないんだから……。でもやっぱり狭いよね〜。シークレットでやるのも無理かー」

「いや、彩だってSNSで炎上なんてしてないからね?」

 

 リサのツッコミを聞き流して、私は椅子に持たれかかって天井を見上げる。文化祭の時は裏技で私も歌うことができた。さすがにAugenblickでは出られなかっけど、私と友希那のデュエットができたし、リサのベースと雄弥のギターがバックにあった。あくまで文化祭の範囲でできたことで、Galaxyでのライブとなればそれはもう私たちAugenblickのライブとなる。ネックとなるのは客席。

 愁なら何か手を考えてくれるかもしれない。そう思ったこともあったけど、手段はなくはないけどやめといた方がいいと言われた。大輝には聞いてない。やろうとしか言わないから。

 

「二人ともどうしたの?」

「あ、友希那〜。結花がね、Galaxyでライブしたいって言ってるんだけど、さすがに無理があるよね〜ってなってるんだ〜」

「Galaxyで? なぜあそこで?」

「友希那たちがライブしたから」

「はぁ。あなたね……もっと大きな会場でできるでしょ? それこそ私達が立てないような舞台に」

「それとこれは別というか……」

 

 分かってる。これは私の我儘なんだ。海外ライブだってやった私たちなら、もっともっと大きな会場でやることができる。それこそ武道館でのライブだって狙える。自惚れじゃなくて、それだけの人気があることを自覚してる。

 それはそれとして、Galaxyでやりたいんだ。箱でしか味わえない感覚を味わいたい。客席からしか知らないあの熱量を、舞台の上で、演奏者として味わいたいんだ。他の4人があまり乗り気じゃないのも難題なわけで。

 

「リサは雄弥から何か聞いてない? 私がGalaxyでライブしたがってることについて」

「ううん。何も聞いてないよ。それこそアタシが知ったのは今日が初めてだし」

「そっか〜。まぁ身内の問題ってわけだしなー」

「……リサ、本当に聞いてなかったの?」

「へ?」

 

 突破口になりそうなものが見当たらない。リサなら雄弥から何か聞いてるかもって思ったけど、そういうわけでもない。お手上げだなーって思ったんだけど、友希那が何か引っかかったみたい。私なら流してたところを。

 

「本当に雄弥から何も聞いていないのかしら(・・・・・・・・・・・・)?」

「え、うん……そうだけど、友希那は何か聞いてたの?」

「いえ、私も聞いていないわ。ただ、雄弥がリサにすら話していないという点が引っかかったのよ」

「アタシでも知らないことはあるよ?」

「音楽関連はそうではなかったはずよね?」

「……あ……」

 

 むぅ、私じゃついていけない話だ。雄弥の癖というか、二人がつけさせた習慣の話なんだろうけど、音楽関連は全部どっちかに話すようにしてる、とかなのかな。最近だとリサの方が知ってるとか?

 

「今回のは線引きが怪しいところだけど、音楽関連とも言える内容だわ」

「それでも雄弥はアタシにも友希那にも話してない……」

 

 ……隠し事ってほどじゃないけど、話さないものがあってもいいんじゃないかな。そう思う私がおかしいのだろうか。変に飛び火するのも嫌だし、ここは二人の流れに便乗しようかな。

 

「Galaxyに何かあるってこと?」

「そう考えるのが妥当ね。……と言っても、あそこは普通のスタジオなのだけど」

「Augenblickのみんながあからさまに避けてる、とかなら分かるけど、普通にアタシたちのライブ見に来てたしね〜。ポピパの主催ライブだって見に来たわけだし」

「うーん……今日にでも改めてGalaxy行ってこよっかな! 仕事とかないし!」

「同行したいところだけど、今日は練習があるのよ。ごめんなさいね結花」

 

 申し訳なさそうに謝る友希那に、別にいいよって首を振る。妹として引き取ってもらってるわけだけど、同い年なわけで私はもう18歳なのだから。これくらい一人でも問題ないんだよね。花音みたいに迷子になるわけでもないし。

 

「雄弥は誘うのかしら? 今日は午後から空いてるって聞いてるけど」

「ううん。一人で行ってくるよ」

「友希那は心配性だなー」

「もしもの事があれば困るでしょう。結花はアイドルなのだから」

「そうだけどさー。あ、それなら、アタシたちの練習が終わったら一緒に帰る。っていうのはどうかな? アタシたちがGalaxyに行くのもよし、結花にこっちに来てもらうのもよし。明るい間なら心配いらないっしょ?」

「……そうね」

 

 私のことなのに私を抜きにして話が進んでいく。何なのだろうかこの光景は。別にいいんだけどね。一人でGalaxyに行くにしても、帰りにみんなでワイワイしてるのも楽しいし。そもそも、改めてGalaxyに行って何か収穫があるのかも分からないし。あ、店長さんが淹れてくれるコーヒーは収穫に入るか。

 

「結花もそれでいい?」

「いいよ〜。こっちから連絡入れるようにするね」

「オッケ〜」

 

 休憩時間が終わって、本日最後の授業が始まる。私はその授業の半分くらいしか脳に入って来なかった。Galaxyで得られる情報があるのか。たぶん、店長さんに聞くのが一番だよね。六花ちゃんは今年からこっちに来たばかりのバイトちゃんだし。

 放課後になるまでが長く感じた。救いだったのは授業の後のHRが短かったこと。私は途中まで友希那とリサ、そして待ち合わせたあこと一緒に歩いて、途中で別れた。紗夜と燐子は現地で合流するんだとか。Roseliaも、知ってから一年弱だけど、随分仲が深まったと思う。衝突という壁を乗り越えて、一段と演奏にも磨きがかかって。

 

 あれを目の当たりにして思う。私たちはどうなのだろうか、と。

 

 私たちは、本当にトップレベルの演奏で走り続けられているのだろうか。

 

 

 

 浮かんできた疑問を首を振って霧散させる。迷いは歌に影響する。心身を整えるのも、アーティストとして当然の仕事。それに、今は目の前のことを片付けないと。

 商店街でいろんな人と話して、お裾分けも貰っちゃったりしながらGalaxyに到達する。階段を降りていって、そこにある扉を開ける──つもりだったんだけど、私が扉に近づくと同時に中から扉が開けられた。

 

「うわっ!?」

「ん? あぁ、悪い」

「あ、キングだ〜。練習してたの?」

「そんなとこ。ってかその呼び方はやめてくれ」

「マスキングは長いじゃん」

「ならマスキでいいだろ」

「たしかに!」

 

 その考えを見落としてたや。誤魔化すように笑ってると、マスキが呆れてため息をつく。怖いイメージあったけど、なんだかんだで人情に厚いし、可愛いとこあるし、仲良くしたい人だよね〜。

 

「あんたは?」

「結花」

「は?」

「名前で呼んでよ、マスキ」

「……分かったよ」

 

 頭を掻いてぶっきらぼうに名前を呼んでくれる。ちょっと照れ臭そうにしてるのもポイント。勘違いされちゃったりするのが、随分と勿体ない気がする。

 

「結花はこれから…………っ……あー、今日入らないほうがいい」

「え、なんで?」

「なんでも」

「気になるんだけど、あれ? 音楽流れてないね? 今から違う曲にするのかな?」

 

 Galaxyのフロントはいつも音楽が流れてる。歌はなくて演奏だけ。ジャズとかクラシックとかロックとか、それこそいろいろ。いつもパソコンで曲を決めて、いろんなのが流れてくわけなんだけど、それが止まってる。好きな曲を聴くときはCDにしてるって言ってたし、今からそっちが流れるのだろうか。

 扉を閉めようとしたマスキを遮って、私は店長さんがどんな曲を流すのか聴いてみることにした。

 

 

 ──それが間違いだったと気づいたのは、曲を聴いてからだった

 

 

「……ぇ……これって……」

 

 聞こえてきたのはどこかのバンドの演奏。ううん、違う。どこかのバンドなんかじゃない。よく知ってるバンドだ。

 私がよく知るバンドで、私が所属してる(・・・・・)バンドだ。疾斗のギター。雄弥のベース。愁のキーボード。大輝のドラム。聞き間違えるわけがない。

 

 

 でも、私が知らない曲だった。

 

 

 

 そして──存在しないはずのボーカル(5人目)の歌声が聴こえた。

 

 

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