陽だまりをくれる人 外伝─Überlieferung─   作:粗茶Returnees

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2話

 

 ベッドの上で膝を抱える。部屋の電気はつけず、暗闇の中一人。帰ってくるまでのことが記憶にない。あの曲を聞いたところまでは覚えてるんだけど、どういう道順で帰ったんだっけな。友希那にちゃんと連絡したっけな。覚えてない、分からない。だけど、それを確認する気力もない。

 あの曲はいったいなんだったんだろう。あの歌声の主は誰だったんだろう。分かるのは男の子だってこと。同年代くらいのはず。Augenblickのメンバーの年齢は、ほとんど固まってるから。

 

(奪い取った……? 私が居場所を盗んだの……?)

 

 もしかしたらそう思われてるのかもしれない。何か事情があって加入が遅れて、その間に私が奪ったのかもしれない。そんな可能性が脳裏を過ぎる。否定したいけど、否定できる気がしない。そう言われても反論できないから。

 部屋が急に明るくなる。顔を上げたら、部屋の入り口に友希那が立ってた。制服じゃなくて部屋着。お風呂はもう済ませたのかな。

 

「電気くらい点けなさい」

「……そうだね」

「……何があったの?」

「…………」

 

 押し黙る私に友希那は何も言わない。静かにドアを閉めて、私の目の前に座る。私は腕を引っ張られて、友希那に頭を抱えられた。なんで何も言わないのに、こうやって優しくしてくれるんだろ。私は、友希那に張り合う資格すら持っていないのに。こうしてもらえるのもおかしいのに。

 

「話してくれないのかしら?」

「……」

「……佐藤さんに会ったわよ」

「っ! ……なら……知ってるんじゃん……」

「あなたの思いを聞けていないもの」

 

 友希那はズルい。リサみたいな外から埋める優しさじゃなくて、直線で距離感を調整して合わせてくれる。だからこそ、こういう時に心にぐっと来て、壁を突き崩される。

 

「……私以外にボーカルがいた……」

「Augenblickに、よね? 私でも知らなかったことなのだけど……。おそらくお父さんも知らないわよ」

「うん……でも、いたの……曲があったもん!」

「……そう」

 

 シーツを掴む力が強くなる。友希那の腕の力が少し強くなって、私はぎゅって抱きしめられる。友希那だって真相は知らない。でも、友希那は私を支えてくれる。それが嬉しくて、離したくなくて、友希那が離れたらって不安に襲われる。

 

「大丈夫よ結花。私は何があっても結花の味方だもの」

「友希那……」

「雄弥たちはたしかに仕事の関係で結成されたバンドにいる。だけど、彼らは口では仕事の関係と言いながら、仲間のことを大切にしている。それは結花がよく知っているでしょう?」

 

 知ってる。後から加入した私のことを大切にしてくれてることを、何度もいろんな場所で実感した。マスコミの意地悪な質問も、雄弥たちが庇ってくれた。私にたくさん教えてくれて、いろんな景色を見させてくれてる。疑いたくはない。でも、一度抱いた不安が拭えない。

 

「もし、仮に本当は誰かがボーカルだったのなら、結花はバンドに入れていない。その枠は必ず残し続けられていたはず。そうならなかったということは、何か事情があるのでしょう」

「何かって……なに?」

「それは私にも分からないわよ。雄弥たちに聞かないと……あの子は今日帰ってこないみたいだけど」

「え?」

 

 連絡があったらしい。雄弥は今日疾斗の家に泊まりに行くって。たぶんハロハピの活動に巻き込まれてるだろうけど。こころが何か計画してるらしかったし。

 

「明日帰って来るから、その時に聞いてみましょう。今日はちゃんとご飯を食べて、お風呂に入って、しっかり寝る。いいわね?」

「……うん」

「まずはご飯ね。お父さんたちも待っているし、さっそく下りましょう」

 

 え、みんな待ってたんだ。先に食べていたらよかったのに……って言うのは野暮だよね。ちゃんと謝って、待っててくれたことにお礼を言わなきゃ。

 先にベットから降りた友希那が、私に手を差し伸ばしてくる。私はその手を握ってベットから降りる。繋がっている手から友希那の優しさが伝わってくる。それは体温という形で伝わってきて、先を歩く友希那の背中が大きく見えた。

 

「下りてきてわね」

「ごめんなさい」

「いいのよ。さっ、食べましょうか」

 

 お母さんは何も聞かずにご飯をついでくれる。お父さんも何も言わないし、それが心地良くて、私はこの環境に甘えてしまう。今は、と弱い自分を曝け出してしまう。それが良いことなのか分からない。もしかしたら悪いのかもしれない。揺れてしまう私の心を、友希那の手が留めてくれる。

 ちらっと横を見たら、目を細めてる友希那と目が合う。繋いでいる手が一段と強く感じられる。何の根拠もないけど、友希那がいてくれたら大丈夫だと思えてしまう。私は、まだ頑張れる。

 

「見つめ合ってないで座ってちょうだい」

「あ……」

「ふふっ、席につきましょうか」

 

 友希那の隣に座って、用意してもらった晩御飯を食べる。温かい食事で、なんだか沈んでいた気持ちも浮上してくる。

 お風呂にゆっくり浸かって、友希那にリビングに呼ばれて行ってみたら髪を乾かしてくれた。友希那は家事が全然できないし、音楽以外がからっきしってイメージもあるんだけど、髪の手入れがびっくりするぐらい丁寧。私も気をつけていたんだけど、友希那の方が詳しい。ドライヤーも心地良くて、私は瞳を閉じて友希那にもたれかかりたくなる。

 

「はい、もういいわよ」

「ん〜、ありがとうー」

「寝るならちゃんと部屋で寝なさいよ?」

「友希那はー?」

「……はぁ、後から部屋に行くわ」

 

 片付けを終えた友希那は、私より先に2階に上がっていく。作詞もあるだろうし、たしか学校の課題もあったから、それを終わらせてから部屋に来てくれるのかな。

 

「あ、私も課題やらなきゃ!」

「結花、ちょっといいかな?」

「どうしたの?」

 

 バッとソファから起き上がったら、お父さんから声をかけられた。お父さんから声をかけてくるのは珍しくて、どんな用なのか全然予想もつけられない。

 

「もしかしたら、結花に謝らないといけないと思ってね」

「へ? 何かあったっけ? もしかして私のおやつ食べたとか?」

「いやそれはしてないよ。……バンドのことさ」

「っ!?」

「雄弥たちから説明するべきだろうし、こちらから話すこともできないのだが、父さんは事情を知っている。話す必要はないだろうと、そう判断したのだが、もしそれで結花が今傷ついているのなら──」

「あはは、お父さんってば背負い過ぎ。その気持ちだけで嬉しいよ」

 

 ──なんで話してくれなかったのか

 もし私が家に帰ってきてすぐにこれを知ったら、そう叫んでたと思う。当たり散らしてたかも。でも、時間が空いて自分でも少し落ち着くことができて、友希那が支えてくれるって分かった。それだけで十分だ。お父さんが取るような責任なんてどこにもない。私たちはまだ未成年だけど、社会人の端くれでもある。今回の案件的にも、親が責任を肩代わりする必要なんてないんだ。

 

「私は全部知らないといけないんだと思う。今までずっと甘えられてきたけど、それの区切りにするべきなんだよね。……真実次第じゃ私がどうなるか分かんない。怖いよ? でも、それでも私は受け入れてみせるから。結果も含めて」

「……そうか。去年とは見違えるほど成長したな」

「ちょっ、いきなりそんな事言われてもリアクション困るってー!」

「ふっ。全てを知り、自分の思いをぶつけなさい。Augenblickに足りないものを結花は知っているのだから」

「うん!」

 

 お父さんに背中を押されて、私は気合に満ちた笑顔を浮かべられたと思う。軽くなった足取りで階段を駆け上がって、一度自分の部屋に入ってから友希那の部屋に突入する。

 

「一緒に課題やろー!」

「ノックしてから入ってきなさい」

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 今日は全体練習の日。メンバー全員が揃う日で、私が話を聞くのにもってこいな日だった。本当は貴重な時間を潰さないほうがいいんだけど、こういう時じゃないとたぶん話してくれない。全員に予定を空けてもらうより、全員の予定が一致してる日にしたほうが都合がいいんだ。

 

「さて、じゃあまずは大輝がパシリになるとして」

「待て疾斗。その前提はおかしいぞ」

「ジャンケンしたところで大輝が負けるのは目に見えてるだろ」

「いつも負けてるみたいに言うなよ!」

「しゃあねぇな。愁も巻き込んでジャンケンだな」

「勝手に混ぜないでくれるかな?」

 

 部屋に入ったら早速よくわからない光景を見させられる。私は何が起きてるのかよく分からなくて、一人離れてベースをチューニングしてる雄弥に近づく。昨日帰ってこなかった雄弥。どこで何してたんだか。

 

「あれ何してるの?」

「いつもの光景。ジャン負けが買い出しだな」

「雄弥は免除なんだ?」

「俺は先に買ってきたからな」

 

 言われてから気づいた。雄弥の近くにあるテーブルに、ビニール袋が置かれてる。中には飲み物が入ってるみたいで、なぜか2本あった。どっちもスポーツ飲料なんだけど、2本飲むつもりなのかな。

 

「一本は結花のだ」

「そうなの? ありがとう」

 

 なるほどなるほど。私も分も雄弥が用意してるから、私もあのジャンケンに巻き込まれないでいいわけだ。別に混ざってもいいのだけど、雄弥がせっかく買ってくれたのだし、私は今日これを飲むとしよう。

 それに、みんなに話を聞くんだって固めた覚悟が薄れちゃうかもしれない。

 

「おっしゃ勝ったァァァ!!」

「なん……だと……」

「なぜ僕に勝てなかったのか、明日まで考えてみてください。そしたほがぁっ!?」

「それは腹立つ」

 

 ジャンケンに負けたのは、絶対の自信を持っていた疾斗みたい。ライブ終わりぐらいに飛び跳ねてる大輝はいいとして、煽ってきた愁には理不尽ビンタをしてる。あれ結構痛そうというか、最悪首の骨がやられるような。

 

「疾斗は加減を間違えないぞ」

 

 私の懸念を晴らしてくれたのは雄弥で、雄弥はチューニングを終えたベースを仕舞って……え、仕舞うの?

 

「さて、ジャンケンも終わったし、先に買うか後に買うか……」

「あ、疾斗ちょっといい?」

「どした?」

「疾斗だけじゃなくて、みんなに聞きたいことがあるんだけど」

 

 私がそう言うと、大輝や愁もこっちを見てくれる。雄弥は相変わらずだけど、リサから何か聞いてるのかな。

 

「……私が入る前に、誰かボーカルいたよね?」

「「っ!?」」

「……知っちゃったか」

 

 大輝と愁が驚いて、疾斗は困ったように苦笑いする。確信を持って言ってるから、誤魔化しなんて通用しない。それがみんなに伝わって、疾斗が楽器を片付けるように指示を出した。

 

「えっと……」

「中途半端にしか知らないんだろ? その話をするなら、ここから移動する必要がある」

「あいつの話をするために最適な場所があるんだよ」

「結花も行ったことあるけどね」

「それって」

「Galaxyだ。あそこで全部話してやるよ」

 

 ベースを背負った雄弥がそう言って先に部屋を出ていく。元から楽器を出してなかった疾斗が、肩をすくめながら雄弥に続いて、私も雄弥が買ってくれた飲み物を取って後を追いかけた。

 

 

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