▶惑星サンライズ・クラウド大陸◀
カンジ「いよいよ出航かぁ。『アスタンテ』の整備の仕事も終わって、ようやくのんびり出来るぜ」
雲海に閉ざされた大陸『クラウディア』
そこに住む若い青年が『カンジ・アカツキ』だ。無職というわけではないが、物事を決意すること・継続することが苦手なため、周りからは“なまけ者”と認識されている。
本人も、そのように見られていることに気付いてはいるが、改善する気は誰から見てもなかった。
そんな彼の元へ、1台の車が走ってきた。車は、彼の目の前で止まり、中から軍人らしき人物が降りてきた。
軍人らしき人物「おまえが、カンジ・アカツキか?」
カンジ「ん? ああ、そうだが?」
どうやら軍人らしき人物は、カンジに用があったらしい。一方、カンジは状況を理解しきっていなかった。
軍人らしき人物「探しましたよ。さっ、乗って! 送りますから」
カンジ「えっ!? 送るって、どこにだよ?」
軍人らしき人物「あまり妹さんを心配させないで下さいよ」
カンジ「あっ? どうして、そこでリエの話になるんだよ!?」
軍人らしき人物「早く乗ってください! アンタを連れてかないと、給料引かれちまうんだよ……」
カンジ「(あー、めんどいなぁ)」
カンジは、渋々と軍人らしき人物が運転してきた車に乗った。どこに連れて行かれるかは、聞かなくてもカンジは分かっていた。
そう……『アスタンテ』の停留所だ!
▶クラウド大陸・停留所◀
???「おまえさんが、カンジ・アカツキか?」
カンジ「えっ?」
停留所に着いたカンジに、パイロットスーツを着た2人の男が声をかけた。見た限りだと、年齢はカンジとあまり離れてなさそうだ。1人は、異文化的な人種に見えるが、今は気にしないことにした。
???「雲海調査船『アスタンテ』遊撃隊・隊長のイサム・ダイソンだ! よろしくな」
???「待て。いつから貴様が隊長になった?」
イサム「細けぇこた、言わなくて良いんだよ。女に逃げられるぞ?」
???「貴様のその性格が、ミュンを困らせていることを気付いてないとは言わせんぞ!」
イサム「何だぁ、やんのか!?」
カンジ「あ、あのぉ……」
到着して迎えてくれた遊撃隊のパイロット2人が、カンジの存在を忘れて言い争ってるのに、さすがのカンジも困り始めた。それに気付いた異文化的に見えるパイロットが、カンジに名を名乗った。
???「俺も、こいつと同じ遊撃隊として雇われた。ガルド・ゴア・ボーマンだ」
カンジ「あ、あぁ。よろしく……って、オイッ!? これって、すごく嫌な予感がするぞ……」
カンジは、気付き始めた。そう、
自分も『アスタンテ』に関わることになることを。
軍人らしき人物「では、皆さん。ブリッジに行って、艦長に挨拶を済ませて来て下さい」
軍人らしき人物は、しゃべり終わった後にカンジを見てニヤけた。イサムとガルドは、艦長とは初対面になるが、カンジにとっては、そうではなかった。
▶アスタンテ・ブリッジ◀
イサム「ひぇーい。マクロス級じゃないけど、けっこう大きい戦艦じゃないの」
ガルド「艦長は、どこにいる?」
カンジ「……」
ブリッジに艦長の姿は、なかった。イサムとガルドは、困っていたが、カンジは嫌な予感からか背後から近づく人影に気付いた!
??「だーれだ?」
突然、カンジの視界が真っ暗になった。
妹の『リエ』だ。
年齢的には、そこそこ大人なハズなのに背後から近づき、両手でカンジの目を隠した。
カンジ「リエだろ」
リエ「正解~」
イサム「へぇ~。かわい子ちゃん、じゃないの。カンジの知り合いか?」
カンジ「あー……知り合いでは……あるな」
ガルド「どうでもいい。それより女、この艦の艦長を知らないか?」
カンジ「……」
リエ「フフフッ、艦長は、どこかなぁ~」
この含みのある言葉は、ちょっとしたトラブルになるかもしれない。彼らは、普通のパイロットではなく正式に軍から派遣されたパイロットだ。
リエも一応、女の子。
年上の男性、それも軍属のパイロットと口論して、勝てる訳がない。
カンジ「おい、リエ! 立場は、向こうが上だ。ふざけるのは、そこまでにしとけ!!」
リエ「は~い……(今日のお兄ちゃん、ちゃんとしてる。いつもこれくらいなら助かるのになぁ~)」
「では、改めて。雲海調査船『アスタンテ』艦長の『リエ・アカツキ』です。よろしくお願いします!」
イサム「ハァッ!? 待て、待て、待て!!」
ガルド「……おい、カンジ。説明しろ!」
カンジ「リエの言葉通りです。あっ、でも博士号を持ってるから心配なく」
リエ「(それを言ってる、お兄ちゃんが1番心配なんだけどね)」
イサムとガルドが驚くのも、無理はない。2人は、軍属パイロットの中では若い方で、それより年齢が若い者が艦長だと言っているのだ。
イサム「信じられねぇな……なぁ、ガルド?」
ガルド「見た目だけで決めつけるな。貴様の悪いクセだ」
イサム「あーっ! ガルド、てめぇ裏切りやがったな!?」
リエ「(ねぇ、お兄ちゃん。裏切るって、どういうこと?)」
カンジ「(リエ。世の中には、知らないほうが良いこともあるんだぞ)」
リエ「??」
カンジは、自分の妹に“ナンパされそうになってるぞ”とは、兄の口からは絶対に言えなかった。
周りから“ロリコン”とか“シスターコンプレックス”とか言われたとしても、いざとなった時は妹を心配するのが兄なのだ。
そうこうしているうちに、出航予定時刻が迫っていた。
だが、ここまでの流れで明らかになっていないことが1つある。
そう……カンジは、どういう役割でアスタンテに乗艦することになったのか。ブリッジにいる皆が気付いた時、ちょうどよく通信によるメッセージが届いた。
????「リエ、カンジ、そして統合軍のイサム隊員とガルド隊員」
「私は、地球連邦軍・独立部隊『ロンド・ベル』のブライト・ノアだ」
リエ「ご無沙汰しております、ブライト艦長」
ブライト「リエ、立派な艦長に成長したようだな」
リエ「いえ、私は、まだまだ半人前だと感じております」
イサム「(すっげぇー、あのブライト艦長と普通に話してやがるぜ!)」
ガルド「(フッ……期待できそうな、人材が艦長のようだな)」
カンジ「(なんだかなぁ~。2人共、リエに手ぇ出すなよ?)」
ガルド「(あ、あぁ……)」
イサム「(し、心配するなって……)」
カンジ「(?)」
急にイサムとガルドの雰囲気が変わった。通信が来てからだろうか、さっきまでの軽い印象が無くなったようにカンジは感じた。
パイロットスクールの教科書に載るような上司が目の前にいるのだ。
そして、その上司と仲良く話しているリエに“ナンパ”など、出来るハズがなかった。
ブライト「カンジ!」
カンジ「はっ、はいっ!!」
ブライト「インパルス7の修復が終わっているのだが……」
「また、我々と共に戦う気は、ないか?」
カンジ「……」
ブライト「辛いのは、分かる。強制する気もない」
カンジ「(ルン……)」
そう。カンジは、前大戦で偶然ではあるがパイロットとして戦っていた……
しかし、その大戦中に恋人である『ルン・フォレスト』が行方を消してしまったのだ。
カンジは、この時からパニック障害を発症し、パイロットとしての登録は抹消されていた。パイロットを外れた後は、整備班を手伝っていて現在に至る。
戦時中に比べると、だいぶ症状は落ち着いてきたが、今でも軽い鬱が時々発症する。
ブライトの言葉に、カンジは少し間をおいて返答した。
カンジ「俺の……俺なんかが、役に立つなら……」
「あぁ、うぅぅ……くそぅっ!」
リエ「お兄ちゃん!!」
ブライト「(ダメか……すまない、カンジ……)」
「(だが、我々には……雲海の戦闘を経験している、お前の力を借りたいのだ)」
「(強制しないとは言ったが……ズルい大人を許してくれ)」
イサム「おいおい、どうしたんだ?」
ガルド「(この震え方……コイツの魂は、前大戦で死んだのか?)」
「イサム! 良い機会だ。久々に“ドッグ・ファイト”といくか!!」
イサム「ハァッ!? おまえマジで言ってんのか!?」
ガルド「分からないのか? 空は、いつでも輝いている」
「嬉しい時はもちろん、悲しい時には希望をくれるのが“空”だ……そうだろう?」
カンジ「ルン……お、俺は……うぅぅ」
ブライト「(なるほど。君たちが光を見せてくれるのか)」
イサム「分かったぜ、ガルド! 勝った方が、飯おごるってことで」
ガルド「そう言って、手抜きしたら許さんぞ?」
イサム「へへぇ。航海初日と歓迎会だぜ! 余興も兼ねて本気で飛ぶぜ!!」
リエ「見て、お兄ちゃん! 本物のドッグ・ファイトだよ!!」
ブライトの意思を感じ取り、カンジに空(世界)の素晴らしさを思い出させるために……
イサムとガルド、そして
ルンの声「(カンジ、泣いてるの?)」
カンジ「(うぅぅ……ルン……そこに? そこにいるのか、ルン?)」
ルンの声「(私は、いつでもカンジと一緒にいるよ)」
「(カンジ、飛んで! そして迎えに来て!! 思念体じゃなく……私の身体を……)」
カンジの心の中で、ルンも語りかけた。
カンジ「大丈夫だ。皆、俺は、大丈夫だ!」
リエ「お兄ちゃん! 良かった……ホントに良かった……」
「(ありがとう。ルンちゃん)」
イサム「ったく、世話かけさせやがってよぉ。まあ、良かったな、カンジ!」
ガルド「カンジ! ブライト大佐やアカツキ艦長はもちろん、俺もイサムもおまえには期待してる。よろしくな」
カンジ「あぁ、こちらこそよろしくな!」
戦士が復活した。
この時、カンジは大切なことを思い出すことが出来た!
自分は、周りの支えがあって今の自分があることを……
もう迷わない!
恐怖や不安も、皆と一緒に乗り越えてやる!!
ブライト「(もう、大丈夫そうだな)」
「では、貴艦の安全な航行を祈る」