灰兎と獅子の騎士   作:アマシロ

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第2話:トールズ士官学院/探索開始

 

 

 

 

 

 

 

 ホールから地下まで滑り落ち、お誂え向きに設置されていた衝撃吸収ブロックが置かれた場所でなんとか体制を立て直した面々が見たのは、右手に金髪の少女―――アリサを、左手に眼鏡の少女―――――エマを、そして顔面でグレイの胸のあたりを受け止めてなんともいえない感じになっているリィンだった。

 

 

 

 

 

「――――――不埒ですね」

 

 

 

 

 怒ったというよりどこかしみじみと――――いや、怒っていないはずがないのだが――――ジト目をしたグレイが、ゆっくり起き上がって呟いた。

 

 

 

 

「うっ―――――ぶ、無事で良かった―――――いや、その………すみませんでした」

 

 

 

 

 心当たりのありすぎるリィンは動揺するあまり話題を逸らそうと――――したところで母の怒りに小さくなる父オズボーンを思い出して大人しく頭を下げた。時折悪ノリして母に怒られる父の行動が役に立った瞬間であった。

 

 

「ぶつかってしまったのはこちらですので。それに……いえ、今は止めておきましょう」

 

 

 

 グレイは言うだけ言うと特に気にした様子もなく周囲の様子を見渡し。どうしていいやら立ち尽くすリィンのポケットでオーブメントが着信を知らせた。

 

 

 

 

『それじゃあ無事に到着したみたいだし、オリエンテーリング開始ね。周りを見てみなさい』

 

 

 

 

 曰く、校門で回収した武器と届けられたARCUSに付けるクォーツが置かれているという。

 

 青髪の少女とグレイがさっさと自分の得物を回収するのに続いて、それぞれが装備を確かめ。サラの言葉に従ってオーブメントとクォーツを準備し――――そのまま、上に上がってきてから文句を言うようにだけ残して通信が途絶えた。

 

 そしてしばしの沈黙の後、ユーシスが歩き出そうとする気配を察知して咄嗟にリィンが口火を切った。

 

 

 

「とにかく、あの教官がオリエンテーリングだというのが気になる。―――――これだけ大々的に仕掛けてきたんだ、何かしらの試練、魔獣か何かの相手をする可能性が高いと思う。そしてそれは――――アルゼイドのご令嬢のような剣の使い手がいることも考慮した難易度のはずだ。簡単に踏破できるならやる意味がない」

 

「ほう」

「――――む」

「アルゼイド――――」

 

 

 

 

 帝国の<武の双璧>とまで言われるアルゼイドと聞き、さすがのユーシスも足を止める。ユーシスも兄に剣の手ほどきを受けているが――――むしろだからこそ、アルゼイドという名の重さははっきりと実感できる。そしてその令嬢。自分より格上とはっきり想定できる人物もいる試練だと言われれば迂闊な行動に出る愚は犯せない。

 

 

 

「ふむ、私は名乗ったつもりは無かったのだが。よく分かったな」

「実は貴女のお父上に一手ご指南頂く機会があったんだ―――――リィン・シュバルツァーだ、よろしく」

 

 

 

「うむ、ラウラ・S・アルゼイドだ。それでリィンよ、そなたは何か考えがあるのか?」

「ん、S―――――ああ、そのことなんだが……この風、恐らくいくつか分かれ道がある程度の簡単な道だと思う。正直、別れて行動してもすぐに鉢合わせる程度だろう」

 

 

「風か……ふむ、俺には未熟故にそこまでのことはわからないが――――確かにそこまで複雑ではないかもしれないな」

 

 

 

 リィンの言葉に異国風の青年が頷き、マキアスはどこか殺気立ったように言う。

 

 

 

「なら、別行動しても問題ないという事だな」

「いや。そんな迷うことを想定していないような簡単な迷路の意図はなんだと思う?」

 

 

「ほう――――つまり、別行動させることが目的だということか」

 

 

 

 ユーシスが瞑目してどこか納得したようにつぶやき、リィンも頷く。

 

 

 

「ああ。分かれ道、連携の取れていない新入生、恐らく簡単な内容でバラバラになるように誘導しつつ……最後のあたりで各個撃破を狙ってくると思う――――俺が“試験官”だとすればそうする」

 

 

 

 

 はっきりと、サラ教官が俺たちの何かを測っていると告げたリィンに僅かにこの場の空気が引き締まる。

 だから、俺たちの選択肢は二つだ、とリィンはぶち上げた。

 

 

 

「少人数グループに分かれて最低限の連携で突破するか、全員で一丸となって行動することで“あえて隙を晒す”か―――――」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! さっきバラバラにするのが目的って言ってたよね!?」

 

 

 

 赤毛の少年、エリオットの疑問にリィンは、どこか父に似た重々しい頷きを返して言った。

 

 

 

「ああ、そうだ――――だがはっきり言って、今日出会ったばかりの俺たちが10人で連携を取るなんて不可能と言っていい。二人、三人くらいならいいが、十人で歩幅を合わせろと言われたら? それこそ軍隊でもなければ足の引っ張り合いになる」

 

「そだね。私なら単独行動するし」

 

 

 

 猟兵らしくあっさりと単独行動の考えを明かしたフィーに「えぇ……」と肩を落とすエリオット。「貴族と行動しろ」と言われるのだと思い肩透かしを食らったらしいマキアスは何か言おうとして口を開いたもののすぐに閉じた。

 

 

 

 

「だから――――せめて実力と連携がある程度バランスを取れるように分けたい。できれば10人をラウラ、ユーシス、俺の3つの班で分けたいんだが、どうだろうか」

 

「私は異存ない」

「……いいだろう」

 

 

 

 ラウラ、ユーシスに続いて他の面々の頷いたことでマキアスも渋々、但し貴族と一緒になれば絶対に拒否すると言いたげな顔で頷いた。リィンはそれぞれの得物と、だいたいの身のこなしなどから大雑把に実力と戦闘スタイルに当たりをつけつつ言った。

 

 

 

「ラウラの班は前衛のラウラが強力だから、後衛のアリサとエマ―――――ユーシスの班は堅実な宮廷剣術を嗜んでいるだろうユーシスに、遠近の撹乱のできるフィー、エリオットは魔導杖の適正があるみたいだからアーツを試してみてほしい。最後に俺の班は前衛として切り込みのできる太刀の俺と、槍で中距離攻撃のできる――――」

 

 

「ガイウス・ウォーゼルだ、よろしく頼む」

 

 

 

 

「――――ありがとう、ガイウス。そして銃で支援のできるマキアス。………そして、その、嫌でなければグレイにも入ってほしい」

 

 

 

 一応、さっきあんなことがあったばかりである。

 遠慮がちに言い出すリィンに、グレイはバイザーをしていてもどこか意外そう、というよりは嬉しそうに――――気の所為だとは思うのだが――――小さく頷いた。

 

 

 

 

「いえ、わたしもそれが“適切”だと思います―――――リィンさん。貴方の実力にも興味がありますので」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 そんなわけで、最低限“足の引っ張り合いを抑えられる”少数部隊に別れた3グループは「曲がり角が来たら分かれる」「探索中の道、行き止まりだった通路には目印をつける」というルールを設けて別行動を開始した。……人間レーダー、ないしはソナーと化したリィンはあまり道がはっきり分かっていても興ざめだろうと(あとマキアスが爆発する前に)最初の道で別れることに決めたが。

 

 

 

「左が行き止まりみたいだな。……一応、何かしらの仕掛けやヒントがあるかもしれないから俺たちが様子を見てくる」

 

 

 

 

 リィン、ガイウス、マキアス、グレイのグループは別れて早速というか案の定というか、マキアスが口火を切った。

 

 

 

「……それで、君たちは貴族なのか?」

「いや、俺はこの通りノルドの生まれでな。この国の身分制度には詳しくない」

 

 

 

 見るからに、といった風情のガイウスはマキアスも予想通りではあったのだろう。あっさりと頷いてリィンたちに視線を向けつつ続けた。

 

 

 

「そうか。……それで、君たちは?」

「俺は平民の生まれだが、一応シュバルツァー男爵に養子にしてもらっている。どちらなのかはそちらの判断に任せるが――――文句は後で聞くから、とりあえずここを出るまでは協力してくれないか? 俺だって貴族派には殺されかけたから事情があることくらいは察するが――――君の行動次第で革新派まで面倒だと思わざるを得ない」

 

 

 

 言いながら父さんが率いている勢力が面倒じゃないわけがないんだよなぁ……なんてことを考えているリィンだったりする。だってギリアス・オズボーンである。あの人は目的のためなら容赦がない……特に母さんのための行動力がおかしい。いい年なのに。

 

 

 

「殺され―――――いや、ならなんで貴族の養子になんて…!」

「シュバルツァー男爵は中立派……敢えて言えば皇室派だ。マキアスが反逆を考えていないなら卑下される謂われはない―――――というかそこまで貴族を罵っていると本当に皇帝陛下に反逆するのかと疑わざるを得ないんだが」

 

 

 

 ジロリ、と見た目に反して鋭い――――父(ギリアス)譲りのリィンの鋭い眼光に晒されたマキアスは思わず萎縮し、ポツポツと「そんなつもりじゃ」「陛下に逆らうつもりじゃなく貴族が―――」などと呟いていたのだが、しばらくすると気を取り直してグレイの方を向いた。

 

 

 

「……それで、君は?」

「………はあ、わたしですか? ―――――知りません」

 

 

「はぁ? そんなわけ」

「――――生物学上の両親は不明です。製造者は戸籍が消滅しているとはいえ平民なので、その意味では平民ですね」

 

 

 

 

 ところどころ意味不明なものの、とりあえず「両親は不明」ということははっきりと理解したところでさすがのマキアスも頭を下げた。

 

 

 

「いやその………すまない」

「いえ、別に。――――リィンさんも、何かご用ですか?」

 

 

 

「用というか聞きたいんだが――――その小太刀、君も八葉一刀流なのか?」

 

 

 

 どこかリィンのものに似た意匠の――――ただし擦り切れた印象のあるそれを、グレイは大事そうに背負い直すと首を小さく横に振った。

 

 

 

「これはお守りです。武器ということでチェックのためトワきょ――――会長に一時没収されましたが、わたしの得物はこちらです」

 

 

 

 その言葉とともにグレイの手にバイザーと同じ黒い光沢のある金属の手甲が装着される。……いや今明らかにどこからともなく現れたような? と疑問を浮かべるマキアスとガイウスだったが、リアンヌさんもよくやってるのでリィンは特に気にした様子もなく、むしろ出てきた手甲の方に注目した。

 

 

 

「……それはまさか」

「殴ります」

 

 

 

 その細すぎる華奢な身体と、意外な身のこなしを思い出して唸るリィンと、ガイウスもどこか底知れない少女にコメントを控え。

 

 

「その、剣というか刀?で戦ったほうがいいんじゃないか?」

「――――嫌です」

 

 

 

 思わずマキアスの呟いた言葉はあっさりと拒絶され。

 しかしリィンも気にはなっていたので重ねて尋ねた。

 

 

 

「―――――八葉一刀流のことは知ってるんだな」

「……まあ、否定はしません」

 

 

 

 帝国ではマイナーと言っていい流派である。それに疑問を抱くでも、イエスでもノーでもなく逸れた回答を返してきたあたりリィンはグレイが八葉一刀流を使えると確信していた。

 

 

 

「……八の型か?」

「―――――ノーコメントです」

 

 

 

「それは―――――…っと、行き止まりだがこれは……宝箱?」

 

 

 

 あからさまに、いかにも宝箱ですよという風に置かれた箱にさすがのリィンもコメントに困る。魔獣の気配はないので、いきなり何か飛び出してくるということはなさそうなのだが。

 

 

 

「……こう、いかにもそれっぽく置いてあると罠なんじゃないかと疑いたくなるな」

「開けても平気だと思いますが」

 

 

 

 と、そういうよくわからない宝箱に慣れているグレイがつぶやき。一応念の為ということで、ガイウスとマキアスが警戒する中でリィンが宝箱を開き――――クォーツが出てきた。

 

 

 

「……なるほど、もしかすると脱出の役に立つのかもしれない。マキアス、装備してもらってもいいか?」

「ぼ、僕か?」

 

 

「俺は接近する関係上、あまりアーツを詠唱する隙もないだろうしな。ガイウスとグレイも構わないか?」

 

「ああ、もちろんだ」

「問題ありません」

 

 

 

 

 そんなこんなで来た道を戻り、一応行き止まりの印も付けたところでもう片方の道へ。そうして適当に最弱レベルと思わしき魔獣を軽く片付けて進んでいくと、ちょうど次の曲がり角でラウラたちのチームが行き止まりの印を付けているところに出くわした。

 

 

 

「む。ああ、そなたたちか。一応、こちらの道には回復用の薬があった」

「こっちはクォーツだ。……やっぱり、意味のない行き止まりというわけではないみたいだな」

 

 

 

「……そうね。私としては正直、魔獣との戦いにも慣れていないからいい機会だったし」

「ノルドには魔獣もいるが、やはり連携を確信するためにも戦闘は必要だな」

 

 

「そうですね。私もこの魔導杖は初めてで……」

「僕も、散弾銃は思った以上に味方に当てないか気を遣うな」

 

 

 

 とりあえず当座の問題は無いことを確認しつつ、並んで次の分かれ道を目指し。魔獣が出た場合は交代でどちらかのグループが戦闘する。リィンの提案で互いの連携についてコメントなどしつつも、ある程度和んだ雰囲気で進んでいき。ラウラたちと別れ、行き止まりを一つ確認して戻ったところで今度はユーシスたちに出会った。

 

 

 

 

「ユーシス! そっちのバランスは大丈夫だったか?」

「リィンか。正直に言って、フィーとエリオットには助けられている。フィーの身のこなしはあの坂で見ていたが――――エリオットのアーツとクラフトも前衛として頼もしい」

 

「ま、当然かな」

「そ、そうかな……良かった」

 

 

 

 純粋に自分が分けたメンバーのバランスを心配していたのだろうリィンにユーシスは鷹揚に頷き。和みかけた雰囲気にマキアスが水を差した。

 

 

 

「何だ、てっきり貴族らしく自分なら問題ないとでも言うかと思ったが」

「………ふん。俺はいちいち連携を乱すほど狭量ではないのでな」

 

 

「何だと――――」

「――――――思ったんだが」

 

 

 

 どう考えても険悪な雰囲気になりそうな中、リィンがそれを断ち切るように言った。

 

 

 

「せっかくこうして士官学院にいるんだ、どちらが正しいのかは学生生活の中で決めるっていうのはどうだ? 幸い、結果は成績というカタチではっきりと出る。どちらが正しいのか、あるいは―――――どちらも間違っているのか」

 

 

 

 挑発的な笑みを浮かべて言うリィンにマキアスが眉を潜め、ユーシスが「ほう」と口角を僅かに上げる。

 

 

 

「もちろん、士官学校の成績である以上は実力以外の要素に左右されることもあるだろう。――――だが、むしろその方が“学生として”の正しさははっきりする」

 

「なるほど――――面白い、受けて立とう」

「………いいだろう」

 

 

 

「よし、なら誰が正しいかはっきりするまでは――――全員間違ってるってことでいいな」

「………遺憾ではあるが、何も言うまい」

「ふん―――――勝つのは僕だ」

 

 

 

 じゃあ、オリエンテーリングを再開しよう。

 あっさりと収めてみせたリィンにガイウスとエリオットが感心したような、あるいは尊敬の眼差しを向けていたりするのだが、そんな中リィンは「なんで俺こんな真面目な時のレクターさんみたいなこと(中間管理職)してるんだろうなぁ……」と少し遠い目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

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