───エ・ランテル倉庫街
「おお!至高の御方々!このパンドラズ・アクターただいま御身の元へ参上いたしました!」
軍服姿で外装も
そこはロフーレ商会により借用された倉庫の一角。その規模はかつてのロフーレ商会のものに比べ数十倍に増えており、その景気の良さが伺える。
そしてパンドラズ・アクターが対峙しているのはルプー魔道具店の倉庫に設置された41の石像たちだ。
「ここを我が守護領域とし、お守りしたいところですが……お許しください!また……重ね重ね申し訳ございませんが、この度は御身のための武具をお借りしたく存じます!」
石像は返事をしない。それもそのはずこれらの石像はパンドラズ・アクターがアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーをただ模して作成したものであり、意思も持たず返事もできないのだから。
しかしそんなことは関係ない。その至高なる存在の姿をされているのであればそれは崇拝の対象であり、その身のすべてを捧げるべき相手なのだ。現にパンドラズ・アクターの声に澱みはなく、そこには確かな忠義があった。
「スレイン法国の求める聖遺物級の魔法道具……どれがよろしいでしょうか……」
パンドラズ・アクターは周囲を見回した。そこにはこの世界に来て以降集めた金貨が無造作に山となっていた。さらにはその山の中には様々な財宝が埋もれている。そう、まるでかつてのナザリックの宝物殿のような有様である。
壁沿いに並べられた石像にはそれぞれその異形の姿に武具が備え付けられていた。それらの武具はこの世界で発見したものでもこの世界の材料により作成したものでもない。それらはパンドラズ・アクターのアイテムボックスに残っていたユグドラシルのアイテム、その貴重な素材やデータクリスタルをもとに作成したものだった。
『至高の存在には至高のものを捧げるべきである』。その考えの元。ギルドメンバーの鍛冶師『あまのまひとつ』の外装に変身して作成したものである。
「二つ必要になりますね。……ということは、やはりこれがよろしいでしょうか……。弐式炎雷様!失礼いたします!」
パンドラズ・アクターが手に取ったのは忍び装束を着せた石像の持つ二振りの短刀。ギルド最古参の一人、弐式炎雷のメイン武装である《天照》と《月読》のレプリカである。
オリジナルに比べるとデータクリスタルの効果も弱小であり、100レベルの戦闘で使うことを考えると心もとないと言えるがこの世界においては比類なき聖遺物と言えるものである。
さらにスレイン法国の好みそうなカルマ値が悪の存在を打ち払う聖属性の武器であり見た目もこの世界のものとして問題もない。……というよりそれ以外の武装はおよそ人間が装備できるような形態なものは少なく、モモンガの武装であるスタッフ・オブ・アインズウールゴウンのレプリカにいたっては邪教集団の教祖にでも似合いそうな禍々しさである。到底スレイン法国が欲しているとは思えない。
「しかし……ここにもアイテムが増えましたね……」
パンドラズ・アクターは懐かしさを噛みしめるように周りを見渡す。ルプー魔道具店として借りている倉庫も今や3つまで増えていた。しかし、その中身はロフーレ商会の他の倉庫とは完全に隔絶していた。多くがこの世界における伝説級の
しばらく考え込みパンドラズ・アクターは首を傾げるとポツリと呟いた。このままでいいのか、と。
「価値のあるものが増えましたね……私が守護できればいいのですがそういうわけにもいかない……」
現在パンドラズ・アクターはプレアデスの外装を使い世界を股にかけて至高の存在を捜索中である。これほどの魔法道具であれば本来は自分で守護すべきものであろうが、ナザリックのようにはいかない。
であれば、それでも任せられる者達を選定する必要があるのだが……。
「今はあの冒険者たちに任せてたっすね……確か銀級。やっぱり金級以上にするべきっすかね」
パンドラズ・アクターは脳裏にかつてこの町で冒険者として共に行動し、ルプーに好意的な気持ちを持っている人間の顔を思い浮かべる。彼らは銀級の冒険者であり、今の宝物殿を守護を任せることができるのか。それが問題であった。
♦
───エ・ランテル冒険者組合
「えっと、ご依頼はルプー魔道具店の倉庫の警備を見直したいということでよろしいでしょうか?」
「はいっす!魔術師組合にも手配して追加の《
「魔術師組合への仲介に金等級以上の冒険者の警護ですか……期間は1年単位で継続と……。相当な金額になりますが大丈夫ですか?」
「もちろんっすよ。それから……」
エ・ランテルの冒険者組合に珍しい客は受付で楽しそうに依頼内容を話し続けていた。いつか街の広場で露店を広げていたルプーである。その可愛らしい顔立ちと燃え上がるような赤毛、そして軍帽にメイド服と言う妙に似合う格好で注目を集めている。
「なぁ、ペテル。あれルプーちゃんじゃね?」
冒険を終え、組合へと報告に来た冒険者チーム『漆黒の剣』のルクルットは目ざとく騒動の中心人物を見つける。それはかつて彼らに宣伝代わりにと無償で武具を提供した人物であり、そのおかげで現在の彼らがいるともいえる恩人であった。
「ああ……」
対するペテルは突然の再会に見惚れているのか気のない返事だ。
「ああ、じゃねえよリーダー。意中のあの娘が現れたってのに放っておくのか?」
「はっ!?な、なにを言っているんだルクルット」
我に返ったペテルはルクルットの言葉に狼狽えるが、その態度を見ればバレバレであった。長い付き合いなのだ。言わずとも漆黒の剣でそのことを知らない人間はいない。
「何を言ってるってのはこっちだっつーの。ルプーちゃんがいなくなってからボーっと空を見つめたり、ルプーちゃんは今どこにいるのか気にしてたり、もらった武具を必要以上に撫でまわしてたり、俺らが気づかないとでも思ってたのか?」
「そうですよ。これを逃したらまたルプーさんどこか行っちゃうかもしれませんよ?」
「うむ、ニニャの言うとおりなのである。ペテルの男の見せ時であるな」
ニニャに続いてダインも忠告する。しかしその顔を見れば興味半分、応援半分といったところだろう。見ればいい見世物だと他の冒険者たちも笑いながら見つめている。
「あー、もう!俺もここにナーベちゃんがいたら速攻告白しちゃうのになー!」
もうすでに告白して撃墜しているにも関わらずいまだに諦めていないルクルットについては言わずもがなだ。
「そ、そんなんじゃない!でも武具のお礼は言っておかなきゃな……うん」
ペテルはガチガチになりつつも受付へと進んでいく。そしてそこでルプーが倉庫の警護役を探しているという話を耳にする。それは自分たちが受けていた依頼であるはずなのだが、それを見直そうと言うのだろう。慌ててペテルは声をかける。
「あ、あのルプーさん!」
「ん?なんすか?」
振り向いたルプーのその黄金色の瞳がペテルに突き刺さる。最初に広場で見た時と変わらず人懐つっこそうな輝くような笑顔を向けられ緊張が走る。
「あの!あの時はありがとうございました!あなたに頂いた武具のおかげで私たちも金等級まで上がることが出来たんです!そ、それで……倉庫の警備をするというのならまた私たちに任せていただけないでしょうか?」
顔を赤らめてつつも勇気を出したペテルに向けて、冷やかしと称賛の口笛がどこからか飛んでくる。ペテルを見つめていたルプーであったが、やがてルプーから笑顔が消え、その口調まで変貌する。
そこにいるのは人懐っこく愛嬌のあるメイドではなく、瞳に知性の光を宿す才女のようであった。
「簡単に任せてほしいとおっしゃいますが……あの倉庫は私にとって至高なる御方々のためのもの。この命に代えても守らなければならない『領域』です。それをあなたが守り通せる覚悟があると……?」
「そ、それは……」
倉庫にはよほど高貴な人物が必要とする商品が保管されているのだろうとペテルは理解する。そしてそれを守るだけの覚悟があるのか問うているのだと。
いつもニコニコと猫のように笑っていたとは思えない真剣な顔で見つめられ、ペテルは言葉に詰まる。しかし、それを救ってくれたのは仲間たちだ。
「もちろんだぜ!なあ!リーダー!」
「そうですよ!僕たちに任せて下さいルプーさん!」
「神は言っているのである。ここが男の見せどころだと」
ペテルが振り返るとそこにはルクルット、ニニャ、ダイン、3人の仲間たちがいた。命を預けられるだけの信頼できる仲間たち。お互いに励まし、支え合い、駆けあがってきた仲間たち。そんな仲間たちはこんな時でも助けてくれるらしい。ペテルは覚悟を決める。
「ルプーさん!あなたのご依頼、この漆黒の剣に引き受けさせてください!」
ペテルの言葉に周りの冒険者たちからやっかみと冷やかしの声が上がるがペテルは気にも留めない。目の前に一転、満面の笑みを浮かべたルプーの顔があったからだ。
「にしししっ、じゃ、彼らへの指名依頼にするっすよ。依頼料は置いていくっす!じゃ、私はちょっと遠出してくるっすから頼んだっすよー」
手をヒラヒラと振りながら出口に向かうルプー。あまりにもあっけなく何でもないように了承されてしまった。まるでそうするのが最初から分かっていたような態度にルプーをペテルはつい引き留めてしまう。
「ちょ、ちょっと待ってください!あ、あの……また……会えますか!?」
「ん~、まぁこの町に倉庫を借りてるっすからたまに来てるっすよ。また会えるかどうかは……まぁ領域守護者としての覚悟次第っすね。あっはっはー」
大仰な身振りで陽気に冒険者組合から出ていくルプー。その後ろ姿を見つめながらルプーの言った領域守護者という意味を考える。額面通り取るのであれば領域を守護する者という意味であろう。つまり