パンドラズ・アクターの冒険   作:kirishima13

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第34話 変態する者達

「これが竜王国から譲り受けた聖遺物《月読(つくよみ)》だ」

「ほぅ……」

 

 光の神官長イヴォンが取り出した短刀に最高神官長はもとより他の神官長たちも息を飲む。月の光を凝集させたようなその輝きは見ただけでその者の魂までも刈り取られそうな恐ろしさを感じさせる。

 各々が魔法による鑑定を行いその力を確認するとともにその恐れが現実のものとなる。その力は本物だ。

 

「私はこれが聖遺物だと判断した。契約通り竜王国には陽光聖典をそのまま残しビーストマン討伐を指示したが……異議は?」

 

 他の神官長は黙認によりその回答とする。これほどのものを見せられて何が言えようというのか。

 

「うむ、みな異存はないな。しかし、これほどの品が今まで噂にもならなかったとは信じられん……もしやどこか未知の遺跡でも発見されたのではないか?」

 

 最高神官長は今もなお短刀に目をくぎ付けにされながらもイヴォンに問いただす。

 

「そのあたりは竜王国でかの商会から情報を得ている。神々の住まう地より発掘されたと……」

「何!?それはまことか!?」

 

 伝承では六大神は八欲王との戦いにより弑さてしまったと伝わっている。だが、そのような地があり、それが人の手に入るのであれば人類の救いになるのではと最高神官長たちは考えた。

 一方、動揺する神官長達と比べ、イヴォンは落ち着きはらっている。

 

「この場で話すのもよいが……。このような話はまずあ(・)の(・)御方に話すべきではと愚考するのだが……?」

 

 あの御方。この国、この場所であの御方と言えば一人しかいない。イヴォンは両手の指を組み最高神官長へと視線を向ける。その目は敬虔な信徒のそれであった。その目を見て最高神官長はその話はよほどのことなのだろうと判断する。

 

「それが良かろう……。闇の神殿地下へと赴き、かの御方にご報告するとしよう」

「ほぅ……闇の神殿……?」

 

 最高神官長の決定にイヴォンが繰り返すようにつぶやく。

 

「それとこの聖遺物も安全な場所に保管しなければなりませぬな……」

 

 その言葉に最高神官長はなんとも言えない違和感を感じる。しかしイヴォンの眼差しに変化はなく、敬虔なる神の使途のものであったためその違和感を口にすることはできなかった。

 

「ああ……どうせ同じ場所だ。そこで漆黒聖典番外席次に預けるがいい」

「なるほど……そこに魔法道具を保管していると……」

「イ、イヴォン……?」

 

 イヴォンの眼差しが怪しく光る。その輝きは敬虔なる神の使途どころではない。狂信者もかくやというものだ。最高神官長の違和感が膨れ上がる。

 

「お主も知っておるそのようことをなぜわざわざ口に出す。どうしたというのだ?」

「ああ……これは分かりきったことだったのですか……これは失礼。数日ともにしましたが……重要なことは教えていただけなかったので……。ですがその口調、知り合い、家族、しぐさ、癖、それらのおかげでブラフに正直に答えていただけて感謝します。必要な情報は得られましたね」

 

 話し方をガラリと変えたイヴォンはどこからか軍帽を取り出すとその頭に被る。額に知らないサインの入った黒い軍帽だ。

 

「イヴォン!?お、おまえは……誰だ!?いや、もしや操られているのか!?」

「最高神官長!お下がりを!」

 

 元漆黒聖典である土の神官長レイモンが剣を抜き放つと机の上に躍りだす。そして笛を吹き鳴らすと四方のドアからスレイン法国最強の特殊部隊『漆黒聖典』が飛び込んできた。

 

「レイモン様!お呼びですか!?」

 

 万が一を考え漆黒聖典を詰めさせていたことにレイモンは安堵する。そして躊躇することなく敵の正体を看破するための命令を下した。

 

「占星千里!やつの正体を見破れるか!?」

「はっ!お任せを!」

 

 言われて動いたのは頭にリボンを巻いた若い女性である。現実(リアル)での女子高生のような装備であるが、一見無防備に見えるそれらは魔法の輝きを放っており、戦闘能力には劣る者の感知系の能力に特化していた。

 占星千里は手に印を結びそれをイヴォンへと向ける。しかし、その術は発動を待たずに無駄に終わることとなった。

 

「おっと、お待ちを。そんなことをせずとも姿を現しましょう」

 

 言うが早いかイヴォンの顔が粘度をこねるように崩れ落ち、そこから現れたのは黄色い卵のような頭である。目や口の部分には黒い空洞のみが存在してた。

 そして正体を現した途端に感じる圧力(プレッシャー)。

 

「こ、こいつ……強い!?」

「レイモン様!いかがいたしましょうか!?」

 

 異形から感じる圧力に漆黒聖典が動揺する中、落ち着いて指示を仰ぐ漆黒聖典隊長。長い黒髪をたなびかせ、漆黒聖典のトップであるにもかかわらずみすぼらしい槍を構えている。

 

「ここは情報収集を優先する!カイレ!構わん!やれ!」

「はっ!」

 

 次に飛び出したのはチャイナ服を着た老婆であった。真っ白いそれには目もくらむばかりの金色の竜の刺繍が施されている。老婆はその枯れた手に印を結ぶとその服から光が飛び出した。

 

「なっ、なに!?」

 

 目の前の異形に襲い掛かったソレは不可避の光の竜だ。目の前の異形は回避する間も反撃する間もなく沈黙した。

 

「イヴォン様。支配を完了いたしました」

「よし!ではその魔物から情報を……」

 

 レイモンが術の成功に安堵し、まずは目の前の異形から情報収集を命じようとした……

 

 

 

───その時

 

 

 

「《魔法効果範囲拡大(ワイデンマジック)》《道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)》」

 

 その魔法はあらぬところ……天井の照明の影から部屋中へと飛び散った。正体不明の魔法にその場の全員が標的とされたことに言葉を失う神官長と漆黒聖典。反対に現れたらしき人物は上機嫌である。

 

「ほほぅ!!ワールドアイテムが……2つも!それに私の知らない魔法道具も多数ありますね!すばらしい!」

 

 何もない空間がゆらりと揺れ天井に異形が姿を現す。

 

「ワールドアイテムがあるということは本気を出さないといけないようですね。もう隠れている必要もないでしょう」

 

 それは何もかもが異常であった。その人物は天井に足を向け逆さまの姿勢でも蝙蝠のように張り付いていた。黒い軍帽の位置をその長い指先で直しながらコツコツと天井を歩く顔には闇を思わせる3つの空洞。パンドラズ・アクターである。

 

「ぐぅ……うううっ……」

 

 一方、カイレの攻撃を受けた異形は頭を押さえて呻いていた。それを見てパンドラズ・アクターはやれやれと両手を上げて首を振る。

 

「ほぅ!私の召喚した眷属である二重の影(ドッペルゲンガー)のコントロールが効きませんね……。精神のつながりも切れています」

 

 コツコツと異形の軍靴は天井から壁へと向かっていた。体が向きが垂直から水平となるが変わらず歩き続けている。

 

「傾城傾国……女性限定装備。効果はあらゆる効果や耐性を無視して相手を洗脳する。ただし対象は一人であり連続使用はできない。すばらしい!まさに世界を変える恐るべき世界級(ワールド)アイテム!」

 

 演説するように右手を広げながらもパンドラズ・アクターは歩きつづけ、ついには議場の柱の下へと降り立ち、腕を一振りする。

 その途端イヴォンに化けていた異形は消え去った。

 

「眷属の召喚は解除させていただきました。いかがでしたか?光の神官長に張り付き、外装や仕草を盗んだだけあってなかなかの名演技だったでしょう?」

 

 パンドラズ・アクターは演出家が自身の劇の演出を自慢するように大仰に両手を広げる。そして周りを見渡し拍手喝さいをもらえなかったことに肩を落とすとカツカツと音を鳴らしながら柱の影へと身をひそめた。

 

「隊長!」

 

 異形の姿が見えなくなったことで気を取り直した漆黒聖典から声が飛ぶ。

 

「敵は強い!だがやつは1体だ!勝てないことはないと判断する!全員で行くぞ!出し惜しみは……なっ!?」

 

 漆黒聖典隊長の声は途中で途切れる。柱の反対側から別の異形が現れたのだ。南方で忍者と呼ばれるものが纏う漆黒の衣装を着用していた。だが、それが同じ人間だとは思えない。恐ろしいほどに気配が希薄であり、目の前にいるというのに見失いそうになるほどである。

 そしてその手には先ほど鑑定された聖遺物である《月読》を握っていた。

 

「敵は複数なのか!?散らばれ!」

 

 驚愕しつつ漆黒聖典の隊員が神官長を守るように広がる。しかし、すぐにその行為が無駄であったと悟る。なんと忍び装束の異形が自身の影の中へと身を沈めたのだ。

 

「ど、どこだ!?どこへ行った!?」

 

 隊長が槍を構えて周りを探るが高レベルの忍者の気配を察知するなど専門職か対抗魔法を使わなければ不可能なこと。

 そしてその隙を見逃すパンドラズ・アクターではなかった。スキル《闇渡り》により隊長の影から飛び出すと背後(ハイド)を取ってその首筋に月読を叩きつけた。

 

「がっ……」

 

 100レベルを誇る忍者に短刀の柄で首をしたたか撃ちつけられた隊長の意識は一瞬で刈り取られる。

 

「弐式炎雷様を前に背後(ハイド)への警戒を怠るとは愚か!バックアタックからの致命攻撃こそ忍びの真骨頂であるとおっしゃっておりましたよ!」

 

 パンドラズ・アクターは隊長から槍と装備品を奪い取り、下着1枚へと変えるとそれらをアイテムボックスへと収納する。そして踊りだしそうなほど歓喜する。

 

「おおっ!これこそ世界級アイテム《聖者殺しの槍(ロンギヌス)》。確かにいただきました。こんなもので至高の御方々を消されでもしたら堪りませんからね」

 

 最初に放った《道具上位鑑定》で判明した2つ目の世界級アイテム《聖者殺しの槍(ロンギヌス)》。

 ユグドラシルでは自身のキャラデータとともに相手のキャラデータも消去するという極悪非道ともいえるアイテムである。このアイテムを使われ運営に文句を言った人間は数知れず。しかし、それでも運営がデータを復活させるような処置をするようなことはなかったのだが……。

 

「隊長がやられたぞ!?」

「どうやってあそこまで移動を!?それに……あの柱の向こうにも敵がいるのだろう!?どっちからやる!?」

 

 敵の数もその攻撃方法も分からず隊長を失った漆黒聖典の隊員たちが動揺するのも無理もない状況であった。

 しかし、さすがはその取りまとめ役を担うだけはある。レイモンは動揺を抑えて指示を繰り出した。

 

「落ち着け!まずはあの黒づくめからだ!囲め!やつは素早いぞ!」

 

 レイモンが迅速に指示をだすが、それよりもパンドラズ・アクターのほうが素早い。疾風の速さで移動するとまたもや柱に身を隠す。

 

 そして次に柱の影から現れたのはさらなる異形の存在、スーツにシルクハットという可笑しな恰好をした山羊の頭を持つ悪魔である。眼帯で片眼を隠し、その顔は邪悪な笑みに歪んでいる。

 

「あ、悪魔だと!?それも上位悪魔(アークデーモン)級……いや、まさか魔将(イビルロード)級か!?」

「ああっ!ウルベルト様!その偉大なるお力お借りいたします!《魔法位階上昇化(ブーステッドマジック)》《深遠の下位軍勢の召喚(サモン・アビサル・レッサーアーミー)》」

 

 悪魔はあろうことか天に祈るような姿を見せると、空中に漆黒の渦が現れる。そこから現れたのはライトフィンガード・デーモンという最低位の悪魔だ。その名の通り手癖の悪い悪魔(ライトフィンガード・デーモン)は相手のアイテムを盗む技能を持っている。

 ユグドラシルでは当初ワールドアイテムでさえ盗めるというガバガバ設定であり、そのあまりにも凶悪な効果にパッチが当てられたという過去を持つ悪魔だ。

 

「こ、こら服をひっぱるな!」

「ちょっ!?ちょっと!なにこいつら!?」

「ギャギャギャギャギャ!」

 

 《魔法位階上昇》によりその能力を引き上げられた手癖の悪い悪魔たちは議場を笑い声を上げながら駆け回る。ある者は衣類を剥ぎ取られある者は懐を探られ金銭を奪い取られる。

 カイレも腕力では悪魔に敵わないらしく《傾城傾国》を奪われるとその醜い老体を晒していた。

 

「く、くそ!なんだこいつら!このやろうが!俺に任せろ!」

 

 体中にタトゥーを刻みこんだ男が体に巻き付けた鎖を蛇のように投げつける。漆黒聖典第九席次、《神領縛鎖》である。

 

「ギャギャ!?」

 

 すると暴れまわっていた悪魔の一匹が鎖にからめとられた。鎖を引きちぎろうと必死になるが抜け出せないようで足をジタバタと暴れさせる。

 

「くっ……暴れんじゃない。だが、いけるぞ。こいつら自体は抑え込めないことはないない!」

「おっと、いくら能力上昇したところで手癖の悪い悪魔程度では相手になりませんか。しかたありません。悪魔たちよ、お戻りなさい」

「ギャギャギャ」

 

 パンドラズ・アクターがパチンと指を鳴らした途端、手癖の悪い悪魔は黒い渦へと飛び込む。そして奪ったアイテムがアイテムボックスへと移動したことを確認すると満足そうに頷いた。

 

「さて、これでワールドアイテムの回収は終了ですね。次はどうされますか?」

「悪魔なら光の魔法に弱いはず!聖属性魔法で行くわよ!」

「よし!ならばわしも協力しよう!」

 

 次に飛び出したのは天使の羽の生えた帽子を被った金髪の美女と歪な形の杖を持った老人だ。漆黒聖典の魔法詠唱者のトップ2である第四席次と第三席次だ。

 

「《太陽光(サンライト)》!! 」

「《神聖光(ホーリーライト)》!!」

 

 放たれた2つの神聖魔法。しかし、目の前に目標となる悪魔は既に存在しなかった。瞬きをしたほどの一瞬にその姿は別の異形の姿へと変わっている。それは壊れた機械人形のような天使の姿だ。

 

「ああっ!さすがは堕天使たる《るし★ふぁー》様!神聖魔法への完全耐性!すばらしい!」

 

 称えるようにその身を抱きしめて震えるパンドラズ・アクター。即座に敵の攻撃に合わせた外装への変化させる。それこそ二重の影(ドッペルゲンガー)としての真骨頂である。

 

「な……堕天使だと!?」

「魔法が効かないなら俺に任せろ!うりゃああああああああああ!」

 

 声を上げたのは巨大な斧を持った白髪白胸毛の半裸男、第十席次だ。しかし、その斧が届く前に相手はまた別の異形へと変化していた。

 それは桃色の粘体である。かつてはギルドメンバーから『ピンクの肉棒』の異名で知られたその体にぶつかった斧はガンと金属を殴ったような音とともに弾き飛ばされる。

 

「ふふふふっ!そのような斧で至高の存在最硬たる《ぶくぶく茶釜》様の防核をぬけるはずもないではないですか!」

「直接攻撃が効かないだと!?ならばこれでどうだ!!」

 

 第二席次が持つレイピアが淡い光を放つとそれを異形に向かって解き放つ。強力な刺突属性と神聖を属性を持つ衝撃波はどんな相手だろうと風穴を開けてきた。

 しかし、そこには既に粘体の姿はなかった。代わりにあったのは鳥の顔と翼を持つ異形の存在だ。第二席には第二射、第三射と放つがそれが当たる気配はない。

 

「そんな攻撃で大空の支配者たる爆撃王!ペロロンチーノ様の体に触れることができるとでも!?エロゲーイズマイライフ!!」

 

 空中で腕を組みながら訳の分からないことを叫びつつ、鳥人間が胸を反り返らせている。

 

「な、なんなんだよおおお、こいつはああああああああああ」

 

 戦闘をつぶさに観察していた第十二席次が頭を抱えて訳が分からないと叫んでいた。それもそうだろう。強大な力を持つ亜人相手にも引けを取らないスレイン法国最強の漆黒聖典が手玉に取られているのだから。

 

「一つ言っておきますが……。こちらにはこれ以上争うつもりはありませんよ?アイテムをすべて差し出すのであればあなた方を傷つけるつもりもありません。私は闇の神殿の地下とやらにいってそこにいらっしゃる御方にお会いしたいだけです」

「貴様などを従属神様のところへ行かせられるかああああ!」

 

 その言葉に漆黒聖典はますますいきり立ち、攻撃を激しくする。それを捌きつつパンドラズ・アクターは考える。選択肢は与えた、ならばこれが相手の運命なのだろうと。

 

「仕方ありません!ではPVPといきましょうか!次はこちらから行きますよ!」

 

 パンドラズ・アクターはさらに別の外装へと変化する。鳥人の姿から再び粘体へ。しかし色は闇を思わせる漆黒であった。小さく粘つくただの粘体のようであるが、その肉体こそスライム種の最高位たる古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)《ヘロヘロ》である。

 

「《ヘロヘロ》様。この偉大なるお体お借りいたします!」

 

 ズルズルとパンドラズ・アクターは這いずるように床を進む姿に漆黒聖典は嫌な予感がする。しかしすべては遅かった。その粘体が目の前の女へと襲い掛かったのだ。

 

「きゃあああああああああああ!」

 

 襲い掛かられたのは第七席次である《占星千里》である。

 

───その瞬間

 

 その女子高生のような衣服の紐がプツンプツンと溶けて千切れていく。さらに布自体も溶け出し見る見るあられもない恰好へと変貌していったのだ。

 至高の存在である《ヘロヘロ》の得意とする装備破壊であり、相手を無力化するのに使えると考えたのだが……。

 

「いやあああああああ!」

「おっと失礼」

 

 《占星千里》の衣服が溶けきってしまったことに気づいたパンドラズ・アクターが素早く飛びのく。ここまでの能力と思っていなかったパンドラズ・アクターも迂闊であった。

 

「ああ……レアなアイテムかもしれないのに防具破壊してしまうとは……失態でしたね。やはり私ではヘロヘロ様に及びませんね……」

 

 しょんぼりとパンドラズ・アクターは落ち込んだ後、最後の外装を変化する。それはパンドラズ・アクターにとって特別な外装。本来の目的では使用しない外装。なぜならばその外装を持つ人物はパンドラズ・アクターの変身を見る側であって、自身の外装へ変化させる必要のないアインズ・ウール・ゴウンに残った最後の一人であったからである。

 

「なっ……こ、これは……」

「ば、化物が……」

 

 そこに現れたのは死というものを具現化したような姿の異形だ。白磁のような骨の体の上に眼窩がひび割れた狂相の髑髏。漆黒のローブを纏ったその姿はまさに死の支配者。パンドラズ・アクターの創造主にしてギルド・アインズ・ウール・ゴウンの頂点。モモンガの外装である。

 

「ああっ!すばらしい!何という美しいフォーム。このカッコイイ腕!足!体!どこを取っても最高に輝いていらっしゃる!ああ、早くお会いしとうございます!」

 

 骸骨の体をくねくねとさせながら喜ぶ異形に漆黒聖典は恐ろしい何かを感じる。それは抗いようのない死という運命なのだろうか。しかし、この後に起こることを考えたらこの場で死んでいた方が彼らは幸せだったかもしれない。

 

「さて、それではみなさん。これで終わりにしましょうか!ごきげんよう!《絶望のオーラ!レベルⅣ(狂気)!》」

 

 まるで黒い風が吹き抜けるようにパンドラズ・アクターの体から漆黒のオーラが照射された。そしてそれを受けた彼らの反応は顕著である。頭を狂気に支配された彼らはある者は叫びだし、ある者は狂ったように走り出す。阿鼻叫喚の空間が出来上がった。

 

「やはりモモンガ様の能力は万能ですね。ふふふふっ、さぁお待ちかねのアイテム回収の時間です!」

 

 

 

───そしてスレイン法国の大会議場に狂気が訪れた

 

 

 

 誰も出てこないことを訝しく思い、大会議場を訪れた下級神官は後にこう証言したという。下着姿の神官長と漆黒聖典の面々がそれはそれは口にするのも憚ることをしていたと。

 そして下級神官はその場を見て叫び声をあげた。

 

「へ……へ……へ……へん……」

 

 下級神官のその叫び声が響き渡り、スレイン法国はある呼ばれ方をするようになる。それはその場で変身を繰り返した異形のことであったのか、それとも半裸で狂気を演じていた彼らの事だったのか。

 それを語るのは後世の歴史家たちに任せることになる。

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