パンドラズ・アクターの冒険   作:kirishima13

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第36話 宝物殿襲撃

 エ・ランテル倉庫街。

 普段は行き交う荷馬車や商人たちで賑わうその場所もその日は物々しい雰囲気に包まれていた。バルブロが王国から選りすぐった手勢の兵たちとともに集っていたのだ。

 すでに王都のロフーレ商会の資産は差し押さられており、その莫大な財貨に笑いの止まらないバルブロであるが、目の前の倉庫には苦笑いしてしまう。

 

「ここが……ルプー魔道具店の倉庫か……」

 

 そこには御大層にも『宝物殿(仮)』などと記されていたのだ。冗談なのか本気なのか。自分の倉庫にそのような名をつけるなどよほどの変わり者だろう。しかし、バルブロはあの愛嬌のある赤毛のネコを思わせる美女であればかくやと思えてしまう。

 

「可愛らしいものじゃないか、宝物殿……宝物殿か。はははははっ!ならば本当の宝物殿に移してやろうではないか!よりふさわしい持ち主の元にな。おい!やれ!」

「はっ!」

 

 斧を手にした兵が蝶番にそれを振り下ろし力づくで破壊する……鍵を手に入れることが出来なかったからだ。鍵を渡さなかったロフーレ商会の者達はすでに捕えられているが、自分の思い通りにならない人間の多さにバルブロは辟易としてくる。

 

「まったく身の程知らずが多くて嫌になるな……」

 

 そう呟いた次の瞬間、ロフーレ商会だけでなく、この町の住人もバルブロを馬鹿にしているらしいということが判明する。蝶番を壊した途端、あたりに大音量が鳴り響いたのだ。

 

「つっ!?な、なんだこれは!?」

「陛下、《警報(アラーム)》の魔法と思われます」

 

 多少なりとも魔法についての知識を持っている兵士が説明するが、つんざくような音量にバルブロは耳を抑える。

 

「ええい、うっとうしい!こんなものただ音がうるさいだけだ!いいから扉を開けろ!」

 

 耳を抑えながら叫ぶバルブロの命に兵士は倉庫の壊した扉を押し開く。少しずつ開いていく扉から……徐々に光が洩れ出てくる。そして全開になったそこには……別世界が広がっていた。

 

「「「お、おおおっ……」」」

 

 目の前にあるのは眩くばかりの金銀財宝だ。バルブロだけでなくその場にいたものすべての目が釘付けになり思わずため息を漏らす。白金貨が山になっているところなど王族であるバルブロでさえ見たことがない。その中に無造作に魔法の輝きを放つ武具が埋もれてさえいるのだから。

 

「素晴らしい!お前たち、武具を集めろ!一つ残らずだぞ!それから……ん?なんだこれは……」

 

 宝物殿の壁沿い、バルブロはそこに並ぶ奇妙な石像に気づく。異形な姿をしたそれらが纏う装備はおよそ人間が装備するものとは思えない。調度品の類だろうか。そこから放たれる異様な雰囲気に背筋がゾクリとする。

 

「まあ良い……。それらもすべて運び出せ!確か他にも2つ倉庫があったはずだな、そちらも調べろ。ぐふふふふ、いいぞ。これで……これで帝国に勝てる!そして帝国の次は法国!そして周辺国家を支配し、この我こそが世界を……!」

「おい!あんたたち何をしているんだ!」

 

 バルブロは良い気分で高らかに世界の覇者としての宣言をしようとしていたのだが、良いところを邪魔され眉を顰めた。振り向くと見るからにみすぼらしい革製の装備を着た4人の男たちが身構えている。

 

「なんだ……?お前たちは?」

「我々はここの警備を任されている冒険者だ!《警報》を聞いて来てみれば……それらのアイテムはルプーさんのものだ!すぐに倉庫に戻せ!」

 

 現れたのは漆黒の剣の4人である。リーダーのペテルが剣を引き抜きそれをバルブロへ突きつける。そこにはいささかの迷いもない。とても世界の覇者へとなる者に向ける態度ではなかった。

 バルブロの顔が怒りに歪む。一介の冒険者風情が王族たる自分に剣を抜いたのだ。許せるはずがない。即座に首を飛ばされても文句は言えない大罪である。

 

「私はこの国の国王、バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフである!控えろ下民どもが!」

「お、王様!?」

 

 ペテルの顔に動揺が走る。豪華な恰好をしているためどこぞの貴族崩れかと思っていたのだ。王国では不景気の煽りを受け、貧しい貴族が領地の経営に行き詰まり野盗と化している者までいる始末なのだ。そう言った輩は一見良い身なりをしているため、その類かと思っていたのだが……まさかこの国の王とは思いもしなかった。

 

「お、王様がなぜこのようなことを!?ここは確かにルプーさんの倉庫です!我々はその警備を任されています!」

「そのルプーなる女の属するロフーレ商会が国家転覆をはかった。ゆえにロフーレに属する者達の財産は徴収させてもらう。それだけだ!分かったか!ああ、もう面倒だな……。見逃してやるからさっさと失せろ!」

 

 相手をする価値もないと背を向けるバルブロの言葉にペテルたちは顔を見合わせる。ロフーレ商会が国家転覆を計るなど聞いたこともない。自分たちの恩人であるルプーの人柄はよく知っている。愛想が良く、明るく美しく不思議な魅力をもっている。商人としても信頼できる人物である。

 そんな彼女への侮辱。例え王と言えども許せるはずがなかった。そして心に宿るのは冒険者としての矜持。一度受けた依頼を、任せてくれた信頼を無碍にすることなど考えられない。

 

「陛下、もう一度言います。我々は冒険者組合としてこの倉庫を警護を任されています。それらの品を倉庫に戻してください!話は冒険者組合で聞きましょう!」

「なっ、なんだと貴様!?国にたてつくというのか!」

「陛下こそお忘れですか、冒険者に国境はありません!冒険者とは国に縛られず人々を守る者!!王族だろうと略奪行為は見逃せません!」

「き、貴様!!くぅ……いいだろう、見逃してやろうと思ったが気が変わった……。試し斬りに丁度いい。おい、お前たちその武具を身につけろ!」

「は、はい!」

 

 バルブロに言われ兵士たちが略奪したばかりの倉庫の武具を身につけ始める。するとどうだろう、兵士たちの体にありないほどの力が漲ってくるではないか。バルブロもそれらの魔法道具の一振りを手に取ると、剣を引き抜いた。

 

「むっ……これは……」

 

 それは見覚えのある剣。漆黒の刀身にはまるで星のような光が輝いている。城にいたときであろうか、妹であるラナーの友人である『蒼の薔薇』のリーダーを見かけたときに見たものだとバルブロは思い出した。

 

「確か名前は……暗黒剣……キリネイラム……だったか?ほぅ……これはすごいな」

 

 妹から聞いた名前をうろ覚えながら思い出しながら、それをブンと一振りする。そこかから感じる力、高揚感。それは今まで手にした魔法道具の比ではない。

 ただし、それは実際はキリネイラムではなかった。バンドラズ・アクターの作成したレプリカ(オリジナルより強い)である。

 しかし、それを聞いた漆黒の剣の4人が耳を疑う。彼らの冒険者チーム名、『漆黒の剣』。それは4大暗黒剣をすべて手に入れようと誓ったことで名付けられた名前だ。一時は1本が蒼の薔薇が所持していると聞いて諦めていた。それがなぜルプーの倉庫にあるのか、それも疑問であるが、ペテルたちは目の前の下劣な男がその剣を持っていることが許せなかった。まるで自分たちの絆を踏みつけにされているような気分にされる。

 

「おい、リーダー。俺ちょーっと頭に来てんだけどさぁ……」

「奇遇ですねルクルット。僕もですよ……っていうかもう逃げられそうにはありません。《鎧強化(リーインフォース・アーマー)》!《下級敏捷力増大(レッサー・デクスタリティ)》!《下級筋力増大(レッサー・ストレングス)》!」

 

 じりじりといつの間にか兵士たちに背後も固められている。逃げるにも彼らを倒さなければ無理だろう。それを見てニニャは素早く仲間を魔法で強化していく。

 

「もとより逃げるわけにはいかないのである。王様、今すぐその汚い手を離すのである」

「離すつもりは……なさそう……だな……仕方ない!行くぞみんな!」

 

 ペテルの言葉にルクルットが、ニニャが、ダインがニヤリと笑って頷く。頼りになる、そしてかけがえのない仲間たちである。4人は背を預け合って四方に身構える。

 

「馬鹿馬鹿しい。我々に勝てる気でいるのか?はははははっ!」

 

 その覚悟を、信頼を、誇りを馬鹿にするように笑いながらバルブロの足が漆黒の剣のもとへと歩みだす。その周りを固める兵士たちの身に着けている武具も魔法の輝きを放っている。

 それらは兵士一人一人を一騎当千へと変えるほどの魔法道具である。全身からあふれる力に酔いしれながらバルブロは剣を掲げると『漆黒の剣』へと向けた。

 

「喰らうがいい!暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレイドメガインパクト)!!」

 

 ここにバルブロ率いる王国軍と『漆黒の剣』の戦いの幕が切って落とされたのだった。

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