ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう 作:ルピーの指輪
海上レストラン編のラストです。
それではよろしくお願いします!
「なんだ?何も起こってねェみてェだぞ。ライア、お前はマスクしなかったのか?」
ルフィは私がマスクを付けてないことに違和感を覚えたらしい。
「ちょっと、手が痺れて上手く掴めなかったんだ。ゴメン、ルフィがせっかく投げてくれたのに……」
これは本当だ。まさかルフィが私の分までマスクを手に入れて投げてくれると思わなかった。念の為に拾おうとしたが、手が痺れてて掴めなかった。
その上、銃も落としてしまって、まったくもって冴えない感じになってしまった。
「しかし、クリークの毒ガスは不良品だったみたいだな。時々あるんだよ。毒の効果が無くなった不良品が武器商人の間で出回ることが……」
不良品が出回ること自体は本当だ。毒ガスは生成過程で毒の効果が打ち消されることも少なくなく、粗悪品がよく流通している。
中和剤の説明が面倒なのでクリークが粗悪な毒ガスを使ったことにしちゃおう。
「ルフィ、どうやら私はこの辺が限界みたいなんだ。頑張れと言われれば頑張るけど、あのクリークを倒すのに助けはいるかい?」
私はルフィに援護射撃がいるかどうか質問した。
「いらねェよ! あいつはおれがブッ倒す!」
そう言い放つとルフィはクリークの元へと再び駆け出して行った。
「バカが、まるで学習していねェようだ。知能はサル以下みてェだな! 海に落ちたらてめェは終わりだ! ここがてめェの墓場となる!」
クリークは爆弾で海の水を隆起させて目くらましをして、その上で無数の槍を盾からルフィに向かって飛ばした。
しかし、彼は止まらない。愚直に前進し続ける。槍が体に刺さろうとお構い無しでクリークに突っ込む。
「だからどうした! この剣山マントに手ェ出してみろ!? どうだ! 手も足も――」
「ゴムゴムの――
「――ッ!?」
クリークは棘だらけの冗談みたいなマントで身を包んだが、ルフィは剣山ごと思い切り彼を殴りつけた。
クリークは吹き飛び地面に倒れる。
「ここは、おれの墓場か、お前の墓場だろ!? こんな針マントや槍なんかで、おれの墓場って決めんじゃねェ!」
おびただしい量の血を流しながら、ルフィはクリークにそう言い放った。
「あのバカ、なんてことするのよ。あんな戦い方じゃ死んじゃうじゃない……」
ナミは口に手をあててルフィの戦い方に驚愕していた。
「そうだね。まるで無茶苦茶な戦い方だ。理屈とか計算とかそういうのをまるで考えてない。だからこそ、ルフィの拳は幾千の武器にも勝る」
ルフィの愚直さは理解を超えてる。しかし、理解出来ないものにこそ、人は恐怖する。果たしてクリークの目にはルフィはどう映っているのか……。
「ライアちゃんは、いいのかい? あんな無鉄砲が船長で。ありゃ死にに行ってる。肉を切らせて骨を断つどころじゃないぞ」
サンジもルフィの戦い方が異常に見えてるようで、私に気を使うようなことを言ってくれた。
「良いも悪いもないよ。あんなことが出来るからこそ、私は彼の後ろに立ちたいんだ。保身を考えずに走ることが出来るからこそ、彼は強い。もちろん、出来る限り死なないようにサポートしたいけどね」
私はルフィという人間に惹かれている。目的の為に付いていくだけというドライな感情はいつの間にか霧散していた。
「サンジ、そっちの姉ちゃんの言うとおりだ。ああいうのが、時々いるんだよ。敵に回すとこの上なく厄介。まぁ、おれはああいう奴が好きだがね」
ゼフはルフィがさらにもう一撃クリークに入れるのを見ながらサンジにそう声をかけていた。
ここから戦いはクライマックスに向けてヒートアップする。
クリークが持ち出したのは
これにどうやってルフィは立ち向かったのかと言うと……。
「えっ!? なんで自分から!?」
そう、ルフィは自分から槍に突っ込んで爆発を浴びていたのだ。
これって、本当によく生きていられるな。無茶なのはわかっていたけど、思った以上に大きな爆発を大戦槍が起こしていたので、それでも動けるルフィの体力に私は手が震えた。
「がっ――バカなッ! てめェ! 何しやがった!」
爆発の煙が晴れて、クリークは驚いた顔をしていた。なぜなら、大戦槍の槍の部分が粉々に砕けてしまっていたからだ。
「五発パンチを入れてやった! これで、お前をぶっ飛ばせる!」
高らかにそう宣言したルフィ。
ここからは彼の独壇場だった。
クリークに対してラッシュを仕掛けるように無数のパンチを彼に与える。
それでは効果が薄いと悟った彼は――。
「ゴムゴムの――! バズーカ!」
クリークの爆弾をものともせずに、彼はゴムの特性を十分に活かした両手での掌撃を繰り出す。
「効かねェな! 所詮これがてめェの限界だ! だが、この最強の鎧にヒビを入れたコトは褒めて――」
「ゴムゴムの――!」
クリークがセリフを言い終わらないうちに、ルフィは第二撃目を放つ。
「――バズーカッ!」
その掌撃はクリークの鎧を完全に破壊して、彼の腹に深々とダメージを与えた。
だが、これで終わりではなかった。クリークは網を飛ばして、ルフィを捕獲し、海の中に引きずり込もうとする。
クリークのこの手数の多さは感心するな……。
ルフィはというと、それでも諦めない。手足を網から出したかと思うと、足を伸ばしてクリークを捉え、ぐるぐると捻りを作り――。
「ゴムゴムのォォォォッッッッ! 大槌ッッッッ!」
クリークを思い切り頭からヒレに叩きつけて、彼の意識を断ち切った。
ルフィは見事に
さて、ルフィを海の中から助けないと――。って、あれ?
私がそう思うよりも先にナミは走って海に飛び込んでいた。
「ナミさん、なんで慌てて海に?」
「悪魔の実の能力者は海に嫌われてカナヅチになるんだ。彼がクリークに苦戦した一番の理由はそれだよ」
ナミの行動に疑問を持ったサンジに私が答える。
「どうだい? サンジ……、ウチの
とりあえず、サンジの感触を確かめてみる。彼がルフィから感じ取ったものはどんなことか……、それが気になった。
「ああ、すげェやつだと思ったよ。野望のために命を張ってさ」
「じゃあ……、サンジも……」
「ごめんな。ライアちゃんが誘ってくれんのは本当に嬉しい。女の子の誘いを断るなんざしたくねェんだけど……、この店だけは――」
サンジはものすごく悲痛な表情を浮かべて私の勧誘を断った。
ゼフはそんな私たちを腕を組みながら見つめて、そして店へと戻って行った。
その後、クリークは気を失いながら暴れだしたが、ギンが一撃を入れて再び気絶させ……、そして彼はクリーク一味を引き連れて小船に乗って帰って行った。
ルフィはナミが助けて、重傷のゾロとともにメリー号で寝かしつけた。
二人の応急処置は念入りに行ったので、とりあえずは大丈夫だろう。
私は今日の戦いで使った銃のメンテナンスをしていた。うわぁ……、銃口の傷付き具合が半端ないな……。クエイクスマッシュは封印したほうが良いかもしれない。
「ライア、まだ休まないの?」
同室で横になっているナミが私に話しかけてきた。
「ん? ああ、ごめんね。うるさかったかな?」
私はナミの眠りの妨げになったと思い、片付けの準備をしようとした。
「ああ、いいのよ。気にしなくて……。あの、賭けのことなんだけどね。確かにルフィなら何とかしてもらえるかもって、思えたわ……」
ナミは思い詰めた表情でそう言った。彼女にルフィのことがかなり伝わったらしい。
「でもね。それ以上に、ルフィが死ぬまで戦いを止めないんじゃないかって心配になった。私の為に命を懸けるなんて、そんなこと――」
「うん、君の言うとおりルフィはナミが困っているなら命を懸けると思うよ」
ナミの言葉に被せるように私はそれを肯定した。
「だったら、私は――」
「賭けを反故にする。もちろん、私はそれを止めようがない。とりあえず私が出来ることは、ルフィより先に君のために命を懸けると約束することかな。一人で悩まなくても良いんだよ。仲間なんだ。命くらい張るさ」
私はナミの震える手を掴んで、目をまっすぐ見ながら宣言した。
「――本当に私のために命を懸けてくれるの?」
ナミは上目遣いで目を潤ませながら私を見つめた。
「本当だよ。私の力は確かに微力だけど、本気でそう思ってる……」
大きく頷いて私は答える。仲間というのはこういう関係だと私は思うから……。
「じゃあ……、キスして……」
「うん……、って、はぁぁぁ? 唐突に何を言ってるのかな?」
急に意味がわからないセリフを言われて私の心臓は飛び出そうになった。どうしてそうなる?
「お願い、そうしてくれたら、勇気が出るかもしれないの……。大丈夫よ、キスくらい友達同士でもするもの」
「――えっ、そうかな? いやいや、しないって絶対に! そもそも、私にはカヤが居るって知ってるじゃないか」
私の肩に手を回して顔を近づけてきながら、ナミはそんなことを言ってきたが、私には全く大丈夫な話じゃなかった。
「分かってるわ。だから、そんなに深い話じゃないのよ。少しだけ、慰めてくれれば良いの。仲間なんだから、それくらいは良いでしょ?」
「全然よくないよ……。――えっ、えっ、ほっ、本気なの?」
ナミの唇が私の唇に向かってドンドン近づいてくる。
そして――。
「――やーい、引っかかったわね」
「へっ?」
彼女は私の鼻を人差し指で押して、悪戯っぽく笑っていた。
「あははっ、いつもドキッとさせられてるから、たまには仕返しをしてやろうと思ったのよ」
ナミはヘラヘラと笑いながら種明かしをするようにそう言った。どうやら私は一本取られたらしい。
「まったく。悪い冗談はやめてくれ……」
こっちは恥ずかしいやら、何やらで苦笑いするしかなかった。
「それにしても、あなたってそんなに抵抗しなかったわね。もしかしたら、そんなに嫌じゃなかった?」
ニヤニヤした顔のナミを見ていると少しだけ悔しくなってきた。
「そうだね……、君の顔を見てると、そこまで嫌じゃなかったよ。ほらっ、目を瞑ってごらん、慰めてあげるよ」
「えっ? ちょっとライア……」
私は今度はナミの口元に顔を近づける。ナミは目を本当に目を閉じた。だから――。
「んっ……、あっ……」
「あははっ、さっきの仕返しだ」
私もナミがさっきしたように彼女の鼻を摘んでみせた。
「――ッ!? ライアのバカっ! もう、引き返せなくなったら責任取ってもらうからね!」
同じことをやり返しただけなのに、ナミはかなり怒っていた。結局、彼女がどうするのか有耶無耶のまま私たちは眠りについた。
「こうやって、気兼ねなく話せるのも良いわね……」
眠りにつく前にひと言、そう口に出した彼女の表情はとても穏やかだった。
さて翌日になり、ルフィは驚異的な回復力でもうピンピンしていた。
元気百倍って感じで大量の食事を口の中に掻っ込んでいる。
しかし、順調なことばかりじゃない。私が変に漫画よりも出しゃばった弊害が起きていた。
それは――。サンジが仲間になると言ってくれない……。
ルフィはこの旅では海上レストランの雑用をやっていない。
これは意外と大きな事みたいで、飽くまでも客と料理人の関係なので距離がそこまで詰められてなかったのだ。
店を守ってくれた恩人ではあるが、そこまでであった。
そして、もう一つは私がパールを倒してしまったことと、ゼフが人質にされるのを阻止したこと……。
この行為自体はサンジの怪我が少なくて一見良かったように思えるが、これはこれで、他のコックたちへの心象が全然違って事が終わってしまったのだ。
なぜなら、ボコボコにされながらも、ゼフの為に手を出さずに耐えるという過程を見せつけることで、彼の同僚たちにサンジがゼフのことを想っているということが伝わったのである。
それが丸々カットされれば、サンジはホントに料理長の座を狙って居座ってる人だと少なからず思われたままになる。
つまり、彼の門出を促そうとする動きが起きないのだ。
この齟齬を何とかするのには苦労した。
何故、サンジがゼフの元を離れないのかを聞き出しつつ、これを他のコックたちに聞かせ、それが伝言ゲームのように全員に伝わらせるということを頑張って実行した。
そして、その間にルフィとサンジが二人きりで話す時間を作ったり、ナミに頼んでサンジの勧誘を手伝って貰ったりした。
サンジはずっとオールブルーを探したいと思っていたから、本音では海に出たいはず。
それでも、ゼフへの想いが強く、それを実行出来ずにいたのだ。
最終的に呆れた顔をしたゼフに……。
「お嬢ちゃんも、麦わらも、そんなにあのチビナスがいいのかい? だったら、頼む、一緒に連れて行ってやってくれねェか。あいつの夢の
とまで言われてしまった。ルフィはサンジの意思がなきゃ嫌だと言っていたが、そのサンジはゼフのこの言葉をバッチリ聞いていたのである。
「お前の船のコック。おれが引き受けてやる。付き合ってやろうじゃねェか。お互いに馬鹿げた夢をみるもの同士。おれにはおれの夢のためにだ。いいのか、悪ィのか?」
「いいさー! やったな! ライア! サンジが仲間になるってよ!」
サンジのこの宣言でようやく彼が仲間になった。
おそらく漫画よりも数時間は出発が遅れたと思う。
「オーナーゼフ! ――長い間! くそお世話になりました! この御恩は一生! 忘れません!」
サンジがゼフに土下座して挨拶を済ませたところで我々は出航した。
そして、重傷のゾロもようやく歩けるようになり、全員がデッキに集まった。
サンジの挨拶もそこそこに、ナミが手を上げて話したいことがあると言い出した。
ここから、私たちの次なる冒険が始まるが、私はこれから思い知ることになる。漫画の知識など当てにならないということを……。
まさか、アーロンパークであんなことが起こるなんて――。
次回からはアーロンパーク編が始まります!
戦闘シーンが終わって、少しだけ百合シーンがかけてほっこりしました。