ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう 作:ルピーの指輪
今回からアーロンパーク編がスタートです。
それではよろしくお願いします!
「ルフィ、みんな……、私は
ナミはゆっくりと私たちに告げる。グランドラインに「行きたくない」、ではなく「行けない」と……。
「ナミさんっ! まさか、どこか体調でも悪いんですか! おいっ! ルフィ! 医者だっ! 医者のいるとこ連れてくぞ!」
こんな感じのナミを見て、サンジは彼女が病気だと勘違いをしてしまった。
「お、おう! 医者だなっ! なぁ、ゾロ! 医者ってどっちに行けばあるんだァ?」
「おれが知るか! 医者にかかったことなんざ一度もねェ!」
「そっかー! おれもそうなんだよなァ! あっはっは」
なんか会話がおかしな方向に行っちゃってる。医者にかかったことないって……、もはや、身体構造から差があるんだな。
「笑ってる場合かクソ野郎共! だが、おれも知らねェ。なぁ、ライアちゃんは知ってるかい?」
サンジは頭を抱えながら、今度は私に聞いてきた。
「いや、医者なら町に行けば大抵一人は居るものだよ。でもね、多分ナミは病気じゃない。何か言いたいことがあるのさ」
私は彼女が言いだしやすいよう話した。
「言いたいこと?おーい、ナミ!なんだ、言いたいことって?」
ルフィはナミに向かってそう尋ねた。そういえば、ルフィって人の話を聞く事あんまりなかったような……。
「お金が必要なのよ。ルフィ……。私が自由になるためには1億ベリー必要なの……」
ナミは問題となっているお金の話を始めた。確かにココヤシ村をその値段で買い取るってアーロンと約束してる。そういうやり方で彼女は縛られてるんだ。
「1億ベリー?ライア、それって多いのか?」
「多いのか少ないのか、それは人によるけどね。ナミの価値が1億ベリーなら、私は安すぎると思うな」
ルフィの発言に対して私は思ったままを口にする。仲間としての価値を度外視しても1億は安い。なぜなら彼女の才能は唯一無二。アーロンがたかが1億で自由にさせるはずがないのだ。
「そのとおりだぜ、ライアちゃん! おれだったらナミさんに10億、いや100億……っ! だっ駄目だ! 眩しすぎて値段なんざつけられねェ!」
サンジはオーバーなリアクションで一人盛り上がっていた。なんか、楽しそうだ……。
「話が進まねェから黙りやがれアホコック!」
「んだと、マリモ頭! 三枚に下ろすぞ!」
そして、イラッとした口調で苦言を呈するゾロに喧嘩腰で言い返していた。
「まぁまぁ、二人とも。とりあえず、ナミには纏まった金額が必要なんだね。話し辛いこともあるかもしれないけど、出来る範囲でいいから、私たちに話してごらん」
私は二人を諌めて、ナミには出来る限りで構わないと話を進めることを促した。
「わかった……。どこから話せばいいのか分からないけど――」
こうしてナミは話し出す。ココヤシ村での幼い日の話から……。
ルフィは最初から興味なさそうにして寝てしまったが……。
彼女は元軍人のベルメールという養母によって姉のノジコと共に育てられた。
貧しかったが、明るく楽しく生活していたのだそうだ。
魚人海賊団が村にやって来るまでは――。
船長のアーロンを中心として、またたく間に村を支配した彼らは村人たちに毎月の上納金を要求する。
金額は大人10万ベリー。子供5万ベリー。払えない者は見せしめに殺すという無茶苦茶なことを言い出した。
貧しかったベルメールの所持金は10万ベリーがやっとだったらしい。
ナミとノジコは実の子供ではないから、そのことを誤魔化して、黙って自分の分だけ払えば命は助かった。
しかし……。
「ベルメールさんは私たちを家族じゃないって嘘でも言えなかったの。だから、それは私とノジコの分だって言って――」
ここまで話してナミは少しだけ沈黙した。
ルフィは相変わらず寝てるし、ゾロも寝てしまった。半分寝るって……。
そして、再び彼女は話を再開した。
海図を書く才能があった彼女はアーロンに目をつけられる。
そして、海図を書き続けることを条件にある程度の自由を約束してもらった。
さらに1億ベリーで村を売り渡す約束も……。
だから、彼女は憎い海賊から宝を盗み続けてお金を貯めた。もうすぐ1億貯まるから、自由になる。そう彼女は語ったのだ……。
「――って、ライア。あなたが話せって言ったのに、ルフィもゾロも寝てるじゃない」
ナミはごもっともなツッコミを入れた。いやぁ、自由だね。二人とも……。
「ああ、何ということだろう。やはり君は囚われの麗しきお姫様だったのですね。今、駆けつけます! あなたの為に戦う愛の戦士が!」
サンジはキチンと話を聞いてたよね? このリアクションは平常運転なんだよね?
「よし、ナミの話も終わったなっ!」
寝ていたルフィがサンジの大声で目を覚ました。
「ルフィ、君は話を聞いてなかったろ?」
「うん。だって、ナミの過去とか全然興味ねェもん。で、おれは誰をぶっ飛ばせばいいんだ? 居るんだろ? ナミをこんな顔にさせた奴が!」
ルフィは両拳をバチンと合わせてそんなことを言う。
この男の恐ろしいところは過程をすっ飛ばして、核心にたどり着くところだ。
「そうだね。とりあえず、ノコギリのアーロンをぶっ飛ばしたら解決かな? このお話は……」
「あなたも何聞いてたのよっ!」
私はナミから額にチョップを受ける。
「痛いじゃないか。聞いてたよ。1億ベリーだったね。アーロンがそんな口約束を正直に守るとは思えない。君が財産を隠してるなら、何か理由を付けて没収するだろう」
「それはないわ。あいつは約束を守る。今までだって一度も……。だから私はここまで――」
ナミは私の言葉を即座に否定した。なるほど、アーロンは約束を守る主義だったか。
「彼は1億ベリーなんて要らないのさ。君さえいれば……。その金は盗品だろ? 約束を反故にしないつもりなら、手駒の海軍あたりに言えばすぐに回収に来るんじゃないかな? そしたら、君をまた縛れる。永遠に……」
「――そっ、そんな。そんなことされたら、私……」
ナミの顔が青くなる。アーロンの悪辣なところは希望をチラつかせて人を動かすところだ。
絶望的な状況で見える希望という光は実に魅力的で、人から冷静な判断力を奪い取る。
「試してみるかい? 君の貯めたお金に、私の持ってる現金を足せば1億近くにはなるはずだ。一度、それを持っていってアーロンのリアクションを見てみるといい」
私は懐から現金の札束を取り出して、ナミに差し出した。ホントはローグタウン辺りで武器の改造道具とかを買いたかったけど、彼女の気持ちに踏ん切りをつけさせる方が大事だ。
「――ううん。ライア、このお金は必要ないわ。本当はずっと不安だったの。大きくなるにつれて、世間を知るようになってから。私は騙されて使われてるんじゃないのかって……」
ナミはうつむきながらポツリポツリと声を出した。
「でも、信じたかった。大好きな村のみんなを守れる可能性を潰したくなかった……。アーロンの野望は世界中の海を支配すること。私の海図は全然足りてない……。きっと、あの男は私をまだ手放さない」
そして、彼女は確信をもってその結論にたどり着く。元々賢い人だ。理詰めで話せば理解は出来ると思った。
しかし、今までは意識的に考えないようにしていたのだ。自分の中の何かが壊れるかもしれないから……。
「どうしよう……。このままじゃ村が救えない……。私はこのまま飼い殺しにされて――」
ハッとした表情のナミの瞳から一筋の涙が頬をつたって、零れ落ちた……。
「おっし! 野郎共! アーロンってやつの所に行くぞッ! ウチの航海士を泣かせたんだ。喧嘩を売りに行こう! ライア! 場所わかるか!」
その瞬間にルフィは今までにないほどの大声を出す。精悍な顔立ちはすべてを包み込むような、そんな器の大きさを物語っているようだった。
「もちろん、わかるさ。私は野郎じゃないけどね」
「おっ! 戦闘か……!? なんだ、思ったより楽しそうな話だったんじゃねェか!」
「ナミさんを泣かせた魚野郎共! 一匹残らず刺し身にしてやらァ!」
私たちは口々に声を出して進路をココヤシ村へと向ける。
目的はただ一つ! 仲間を泣かせた大馬鹿者に喧嘩を売りに行くことだ。
「ライア、こうなることが分かってたの?」
「全部が全部わかってたわけじゃないよ。君が勇気を振り絞って話をしたことが伝わったんだ。みんなにね」
実際、みんながどう動くなんてわからなかった。ルフィはきっと話を理解しようともしないと思っていたし……。
「ルフィもゾロも寝てたじゃない」
「それでも、伝わるんだよ。大事な仲間のために何をすれば良いのかぐらいは、ね。ほら、たくさん話して喉が乾いただろ? 飲み物を飲むといい」
私はナミのツッコミにそう返した。
「飲み物って……、そうね。何か取ってくる」
「その必要はないよ。だってそろそろサンジが……」
私にはサンジがこちらに向かってくる様子が手に取るようにわかっていた。
「ナミさーん! この暑い日に喉を潤す、スペシャルトロピカルドリンクをお持ちしましたァァァァ! ライアちゃんもどうだい?」
「くすっ……、ありがと。サンジくん!」
「ぬはっ! 天使だッ! ここに天使が居るッ! もったいないお言葉です! ナミさん!」
ナミに微笑みかけられたサンジは心臓を押さえながら大袈裟な言葉を放ち、満足そうな笑顔を向けていた。
彼の明るさも今のナミには必要だ。ありがとう、サンジ。
うん、ドリンクは最高に美味しいよ。女性に生まれて良かったと思えるくらいにね。
さて、話も纏まったところで、ここで計算外の出来事をおさらいしよう。
まずは最初に、ジョニーとヨサクとお別れしたことだ。
戦力的には大して影響はない。彼らには悪いけど……。
しかし、問題はゾロの武器だ。確か六刀流のハチっていう魚人と戦うはずだったけど、その時、彼ら二人から刀を借りたんだったよなー。
怪我さえしてなきゃ、刀一本でも勝てるんだろうけど、ミホークに大怪我を負わされている彼には厳しい戦いになるかもしれない。
ていうか、普通は戦えない。
この点は何とかフォローしなきゃな。
あともう一つは出航がかなり遅れたこと。これはかなりまずい……。
なぜなら、ココヤシ村ではナミの理解者である駐在のゲンゾウという男が武器の所有を理由に処刑されるかもしれないからだ。
メリー号の快速とナミの航海術をもってすればジョニーやヨサクの船よりもかなり早く着くはずだが、ココヤシ村に着いた瞬間にアーロンと一戦交えることになる可能性はあるかもしれない……。
実はこのとき私はかなり焦っており、大きく後悔していたのである。
知っているということは残酷だ。何もしなければ好転するかもしれないとか、してしまった結果の責任がズドンとのしかかるのだから。
私は自分の無能さを呪っていた……。
◇ ◇ ◇ ◇
恐ろしいほどの幸運……。ルフィという男が天に愛されているからなのか、メリー号は追い風を目一杯受けて最速でココヤシ村までの最短距離を突き進んで行った。
これなら、間に合うかもしれない。そんなことを思っていたら、早速船着き場付近で魚人に見つかってしまった。
ナミの姿は確認されてないが、見慣れない海賊船を連中が放っておくはずがない。
このまま、強引に上陸するか? 下手したらアーロンと鉢合わせする可能性もあるが……。
何の準備もなくアーロンとやり合うのはさすがに危険すぎる……。私は頭をフル回転させて囮になることを選んだ。
「ルフィ! 私が彼らを引きつけて、村で騒ぎを起こす。そのスキにこっそりと上陸してくれ!」
そう言いながら、私は船着き場に向かってジャンプして魚人たちに向かって発砲した。
「何者だっ……zzzz」
「きっ、貴様なにを……zzzz」
二体の魚人はぐっすりと眠りに……。
「なんだ、今のは? ちょっと眠気がしたが……」
「わからん。お前! 何をした!」
――つかなかった。
あれ? 睡眠薬の効きが悪いな……。魚人だからか? 理屈は分からないけど、実力行使しかないようだ。
私は大きなゴーグルで顔を隠して、今度は鉛の弾丸で彼らの足を貫いた。
そして、一目散に村の中央まで駆け出した。
「まだかなり時間があったか。村では騒ぎは起こってないみたいだ」
建物の陰に身を隠した私は、アーロンが来るまで待っていた。今ごろルフィたちは無事に上陸しただろうか?
そんなことを考えていたときである。大きな気配がこちらに近づいて来ているのを私は感知した。そして、その姿を私はすぐに目にすることが出来た。
ノコギリサメの魚人――アーロンが仲間を引き連れてやってきたのだ……。
頭に風車を付けた駐在であるゲンゾウに物申す為に……。
「武器の所持は立派な反乱だ。おれ達の支配圏の平和を乱す要因になる。以後てめェの様な反乱者を出さねェためにもここで殺して他の町村の人間どもにみせしめなきゃいけねェ!」
アーロンはゲンゾウを見下ろしながら理不尽なことを言い放った。そして、彼の頭を掴む。
「そんな勝手な話があるか。アーロン! あたし達はこの8年間かかさずちゃんと奉貢を納めてきたんだよ! 今さら反乱の意思なんてあるわけないだろう? ゲンさんから手を離せ!」
水色の髪に赤いカチューシャを付けた女がアーロンに反論していた。
おそらく、彼女は先ほどナミが話していた、ナミの姉のノジコだろう。
「武器の所持が反乱の意思だとおれは言ってんだ。この男には支配圏の治安維持のため死んでもらう! それともなにか? 村ごと消えるか……」
アーロンは独自の理論で反乱分子を潰すと宣言した。逆らうなら村ごと運命を共にさせるとも。
やはり、この男は……、どこまでも人間を下に見ている。
「みんな家へ入れ……! ここで暴れては私達の8年の戦いが無駄になる! 戦って死ぬことで支配を拒むつもりならあの時すでにそうしていた! だがみんなで誓ったはずだ。私達は耐え忍ぶ戦いをしようと! 生きるために!」
ゲンゾウはそれでも動じずに自分だけが犠牲になる道を選んだようだ。
彼を亡くすわけにはいかない。それも、私のせいで……。これは私の自分勝手な償いだ。
「高説だな! いいことをいう。そう、生きることは大切なことだ。生きているから楽し――! ――ぐはっ! なんだっ! くそっ!」
アーロンのセリフが言い終わる前に私は彼に炎の弾丸を放った。
彼はマトモにそれを食らったが、ゲンゾウを手放すだけで、さほどダメージを受けてなかった。
「――
私は魚人たちの前に立ちはだかり、彼らに向かって姿を晒した。
「そのゴーグルに銀髪、そして緋色の銃……、アーロンさん! あいつはおそらく“魔物狩りのアイラ”ですよっ!」
「賞金稼ぎかッ! アーロンさん! まっ、まずい!」
「下等な人間がッ! 魚人のおれに何をしたァァァァァ!」
魚人たちは私の正体に気付くと同時に激怒したアーロンに焦り顔をしていた。
「さて、今日は挨拶代わりだ。君の首を私はいつでも狙っている。せいぜい恐怖するがいい」
そう言いながら、私は煙玉を使い、煙幕で視界を封じて姿を隠した。
魚人たちは私を探す者、アーロンを宥めながらアーロンパークに連れて帰ろうとする者に分かれていたが、結局どちらも、ココヤシ村からは去っていった。私が遠くへ逃げたと勘違いしたらしい。
「何だったんだ……。今のは……?」
「賞金稼ぎ……、とか言われていたわね……」
ゲンゾウとノジコはあまりの展開にボーッとしてるみたいだった。
「うん、私は元賞金稼ぎなんだ。今はこの村の出身のナミって子の仲間で海賊をやってる」
そんな二人の前に私は姿を見せる。ゴーグルを取り外して……。
「何っ! ナミの彼氏だとっ! 許せん!」
ゲンゾウは何を思ったか、自分の家から銃を取り出して、私に向けてきた。
えっと、ソレって鑑賞用じゃなかったの?
私は早速窮地に立たされてしまっていた――。
ライアのイケメン力はゲンゾウにとっては驚異でしかないみたいです。
次回もよろしくお願いします!