ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう   作:ルピーの指輪

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冒険の夜明けは突然に

 私の目の前でゲルグ海賊団の戦闘員たちが山積みになって、気絶している。

 

「やっぱり、強いなー。ゾロは……」

 

 私は間近で彼の戦闘を見て感嘆した。剣技はもちろん凄いが、更に驚かされたのは彼のパワーだ。

 人間ってあんなに吹っ飛ぶんだね。いや、ルフィなんてよく漫画で「ぶっ飛ばす!」とか言ってるけど、生でみると実にきれいによく飛ぶもんだ。本当に驚いたよ。

 

「そういうお前もえげつねェ。全部一撃で仕留めてたろ。なんて腕してやがる」

 

 ゾロは私の狙撃を戦闘しながら観察していたみたいだ。

 まぁ、前衛で暴れまわってる彼の後ろからという状況なら、余裕をもって狙えるからね。楽をさせてもらったよ。

 

「狙いに関しては、私の唯一の取り柄なんだ。パワーもスピードもないからね。これ一本で頑張るしかないのさ」

 

 私は自嘲しながら、そう言った。一応、鍛えては居るんだけど、あんな超人みたいなことが出来るようになる気がしない。

 それなら、特技を伸ばした方が今後の為になるはずだから、私は狙撃の技術だけは大切にしようと思っている。

 

「それより、ゾロ。肝心のゲルグがこの洞窟の外に向かってるみたいだ。急ごう、500万ベリーが逃げてしまう」

 

 私はゾロの次に大きな気配がこの場から離れようとしていることを感知した。

 

「なんだ、その超能力? まぁいいか、洞窟の出口だな? 行くぞ!」

 

「ああ、出口はこっちだけどね」

 

 私は反対方向に走ろうとする彼の手を掴んで走り出した。本当にやばいくらいの方向音痴だな。

 

 

「――おい、わかったから、手ェ離せ」

 

「なんだ、君をエスコートしてやろうと思ったのに。恥ずかしがり屋さんだな」

 

 しばらく、私がゾロの手を引いていると、彼は嫌そうな顔をしたので手を離した。そんな顔しなくてもいいじゃないか。

 

 

 洞窟の出口から外が見える。《牛刀のゲルグ》は逃げの一手を打ったようだ。

 賞金稼ぎ二人に部下をほとんど倒されたから、そうせざるを得ないのは分かるけど……。

 

「仲間を見捨てるなんて、実に薄情じゃないか」

 

「――同感だ。だが、奴ぁ、もう船に乗り込もうとしてるぞ。このままじゃ、逃げられちまう」

 

 ゾロは遥か彼方を牛刀を担いで逃げている肥満体型の男を指差してそう言った。

 うん、距離にして1kmないくらいか。それくらいなら……。

 

 私は愛銃、緋色の銃(フレアエンジェル)を両手で構える――。研ぎ澄ませ……、万物の呼吸を捉え、そして狙いを定めろ――。

 

「必殺ッ――鉛星ッッ!」

 

 風を切って猛烈な勢いで放たれる、シンプルな鉛の弾丸。ゴム人間とかには効かないけれど……。

 

「お前……、狙撃だけが取り柄っつったけど……。やっぱ、とんでもねェ奴じゃねェか!」

 

 ゾロは目を丸くして私と愛銃を凝視して、目をゲルグの方へと向ける。

 

 ――ゲルグは足を押さえて、船の手前で倒れてのたうち回っていた。普通の人間なら膝裏を貫かれたら当然そうなる。

 睡眠薬入りの弾丸が切れてしまったから、私は彼の急所を外して動きを止めることにしていたのだ。

 

 ふぅ、これでアルバイトは完了か。懸賞金はゾロにも助けられたし、折半しよっと。

 

 

 私たちはゲルグを捕らえて、海軍に引き渡して懸賞金、500万ベリーをゲットした。

 

 

 

「おーい、本当に全部いらないのか? 私って図々しいから真に受けて全部貰っちゃうよ」

 

 ゾロは女に助けられた金は要らないとか言い出したので、私は丸々500万ベリーを頂いてしまった。

 なんだか悪いことをした気がする。

 

「要らねェよ。しかし、お前のことは覚えた。《魔物狩りのアイラ》……、商売敵としてな」

 

 ゾロはニヤリと笑って私を見送ろうとする。

 商売敵ねぇ……。まぁ、仲間になるのはもう少し後だからなー。

 

「あー、でも私って今日で賞金稼ぎ辞めるんだよねー。足を洗うんだ、目的のために……」

 

「はぁ?」

 

 私は今回の仕事で賞金稼ぎを辞める。だって、外に出てる内にルフィたちが来てたらシャレになんないもん。

 

「だから、さ。《魔物狩りのアイラ》、じゃなくて、こっちで覚えてほしいな。私は、ただのライアだ。村娘のね……」

 

 ゴーグルを外して、素顔を彼に晒した。これで次に会ったとき、声をかけやすくなるだろう。

 

「――素顔を見たところで女に見えるような見えねェような……」  

 

「おいっ!」

 

 私はゾロの頭にチョップした。デリカシーのないこと言わないであげてくれ……。

 

「もし、今度会ったらご馳走するよ。美味い飯と美味い酒を好きなだけね」

 

「はっ! そりゃあいいな。楽しみにしといてやるぜ。何年後になるかわかんねェけどな」

 

 握手して、そんな別れを告げて、私はシロップ村に向かった。

 何年後ねぇ、割と直ぐなはずだけど、私も楽しみにしてるよ。ロロノア・ゾロ……、思ったよりも面白い人だったな。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ゾロと会った日から、しばらく月日が流れると、道化のバギーがやられたとかいう情報が私の元に入ってきた。

 ふぅ、そろそろ彼らはこの村にやって来そうだな。気を付けて生活しないと。

 

 そんなことを考えながら、今日も私はカヤの屋敷の庭にいる。

 

「――とまぁ、こんな感じかな。この数式の証明は背理法を使った方が余程早く解けるんだ」

 

 私はカヤの勉強を見ている。彼女は利発だし、物覚えがいい。

 両親が3年ほど前に亡くなって気を落としていたが、今は立ち直って自分で出来ることを増やすために勉学に励んでいる。

 

「ライアさんって、本当に勉強が得意よね。先生か学者さんに向いてると思うわ」

 

 カヤは命題とにらめっこしながら、私の講義を褒めてくれた。

 

「ははっ、私の生徒はカヤだけで十分だよ。君にこうやって何かを教えたり、話したりしてる時間が私には堪らなく幸せな時間なんだ」

 

 実際、冒険なんてどうでもいいから、このまま平和に彼女と同じ時を過ごしたいと思うことも多い。

 しかし、亡き母のことを想うと、私の衝動は捨てられなかった。でも、きっと帰ってくる。大好きな君のもとへ……。

 

「おや、またお勉強を見てもらっていたのですか、お嬢様。別にライアさんでなくても、私だってこれくらいなら教えられますよ」

 

 穏やかな低い声と共に現れたのはメガネをかけた執事、クラハドールだ。

 彼は私の隣に立って、カヤの解いている数式を覗き込んでいた。

 

「わかってるわ。クラハドール。でも、私はライアさんから習いたいの。ね、いいでしょ」

 

「しかしですねぇ、お嬢様。彼女の父親は――」

 

 カヤの言葉にクラハドールは困ったような顔して私を見る。はぁ、大した役者だよ。あなたは……。

 

「――海賊だもんね。クラハドールさん……、ごめんなさい。あなたが私にいい印象を持ってないことは知っている。でも、カヤとは幼馴染で、ずっとこうやって仲良くしてきたから」

 

 私も彼に対する敵愾心は消して、無害な人間を演じる。この男は恐ろしい奴だ。

 元々凶暴な海賊のクセにたったの3年で村中の信頼を勝ち取ってしまった。

 カヤの財産を合法的に掠め取る為とはいえ、よくやるとは思う。

 

「はぁ、あなたも聞き分けが悪いですね。一度、汚れた血はきれいにならないのです。あなたがどれほど善行を積もうとね」

 

 彼は淡々と冷たく私をあしらおうとした。明らかに挑発してるな。私が暴力に訴えるところを、カヤに見せようとしてるんだろう。

 

「――参ったな。クラハドールさんと議論しても平行線のようだ。悪いが、カヤ。私は退散するよ」

 

 私は両手を挙げて降参の姿勢を取った。

 でも、君のことは許さないよ。クラハドール……。

 私の大切な人を殺そうって言うんだから……。いくら甘い私でも躊躇をするつもりはない――!

 

 

 

 私は少し早めの昼食を取るために、村の飲食店へ向かった。自分で作ってもいいのだが、買い置きしてた食料が尽きていることを思い出したのだ。後で、買いに行こう……。

 

 しばらく歩いていた私は足を止める。はぁ、またこの子たちか……。

 

「――さっさと出てきたらどうだ? 私の背後を取るのは無理だと教えたはずだよ」

 

 私は背中越しに感じる視線と気配に向かって話しかけた。

 木陰から感じる気配は三つ。非常に小さいものだ。

 

「さすがです! 船長(キャプテン)!」

「すごいです! 船長(キャプテン)!」

「ライア海賊団ッ、集合しました!」

 

 にんじん、たまねぎ、ピーマンの村の悪ガキ3人組。漫画ではウソップに懐いてウソップ海賊団とかいう、海賊ごっこをしていた子どもたちだ。

 

 この子たちときたら、私が海賊の娘だと知ったら勝手に私を船長(キャプテン)と呼んできて、悪さばかりするものだから、私が村の人に何度も謝罪する羽目になったりもしていた。

 

 まぁ、根は良い子たちなのだが……。

 

「その、ライア海賊団っていうの止めてくれないか。そろそろ……。君たちも独立を考えた方が良いと思うんだ」

 

 私はうんざりした顔で彼らを見た。こういう風に目を輝かせてるときは大抵面倒なイタズラを考えついた時だ。

 

「独立ですか!? 素敵な響きです!」

「バカ、それどころじゃないだろう! ライアさん、大変なんです!」

「かっ、海賊の船がこの村に!」

 

 彼らの報告に私は一瞬だけ、放心状態になる。ホントに来た……。予測はしていたけど、本当に……。

 

 いや、まだ()()と決まったわけじゃ……。

 

「わかった。私が見てこよう。で、その海賊旗には何か特徴はなかったかい?」

 

 私は彼らに海賊旗の特徴を尋ねた。

 

「おい、見たのはお前だろ? なんか無いのか?」

 

 にんじんがたまねぎを問いただす。彼は興奮気味で口を開いた。

 

「あっ、あれは確か、道化のバギーの海賊旗でしたっ!」

 

 ――ビンゴだ。間違いない。麦わらの一味がこの村に来たんだ。

 私は心臓の鼓動が大きな音をたてるのを感じた。何年も覚悟していたはずだが……。いざ、時が来ると震えて来るものだな。

 

「ありがとう。君たちは危険だから、お家に帰りなさい。じゃあ、ちょっと行ってくる」

 

 私はたまねぎから聞いた方向の浜辺に向かって猛ダッシュした。下手に騒ぎを起こされても困るからな。急がないと……。

 

 

 

 

 

 

「うぉーっ、肉、肉! この村には肉があるかなぁ!」

 

「ちょっとは肉から離れなさい!」

 

 肉のことで頭がいっぱいの麦わら帽子の男の子と地図を見ているオレンジの髪の女の子……。間違いない、ルフィとナミだ……。

 そして、眠そうな顔をしたゾロもいる……。やはり、来たか……。麦わらの一味……。

 

 私は木陰に隠れて、気配を消して様子を窺っていた。

 勢い勇んでここに来たけど、どう挨拶すればいいんだろう? 仲間に入る予定です、とかって変だし。ゾロは顔見知りだけど……。

 

 気配を消してるから、当分は気付かれない。ゆっくり作戦を――。

 

「見られてるぞ、ルフィ……、かなりのやり手だ。気配の位置を正確に悟らせねェ」

 

「うーん、あの辺じゃねぇかなぁ」

 

 とか、思っていたら直ぐに隠れているのがバレてしまった。野生の動物以上の嗅覚だな。

 ルフィに至っては、完全に私の場所を指さしてるし……。

 

 

 ええい、仕方ない。出ていくか……。

 

 

「驚いたな、こんな辺境に道化のバギー一味が何の用事かな?」

 

 木陰から砂浜に飛び降りて、私はルフィたちの方に進む。手に愛銃を持って。

 

「うおっ、なんだぁ、それカッコいいなー」

 

 ルフィは私の付けているゴーグルを見て歓声を上げた。カッコいいかな……? これ……。

 

「長い銀髪に、大きなゴーグル、そして赤い銃……、ルフィ、そいつ多分賞金稼ぎよ。《魔物狩りのアイラ》……、賞金首を無差別に狩ってる凶暴な女だったはず……」

 

 ナミは驚いたことに私を知っていた。てか、私って凶暴な女って評判なの? 誰も殺してないのに……。

 

「うぉっ! ライア! ライアじゃねェか!」

 

 ゾロが驚いた顔をして私に駆け寄る。あー、良かった。忘れられて、斬りかかられたらどうしようかと思ってた。

 

「ゾロじゃないか、驚いたな。バギー一味に居るのか?」

 

 実際はまったく驚いてないが、私はゴーグルを外して如何にも偶然の再会というような演技をした。

 このくらいの嘘は許してもらいたい。

 

「いや、おれもいろいろあってな。海賊はやってるが、船長(キャプテン)はコイツだ」

 

 ゾロはルフィを親指で指さした。うん、知ってる。

 

「なぁ、ゾロっ! こいつのこと知ってんのか?」

 

 ルフィは私の顔をジィーっと見てきた。そんなに見つめられると――照れるじゃないか……。

 

「ゾロとはちょっと前に獲物が被っただけだよ。麦わらくん、そして美人のお嬢さん。私の名前はライア。賞金稼ぎは、偽名を使っていてね。こっちが本名だ」

 

 私は銃をしまって自己紹介をした。出来るだけ、愛想を意識して……。

 

「おれはルフィ、海賊王になる男だ」

 

「私はナミ、航海士をしてるわ。一応ね……」

 

 二人は私に合わせて自己紹介する。海賊王か……、この世界に生まれるとその言葉の大きさがより分かってきた。大言壮語すぎるということも……。

 でも、この男がそれを言うだけの資格があることを私は知ってる。

 

「そっか、海賊王か。いい夢を追いかけてるね。奇遇だよ、私もそろそろ行こうと思ってるんだ。偉大なる航路(グランドライン)へ」

 

 私はちょっといやらしいが、彼が興味を持つような話題を敢えて振って気を引こうとした。まずは、彼の眼鏡にかなわなきゃならない。

 ウソップはルフィと気が合うキャラクターだったんだよなー。でも、私は彼のような陽気さも無いから好かれる自信がない。

 

「へぇ、前に賞金稼ぎ辞めたって言ってたけど、海に出るつもりだったんだな。ルフィ、こいつのこと誘わなくて良いのか? こう見えて、狙撃に関してはとんでもねェ奴だぞ、こいつは」

 

 ゾロは私を船長であるルフィに推薦してくれた。えっ、ちょっと嬉しい……。でも、肝心のルフィに気に入られないとな。

 まだ、会って5分も経ってないから、これから色々と……。

 

「狙撃手かぁ〜! そうだなっ! 海賊は大砲撃つもんな〜! よしっライア、お前、おれの仲間になれよ!」

 

「へっ?」

 

 あまりの展開の速さに私はついつい、変な声を出してしまった。

 これが、私と麦わら一味との最初の出会い――。

 




もう少しルフィたちの出番を後にしようかと思いましたが、展開を遅くするのが苦手なのでこのくらいのテンポで進めることにしました。

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