ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう 作:ルピーの指輪
イケメン女子なライアをご覧ください。
「出会って早々に私を君たちの仲間に、か。ふふっ、いや、あのロロノア・ゾロが
ルフィがすぐに仲間に誘ってくれたのは意外でもあり、愉快だった。直感で素直に物事を決めてしまう彼のスタイルは理屈っぽい私には無いもので、非常に興味深く感じられた。
この人は王様の器だ。ただ真っ直ぐに走るだけで周りが付いてくる。世界はこの男を中心に動こうとしている。
モンキー・D・ルフィに付いていくということは、まさに大きなうねりの中に飛び込むと言うことだ。
「――ええーっ! ライア、お前……、女だったのかー!」
「そっちかよ!」
私はルフィの驚き顔にツッコミを入れた。さっきナミが私を凶暴な女って、言ってたじゃん。いや、凶暴な女も悲しかったけど……。
「くっくっく、ルフィ、お前も引っかかったか。オレも最初は男だと思って斬りかかっちまった」
「まぁ、確かに美男子って感じよね。どちらかと言うと」
ゾロとナミは無理もないみたいな顔している。
ちっ、私もどうせ転生するならナミみたいなスタイルが良かったよ。ホントに神様は中途半端なことをしてくれた。
「じゃあルフィに私の性別が伝わったところで、何か食べないか? 前にゾロと約束をしたんだ。好きなだけ飯と酒を奢るってね。せっかくだから君たちも一緒に奢らせてくれ」
立ち話も疲れるのと、空腹だったことを思い出して、私は彼らを食事に誘った。
「おおーっ! 俺っ、肉食いてぇぞ!」
「約束を律儀に果たすたぁ、義理堅ぇじゃねぇか。遠慮はしねぇぜ」
「奢り!? あなた、いい人ねー!」
三人は三者三様のリアクションを取り、私の誘いに乗ってくれた。
まだ、奴はこの村に着いてないみたいだな……。私は周囲の気配を探りながらそんなことを思っていた。
私はルフィたちを村の飲食店に連れて行った。
「――んめぇー! ほほろで、あいあは……」
ルフィは大量の食べ物を素晴らしい勢いで口の中に頬張る。大食漢なのはもちろん知っていたが、ここまで見事だと見ていて気持ちいいものだ。
「ルフィ、君は食べ物を飲み込んでから会話をしたほうが良い」
口にモノを詰めて話す彼の言葉が聞き取れなかった私は彼に飲み物を渡した。
「――ぷはぁ! なぁ、ライアはどうして
ルフィは最初に尋ねるべきことをようやく質問してきた。一応、気にしてくれてはいたんだね……。
「父親が居るんだよ。
私はルフィたちに
正確には目指すのはあの恐ろしい頂上戦争だけど、そんなことを話しても意味はない。父に会うためという目的だけ伝われば十分だ。
「ふーん。ん? ライア……? 海賊の娘……? あーっ! お前の父ちゃんヤソップだろ!?」
なんと、ルフィはこの少ないヒントで私の父の名前を当てた。いや、面識があるのは知ってたけど、ウソップと違って私は彼に似てないからなぁ。
「驚いたな。君は父を知ってるのかい? そのとおり、私の父は“赤髪海賊団”の船員のヤソップだ。だから、私の目的は大海賊である赤髪のシャンクスが船長を務める船に行くことなんだよ」
私はルフィに対して赤髪のシャンクスの名前を出してみた。彼がシャンクスに対して憧れを抱いていることを知っているから……。
「シャンクスは俺が一番大好きな海賊だ! そっかー、ヤソップの子供かー。お前の話は何回も聞かされたぞ。可愛い娘に会いてぇって、うるせぇくらいにな」
ルフィは父が毎日のように私に会いたいと言っていた話をした。私からすると、母に会って欲しかったんだが……。
「俺もシャンクスには会いたいと思ってる。よしっ! 一緒に行こう!
彼は私の肩を組んで美味しそうに肉を食べながら楽しそうに笑っていた。
なるほど、彼に味方が多いはずだ。こうやって、一緒に飯を食べるだけで、いつの間にか旧知の友の様になってしまう……。
素晴らしいけど、恐ろしい……。惹かれ過ぎてしまうと、この男の為に何だってしようと思ってしまいそうだから――。
「そうだな。海賊に会うために海賊になるのも悪くない。君の目的は海賊王。私などが助けになるか分からないが……、力を貸そうじゃないか」
私はルフィの勧誘を当然呑んだ。とんでもない運命に呑み込まれる覚悟なら、とうの昔に済んでいる。
私の知識で少しでも彼らの助けになれば、お互いに得をするはずだ。
それに、私とて少しは戦えるように訓練はしてきた。この先の戦いで生き残るために。
「おいおい、良いのかよライア。簡単にテメーの人生諦めて」
私があっさり海賊になると宣言したのでゾロは苦笑いしていた。いや、君が船長をそそのかしたじゃないか。
「知らないわよ。この男、あり得ないくらい常識知らずなんだから。もう少し頭の良い子かと思ってたわ」
ナミは呆れた顔をして私を見た。彼女も彼女で今は他人の心配してられない状況のはずなのに……。優しい人だな。一応、お礼を言っておこう。
「ありがとう、心配してくれて。でも、踏ん切りを付けたかったからね。いいキッカケなんだよ」
私は真っ直ぐに彼女を見つめてそう言った。
ナミはこの一味で数少ない常識人だから、仲良くしておこう。
「――っ!? あなた、気を付けた方がいいわよ。たぶん狙撃なんかより、女たらしの才能の方があるわ……」
ナミは少しだけ頬を赤らめて、そんなことを言う。前に、カヤにも似たような事を言われたような……。女たらしとまでは言われなかったが……。
「あまり嬉しくない才能だね。それは……。気を付けろと言われても、難しいし」
「長時間、むやみに女性と目を合わせないようにすること。いいわね?」
私の言葉に対して、ナミは的確?なアドバイスをする。わかったような、分からんような……。まぁいいか。
しばらく雑談しながら飲み食いしてると、ルフィが口を開きこんなことを言い出した。
「なぁ、ライア。お前って船持ってねぇか?」
「ん? もちろん、持ってるさ。小さい船だが、君たちの乗ってるあれよりはマシなやつを、ね。しかし、あれでは些か
ルフィの質問に私は答える。話の流れが漫画通りなら、ゴーイングメリー号が貰える可能性があるが……。駄目だったときは、盗っちゃえばいい。海賊なんだし、略奪したっていいだろう。
「ははっ、そりゃあ良い手だ。オレたちは海賊なんだからな」
「あなた、見かけによらず過激なことも言うのね」
ゾロとナミは私の提案に一応は理解を示してくれた。しかし、ルフィは――。
「えーっ、誰かと冒険した船なんていらねぇよー」
このような反応である。彼は船一隻の値段を知っているのだろうか?
「――じゃあ、船の話はおいおい話そう。君たちはしばらくここで好きなだけ飲み食いしといてくれ。店主にはまとまった金を渡しといたからさ。ちょっと、友人に別れを告げてくるよ」
とりあえず、出港は決まった。私はカヤとの時間がもう少しだけ欲しくなり、再び彼女に会いに行くことにした。
◇ ◇ ◇ ◇
カヤは帰ったはずの私がまた現れて少しだけびっくりしていた。
しかし、すぐにいつもの穏やかな表情に戻り、他愛のない雑談を始めた。
彼女はもうすぐクラハドールの計画に巻き込まれることになる。どうすれば、彼女の安全を確保出来る? 私はそればかり考えていた。
「――ライアさん。それで、出発はいつになるの?」
唐突に、カヤはそんな言葉を放った。
私は心臓が飛び出しそうになるくらい驚いた。彼女に心を読まれたと思ったからだ。
「――っ!? 驚いたな。どうやって切り出そうかと、思ったのに。先に言われてしまうなんて……。どうしてわかった?」
私は少し動揺しながら彼女に質問をした。
「なんとなく……。多分、私がライアさんのことばかり考えていたからかもしれない」
その言葉を話したときの彼女は微笑んでいるはずなのに切なげで、儚い感じがした。
しかし、その姿は誰よりも何よりも美しいと思ってしまった。
君が私の決意を鈍らせる――。
「――もうすぐだよ。しばらく会えなくなる。その、ええと、ごめん……」
私は悲しんでいるカヤに謝罪した。彼女は今にも泣きそうな
「ううん、いいの。いいのよ……。でも、一つだけ約束を守ってくれる?」
「約束?」
カヤの約束という言葉に私は耳を傾ける。
「生きて……。何があっても生きていて……、ライアさん。それだけが私の願い」
彼女は「生きて」と私に願った。私に求めるのはそれだけだと……。
「――わかった。絶対に生きてここに帰ってくる。例え世界を一周することになってもね。だって、君が私の帰ってくる場所なんだから」
「ライアさん……」
多分、私もカヤも涙ぐんでいると思う。
「こんなときに言うのは卑怯かもしれないけど、私は昔から君のことが――」
「困りますよ。ライアさん。あなた、先ほど帰ると仰ったじゃあないですか」
私の言葉に被せるようにしてクラハドールがセリフを吐いた。はぁ、見事に邪魔されちゃったな。
「嘘はついてないよ。一回帰ってまた来ただけだ」
私はクラハドールの顔を見てそう言った。
「屁理屈って言葉を知ってますか? これだから薄汚い海賊の子は……。で、お嬢様を誑かして幾らせびるつもりなんだ?」
財産掠め取ろうって奴が何を言っている? まったく、面の皮が厚い奴だ。
「クラハドール、あなた、ライアさんになんて事を! 謝りなさい!」
カヤは珍しく怒りを顕にして怒り出した。
「お嬢様は、この女に騙されています。女なのをいい事にあなたに色目を使って財産を掠め取ろうとしているのです。さすがは財宝狂いの父親をもつ女は考えることがえげつない」
クラハドールは口を止めなかった。私を口汚く罵り続けていた。
なるほど、下衆の勘ぐりとはよく言ったものだ。
「――ライアを悪く言うなぁぁぁぁっ!」
そんなことを思っていると、木陰でコソコソ見てるなーって思ってたルフィが飛び出して来て、クラハドールに殴りかかった。
おいっ! 初対面の人間を殴ろうとするな。
「――っ!? えっ、ライア?」
「――うわっ! すごい力だな。手が破裂するかと思ったよ。やっぱりとんでもないな……、君は」
私はルフィの拳を手で受け止めた。ここで、クラハドールを傷付けても何の意味もないからだ。
しかし、完全に見切った上で衝撃を殺すような受け方をしたのに手が高圧電流でも流されたように痺れて痛い。
ゴムゴムの
そう、私はめちゃめちゃ痛いのを我慢して平静を装っている。カヤが見てるから……。
「ルフィ、今のは私が悪いんだよ。約束を破ってカヤに会いに来たからね。とりあえず、ここを出よう。――そこで見てる君たちも、ね」
私は庭にある大きな木の裏でこっそり見ているゾロたちに話しかけた。
「そういや、こいつは気配を感じ取れるんだったな」
「何それ? 超能力か何か?」
ゾロとナミ、そしてここに彼らを案内したであろう、にんじん、ピーマン、たまねぎが姿を現した。
「ライアさんは、いつも後ろから付いていってもバレるんだ」
「後ろに目があるんだよ、多分」
「とにかく、すごいんだ」
また、悪ガキ共は余計なことを……。
ということで、私は彼らと共にカヤの屋敷を出た。
「随分な言われようだったが、あの男は何なんだ? ルフィじゃねぇが、オレも苛ついたぜ」
「ライア、お前、強いんだろ? 父ちゃんを悪く言われたんだぞ、なんで怒んないんだ?」
ゾロとルフィは私の態度が気になったみたいだ。
悪巧みをしているクラハドールを刺激しないため――とは、言えないよな。
「彼はクラハドール。カヤに仕えてる執事の一人だ。ルフィ、海賊の評価なんて、あんなもんだよ。いちいち腹を立ててもキリがないじゃないか。それに、私は父が嫌いだからね。悪く言われても気にならないさ」
私は彼らの質問にそう答えておいた。半分は本心だ。クラハドールは挑発のしかたを間違えた。父の悪口でなく、母の悪口なら私は怒ったかもしれない。
それに、海賊って、思った以上に嫌われてるからなー。漫画じゃあまり描かれてなかったけど、結構エグい連中も多いんだ。
300万ベリー前後の小物たちを何人も屠ってきたから、私はそれも知っている。小物とはいえ、かなり悪いことをやってる奴らが多かった。女子供を殺すなんて当たり前にやってたし……。
「あなた、海賊の評価が悪いのを知ってて海賊になるの? ロクなもんじゃないわよ。ホントに」
ナミは変わった人を見るような表情で私の顔を窺った。
そりゃあそうだ。彼女もまた、海賊に虐げられてる人間そのものなんだから。この時点ではまだ、ルフィたちには惹かれているけど、海賊自体は嫌いなはずだ。
「何を優先したいか、だよ。私にとって悪名が付かないことよりも、父親に会うことの方が優先したいことなんだ。別にそのためだったら手段は問わないよ」
私はナミに持論を展開する。ルフィの仲間になることが確実に広い海で赤髪海賊団と遭遇出来るチャンスだから、この手段を取らないわけにはいかない。
「ふーん。やっぱりあなたもマトモじゃなさそうね」
「ははっ、手厳しいな……、ナミは。じゃあ、常識人担当は君に一任するよ」
「もう、少しは手伝いなさい。せっかく言葉が通じる人だと思ったのに」
割と本気の勢いでそんなことを言うナミ。ルフィとゾロにはかなり振り回されたんだろうなー。
そんなことを話してる内に、私はとある気配がこちらに近づいていることに気づいた。
よそ者の気配……。やはり来たか……。
その気配は直ぐに私たちの見える位置まで出てきた。
そう、現れたのは、なぜか後ろ向きで歩いている催眠術師の海賊。
通称《1・2のジャンゴ》、キャプテン・クロの元部下であり、クロネコ海賊団の現船長である。
この村には手を出させないよ――。
キャプテン・クロは……、彼だけは……、私が倒す……! それだけは譲れないっ!
思ったよりも長引いてしまいました。
基本的にライアはルフィの獲物を横取りしたりはしませんが、キャプテン・クロだけは別なのです。
次回もよろしくお願いします!