ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう 作:ルピーの指輪
いつも誤字報告や感想をありがとうございます!
前回、アラバスタ王国編のラストとか書きましたが、終わりませんでした。お風呂シーンを長々と書いてたら終わりませんでした。すみません。
それでは、よろしくお願いします。
「15食も食い損ねてる!」
「なんでそういう計算は早いのよ。あんた」
起きるなり、1日5食計算で食べられなかった食事の回数を素早く計算するルフィを、ナミは呆れた顔をして見ていた。
「ふふふ、食事ならいつでも取れるようにしてるから平気よ」
イガラムの奥さんであるテラコッタがルフィに朗報を伝える。
「おばちゃん! おれは3日分食うぞ!」
「任せときな! 存分にお食べ!」
ということで、目覚めたルフィを含めたみんなで食事会が開かれた。
「いつにも増して素晴らしい食欲だな。惚れ惚れするよ……」
ルフィはとんでもない量の食べ物を、まるで手品のように体の中に消し去っていった。
私はそれを見て感嘆していた。
「ほっ、惚れる? ライアさんはよく食べる人が好きなの?」
隣で食事をしていたビビが私の言葉に反応してそんなことを聞いてきた。
「えっ? まぁ、そうだね。あれくらい豪快だと清々しいと思うよ」
私は質問の意図が掴めず、ルフィを見たままの感想を伝えた。
「よしっ! 私も――もぐもぐ……。おかわり!」
するとビビが今までにない食欲を見せて、凄まじい勢いで食べ始めた。
「おれ! この肉のやつをもっと!」
「わっ、私も……!」
ルフィのおかわり、に対してビビもそれに張り合っておかわりを要求する。
「ちょっと、あんた。もしかして船長と張り合ってんの? やめなさいって」
ミキータが心配そうな顔をして、それを止めようとする。
「ライア……。あなた、また余計なこと言ったでしょ」
そして、ナミはじぃーっと私の顔を見て、ビビが変なのは私のせいだと言ってきた。
そんな心当たりがまったくないけど……。
「うぷっ……」
「ビビ、食べ過ぎだよ。大丈夫かい?」
私はビビの背中をさすりながら、彼女に声をかけた。
「ごっ、ごめんなさい。ルフィさんには敵わないみたい」
ビビは何を考えているのか、当然のことを口にする。
「あっ、当たり前だろ。あははっ! でもビビって面白いね。こんな一面もあったんだ。一緒に居て楽しいよ」
「いっ、一緒に居て楽しい? えへへ……ふふっ……」
私が笑うとビビもヘラっとした笑顔を見せて楽しそうな表情を見せてくれた。
こういうお茶目なところも彼女の魅力だと思う。
「キャハハ……、見てられないわ。だらしない顔しちゃって」
そんなビビを見て、ミキータはやれやれというようなポーズをとっていた。
食事のあとは国王のコブラの勧めで、宮殿の自慢の大浴場を利用することとなった。
本来は雨季にしか使わないので特別のようだ。
てことは、みんなで風呂に入るってこと? 気が乗らないんだけどな……。
「ううっ……本当にみんなで入るのかい? あまり体を他人に見せたくないんだが……」
「何言ってんの。そういえば、あなた病気のときも極力見せないようにしてたわね。サンジくんが買ってきた服も着なかったし……」
私が服を脱ぐことを躊躇っていると、ナミがハッとした表情で今までのことを思い出してきた。
私が極力露出の少ない格好をしていることに気が付いたみたいだ。
「だから、それは……」
「キャハハ、まさか上半身だけ女で下半身は男だったりして。そういう人もいるって聞いたことがあるわ。つまり下には――」
私が言葉を詰まらせるとミキータがとんでもないことを口にしてくる。
私の下半身を指さしながら……。
「えっ……? ううん。だっ大丈夫よ、ライアさん。もし、ライアさんの下半身に、その……。男性のええーっと、なんて言えば……」
「言わんでいいし。そんなわけ無いだろう」
私の下半身を顔を真っ赤にしながら見つめていたビビが王女が言ってはイケナイことを言おうとしてたので、私は素早くそれを否定した。
「だったら、良いじゃない。ほら、脱ぎなさいって」
「ちょっと、ナミ……。そんな乱暴な脱がせ方はないだろう」
すると業を煮やしたナミが強引に私の服を脱がせてきた。
「キャハッ……観念しなさい。私がこっちを押さえておくわ。ほら、あんたも手伝って」
さらにミキータが後ろから私の体を取り押さえてきた。
「わっ、私? なんだかイケナイことしてるような……」
ビビはまだ顔を赤くしてこの状況に戸惑っている。
「何言ってんの。ミス・ウェンズ……いや、ビビ。だから、楽しいんじゃない」
「ミス・バレンタイン……。私の名前……」
ビビはミキータから自分の名前を呼ばれてハッとした表情をした。
二人ともなぜかずっとコードネームで呼び合ってたもんな。
「会社もなくなったんだから。コードネームで呼び合うのも馬鹿らしいでしょう。キャハハ」
「くすっ、それもそうね。ミキータ……」
ミキータが笑ってそう言うと、ビビも笑って彼女の名前を呼んだ。
いや、いい話なのかもしれないけど……。
「友情を育んでるところ悪いけど……自分で脱ぐから離してくれないかな?」
「キャハハッ! だから、
私がミキータに解放を要求すると、彼女はエスっ気たっぷりの笑みを浮かべて、彼女の趣向を話してきた。知らんがな、そんなの……。
「そゆこと。いつもしたり顔して、カッコつけてるんだから。たまにはこういうのも良いでしょ」
「まったく。何が楽しいのか理解出来ないよ」
ナミもミキータに同調している。何だかんだ言って、この2人も気が合うみたいだ。
「キャハッ……。ビビは、どっちかというとライアに無理やり脱がされたかったりして」
「――ッ!? ライアさんに脱がされる……」
ミキータはさらにビビに対して変なことを言うと、ビビは何とも言えない表情をしてボーッとしていた。
「こらこら、だらしない顔しないの。何を想像してるの? エッチなんだから」
「ちっ、違うわ。そんなこと考えてないもん」
ナミがジト目でビビを見つめると、彼女は慌てて両手を振って否定するような仕草をした。
「キャハハ、正直ね〜」
ナミとミキータはお喋りをしながら、あれよあれよという間に私の服を脱がして、あっという間に下着姿にされてしまった。
「ああっ……」
「ほら、そんなに恥ずかしがらなくても……って、そういうこと――」
私が体を縮こまらせて隠そうとすると、ナミは察したような顔をした。
「ライアさん……なんでこんなに傷跡が……」
ビビはビックリした顔をして私の体を見つめていた。
「子どもの頃から強くなるために鍛えてたんだけどね。上手くいかないもので、傷が増える一方だったんだ」
そう、特訓漬けの毎日で私は体中に傷を負っていた。
生まれつき色素が薄いこの体は跡が残りやすく、至るところに生々しい傷跡を刻む結果となっていた。
「増える一方って、あんた……。なんでそこまでして……」
「父親がいるところというのが、ちょっとした努力くらいじゃ届かない場所だからさ。ごめん、こんな体を見せ――って、ビビ……」
四皇である赤髪の船に乗ってる父に会うには、頂上戦争を最後まで意識を保って生き残るというバカみたいな難易度をこなさなきゃならない。
それを言おうとすると、下着姿のビビが私の背中の傷を撫でながら抱きついてきた――。
「ライアさんは初めて会った日も傷を作って、私を守ってくれた。私はそんな体だなんて、思わない……。素敵だし、憧れてるわ……」
静かにはっきりと彼女は私のこの体を肯定してくれた。
ビビはとても優しい子だ……。
「そう言われて嬉しいよ……。でも、下着姿同士で抱き合うっていうのは、ちょっと……」
「そっ、そうよ。キャハッ……どさくさに紛れてナニやってんのよ。あんた」
私が困った顔をしていると、ミキータがポカリとビビの頭を小突いた。
「――えっと、そのう。わぁ、すごい腹筋……」
「誤魔化したわね……。まぁ、いいわ。早く温まりましょう」
ぺたぺたと私の腹を触るビビを見ながら、ナミは早く服を全部脱ぐように促した。
確かに脱衣所で時間かけすぎたとは思ってる。
「これは見事だ……」
「キャハッ……広ーい」
「ホント、素敵ねー」
私たちは口々に大浴場の感想を口にした。いや、本当に立派なものだ。
装飾から何からこだわりを感じられる……。
「あ、あの。ライアさん……、背中を流してもいいかしら?」
「ん? そんな改まって言うことかい? じゃあ、せっかくだからお願いしようかな?」
浴場を眺めていた私にビビがモジモジしながら遠慮がちに声をかけてきたので、私はそれに応じた。
「「むっ……」」
その瞬間にナミとミキータからただならぬ視線を感じたのは気のせいだろうか?
「しゃあないわね。私はナミちゃんの背中で我慢したげるわ」
「我慢って……じゃあお願い。あなたって、割とお人好しよね」
そして、ミキータはナミの背中を流すみたいだ。
最近、ミキータは徐々に名前で私たちのことを呼ぶようになった。ゾロのことを『ゾロくん』って呼ぶのは彼女くらいだ。
「キャハハ、それ以上言うとお湯の中に沈めるわよ」
「はいはい」
何だか、あっちはあっちで楽しそうに話をしているな……。
そして、腰掛けた私の背中をビビが洗い始めた。
「うん。気持ちいいよ。ビビ……。上手だね……」
ビビは上下に絶妙な力加減で手を動かしてくれるので、とても気持ちがいい。
「そっ、そう? 良かった。嬉しい……」
彼女はホッとしたような声を出して、私の反応に安堵していた。
「どれ、交代しよう。今度は私が君を気持ちよくしてあげなきゃな」
「――う、うん。ありがとう……」
今度は私がビビの背中を洗う。とはいえ、上手くできるか些か心配である。
「どうかな? 痛くないかい? こういうのって慣れてないからさ」
ゆっくりと優しく手を動かしながら、ビビの反応を窺ってみる。
「大丈夫……。気持ちいいわ……」
すると彼女は噛みしめるような感じでそう返事をした。
「そうか……。なら、良かった……」
「私、今――とっても幸せなの……」
ビビは本当に幸せそうだった。おそらく国の危機が去っていったことを実感したからだろう。
「ははっ……! 大袈裟だな、ビビは。――ところで、さ。彼らが先ほどからこっちを見てるのが気になって仕方が無いんだが……」
私はビビの返事に反応しつつ、ずっと気になっていた視線について話をした。
「「じぃ〜〜〜」」
「ちょっと、みんな! 何してるの!?」
壁の上から男性陣が覗いてることにビックリしたビビは大声を上げていた。ていうか、国王が自分の娘の入ってる風呂覗くなよ……。
「あいつら――。幸せパンチ!! 1人10万ベリーよ」
「「ぐはっ!」」
その様子を呆れた顔で見ていたナミは惜しげもなく自分の裸体を晒した。
といっても、金はきっちり請求するみたいだが……。
「ほう。さすがはナミだね。やるもんだ。私なら、ああは行くまい」
「絶対に止めてね。ライアさん」
私が感心したような声を出すとビビが真顔になってナミの真似は止めろと言う。いや、しないから。絶対に誰も喜ばないし……。
「――ふぅ。こんなに大きな湯船に浸かるのは、初めてだな」
「ねぇ、ライア。出航のことなんだけど。今夜はどうかしら?」
私が今世では間違いなく最大の風呂に浸かってしみじみとしていると、ナミが出航について相談してきた。
「そうだね。ルフィも目を覚ましたし、長居をする理由もないか……」
「ていうか、海軍がもう黙ってないでしょ。キャハッ……、船も危ないかも」
私がナミの意見に同調すると、ミキータも冷静に船の心配をした。
海軍が漫画よりも少しは遠慮がちになってくれればいいんだけど……。
「…………」
「迷ってるんでしょう? ビビ」
黙っているビビにナミが声をかける。そっか、ビビは一緒に来るかどうか最後まで悩んだんだっけ。
でも、結局国に残ることを決めた。
私は正しい判断だと思った。大体、この麦わらの一味はここから世界の至るところに喧嘩を売って歩いて行くことになるし……。
「う、うん。でも、1つだけ決めたことがあるわ。ライアさん、あとで2人きりでお話できる?」
「私と? ああ、もちろんいいよ。じゃあ、風呂を上がったらでいいかな?」
私が考えごとをしていたら、ビビが私と話がしたいと言ってきたので了承した。
なんの話だろう? 海賊になるための相談? いや、それで私と2人でっていうのも変だ……。
「ありがとう――」
思いつめたような表情でビビは静かにそう言った。
しばらくして、十分に体を癒やした私たちは風呂を上がった。
ああ、なんていい湯だったんだろう。まるで命を洗濯したようだった――。
◇ ◇ ◇ ◇
「どうしたんだい? 2人で話がしたいって?」
ナミとミキータには先にルフィたちのいる部屋に行ってもらって、私たち女3人が3日間寝泊まりした部屋にビビが入ってきた。
私たちは同じベッドに腰掛けている。
ビビはしばらく黙っていたが、意を決した表情で私の顔をまっすぐに見て口を開いた。
「ライアさん……あのっ……。わっ私、ずっと……あなたのことが……好きでした――」
「えっ? ビビ……それって……」
私は思いもよらない彼女の言葉に面食らってしまった。
「最初に会ったときから素敵な人だと思ってた。気付いたら目で追いかけているようになっていて……」
「あっ……」
ビビは今までにない力強さで、私をベッドに押し倒してきた。
両腕を押さえられて、私は彼女の顔を見上げるような形で見ていた。
「女の人ってことがわかっていても、気持ちが抑えられなくなっていた。あなたに触れられるだけで胸がドキドキするの。見つめられるだけで、夜も眠れなくなる日もあったわ――」
「そんな、私は……」
ビビは私に出会ってから抱いていた感情を吐き出していた。
全然、気付かなかった。彼女がそんな気持ちを私に抱いてるなんて――。
「私はライアさん、ずっと、ずっとあなたのことが好きでした――。こんな気持ちになるのは初めてなの……。あなたが出航する前に、どうしてもこの気持ちだけは伝えたかった――」
「ビビ……えっと、その。顔が近いよ……」
ビビはゆっくりと覆いかぶさるように私に顔を近づけてきた。
私はあまりの展開に力が入らない。彼女の唇はすでに私の唇と3センチも離れていない。
ビビが話すたびに吐息が私の口元にかかり、その表情はいつもよりも幾分大人びて見える。
彼女の青く長い髪からはさっき一緒に使った石鹸の匂いがした――。
一国の王女が海賊のしかも、女の私に――。
でも、こんなことをするってことは……本気なんだろうな……。
こんなときに私の頭に浮かぶのはシロップ村に残してきたカヤの顔である。
最後に見た彼女の顔は、今のビビの表情とよく似ていた――。
「ねぇ、お願い……。私を攫ってちょうだい――」
しばらく見つめあった後に、ビビは絞り出すように声を出した。
私は一国の王女になんてことを言わせたのだろうか?
アラバスタ王国の最後の夜は――私には忘れられない夜となっていた――。
アラバスタ王国編で一番書きたかった回が投稿できて満足しております。
個人的には最近で一番楽しく書けたのですが、如何でしたでしょうか?
次回こそ、アラバスタ王国編はラストになる予定です。