ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう   作:ルピーの指輪

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誤字報告とたくさんの感想をありがとうございます!
とてもやる気が出てきて元気になります。
今回はジャンゴ登場からです。



クロネコ海賊団の船長と元船長

「バカヤロウ、何でおれが見ず知らずのてめェらに初対面で術を披露しなきゃならねェんだ」

 

 催眠術師で海賊の《1・2のジャンゴ》と遭遇した私たちだが、子どもたちとルフィは彼が催眠術師だと知ると目を爛々と輝かせて催眠術を見せろとリクエストしていた。

 

 コイツの催眠術って結構すごいんだよなー。前世で見ていたバラエティ番組とかだとヤラセっぽさがあるけど、彼の能力は本物だ。

 

「いいか、よくこの輪を見るんだ――」

 

 彼はしゃがみ込み輪っかを取り出して、ルフィと子どもたちに見せた。ノリが良い……。確かコイツってノリだけで無罪になって海軍に入ったような気がする……。

 司法はもっと仕事しろとか思ったけど、私も下手したら海軍に捕まるかもしれないからやっぱり怠けてほしい。

 

「やるのかっ……!」

 

 ゾロが呆れ顔でツッコミを入れる。

 

「ワン・ツー・ジャンゴでお前らは眠くなる」

 

 ジャンゴはルフィたちに輪っかを見せつつ、ゆっくりとそれを揺らした。ベタでバカバカしいんだけど、確かこれって効いちゃうんだよね。

 

「いいか、いくぞ……。ワーン、ツー、……ジャンゴッ……!」

 

 ジャンゴが暗示をかけると案の定、見事にルフィと子どもたちは寝てしまった。お約束どおりジャンゴも寝ちゃったけど……。

 

「おいっ! お前も寝るのかよっ!」

 

 ゾロはそれを見て再びツッコミを入れる。

 なかなか、するどい切れ味のツッコミだな。さすがは剣士と言ったところか……。

 

 とりあえず、子どもたちとルフィを起こそう……。ジャンゴはこのあと確かクラハドール、いや、キャプテン・クロと接触するはず……。さて、どうしてくれようか……。

 

 

 

「ナミ、こういう状態のルフィはどうやったら起きるんだい?」

 

 私は子どもたちを起こしたあと、ルフィを起こそうと体を揺らしていた。彼は鼻提灯を作りながらグーグー眠っている。

 頬を叩いてもゴムだから効かない。つまり、起きない。

 

「知らないわよ。そんなこと」

 

 ナミはお手上げという表情で、ゾロの顔を見ると彼も首を振る。

 ふむ、いくら強くても眠らされると当然ピンチになる。彼の弱点は搦手に弱いことかもしれない。

 

「そっか、わかった。気が進まないが、コレを使おう。――必殺ッ――タバスコ星ッ!」

 

 私はおもむろに激辛成分を独自に調合した丸薬をルフィの口にねじ込んだ。

 

 ルフィの顔はみるみる赤くなる――。

 

「辛ェー! 辛いぞー! みっみずぅ〜!」

 

 喉を押さえてのたうち回る、ルフィ。あー、ちょっとやり過ぎたかな? でも、このままだとここで私がジャンゴと遭遇していることが、クロにバレてしまうかもしれない。

 だからといって何か不都合が起こるとは思わないが、警戒心の強いクロが漫画と違う行動をとる可能性は避けておきたい。

 

「ほら、牛乳だ。飲むといい。辛いのが治まるから」

 

 私はあとで飲もうと思ってた牛乳を手渡した。水を飲むと逆効果だからね。

 

「ぷはぁっ――。ぜぇ、ぜぇ……、ありがとなー、ライア! 助かったー」

 

「はははっ……、礼には及ばないさ」

 

 お礼を言われた私は罪悪感で目が泳いでいた。ゾロとナミからの視線が痛い。

 

「だけどよぉ。なんで、おれ、いきなり辛くなってたんだ?」

 

「この村だと割とよくあるんだよ。“寝てて突然辛くなっちゃう病”が流行ってるからね」

 

「なんだ〜。そういうことかー。あっはっはー」

 

 逆に心配になるくらい、私の嘘を信じ込んだルフィ。彼のことは今後放っておけないかもしれない。

 

「あなた、容赦ないタイプなのね……」

「敵に回したくねェな……」

 

 二人にはちょっと引かれてるし……。いや、違うんだって……。これには理由が……。

 

 

 こうして、私たちは路上で大の字になって寝ている不審者丸出しのジャンゴを放置して歩き出した。

 

 

 

 しばらく歩いて、子どもたちと別れたあとで、私は思い出したように口を開いた。

 

「――あっ! 思い出した!」

 

 わざとらしくないように演技をしながらそんな言葉を吐く。

 

「どうしたのよ? いきなり」

 

 ナミが私の言葉に反応する。ここからは慎重に発言して動かないとな……。

 

「いや、さっきの怪しい催眠術師……、海賊だよ。確か、通り名は《1・2のジャンゴ》……、クロネコ海賊団の船長だ……、懸賞金もかかってたはず。どうしてこんな村に……」

 

 あたかも今、思い出したかのように私はそんなセリフを言う。なぜならジャンゴがちょうど動いた気配を感じたからだ。

 

「なんだ〜。あいつ海賊なのか〜」

 

 ルフィは呑気そうな声を出す。彼はこれでいい。

 

「そのクロネコ海賊団ってのが、お前の村に何か用事があるかもしれねェってことか」

 

「海賊の用事なんてロクなもんじゃないに決まってるでしょ。どうするの? ライア」

 

 ゾロとナミは事態をキチンと呑み込んでくれた。ありがたい。

 

「とりあえず、ジャンゴの気配を追うとするよ。嫌な予感がする……」

 

 私は上手くルフィたちを誘導して、ジャンゴとクロの密会現場に連れて行った。

 もちろん彼らに気付かれない様に――。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「――おいジャンゴ、この村で目立つ行動は慎めと言ったはずだぞ。村の真ん中で寝てやがって」

 

 私たちがジャンゴに追いついたとき、ちょうどクラハドール、もといキャプテン・クロが彼と密会を開始するところだった。

 

「バカ言えっ! おれは全然目立っちゃいねェよ。変でもねェ……」

 

 ジャンゴはムッとした表情でそう答える。いいタイミングだったな。もちろん、タイミングは計っていたけど……。

 

「どういうこと? あなたのお友達の執事がなんで海賊なんかと?」

 

 ナミは小声で私に尋ねる。

 

「――わからない。しかし、これは大変なことかもしれない……、とにかく会話を聞こう」

 

 私は彼女の疑問にそう答えた。

 

「ああ、もちろんだ。いつでも行けるぜ、”お嬢様暗殺計画”ッ!」

 

 ジャンゴは高らかに宣言した。凶悪な笑みを浮かべながら。

 長かった――ついに、馬脚を露したな、キャプテン・クロ……。この現場をルフィたちに見せるために何度、私はシミュレートしたことか……。

 

 

「ふん、暗殺なんて聞こえの悪い言い方はよせ、ジャンゴ……」

 

「ああ、そうだった。事故……、事故だったよなぁ……、キャプテン・クロ……」

 

「キャプテン・クロ――か。――3年前に捨てた名だ。その呼び方もやめろ。今はお前が船長のはずだ」

 

 彼らは密談を続ける。私たちに見られてることも知らずに……。

 

「キャプテン・クロ……、まさかクラハドールは……」

 

 私はそう言葉を口にした。

 

「私もクロって名前は知ってるわ。確か、あなたがさっき言ってたクロネコ海賊団の初代船長じゃなかったかしら?」

 

 さすがに色々と情報を仕入れているナミは東の海(イーストブルー)では比較的に大物だったキャプテン・クロの名前は知っていたみたいだ。

 

「なるほど、あの執事の正体は海賊だったってわけだ」

 

 ゾロも納得してうなずく。

 

 

「―― しかし、あんときゃ、びびったぜ。あんたが急に海賊をやめると言い出した時だ。あっという間に部下を自分の身代わりに仕立て上げ、世間的にキャプテン・クロは処刑された! そしてこの村で突然船を下りて、3年後にこの村へまた静かに上陸しろときたもんだ」

 

 ジャンゴが丁寧に事の経緯を話してくれる。

 

「まぁ、今まであんたの言うことを聞いて間違ったためしはねェから、協力はさせてもらうが分け前は高くつくぜ?」

 

 この男は海賊団ごと皆殺しにするつもりだけどね。私は心の中でジャンゴのお気楽な思考を蔑んだ。

 

「ああ、計画が成功すればちゃんとくれてやる」

 

「殺しならまかせとけ!」

 

 クロの空手形にジャンゴは威勢のいい返事をした。

 

「だが、殺せばいいって問題じゃない。カヤお嬢様は不運な事故で命を落とすんだ。そこを間違えるな。どうもお前は、まだこの計画をはっきり呑み込んでないらしい」

 

 クロはそこから計画の全貌を話した。

 

 それは、カヤの財産を手に入れるためにジャンゴの催眠術を利用して全財産をクラハドールに相続させるという遺書を書かせてから、海賊の襲撃で亡くなったと偽装して殺すという計画だった。

 

 そして、そうなっても不自然じゃないように3年間でこの村の信頼を彼は勝ち取ったと誇らしげな表情をしていた。

 

 

 

「とにかくさっさと合図を出してくれ。おれ達の船が近くの沖に停泊してから、もう1週間になる。いい加減奴らのしびれが切れる頃だ」

 

 クロから計画の全貌を聞いたジャンゴは彼を急かすような言い回しをした。

 さて、この辺で確かルフィが……。

 

「おっ……モゴモゴ……」

「悪いがルフィ、今、君が暴れたら厄介な事になる。動かないでいてくれないか? 頼む……」

 

 彼が言葉を発する気配を察知した私は彼を羽交い締めして、口を押さえた。

 ここで私たちの存在がバレたら全て台無しだ。

 

「明日の朝だ、ジャンゴ……。夜明けとともに村を襲え。村の民家も適度に荒らして、あくまで事故を装いカヤお嬢様を殺すんだ」

 

 クロははっきりと明日の早朝にクロネコ海賊団を村にけしかけろと命令した。

 いよいよ、奴らと決戦だ……。

 

 私たちはこっそりとこの場を離れた。ふぅ、ルフィがゴム人間の特性を活かして強引に出て行かなくて良かったよ。一応、理性はあるみたいだな。

 

 

 

「あの、カヤって子の執事、とんでもないヤツだったわね」

 

 ナミは吐き捨てるようにそう言った。私もよく知ってて3年も耐えたと思う。

 クロは本当に完璧な振る舞いだった。世間に取り入るのも上手かった。

 彼の言うとおり海賊の娘が何を言っても通用しない程の信頼をすぐに勝ち取っていたのだ。

 

「――で、どうするつもりなんだ? お前はよぉ」

 

 ゾロは試すような口調で私に尋ねてきた。

 

 そんなの決まってるじゃないか。私はクロがこの村に()()()から準備していたのだから。

 

「キャプテン・クロは私が倒すよ。私の大切な人の命を取るって言うんだ。落とし前は自分でつけるさ」

 

 このとき自分がどんな表情(かお)をしているのか分からなかった。笑っているのか、怒っているのか、様々な感情がグチャグチャになっていたと思う。

 

「なんだ、あの悪執事はライアが倒すのかー。じゃあ、おれは誰をぶっ飛ばせばいい?」

 

 ルフィはわくわくしたような表情でそんなことを言う。まだ、手伝ってとか何も言ってないんだけど……。

 

「えっと、ルフィ、君は手伝ってくれるのかい? クロネコ海賊団との戦いを」

 

「何言ってんだよー、ライア。仲間が喧嘩するんだから当たり前だろ? 命くらい懸けるぞ」

 

「お前の覚悟は伝わった。で、おれは誰を斬ればいい?」

 

 ニカッと笑って仲間を助けるのは当たり前だと、嬉しいセリフを言うルフィと刀から刃を見せながら研ぎ澄まされた殺気を見せるゾロ。

 

 さらっと格好いいこと言うんだから。これが麦わらのルフィか……。

 

「ありがとう。ルフィ、ゾロ、それに、ナミ」

 

 私は彼らにお礼を言った。素直に嬉しかったからだ。

 

「ちょっと、何、自然な感じで私も頭数に入れてるのよ!」

 

 ナミが両手をブンブン振って抗議した。あっ、やっぱりバレたか。

 

「いや〜、ノリで押せば何とかなるかなーって」

 

「あなたって、結構厚かましいのね……」

 

 ジト目で私に視線を突き刺す彼女。厚かましいと言われれば何の反論も出来ない。

 

「頼むよ、ナミ……。一人でも多くの協力者が欲しいんだ」

 

 私は切実に人手が欲しかった。だから、本気で彼女にお願いした。

 

「――ふぅ、わかったわよ。まったく、もう。長時間目を合わせないでって、さっき言ったじゃない」

 

 ナミは少しだけ顔を紅潮させて、顔を背けながら渋々私のお願いを呑んでくれた。なんだかんだ言って彼女もお人好しだ。

 

「すまない。でも、嬉しいよ。協力してくれて」

 

 私は彼女に手を差し出す。

 

「手伝いの報酬として、あとで、クロネコ海賊団の財宝を貰うからね」

 

 彼女は私の手を握って念を押すようにそう言った。どうぞ、ご自由にと、私は返事をしておいた。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 夜になり、私たちはクロネコ海賊団がやってくる村の北側の海岸で野営をしていた。

 賞金稼ぎをしていたからキャンプグッズは充実している。

 

 原作では連中が来る方向を間違えて、ルフィとゾロの到着が遅れたんだっけ。それがなくなるだけでも今回は有利だな。

 

 さて、私はというと、カヤの屋敷に向かっていた。目的は当然――。

 

 

 私は気配を消して彼女の寝室の窓に張り付く。そして、コンコンと窓を叩いた。

 

「――らっ、ライアさん……」

 

「しーっ、静かにしてくれ」

 

 驚く彼女の唇に私はそっと人差し指を当てて小声で話した。

 

「どうしたの? こんな夜更けに……」

 

 カヤは不思議そうな顔をしていた。驚くほど警戒はしていなかったけど。

 

「ちょっと、上がってもいいかい?」

 

「えっ、ええ。いいわよ」

 

 私はカヤの寝室に上がり込む。彼女はいつもと違う私の態度を見て少し緊張しているみたいだった。

 

「カヤ、私がここに来た理由を率直に話すよ。私は君を攫いに来たんだ。これから君を外に連れ出す――」

 

 真剣な表情で私は彼女にそう宣言する。カヤを一人にしておくなんてとんでもない。

 安全が確保されるまで、ナミと隠れてもらおうと私は考えていた。

 

「――らっ、ライアさん。それって、駆け落ちってこと? そっそんな。まさか、ライアさんがそこまで私のことを……。嬉しいけど、私たちは女の子同士だし、それに……、家のことも……」

 

 カヤは顔を真っ赤にして両手で頬を触りながらオロオロと、動揺していた。

 しまった。言い方を間違えたかな?

 

 私は彼女にキチンと説明することにした。信じてもらえることを祈りながら……。




主人公の旅立ちのエピソードだからなのか、思ったよりも展開が遅くなってます。冗長になってないか不安です。最後に百合タグに仕事させるのが精一杯でした。
次回、ようやく戦闘が始まりますので、よろしくお願いします!

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