ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう   作:ルピーの指輪

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今回でジャヤでのエピソードは最後です。
それでは、よろしくお願いします!


バカとロマン

「いや、今日はなんて酒のうめェ日だ! お前らみたいなバカがやってくるなんて思わなかったからよォ」

 

 私たちは今、モンブラン・クリケットの家で食事をご馳走になっている。

 

 モンブラン・クリケットのところに向かう道中にショウジョウというマシラの兄貴分みたいなのに絡まれるトラブルはあったが、私たちは無事に彼の家に到着することが出来た。

 

 その家の近くでナミが見つけた古い絵本――『うそつきノーランド』。

 サンジによるとこれは彼の生まれた北の海(ノースブルー)では有名な童話なのだという。

 

 冒険家のノーランドが黄金郷を見つけたと、王様に報告して行ってみたら何もなかった。彼は『黄金郷は海に沈んだ』と言い張り、死刑になって死ぬまで嘘をつくのを止めなかったという話だ。

 

 確か、黄金郷は実在していて、その部分が突き上げる海流(ノックアップストリーム)で吹き飛ばされて空島に行ったとかそんなのが真実だったんだっけ?

 あっ、思い出した。空島に行くのって、その突き上げる海流(ノックアップストリーム)で船を空に打ち上げるんだった――。

 

 メリー号大丈夫かな? 何とかしないと私の大事なメリー号が本当に壊れてしまう……。

 

 そんなことを考えてると、モンブラン・クリケット本人と遭遇して黄金泥棒だと疑われてしまう。

 しかし、彼は潜水病になっておりその場に倒れ、チョッパーを中心に彼を看病することとなった。

 

 そこに、マシラとショウジョウが現れて、クリケットを慕う彼らは、クリケットを診ている私たちと意気投合し、和解する。

 

 クリケットはやはりノーランドの子孫で嘘つきの子孫として人生を狂わされた自分に決着をつけるために、黄金郷の有無を人生を懸けて探ろうとしてるのだそうだ。

 

 そして、彼は空島についても知っていた。その行き方についても。

 やはり、私が思い出したとおり突き上げる海流(ノックアップストリーム)を利用する方法だった。

 

 船を積帝雲という雲の化石と呼ばれる空の海に飛び込ませるのだそうだ。偶然にも明日が突き上げる海流(ノックアップストリーム)と積帝雲が重なる日らしく、そのことを考えると私たちは幸運であったと言わざるを得ない。

 クリケットたちは夢を追いかける私たちを気に入ってくれて、そのために必要な強化もやってくれると言ってくれた。

 

 という背景もあって私たちは彼の家で食事をしながら騒いでいるのである。

 

 

「これを見ろ!」

 

「うわっ! 黄金の鐘!」

 

 酒も入って上機嫌になったクリケットは私たちに小さな黄金の鐘を見せてくれた。どうやら、海底でこれを3つほど見つけたらしい。

 

「こんな小せェのじゃ、何の証拠にもなんねェがな。まだあるぞ。おい、マシラ!」

 

「こんどは、黄金の鳥か……。こっちは大きいじゃないか」

 

 マシラが袋から取り出したのはペンギンみたいな造形の鳥の黄金の像だった。

 ナミは目を輝かせてこれを見ていた。

 

「ははは、10年潜った対価としちゃあ割に合わねェよ。嬢ちゃん」

 

 私の言葉にクリケットは笑いながらそう答えた。この人は久しぶりにひと目で私のことを女だってわかってくれたから良い人だ。

 

「キャハハ、あんたは女扱いされると露骨に機嫌がいい顔をするのね。ていうか、さっき言ってた奇妙な鳥の声って」

 

 ミキータがニンマリ笑って私を横目で見ながら、先ほどクリケットが話していたノーランドの逸話に触れた。

 

「おっ、そっちのレモンの嬢ちゃんは勘がいいじゃねェか。そうだ、ノーランドの航海日誌にあった奇妙な鳴き声の鳥っていうのはこいつのことなんじゃねェかと思ってる」

 

 ミキータの声にクリケットは頷く。

 

「鳴き声が変なのか?」

 

「ああ、“サウスバード”って言ってだな。この島に現存する鳥なのさ――。あっ! しまった!!」

 

 ルフィが今度は質問して彼はそれに対して答えると、クリケットは突然思い出したかのような大声を上げた。

 

 目指す場所が海ということは記録指針(ログポース)に頼らずに方位を正確に知る必要がある。

 そのためにサウスバードという、必ず南を向く特性のある鳥を捕まえる必要があるのだそうだ。

 

 私たちは早く森でサウスバードを見つけるように急かされ、みんなで森の中に入った。

 

 

 

「――瑠璃色の超弾(スパイダーブレット)ッッ!」

 

「ジョ〜、ジョ〜ッ!」

 

 私の開発した粘着性の網が飛び出す弾丸によってあっさりとサウスバードを確保する。

 なんか、森中で叫び声が聞こえるけど、何かあったのかな? 変わった虫が多いから、ナミとかが怪我してなきゃ良いけど。

 

「さすが、狙撃手さんね。姿も見えないのによく当てるわ……」

 

「音だけでも大体の位置は掴めるから、集中すれば当てるのはわけないさ。見えたら、君の能力のほうが楽だったんだろうけどね」

 

 森に入って10分ほどでサウスバードを籠に入れることに成功した私は、バラけた仲間たちを集めに歩き出す。

 ん? クリケットの家の方に何者かが近づく気配がする……。これは、昼間のベラミー海賊団か……。

 

「みんな、クリケットたちが危ない! 早く戻ろう!」

 

 ルフィたちに声をかけて、私たちはクリケットの家まで走り出した。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「さァ、行こうぜ! 金塊を船に積み込め!」

 

「ジジイ! 幻想(ユメ)は決して叶わねェって知るべきだ! ハハッ……!」

 

「待て、小僧! 幻想に喧嘩売る度胸もねェヒヨっ子が……、海賊を語るんじゃねェ」

 

「何だと」

 

 私たちが急いで戻ってきたとき、既にマシラとショウジョウはやられており、金塊はベラミー海賊団に奪われようとしていた。

 

 ベラミーはクリケットをあざ笑うが、彼は立ち上がり、ベラミーを相手に啖呵をきっていた。

 

 それを受けてベラミーはクリケットを睨みつけ、バネバネの実の能力を活かした技を発動させるためにしゃがみ込むような構えをとった。

 

「スプリング……狙撃(スナイプ)!」

 

 ベラミーの能力であるバネの特性を活かした、高速の突撃技がクリケットを襲う。

 

「――ッ!? なっ……、てめェは麦わら……」

 

 しかし、ベラミーの拳はクリケットには届かなかった。

 なぜなら、ルフィがクリケットを庇うようにベラミーの前に立ち塞がり、彼の頭を左手一本で止めたからである。

 

「ベラミー……、お前はひし形のおっさん達に……、何をした!?」

 

 ルフィは静かに怒りを燃やしながらベラミーを睨みつける。

 こういうときの彼は迫力が凄い。なんというか、ビリビリとした力の波動を感じる……。

 

「ちっ、まぐれで受け止めたからって調子に乗りやがって! 海賊として金塊を奪ってやろうとしただけだ! お前にとやかく言われる筋合いはねェ!」

 

 昼間とはまったく違うルフィの態度にイライラしたのか、ベラミーは拳を構えながらルフィの問いに返事をした。

 

「あるさ! おっさん達は()()だ! だから、おっさん達の宝は奪わせねェ!」

 

「ハハハハッ! 臆病者の船長の海賊団がおれらに喧嘩を売ろうってか!? 油断したサーキースを部下が倒したくらいで調子こいてんじゃねェぞ! お前ら! あの小物どもに世の中の厳しさを教えてやれ!」

 

 ルフィの言葉をあざ笑いながらベラミーは自らの仲間たちに声をかける。

 

「「うぉぉぉぉぉっ!」」

 

 するとベラミー海賊団の面々は私たちに向かって襲いかかってきた。

 

「なんだ、せっかく昼間は見逃してやったのに結局、戦闘か?」

 

「ナミさんに失礼な口利いたバカどもってのはあいつらだな?」

 

「ふぅ……、私にそんな物騒なモノ向けないでもらえる?」

 

「キャハハッ! そんなに埋めて欲しいの?」

 

 ゾロ、サンジ、ロビン、ミキータが戦闘態勢を取り彼らの相手をする。

 相手をすると言っても時間は数秒だったが……。

 

「「ぎゃあああああっ!」」

 

 一瞬で蹂躙されてしまうベラミー海賊団……。

 まぁ、ゾロもサンジも強いし、ロビンとミキータは悪魔の実の能力者だ。並の海賊たちでは、歯が立たないのも無理はないだろう。

 

 仲間たちの戦闘を観察しつつ私はメリー号の元に向かっていた――。

 

「おい、お前……。この船に何をするつもりだ?」

 

 メリー号の船首に向かってククリ刀を向けているサーキースに私は話しかけた。

 

「てってめェは銀髪……! 何をするつもりかって!? クソみてェな幻想を抱かねェように、ぶった切ってやるんだよ! バーカ!」

 

 サーキースはベラミーの命令なのか知らないが、私たちの船を破壊しようと目論んでいるみたいだ。

 

「はァ……、1つだけ忠告してやる。他人(ひと)の誇りに干渉するんだったら覚悟をしとけよ――」

 

 彼の無遠慮な返答を受けて私の中で抑えてた理性が弾け飛びそうになる。

 

「あんだと!? 不意討ちで1回勝ったくらいでいい気になりやがって! もう、おれは油断しねェ!」

 

 サーキースは自分が油断したから負けたと考えており、殺気を漲らせて私に向かってククリ刀を向けた。

 確かに彼の身体能力は高い。自信があるのもわかる。けど――。

 

「うん。命があってよかったね。だったら、願っているといい。私が3回も君の命を見逃すくらいのお人好しだってことを――」

 

 2回も殺されかけて学ばないのはいただけない。

 この男は私を格下だと侮る心を捨てきれてない。

 

「うるせェ! 死ねッ! お前に負けたせいでおれァ笑われたんだ! 絶対に許さねェ!」

 

 サーキースは怒りに任せてククリ刀を私に向かって振り回す。

 当たれば大きなダメージを受けるだろうが、殺気によって分かりやすくなった彼の斬撃の軌道は私を捉えることは出来なかった。

 

()()()()?」

 

「くっ、なんで当たんねェんだ!? こんなトロそうな優男に! ――ぐはッ」

 

 上段から私の頭をめがけて刀を振り下ろすサーキースの攻撃を躱して、私は彼の右太ももを撃ち抜く。

 

「許さないのは私だ。沸点の低いのを反省しようと思ったんだけど……。メリー号(たからもの)に手を出されそうになったのを見たら、私も笑えない――」

 

「ひっ……!」

 

 私が太ももを手で押さえながら尻もちをついている彼の腹に銃口を向けると、彼の表情は歪んだ。

 

「――必殺ッッ! ――爆風彗星ッッッ!」

 

 私は躊躇いなく引き金を引く。放たれた弾丸から繰り出される突風によりサーキースは吹き飛ばされていった。

 

 さて、ルフィもそろそろ終わった頃かな?

 

 サーキースが起き上がらないことを確認した私はベラミーの方に目をやる。

 

「夢を見るような時代は終わったんだよ! 海賊の恥さらし共ッ! ――ッ!!!」

 

 ベラミーは殴りかかった拳が避けられたのと同時に顔面を殴りつけられて地面に激突して気絶してしまった。

 

「うっ、嘘だろ! ベラミー、サーキース! こいつらなんて懸賞金も低い雑魚だって言ってたじゃないか!」

 

「ダメだ……、完全に気絶してる……。悪夢だ……」

 

 比較的に怪我が少なかったベラミー海賊団の船員たちが船長と副船長が意識を失っているのを青ざめた表情で確認していた。

 

「あっ……、あっ……、ごめんなさい……。ベラミーが……、その」

 

「悪いと思ってるなら、彼らを連れて帰ってくれるかな? それに、謝るのは私にじゃないし、クリケットも謝罪なんて欲しくないだろう」

 

 さらに怯えきったリリーは私に頭を下げてきたので私はベラミーたちを連れて帰るように促す。

 

「はっ、はい! すぐに! あと……、昼間はありがとう……。嬉しかった……」

 

 リリーはそう言い残して仲間とともに大急ぎでベラミーとサーキースを回収して船に乗って逃げて行った。

 

「驚いたな……。お前ら、強いじゃねェか。おれたちのために、すま――」

 

 ベラミー海賊団が蹂躙されたのを見て、クリケットは私たちに頭を下げようとする。

 しかし――。

 

「ひし形のおっさん! 金塊取られなくて良かったなァ! あっはっはっ!」

 

 ルフィはバシバシとクリケットの肩を叩いて朗らかに笑った。

 すべてを洗い流すような気持ちのいい笑い声だと私は思った。

 

「ギブアンドテイクだよ。クリケットさん……。船長は礼なんかいらないってさ。船の強化……、よろしく頼む」

 

「――大した連中だよ。お前らは……。船の強化は任せとけ! お前たちを何があっても空島に送ってみせる! マシラァ! ショウジョウ! いつまで寝てんだ! 起きやがれ!」

 

 私がクリケットに大事なメリー号の強化を改めてお願いすると、彼はニヤリと笑ってボロボロになって倒れているマシラとショウジョウに活を入れて強化作業を始めてくれた。

 いや、もう少し休んでからでもいい気がするけど――。

 

 彼らが奮起してくれたおかげでゴーイングメリー号は“フライングモデル”へと強化を果たしたのである。

 凄いけど……。なんか、トサカとか付いててニワトリみたいなんだけど……。ニワトリって飛べないんじゃあ……。

 

 

「一つだけ、これだけは間違いねェ事だ! "黄金郷"も"空島"も、過去誰一人"無い"と証明できた奴ァいねェ! バカげた理屈だと人は笑うだろうが、結構じゃねェか! それでこそ! "ロマン"だッ!!」

 

 クリケットの言葉を背中に受けて私たちは空島を目指して出航したのだった――。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 積帝雲が思ったよりも早く来るという事態もあったが、猿山連合軍の全面的なサポートのおかげで、メリー号は突き上げる海流(ノックアップストリーム)が発生する巨大渦の中心に向かうことが可能となった。

 

 まぁ、向かうというか……、飲まれてるというのが状況の説明としては正しいのかな?

 

 そうこうしている内に巨大渦の中心にメリー号は飛び込んだ。積帝雲が完全に真上にあるので、辺りは夜みたいに暗くなっていった。

 

「行くぞ〜! 空島!」

 

 ルフィはテンションが最高潮に達しており興奮しきっている。

 

 そして、いつの間にかさっきまであった巨大な渦穴が消えていた。

 

 おそらく、渦が消えたというのは、突き上げる海流(ノックアップストリーム)が発生する前兆だと思われる。

 

 つまり、我々は空に向かう直前というわけだ。

 

 そんな中、私たちに接近する巨大ないかだのような船が接近してきた。

 黒ひげ海賊団である――。

 

「ゼハハハハッ! 追いついたぞ麦わらのルフィ! てめェの1億の首をもらいに来た! 観念しろやァ!!」

 

 ティーチはルフィに向かって大声で叫ぶ。やはり、漫画同様ルフィのこの時点の懸賞金は1億か。

 

「おれの首!? 1億ってなんだ!?」

 

「おめェの首にゃ1億ベリーの賞金がかかってんだよ! そして、“海賊狩りのゾロ”てめェにゃ6000万ベリー、さらに“レディキラーのライア”にゃ5600万ベリーだ!」

 

 ルフィの問いに答えるようにティーチは親切にも私たちの新しい手配書を見せてくる。

 私に5600万は高すぎだろ……。それに……。

 

「新しい手配書が出来てるみたいだね……。ゾロと私の……。――って、そんなのはどうでもいい。レディキラーって、なんだ?」

 

 私って“魔物狩り”じゃないの? いや、確かにアイラって偽名を使ってたけど……。

 まさか、ビビの件が海軍にバレて……? でもいくらなんでもそれだけで……。

 

「キャハッ、海軍すら認識してるのに、あんたときたら……」

 

 私が疑問を口にしたら、ミキータがバカにしたような表情で私を見ていた。

 だから、どういうこと?

 

「ライアちゃんにまで賞金がかかってるのに、おれにはないのか……」

 

「ちっ、お前とほとんど変わらないくらいかよ。不満だぜ」

 

「聞いたか!? おれ、1億だ!」

 

 サンジは悲しみ、ゾロは私と似たような金額が不満で、ルフィはひたすら喜んでいた。

 

「喜ぶな! ああ……、アラバスタの件で懸賞金が跳ね上がったんだわ……」

 

 そして、ナミが憂鬱そうな顔で頭を抱えた、そのとき――。

 

 メリー号の真下の海面が盛り上がり――。

 

「「うわあああああっ!」」

 

「「ギャアアアア!」」

 

 私たちの叫び声と、黒ひげ海賊団の悲鳴が同時に響き渡る。

 

 突き上げる海流(ノックアップストリーム)が発生してメリー号は一気に空へと舞い上がったのだ――。

 

 いよいよ、空島に突入か……。アラバスタではクロコダイルに殺されかけたけど――。

 今度の相手はちょっと間違えたら本当に殺されるかもしれない。

 

 まだ見ぬ世界への好奇心と強敵への不安を抱えつつ、私はどんどん高度を上げていくメリー号を見守っていた――。

 




ライアの二つ名はもっと良いものが思い付いたら変更するかもしれません。ネーミングセンスがなくて辛いです。
懸賞金は高すぎる気もするんですけど、海軍が戦闘能力以外も警戒してるという解釈でお願いします!


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