ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう 作:ルピーの指輪
日間ランキングで拙作が夢の1位を獲得して驚いてます!
これも皆様の応援のおかげです。この場を借りてお礼を申し上げます。
「――そっ、そんな、まさかクラハドールが……」
私はカヤにクラハドールの正体がキャプテン・クロだということと、彼の計画の全貌を話した。
カヤは声を震わせて、今度は違った意味で動揺していた……。
確か、原作ではウソップは信じて貰えなかったんだよな。誰にも……。
だから、全部嘘にするために勇気を振り絞って立ち向かう話だったはずだ。
でも、私はたとえ信じてもらえなかったとしても――彼女は連れて行く。それは私の中で決定していることだった。
「ライアさん。いっ、今の話は何かの勘違いと言うことは――?」
カヤは少しだけ落ち着いて、祈るような顔つきで私にそう尋ねた。
やっぱり、にわかに信じられないよな。クロは彼女の信頼を手に入れるために尽くしていた。彼女の両親が死んでからは特に……。
「いや、残念だが勘違いじゃないよ。君が信じられないのは無理は――」
「わかったわ。ライアさん、私を外に連れて行って」
月明かりに照らされたカヤの瞳は一点の曇りもなく、私を信じていると答えてくれているみたいだった。
「カヤ、信じてくれるのかい? 私の言っている荒唐無稽な話を……」
もちろん、信じてもらうつもりではいたが、実際にここまであっさり信じられると、逆に驚いてしまう。
「たとえ、世界中の人がライアさんを嘘つきだと言っても、私はあなたを信じる。あなたにだったら、騙されたとしても後悔はしないから」
ニコリと微笑みかけながら、カヤは私の言葉を受け入れてくれた。だったら、私は君にだけ信じてさえくれればたとえ世界を敵に回したって良い……。
カヤの信頼が嬉しくて、私はそんなことが脳裏に過ぎった。
「ありがとう。カヤ、大好きだよ」
「――っ!? らっライアさん?」
衝動が抑えられなくて、私は彼女を強く抱きしめる。彼女の華奢な体から伝わる
「――ごっごめん。つい、我慢が出来なくて……」
私は我に返ってカヤを引き剥がす。こんなときにナニをやっているんだ。私は……。
「もう、ライアさんったら。突然あんなことをするんだもん。驚いたわ……。じゃあ、これはお返し……」
「んっ……」
私と背伸びしたカヤの唇が触れる。
ほんの一瞬のことなのに永久の時間が流れたように感じられた――。
「カヤ……、君は……」
「私もライアさんが好き……。友達じゃなくて、それ以上に……。もしかしたら、気持ちを伝えられないかもって思ったから」
涙目になりながら笑う彼女はとても美しく、私はつい引き込まれそうになった。
いかん、いかん。ここで理性を失っては……。
その時である。私はある気配の動きを感じた――。
「――いけない。メリーさんが怪我をした……、多分クロにやられたんだ」
カヤに仕えているベテランの執事のメリーがクロに斬られたみたいだ。おそらく、命には別状がないはずだが……。
「メリーが……!? 早く助けないと……!」
彼女はドアの方に動こうとするが、私は彼女の腕を掴む。
「ダメだ、まだクロが近くにいる。下手に動くと君もメリーさんも危ない。――大丈夫、一度君を仲間の元に送ったあとに、私が再び戻ってきてメリーさんを助けるから」
私はメリーを助けると約束した。カヤとメリーを同時に連れて行く事は出来ない。
とにかく、速やかに彼女を安全なところに連れて行くことが先決だ。
「――ッ!? わっ、わかった。でも、お願い……、必ず、かならず……、メリーを助けてっ……」
カヤは感情を押し殺して、涙を流しながら頷いた。
「ああ、約束するよ。信じてくれ」
私はカヤを右腕で抱いて、窓から木々を跳び移って、仲間たちの元に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
それから、カヤをルフィたちに預けて、再び屋敷に侵入し、クロによって斬り裂かれたメリーを連れて戻った。人を抱えて往復するのはさすがに疲れたな……。
「ああ、カヤお嬢様……、よくぞご無事で……。ライアさん、ありがとうございます……、あなたが居なければ、どうなっていたことか……」
メリーは応急処置を受けながら、カヤの無事を知って涙を流して喜んだ。
彼はずっと彼女の身を案じていたから、ホッとしたのだろう……。
「ルフィ、ゾロ、ナミ……、改めて紹介するよ。私の親友のカヤと、その執事のメリーさんだ。カヤ、メリーさん、こっちは私の仲間の――」
「よっ! おれはルフィ! 海賊だ!」
私がお互いを紹介する途中でルフィは躊躇いなく海賊と名乗った。まぁ、それが彼なんだから仕方ないけど……。
「かっ、海賊ですか……?」
メリーは不安そうな顔でこちらを見た。
「大丈夫だよ、メリーさん。彼らはこの村に手出ししないから。これからキャプテン・クロのクロネコ海賊団と一戦交えるんだ」
私はカヤとメリーに朝になったらやってくるクロネコ海賊団と戦うことを宣言した。
準備は十分。あとはやるだけだ。
「らっ、ライアさんが戦うの? そんなの危険よ。てっきり逃げるのかと思っていたわ」
「そうですよ。確かにあなたは運動神経は良いですけど、海で名を上げた海賊というのはとても恐ろしいのです。戦うなんて無謀です」
優しいカヤとメリーは私を止めた。そりゃそうだ……。私がこの日のために訓練してたことを知らないんだから。
「心配しないでいいよ。二人とも。私は必ず勝つから。キャプテン・クロに。それに、ルフィもゾロも強いし」
私は力強く彼女たちにそう語りかけた。私は一人じゃない。仲間もいる。
「おう、任せとけ! ぶっ飛ばしてやる!」
「おれは斬る――!」
ルフィとゾロはやる気満々のようだ。頼もしい。
「彼らが強いならライアさんは戦わなくてもいいじゃない。仲間に任せれば」
カヤはそれでも譲ってくれない。私のことを心から心配してくれてる……。
「カヤ、私は仲間だけに戦わせて逃げるなんてしたくはない。――そうだな。少しだけ芸を見せるよ。ゾロ、こいつを思いっきり上に投げてくれないか」
私はゾロにコインを渡した。私はゾロの正面に立って、まっすぐ彼を見る。
「あァん? 何考えてんだ、お前……。まぁ、いいけどよォ」
ゾロは不思議そうな声を出してコインを受け取る。
そして、力強く宙にコインを放り投げた――。
「――っ!? そこだッ!」
私は正面を向いたまま、銃を天に上げて銃弾を放つ。ちなみに銃声を限りなく小さくする為の装置は自作して付けているから、遠くに音が聞こえることはないように配慮はしている。
――しばらくして、コインが地面に落ちてきた。
「もう、ライア。何をやったっていうのよ。急に銃なんて使っちゃって」
ナミは呆れた顔をしてコインを拾った。
「うそっ――。コインの真ん中に穴が空いてるわ……。ライアは目でコインを追ってすらいなかったのに……」
「うわぁ、すっげェ! すっげェなライア!」
コインの穴を見て、ナミとルフィは驚いてくれた。こういう、かくし芸的なものでびっくりしてもらえると嬉しいな。
「なっ、信じられません。確かにこれは神業です」
メリーもコインを確認すると驚愕の表情を浮かべた。そしてカヤは……。
「そっか、ライアさんはお父さんと会うために頑張っていたんだね。私はライアさんが会う度に逞しくなっているのを知ってたわ。でも、それを見ないフリしてた。どこか遠くに行きそうだったから……」
複雑な表情を浮かべた後に、彼女は穴の空いたコインを握りしめてニコリと笑う。そして――。
「無理はしないで。お願い……。そして、絶対に死なないで。危なくなったら――逃げて!」
私の肩を掴んで彼女はそう言った。そう、カヤは自分を押し殺して私の我儘を聞いてくれたんだ。本当に申し訳がない……。
「さぁ、そろそろ行くわよ。ライアと約束してるの。あなたたちの身の安全を、ね。近くに隠れる場所があるから……」
ナミは涙ぐんでいるカヤとメリーを連れて、私が作っておいた隠れ家に向かった。あそこはちょっとやそっとじゃ見つからないから村のどこよりも安全なはずだ。
そして、ナミたちが立ち去って30分ほど経過したところで――夜が明けた……。
海岸に一隻の海賊船が停まった。クロネコ海賊団だ。
そして、中から次々と荒くれ者たちが出てきた。
「さぁ、おめェら! やっとこさ暴れられるぞ! 思う存分、やってこい! それが、キャプテン・クロの計画だっ!」
船長のジャンゴの命令で海賊たちが村へと続く坂道を登ってくる。
「来たぞ! ルフィ、ゾロ、準備はいいか?」
「「とっくに出来ている!」」
二人は私の声に勇ましく応えてくれた。
そして、一本道の坂道の上で待ち構えていた私たち3人は、何十人といるクロネコ海賊団めがけて走り出す……。
坂道の中央で私たちとクロネコ海賊団は衝突した――。
「「うぎゃぁぁぁぁッ!」」
数多くの荒くれ者たちの悲鳴が次から次へと木霊する。
私たちが一方的にクロネコ海賊団を蹂躙していったからだ。
ルフィは次から次へと海賊たちを殴り飛ばし。ゾロは得意の斬撃で敵を秒殺する。
私は少しだけ後方で彼らが討ち漏らしている海賊たちの足を確実に撃ち抜き戦闘不能にしていった。
「歯ごたえのねェ、奴らだぜ」
「ん〜? もう終わったのかー?」
ゾロとルフィは息一つ切れておらず、退屈そうな顔をしていた。体力もとんでもないな。この二人は……。
「船長〜! 村にあんな化物共が居るなんて聞いてません!」
ボロボロにやられた海賊たちが早くも泣き言を言い出した。
そりゃあそうだろうな。ちょっと、常人離れしてるからね……、あの2人……。
「おい、野郎ども。まさかあんなガキ3人相手に、くたばっちゃいねェだろうな」
「――ッ!? お、おうッ!」
ジャンゴがドスの利いた声を出すと、倒れていた海賊たちがヨロヨロになりながら立ち上がる。
「お! なんだ生きてるよ。根性あるなー」
ルフィは感心したような声を出した。いや、敵を褒めてどうする?
「いいか、おれ達はこんな所でグズグズやってる暇はねェ。相手が強けりゃこっちも強くなるんだ」
ジャンゴは例の輪っかを海賊たちに向けながら、そんなことを言ってきた。催眠術で連中を強くするつもりか……。
「さァ、この輪をじっと見ろ……。ワン・ツー・ジャンゴでお前らは強くなる。傷は完全回復し! だんだんだんだん強くなる!」
「――何やってんだ? あいつら……」
ジャンゴが暗示をかけようとしているところを興味深そうにルフィは見ている。
実は私はこの瞬間を待っていた。ジャンゴがあの催眠術用の道具を出す、瞬間を……。
「ワン・ツー……」
「悪いけどさせないよ、ジャンゴ。必殺ッ――鉛星ッ!」
私は愛銃、
「ジャン――、なっ、なにッ! おれの商売道具がァァァッ!」
私はジャンゴの催眠術用の輪っかを狙撃して粉々に砕いた。わざわざ敵を強くするまで待つほどお人好しじゃないよ、私は……。
「あのガキかッ! まさか、こんな距離で正確に当てるたァ……、なんて射撃の腕をしてやがるッ! クソッ! これじゃ計画もままならねェ! キャプテン・クロにこんなもん見られちまったら……、こいつらはもちろん、おれたちまで皆殺しだ!」
ジャンゴは顔中から汗を流しながら、壊れた催眠術の道具を呆然と眺めてブツブツ言っていた。
さすがに敗色濃厚の気配を感じ取ったのだろう。
「なあ、ライアー、あいつ何をしようとしてたんだー? 何にも起こんねェぞ」
「さぁ、何だろうね。私にもわからないよ」
催眠術の邪魔をしたとか言ったら、怒られそうだったから、私はしらを切った。あの催眠術って、ホントにルフィと相性が悪いから封じられて良かった。
「やっぱ、性格悪ィな、おめェはよ」
しかし、ゾロにはバッチリ狙い撃ちをしてたところが見られてたらしくて性格が悪いと言われてしまった。
せめて現実主義だと言ってくれ。
そんな会話をしていた折である。海岸の海賊船から声が聞こえてきた――。
「おいおいブチ! 来て見ろよ、ジャンゴさんが頭を抱えてしゃがみ込んでやがる」
「何、船長が!? 何が一体あったんだッ!」
やっと出てくるか、クロネコ海賊団のさしずめ中ボスみたいな連中が……。
「そうかまだ、あいつらがいた――! 下りて来いっ! ニャーバン・ブラザーズ!」
ジャンゴが高らかに彼らの名を呼ぶと、2つの影が船から飛び出してきた。
「およびで? ジャンゴ船長」
「およびで?」
「来たか、ニャーバン・ブラザーズ」
デブとノッポの猫耳コスプレをした海賊がジャンゴの前に立つと、ジャンゴは勝ち誇った顔をした。
「ブチ、シャム、おれ達はこの坂道をどうあっても通らなきゃならねェんだが、見てのとおり邪魔がいる! あれを消せ!」
ジャンゴはブチとシャムに私たちを倒すように命令をした。
しかし――。
「そ……、そんな、ムリっすよォ僕たちには。なァ、ブチ」
「ああ、あいつら強そうだぜ、まじで!」
ガタガタと震えながら彼らはジャンゴに反論する。まったく、茶番が好きな連中だ。
「――くらえッ」
私はさっさと本性を暴こうと、彼らに向かって鉛の銃弾を放った。
「「――ッ!?」」
するとどうだろう。彼らは素早い身のこなしで、それを躱したのである。
「あっぶなーい!」
「喋ってるときに、狙うなんて卑怯だぞ!」
ブチとシャムは私に向かって抗議した。いや、卑怯もらっきょうも無いからね。海賊の戦いなんだから。
自分らだって「猫をかぶって」いたじゃないか。
「あははっ、あいつら面白ェ動きするなー!」
「へぇ、なかなか楽しめそうじゃねェか!」
ルフィとゾロはニャーバン・ブラザーズの動きを見て、ニヤリと笑った。彼らの強さを感じ取ったからだろう。
油断さえしなければ、ルフィとゾロは彼らを相手にそんなに苦戦などしないはずだ。
私はニャーバン・ブラザーズに銃弾を当てようと思えば当てられた。しかし、なぜそれをしなかったかというと、半端に傷つけるとルフィたちのモチベーションが下がると判断したからだ。
この二人はフェアな喧嘩にやる気を出すタイプだから、その辺は気を使った。
さぁ、彼らの戦いが始まる。勝つのは確信してるけど、どう勝つのかは興味がある。
「はぁ、なんて連中だよ。まったく……」
――「そんなに苦戦などしない」なんて、私の分析は甘かった。蜂蜜のように甘々だった。
そう、万全の状態のルフィとゾロにはニャーバン・ブラザーズは全然相手にならなかったのである。
――2分後、地面にめり込んで白目を剥いているブチと、胸にバツ印の傷をつけられて地に伏しているシャムの姿があった。
そして、私はジャンゴの頭に銃口を突きつけていたのである。
「チッ、てめェら、これで勝った気なんだろうがよォ……。皆殺しにされるぜ。キャプテン・クロに……」
ジャンゴは銃口を突きつけられてもなお、強気の態度だった。
クロを怒らせても、自分だけは助かるとでも思っているのだろうか。
「――ふーん、じゃあ待ってみようか。一緒に……。キャプテン・クロを……」
私はジャンゴをロープで縛りながら、そう言った。
「バカめ……、殺されるぞ絶対に――」
彼は縛られながら、心底バカを見るような目でそう言った。
それからさらに15分ほどの時が過ぎた――。
眼鏡をかけた黒服の男がこちらに歩いてきている。
そして、彼はクロネコ海賊団が全滅している様子を見て体をプルプルと震わせて声を出した。
「もうとうに夜は明けきってるのになかなか計画が進まねェと思ったら――何だこのザマはァ!」
クロは怒りを全身に漲らせて、強烈な殺気を放っていた。
「遅かったじゃないか。クラハドール……。いやぁ、驚いたよ、君の正体は――あえて君の言葉を借りるなら……、薄汚い海賊だったんだねぇ!」
「――ッ!? ライア……、まさかてめェがッ!」
私はようやく宿敵と対峙した。ここから、本当の意味での私のこの村から出るための――卒業試験が始まる――。
やっと、ライアVSキャプテン・クロまで展開を持っていくことができました。
毎回5000字前後を目指して書いてるのですが、長くなってしまって申し訳ありません。
あと、ニャーバン・ブラザーズとの戦闘シーンよりも百合シーンが書きたかっので、尺の都合の割を食ったブチとシャムにはごめんなさいしておきます。
次回もよろしくお願いします。