ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう 作:ルピーの指輪
いよいよ、ライアとクロの戦いが始まります。
シロップ村の海岸から村に通じる坂道で、私とクロは対峙する。
ルフィもゾロも私の想いを汲み取ってくれていて、腕を組んで見守ってくれていた。
文字通り、手は出さないってね……。
「オイ! ジャンゴォ! まさか、てめェ……、ここにいる田舎モンの村娘にやられたってんじゃねェだろうなッ!」
クロは倒れている船員たちに囲まれて、縛られ座っているジャンゴに声をかけていた。
「お言葉だがよォ、キャプテン・クロ! そこのガキ共……、とんでもねェ強さだ。あんたじゃなきゃ勝てねェ。シャムもブチもあっさり負けちまった!」
ジャンゴは必死で言い訳をした。まぁ、彼は催眠術をカヤにかけるっていう任務があるから、自分だけは助かるって思ってるんだろう。
「ちっ、クロネコ海賊団も軟弱になりやがったッ! たった3人のガキ相手に全滅なんざ笑えねェ! ライア、てめェにゃ騙されたよ。おれの計画を台無しにしやがって……、てめェだけは許さねェ……!」
クロはようやく私に向かって殺気を放ってきた。こちらを射殺さんとするほどの、凄まじい視線と共に……。
「
「ンだとォ!?」
「君は私の大切な人を傷付けたッ……! 落とし前はつけてもらうよッ!」
私もこれまで殺してきた自分の感情を剥き出しにする。君がこの村に来る前から倒すべき敵だと認識していた。
来てからはさらに私の殺意は増していた。しかし、カヤを危険に晒さないために……、今日まで私は耐えてきたんだ。
愛銃、
「――身の程知らずのガキがッ!」
クロと私の戦いが始まった――。
彼はメガネのズレを直したかと思うと私の視界から消える。
この男が疾いのはわかっている。だから、研ぎ澄ませ――目で追うな、感じろッ!
「そこッ――!」
背後に向かって私は銃弾を放つ。クロが私に攻撃を仕掛けるタイミングで。
「――ッ!?」
両手に仕込まれている《猫の手》という爪で私を斬り裂こうとしていたクロは、咄嗟に身を反らせて回避した。
もう一発ッ! 避けられることはわかっていたので、その方向を読んでもう一撃ッ!
私は彼の動きを読みつつ次々と銃撃を放っていった。
しかし、文字通り目にも留まらぬスピードの彼は動きが読めても捕まらず、私の銃弾はことごとく空を切った。
「――なるほど。いい腕だなァ、ライアッ! おれに上等な口を利くだけはある。だがなァ! 気付いてンだろォ? お前じゃあ、おれには勝てねェ」
メガネを直しながら、クロは余裕たっぷりにそう言い放った。余程、私の銃撃を躱してご満悦らしい。
「生憎、ものわかりが悪いものでね。君こそ、ブランクで腕が鈍ってるんじゃないかい? 想定よりも攻撃が生ぬるく感じるのだが」
銃弾を左右に放ちながら私は彼にそう言った。実際は、まったくそんなことは思ってないのだが、言うだけはタダだ。だって、私は嘘つきなんだから。
粋がるだけ、粋がって見せる。不利は悟らせない。
「減らず口を叩きやがって! これで終いだよ、てめェはなっ!」
クロはさらにスピードを上げて、私の懐に潜り込み――。
その右手に仕込まれた凶器を振り上げた。
「――ッ!? くっ、痛いな……、さすがに腹を抉られると……」
私は腹の部分をざっくり《猫の手》で切り裂かれてしまった。
おびただしい量の血が腹から流れ出す。
はぁ、やられてしまったな……。しかし、避けられる攻撃を敢えて受けでもしなきゃ――スキは作れなかった。
自分の未熟さに腹が立つよ……。
「がはっ――、バカな……、確かにてめェの銃弾は見切ったはず……。なんで、目の前のてめェの銃撃が後ろからッ!」
クロは信じられないというような表情をしていた。鉛の弾丸の銃撃を背中に受けて、血を吹き出しながら。
ようやく、一発当ててやった。こっちも良いのを貰ったけど……。
私は跳弾を利用してクロのスキを突いた。自分に攻撃をする瞬間に跳ね返った弾丸が彼に当たるように、自身を囮にしたのだ。
「不思議がってるところ悪いけど、さ。もう、さっきまでのパフォーマンスは無理だよね? 私は種明かしをしない主義なんだ。このまま君を倒すまで……」
私は手負いのクロに容赦なく銃弾を放つ。彼はなんとかソレを躱そうとするも、スピードが落ちてかすり傷を体中に負っていた。
すでに自慢の上等な服もボロボロになっている。
まぁ、私自身も出血は酷いし、クロのやぶれかぶれな攻撃もいくつかもらってるから血まみれなのは一緒だけど……。
「はぁ……、はぁ……、さすがにタフだね。これだけ弾を使って倒せないって経験は今まで無かったよ」
村へと続く坂道は私とクロの血に塗れて、なんとも不気味な雰囲気を醸し出していた。
「チッ――いちいち虫唾の走る言い回しをしやがってッ! もういい……、どのみち皆殺しの予定なんだ……」
クロはそう呟くと脱力して、ゆらゆらとした動きを開始した。
――ようやく切り札を出してくるか……。
「まさかッ! オイッ! キャプテン・クロ! それだけはやめてくれッ! この距離じゃおれたちもやられちまう!」
すべてを察したジャンゴが大声で喚き散らす。倒れていた船員たちもよろよろと立ち上がり逃げようとする。
そう、この場にいる全員が被害を受けるヤツの最強の技……。それが――。
「
その刹那、音もなくクロの姿は完全に消えた。
あたりの岩や岸壁が斬られる音だけが不気味に聞こえてくる。
しかし、それは物だけに留まらず……。
「うわっ!」
船員のうちの一人が突如血を吹き出して倒れた。
「きっ、きたァ! ぐはっ!」
今度はそこから離れた位置の船員が斬られた。
「うわっ!」
「まただっ!」
クロネコ海賊団の船員たちはドンドン斬られていった。
「キャプテン・クロ! もう、やめて下さい!」
「無駄だ! これは”抜き足”での無差別攻撃! 速さゆえ、本人だって何斬ってるかわかっちゃいねェんだ! 疲れるまで止まらねェんだ!」
クロに助けを懇願する船員に別の船員が技の説明をする。
そう、この技は完全に無差別な攻撃だ。
「この技で船員が一体何十人巻き込まれて……、ぐえっ!」
「ぎゃァァァ!」
「助けてェ!」
「できるだけ身をかがめろぉ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図が描かれる。元船長が昔の仲間を切り裂くことによって――。
当然、私も肩や腰に傷を負った。見えない斬撃によって……。
だが、それよりも驚いたのは遠くに逃げられるはずのルフィとゾロが斬られながらも微動だにせず血を流しながら腕を組んで私を見ていたことだ。
まるで、私が勝つことを信じてくれているように……。
「まったく、とんでもない連中の仲間になったもんだよ。私もね……」
苦笑いしながら、私は愛銃を両手で構える。そして、全神経を研ぎ澄ませた――。
聞こえるのは生命の息吹……、すなわち万物の呼吸である。
その間にも私の体は斬り刻まれて、ズタズタになる。しかし、そんな些細なことは気にしない。
この一発にすべてを懸けているからだ。
「――必殺ッ! 鉛星ッッッッ!」
弾丸が発射される音が鳴り止んだ後に訪れたのは――静寂……!
恐ろしいほどに、静まり返ったこの空間の真ん中で黒服の男は腹と背中から大量に血を噴射させて倒れた。
そう、最大限まで研ぎ澄ませた感覚はクロ自身すらも分からない未来の彼の姿を確実に捉えたのだ。
ふぅ、ようやく終わったか……。安堵した瞬間に足に力が入らなくなり、よろけて倒れそうになってしまった……。
「おっと、勝者も倒れちまったら締まんねぇだろ」
いつの間にか、私の後ろにいたゾロが優しく体を支えてくれた。
すまないね。君たちを傷付けてしまった。
「うっひょーッ! ライア、やっぱすげェなァ! おれ、全ッ然見えなかったぞ! あの悪執事!」
ルフィは私の肩をバシバシ叩いてきた。うん、興奮するのはわかるけど、そこ傷口だから。痛いから。
というか、漫画では見えないけど、倒してたよな。私よりも随分とあっさりと……。やっぱり、とんでもないな……。
「ちょっと待て、お前って前は睡眠薬とか凍らせる銃弾とか使ってなかったか? それを使えばもっと楽に倒せたんじゃねェか?」
ゾロは思い出したかのようにそう言った。
バレてしまったか……。
ゾロの疑問には理由がある。
私はこの戦いを自らの卒業試験にしていた。試験の課題は無能力者であるクロを鉛弾だけで倒すということ。
少なくとも、そのくらいの実力が無くては、この先に生き残れないと思ったからだ。
もちろん、万が一のときはズルをしようと思ってたけど……。
しかし、こんな縛りはこれっきりだ。もう二度やらない。性に合わないし、何より意味がない。
ルフィとゾロが想定と違って逃げようとしなかったときの罪悪感が半端なかった。彼らを傷付けてしまった。その件についてはきちんと謝罪しよう……。
「全部、家に忘れてしまっててね。この銃弾しか使えなかったんだよ。だから、君たちを傷付けてしまった。申し訳ない」
私は嘘をついて、そのあと本当の謝罪をした。頭を深く下げて……。
「気にすんなよー。おれたちが好きで見てたんだ! 早くライアと冒険に行きてェぞ!」
「そういうこった。なかなか面白ぇもん、見せてもらった。見物料にしたら安すぎらァ」
ルフィは相変わらず傷口をバシバシ叩き、ゾロはニヤリと口角を上げる。
これが、仲間ってやつなのかな? はぁ、暑苦しいけど、悪くないな……。
「ちっ、ちくしょう……」
地面に這いつくばっていたクロが何とか立ち上がろうとしていた。
私は彼の元に駆け寄り、銃口を彼の頭に突きつける。
「まさか、おれが……、こんなガキに……! クソッタレ……、早く殺りやがれッ! 生き恥をかきたくねェ!」
クロは顔だけを私に向けてそう言った。
言われなくても、そうするつもりさ……。お前のやったことは万死に値する。
しかしッ――。
――引き金が重い。これを引いたら私は修羅に堕ちるだろう。だけど、そんな覚悟もなく何が海賊だ。
私は覚悟を奮い立たせて引き金を――。
「ライアさん! 止めてッ!」
突如、聞こえたカヤの大声に私の手は止まる。
途中から彼女がナミたちと共に陰でこっそりみていたことには気付いていたが、このタイミングで声をかけられるとは思わなかった。
「ライアさん、お願い。クラハドールを撃たないで……」
カヤはフラフラとした足取りで私に近づき懇願する。
まさか、彼女はまだクロのことを……。
「いいえ、違うわ。私はライアさんが、私のためにその手を汚すことが耐えられないの……」
彼女は私の考えを見通したようなセリフを言う。でも、だからって、この男は……。
「カヤ、ごめん。でも、私は許せないんだ。君を殺そうとした、この男が――!」
「でも、私は生きてる。これからのあなたとの未来を夢見て……。ライアさんは隣に居てくれるんでしょう? 私はそれだけで十分よ」
カヤは血まみれの私の背中から抱きついて、額をくっつける。
私はどうすることが正解なのか分からなくなっていた。
「――っ! 所詮、半端もののガキか……。殺しの覚悟もねェ……。てめェみたいなの――ガハッ」
クロが私に何か言おうとしたとき――何故かルフィがいきなり彼の頭を思い切り殴りつけた。
クロは頭を地面にめり込ませて、ピクピクしている。
「ライア! 悪ィ、手が滑った!」
ニカッと笑顔を向けたルフィはおもむろにクロを掴んで持ち上げた。
そして、ズタボロにやられて、震えながらこちらを見ているクロネコ海賊団の面々を睨みながら――。
「持って帰れェェェェッ!」
クロを思いっきり連中に向かって投げつけたのだった。
「匕ィィィィッ!」
「化物〜!」
「逃げろォォォォ!」
クロネコ海賊団は蜘蛛の子を散らすように船に乗り込んで逃げ帰ってしまった。
ルフィ、君は私に気を遣って……。
「ははっ、君には敵わないなぁ。ありがとう、ルフィ」
「ん? 何のことだァ? わかんねェこと言ってねェでさ! 飯行こうぜ、飯! なっ、ライアー!」
またまたバシバシと傷口を叩くルフィ。でも、こんなに心地よい痛みは初めてだった。
今なら心の底でこう思える。君と出会えて良かったよ。モンキー・D・ルフィ!
かくして私たち麦わらの一味はクロネコ海賊団との戦いに勝利した。
私は戦いに協力してくれたルフィとゾロ、そして、カヤの安全を確保してくれたナミにお礼を言った。
そして、ナミにはクロネコ海賊団が船を出してしまったのでお宝が手に入らなくてすまない、と謝罪をした。
「えっ? お宝? ああ、大丈夫よ。あんたたちが何か揉めてたから、その間に潜り込んで、ほら、こんなにいっぱい」
ナミは金品がぎっしり入った袋を私に見せた。
まさか、あの短時間に堂々と船に忍び込んで泥棒をしてくるとは……。泥棒猫の凄さを私は思い知った。
私たちはひとしきり飲み食いをして体を休めた。
そして、次の日……、私たちは全員、カヤの屋敷に呼ばれた。
そう、とうとう来てしまったのだ。私と私の最愛の人との別れの時が――。
ライアとクロの戦いはいかがでしたでしょうか?
ライアの縛りプレイは迷ったんですけど、彼女の素の実力をこの機会に書いて置かないと、中々この先にチャンスがなかったので、このような形にしました。
スキあらば百合と思ってましたが、今回はちょっとしか出せませんでした。残念です。
次回はメリー号ゲット、そして別れの時……。よろしくお願いします!