ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう 作:ルピーの指輪
スリラーバーク編も終盤戦が近づいてきました。
それではよろしくお願いします!
「てめェ! 生き返らせた恩を忘れやがって! 見た目が美しいからある程度の自由は許してやった――。フバァッ――!?」
「でも、今は完全に自由を得たわホグバック。今日までのお礼をしてあげなきゃ……」
シンドリーはホグバックの顔面にグーパンチをめり込ませて吹き飛ばし、ポキポキと拳を鳴らして、腕をブンブンと回した。
「やめろッ……、やめてくれ!」
ホグバックは顔面蒼白となり、恐怖に打ちひしがれた表情で腰を抜かして悲鳴を上げている。
因果応報とは、この事かもしれない。
「うっ――! 心臓が……! か、体が動かない……」
しかし、シンドリーは胸を押さえて膝をつく。
どうやら心臓の調子が悪いらしい。
「フォスフォスフォス! なんだ、動いていた心臓が止まりかけているのか? 当たり前だ! そんな不条理がいつまでも続いてたまるか! チャンスだ――。おい! シンドリー! そこの銀髪を殺せ……!」
ホグバックは形勢が逆転したと見ると、シンドリーに命令した。私を殺せと……。
「――はい、ホグバック様……」
「シンドリー! げふっ……、かはっ!」
シンドリーはクルリと振り返って私の首をいきなり絞めてくる。
「いいぞシンドリーちゃん! そのまま首を絞めて殺してしまえ!」
「はい……」
ホグバックは勝ち誇った表情をして、指示を出すとシンドリーは私の首を絞める力を増した。
このままじゃ……、私は……。
「――が、うぐっ……」
彼女はものすごい力で私の首を絞めたまま、私を壁に強く打ちつける。
シンドリー……、頼むから正気に戻ってくれ……。
「いい子になったじゃねェか! そうだ。おれに従っておけば、お前は幸福なんだ! なんせ、生きていられるんだからな!」
ホグバックは上機嫌そうに笑いながらシンドリーが私の首を絞める様子を眺めていた。
「…………ら、ライア。いやだ……、わ、私は……」
シンドリーは涙を流しながらホグバックに抵抗しようとする。
時折、首に入れられている力が弱まっていることから彼女の心臓はまだ完全には止まっていないのだろう。
「――躊躇わずに殺せ!」
「わかりました――」
ホグバックの指示にシンドリーは頷く。そして――。
「――ッ!? ん、んんっ……!」
冷たく柔らかな感触が私の唇を刺激する。
シンドリーが私の唇を奪ったからである――。
えっ!? これってどういうこと?
「はぁ? そ、そんなっ!? し、シンドリーちゃん……、な、なんて事を!?」
それを目の前で見ていたホグバックは飛び跳ねるほど驚いて、叫び声を上げた。
「――ふふっ……、こうすれば……、またドキドキして心臓も動くでしょ……」
シンドリーはペロリと舌なめずりをして、妖しく微笑み口づけすることでもう一度心臓を動かしたようなことを言う。
そ、そういう問題なの? 心臓ってそんな風に出来てるの?
あまりの出来事に私は唖然としながらシンドリーの妙に清々しくなった表情を見ていた。
「ンなバカな! そんな奇跡みてェなことあってたまるか! ちくしょう! 何で、おれじゃなくてあいつなんだよ!!」
ホグバックは心底悔しそうな声を出して、地団駄を踏んでいる。
独りよがりの歪んだ愛情で彼は狂ってしまい非道なことに抵抗がなくなったのだろう。
人の道を外れた彼を私はこれ以上見ていられなかった。
「――バカは君だ。ドクトル・ホグバック!! よくもウチの船医を失望させたな! そして、シンドリーを好き勝手に!」
私は
「待って……、この人は私が――!!」
シンドリーは私から銃を奪い取って、ホグバックを狙おうとした。
「――シンドリー! 待て、待ってくれ! もうこれ以上、嫌なことは命令しない!! 何でも好きなモノはモリア様に頼んで手に入れてやる! だから!!」
「もう、私の1番欲しいモノは手に入ったわ……」
シンドリーは私の
「――ギャアアアアあああああっ!!」
彼は燃え盛る火炎に飲み込まれたまま爆風によって吹き飛ばされて断末魔を上げる。
少しは死体を弄ばれた人たちの痛みを感じることが出来れば良いけど……。
「ふぅ……」
体力的にはそこまで消費してないけど、精神的には随分と疲弊したように感じられて私はため息をついてしまった。
「ありがと……」
「ん?」
そんな私にシンドリーは私に
どちらかというと助けられたのは私なんだけどな。
「なんか……、こう……、スカッとしちゃった。この世に未練はないわ……」
「えっ? ま、まさか……」
彼女は後ろに手を組んでニコリと笑ってスッキリとした顔を見せた。
そ、そんな……。確かにこのまま生き続けることが無理なのはわかるけど……。
「――あなたの人生に幸あれ……。最期に良い夢が見れたわ……」
シンドリーはそうつぶやくと、目を閉じて動かなくなった――。
やっぱり……、でも……。
「シンドリーーーっ!!」
「何? クスッ、酷い顔……。これでも、昔は女優だったんだから。これくらいは演技できるわ」
私が叫び声を上げると彼女はパチリと目を開いて微笑む。
どうやら、まだ余裕があるみたいで私はいっぱい食わされたみたいだ。
「それは、洒落にならないよ……」
「神様はもう少しだけ時間をくれた。この島の行く末を見れるまで頑張ってみる……」
勘弁してくれと、肩をすくめた私に対して彼女はこの戦いを最後まで見届けたいと言った。
わかったよ……。シンドリー……。
絶対にこの戦い――私たちは負けない!!
勝利を誓った私の前に現れたのは、今までに戦ったどんな敵よりも強大な
◇ ◇ ◇ ◇
「てめェがおれたちの邪魔をして、どうすんだ! ルフィ!!」
「ルフィ? そいつはおれの敵の名だ。おれの名はオーズ! よろしく!」
オーズがモリアの命令を聞くようになり、私たち“麦わらの一味”をターゲットにして動き出してきた。
オーズはサンジの前に立ち塞がっている。
「どうしようか? あれ……」
「キャハハ! 改めてみると笑えない大きさね」
遠目からオーズを眺めているのは私とミキータとロビンとチョッパー、そしてシンドリー。
少し近くにゾロとフランキーがブルックと共にオーズに向かって視線を送っている。
「てっきり、私たちは影だけを狙われると思ったけど……。暴れすぎたかしら?」
「怖ぇ〜〜! あんなのと戦えねェぞ……」
「早く逃げたほうがいい……。あれはあなたたちの手に負えないわ……」
私たちがあのサイズの化物に対して、尻込みをしていると、シンドリーは迷わず逃げることを勧めてきた。
「悪いけど……! 逃げる気はないよ!」
私はオーズがサンジを狙って攻撃をしようとしていたので、居ても立ってもいられずに走り出した。
「ゴムゴムの! 鎌!」
「ぐおっ!
サンジはオーズの反則じみたリーチからなる素早い攻撃を何とか避けて、首を蹴り上げようとしたが、それはダメージを与えることが出来ず、彼は足を掴まれてしまう。
このままだと、まずい――!
「――必殺ッッッ! 爆炎彗星ッッ!!」
私はオーズの眼球を狙って大量の火薬が炸裂する弾丸を放つと、目元が爆発したオーズはサンジをポイッと投げ捨てた――。
今までの敵とスケールが違いすぎる……。
「うわぁぁぁッ! サンジ!!」
チョッパーはサンジがやられた様子を見て絶叫する。
「一剛力羅! 二剛力羅! 三刀流! 二剛力斬ッッ!!」
ゾロも高所からオーズめがけて飛び降りて、
強力な斬撃を繰り出すも、それは彼の牙を一本折るのみで――。
「ゴムゴムのォ! 火山ッ!」
オーズの蹴り技をまともに受けたゾロの体を空高く舞い上がり、大ピンチとなってしまう。
まずい! あの高さだと……、さすがのゾロも……。
そう思っていたが、落下する彼をロビンが“スパイダーネット”で受け止めて、なんとか彼は助かった。
しかし、オーズの猛威は終わらない。フランキーが放った“ウェポンズ
その間に
「お前らなんか知らねェぞ。おれはモリア様の下僕……、オーズだッ!!」
彼は倒れている私たちを見下ろしながら、そう呟いていた。
くそっ、ここまで強いのか……。でも……。
「あと2人たりねェ……。ここかな? んー、どこだァ?」
オーズは残る仲間のルフィとナミを探しに行ってしまった。
完全に私たちを倒したと思い込み……。
「なんつった。名前……」
「オーズだよ……」
「バカっ! 一発で当てるなよ。つまんねェ」
「このマリモ、ライアちゃんに向かってなんてことを!」
「あの、私は……、すみません」
「キャハハ、骨くんはちょっと休んでなさい」
「ふぅ、あの大きいのどうしようかしら」
「スーパーな一撃を与えてやりてェ」
「よし、そうしよう。でもどうやって?」
そんなオーズを見て私たちのプライドが刺激されないはずもなく……。
ブルックとシンドリー以外の全員がオーズに向かって立ち上がり、反撃の姿勢をとった。
「おい! オーズ! てめェの中身がルフィの影なら……、てめェの仲間の底力……! 見くびっちゃあ、イカンだろう!!!」
このまま何も出来ないで蹂躙されてたまるか!
「まず、1つ提案なんだが……、あいつを1回投げ飛ばすってのはどうだろう?」
ゾロはオーズを投げ飛ばしたいと、口にした。
「なるほど、そいつァ、さぞ気持ちが良いだろうなァ!」
「キャハッ! で、どうすんの? 作戦とか……」
それに対してサンジとミキータは同意したようにテンションを上げる。
「中身がルフィだけあって、パワーだけじゃなくて、スピードもあるからねェ。こんな作戦はどうだろう?」
私は作戦を思いつき、みんなに提案しようとした。
「おっ、ライア。なんか面白ェ作戦でもあるのか?」
「うん。みんなで力を合わせる必要があるけどね」
フランキーの言葉に私は頷き、チームワークを要すると説明を始める。
「おれは何でもやるぞ!」
「もちろん私も手伝うわ。ふふっ……、何だか楽しそう……」
チョッパーとロビンもやる気を出して、私たちはオーズと再び相まみえた。
「ゴムゴムのォォ! 尻もちィィ!!」
ドスンとオーズがヒップアタックを披露した瞬間から作戦は開始された。
「行くぞォォォ!!」
「キャハハッ! いつでもどうぞ!」
瓦礫の上に乗るミキータと私をチョッパーが力いっぱい思いきりオーズの頭の上を目掛けてぶん投げる。
「
空中でミキータは
「――必殺ッッ! 油星ッッ!!」
私はキロキロパウンドの上からオーズの髪の毛に油を大量に付着させた。
「――キャハッ! 火炎放射よ!」
そこにミキータがキロキロパウンドに仕込まれている
「アヂィィィ!!」
堪らずオーズは頭を触りながら前かがみになった。
「と、思ったけど、熱くなかった……」
オーズはゾンビの体だから当然、熱さなど感じないが、思ったとおり生前の記憶によって反射的な防御行動をとった。
「――大撃剣ッッ!!」
「
そんなオーズの左右の膝裏を目掛けて、ゾロとサンジは強力な一撃を与える。
「
2人の攻撃でグラついたオーズの右膝の関節を
「
「うォっあッ――!!」
さらにフランキーが浮いている左足の裏に強力な風の弾丸を命中させて、オーズはついにひっくり返って、頭からホグバックの居た屋敷目掛けて転落する。
「「よっしゃあああ!」」
やっと、1回ダウンを奪ったぞ――。私はフランキーに消費したであろうコーラを手渡しながら喜んだ。
しかし、私たちの優勢はそう長く続かなかった。
オーズの中にあるコックピットのような場所にモリアが入って指示を出すようになったのだ。
「キシシシッ! お前らにおれと戦うチャンスをやろう! おれを倒せばすべての影を回収出来る。――全員でかかってこい! ただしオーズを倒さねば、おれは引きずり出せねェがな……!!」
モリアは私たちを挑発して、オーズを操り攻撃を仕掛けてきた。
ルフィはまだ遠いところにいる……。さらに、強い気配を感じる……。この気配はおそらく“バーソロミュー・くま”……。
会ったことないけど、漫画だと確かこのくらいの時分に現れていたはずだ……。
悪夢だな……。王下七武海のダブルヘッダーなんて……。
大量の塩を持ってきたブルックと、アブサロムから逃げ切ったナミが戦列に加わったが、形勢は悪くなる一方だった。
モリアのカゲカゲの実の能力による“影革命”という技によって、オーズの体がルフィのように伸びるようになってしまったのだ。
これには私たちも参った……。もはや、目の前の相手は巨人族の倍くらいのサイズをもつルフィだ……。
私たちは何とか逆転の一手は無いものかと抗うが、ミキータとロビンは影を奪われ、1人、また1人と仲間たちは倒れていき、立っているのは私とナミのみになってしまった。
「ライア……、勝算は……!?」
「もちろん、あるさ……。あと少しだけ……、時間をかせげれば、ね……」
私はこちらに向かってきている強大な気配を感じている。
これだけのパワーならこのデカブツにも……。
「キシシシ! 何を言ってやがる! このゾンビにゃ塩も効かねェ! お前らには1%の可能性も残っちゃいねェんだよ! ほら、踏み潰せ! オーズ!!」
「スターーーンプ!!」
オーズはガスガスと足踏みをして、私たちにトドメを刺そうとする。
「ナミ! しっかり掴まってろ!!」
私は全神経を集中させて、ナミを抱えながら、オーズの足を避けていた。
「けっ! ちょこまかと! もういいオーズ! 跳び上がって全身で潰せ!」
オーズのボディプレスが私たちを襲う。
まずい――これは避けきれない――。
「おい!! でけェの!! お前は一体何を潰そうとしてるんだ!? お前の下には誰もいねェぜ!!!」
ナイトメアルフィ――百体の影を体内に注入することでパワーアップしたルフィが私とナミを掴んで助けてくれた。
「お前は誰だ!?」
オーズはそんなルフィに名を尋ねる。
「モンキー・D・ルフィだぜ!!!」
彼は自分の名を名乗り、オーズに飛びかかった。
ここからは圧巻であった。百人分の影の力がプラスされたルフィの戦闘力は凄まじく、オーズを殴り飛ばしたかと思うと、さらにあの巨体をバックドロップした。
信じられない……。私たち全員をあれほど苦しめたオーズを……。
「希望の星の一味を救え! 安全な場所で応急処置を!」
ルフィがオーズと戦っている最中に求婚のローラが手下を率いてやってきて、仲間たちを救い出してくれた。
ふぅ、彼女たちが駆けつけてくれて助かったよ……。
「信じられない……、あのオーズを……」
私の隣で気絶から目覚めたシンドリーが信じられないという表情でルフィの戦いぶりを眺めていた。
「この勝負は――ルフィの勝ちだ……」
私がそう呟いたとき、ルフィはオーズに最強の必殺技を叩き込む。
「ゴムゴムのォォォォ!
夜明け寸前――ルフィの凄まじいラッシュが決まって、オーズを吹き飛ばして倒してしまった。
そして、ルフィは体から影が次々と抜けて元に戻ってオーズの近くに倒れた。百人分の影を体に入れて戦うのはかなりキツかったんだろう……。
「「スリラーバークが落ちた〜〜〜!!!」」
ローラの仲間たちは盛り上がっていたが、まだ決着はついていなかった――。
オーズは痛みを感じないのでまだ動けるし、モリアも弱っているが未だに意識はある状態だ……。
「最終局面だな……」
「えっ?」
私が言葉を呟き、シンドリーがその声に反応した瞬間、オーズがよろよろと立ち上がる。
スリラーバークの戦いはこの瞬間、クライマックスを迎えていた――。
スリラーバーク編はシンドリーに助けられました。まさか、こんなに大活躍してくれるとは……。
次回、スリラーバーク編のラストです。
やっぱり、書いてみると短かったですねー。