ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう   作:ルピーの指輪

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頂上戦争――戦場を駆け抜けるルーキーたち

「うおおおおっ!」

 

 ルフィは雄叫びを上げながらいつもどおりの無鉄砲さで戦争の真っ只中をエースめがけて一直線に駆け抜けようとする。

 

 しかし、彼に向かって一際大きい殺気を向ける者が居た。

 私は慌てて銃口を向ける。殺気の元ではない。ルフィにだ。

 

「相変わらずまっすぐだなァルフィは――しかし、狙うのは大将の黄猿か……。気が進まないけど――碧色の超弾(ブラストブレッド)!」

 

「うわァ! 風がッ!」

 

 黄猿の光速の蹴り技がルフィを狙うよりも早く、私の風の銃弾が彼にヒットして突風によりルフィは吹き飛ばされて、黄猿の攻撃から難を逃れる。

 

「「どわああああっ! 黄猿のヤツなんて攻撃を!?」」

 

「ライア! 助かった!」

「援護は任せろって言ったろ!」

 

 幸い、大将たちの攻撃は火力があり過ぎるからなのか海兵たちが密集するポイントには仕掛けてこなかった。

 

 それでも、海軍の精鋭たちの力は強く、懸賞金3億ベリーのルフィの力を以てしても中々先へは進めないという状況だった。

 

「くっ、こいつら一人ひとりが強いぞ!」

 

「ルフィ、いちいち相手にしちゃ体力が保たない! 倒すことにこだわるな! 私が動きを封じるから遠くに吹き飛ばしてくれ! 瑠璃色の超弾(スパイダーブレッド)! 銃弾はたっぷりと用意している! それッ!」

 

 私は自分の攻撃力にそもそも期待をしていない。

 敵を倒すのではなく動きを封じることに集中しようと準備をしてきた。上空から放たれるのは粘着性の網を詰めた弾丸――。

 

「な、なんだこのネバネバした網は!?」

「くそっ! 面倒なことを!」

「上から次から次へと! 殺傷力はないのに邪魔くさい!」

 

 海兵たちは網の中でもがき、動きを一時的に封じられる。

 この戦場で動きが封じられるということは焦りを生み、冷静に動けなくなりそれがますます彼らの動きを制限することになった。

 

「これならぶっ飛ばせる! ゴムゴムのォォォ! ガトリング!」

 

「「があああああっ!」」

 

 そして、ルフィは次から次へとその強靭な拳で網に絡まった海兵たちを彼方まで吹き飛ばしてしまう。

 彼の動きに合わせて銃弾を撃つことには慣れている。このときを私はシミュレートしながらルフィと共に死線を越えていたので、彼の行動パターンは頭に刻み込まれているのだ。

 

「次々いくぞ! 合わせてくれ!」

「おう! 任せろ!」

 

 網を、炎を、氷を銃口から放ち、ルフィを徹底的に私は援護した。

 彼の行く手を阻む者たちの集中力を削ぎ落とし、ルフィが最短で道を切り拓けるように。

 ホバーボードは狙撃手が援護するにあたって最高のアイテムということがわかる。この日の私は未だに狙いを外していなかった――。

 

「麦わらボーイの動きが仲間の援護を受けて格段に良くなっチャブル」

「あの軍勢を押し退けてぐんぐん進んでいくぞ!」

「クマの攻撃も遅れている。これなら!」

 

 ルフィも戦いやすさを感じのだろう。敵が密集しているにも関わらず、縦横無尽に戦場を駆け巡り、気の向くままに立ち向かう敵に鉄拳をお見舞いしている。

 彼の力が100パーセント引き出せているなら本望だ。

 

「麦わらを討ち取れ!」

「いや、まずは援護しているレディキラーからだ」

「キシシシ! 麦わらか! また影を取ってオーズに入れてやろう!」

 

「いよいよ私まで狙い始めたか」

「くっ、それにモリアか!? 厄介だな」

 

 しかし、さすがに私が鬱陶しいことに気付いたのか、海兵たちは私も狙おうとしてきた。

 さらに王下七武海のゲッコー・モリアがルフィの影を奪い再びゾンビ兵をつくろうと目論見、こちらにゾンビたちをけしかける。

 

 私たちはゾンビたちとの戦闘を開始しようとした。

 

「来るな! ルフィ〜〜!」

 

「「――っ!?」」

 

 そんなとき、処刑台から大きな声が響く。エースの声だ。

 彼のために奮闘するルフィを見ていたたまれなくなったのかな……。

 

「わかっているはずだぞ! おれもお前も海賊なんだ! 思うがままに海を進んだはずだ! おれにはおれの冒険がある!」

 

 エースはルフィにはルフィの自分には自分の冒険があり、別の海賊同士なのだから構うなと言いたいのだろう。

 しかし、そう言われようとルフィの意志は――。

 

「ライア……」

「うん、わかったよ」

 

 ルフィの声に従って、私は匂貝(フレイバーダイアル)を敵が密集しているポイントに投げ混んだ。

 

「な、なんだ、この臭いは」

「く、臭いぞ!? ガスか何かの……」

 

 これは以前にアイスバーグのところで使った臭いだけのものとは違う。正真正銘の可燃性のガスだ。

 

「お前みたいな弱虫が! おれを助けに――」

 

「やれ」

「必殺――火薬星!!」

 

「「ぎゃああああああッ!」」

 

 ルフィの短い号令に従って私は銃弾を放つ。それはゾンビ兵の中心で大爆発を起こして、火柱がゾンビたちを葬った。

 

「だ、大爆発!?」

「エースが何か叫んでいたが、かき消されちまった!」

 

 爆発の轟音によって、何やらまだ叫んでいるエースの声は完全に消え去る。

 エースは自分の声が消されてしまって、あ然としていた。

 

「何言ってんのか全然聞こえねェ!!」

 

「――っ!?」

 

「おれは弟だ! 黙って助けられろ! エ〜〜ス〜〜!」

 

「エースも彼に理屈なんて通じないのわかってるはずなんだけどな……、こういう男だし……」

 

 ルフィはエースの理屈を聞くつもりはない。嫌なものは嫌だからだ。

 最初はルフィだってエースにはエースの冒険があるって理屈は理解していた。だけど、ルフィは彼の死が差し迫ったとき、その理屈を曲げた。

 その理由は単純明快だということを私は知っている。

 

「爆発でゾンビが一瞬で吹き飛ばされちまった! くそっ! もう一回だ!」

 

「ザババーーッ!」

「か、海水だとォ!」

 

「塩に弱いんじゃったな。お前さんのゾンビは」

 

「ジンベエ!」

 

「さすが、元七武海だなァ。すごっ……」

 

 ゾンビ兵たちの執拗な追撃をジンベエが一蹴する。

 私たちがあれだけ苦しめられたゾンビ兵を簡単に倒すなんて――地の利があるとはいえ頼りになりすぎるな……。

 漫画だと仲間になるみたいな話がでてたけど、最終的にどうなったんだろう……。

 わかる前に私は死んじゃったからなー。

 

『その男もまた未来の“有害因子”! 幼い頃エースと共に育った義兄弟であり、その血筋は――“革命家”ドラゴンの実の息子だ!』

 

「「――っ!?」」

 

「あー、そういえばそれも大事なのか、世間的には……」

 

 それからしばらくして、センゴクが放送でルフィの父親もバラした。

 確かに革命家ドラゴンって、積極的に世界政府倒そうとしてる連中の親玉だしヤバさで言えばある意味で海賊王以上だろう。

 

「ギア(サード)! ゴムゴムの巨人回転銃(ギガントライフル)!!」

 

「ぐはっ――」

 

「「うおおおおッ!」」

 

「とにかくそこに行くからさァ! おれは死んでも助けるぞォォ! 文句なら助かってから言えよォォォ! エ〜〜ス〜〜!!」

 

 巨人族の海兵を吹き飛ばして彼はエースに向かって叫んだ。

 

 ルフィがエースを助ける理由はシンプル。“弟”だから――彼は兄を助ける。それだけなんだ――。

 

 助けたあとで彼にいっぱい怒られよう……。私も君に付き合うからさ……。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「かなり進んだけど、まだ遠いな」

「けど、エースには近付いてる!」

 

 それから私たちは海兵たちをやり過ごしながら確実に前に進んだが、まだまだ処刑台は遠く感じた。

 奥に進めば進むほど強い奴らが待っている。ここから先は修羅場になるだろう。

 

 ほら、厄介なヤツがやってきた――。

 

「ルフィ! スモーカーが来る! まともに相手をしても面倒だ! 三つ数えたら目をつぶってくれ!」

「目をッ!? わかった!!」

 

「麦わらにレディキラー! お前らはおれが始末する! ホワイトランチャー!」

 

 ちょっと前に挨拶したスモーカーがこっちに向かってきていた。

 最弱ロギアとか言われてたりするが、海楼石の武器も持ってるし武装色の覇気も使えない私たちにとっては厄介な相手だ。

 まともに戦いたくない私はルフィ三つ数えた後に目を瞑るように声をかける。

 

「にぃー、いち……、ゼロ! 閃光貝(フラッシュダイアル)ッ!」

 

「な、何だ! この光! め、目がァ!」

 

 空島で仲良くなったシャンディアからもらった灯貝(ランプダイアル)の上位種、閃光貝(フラッシュダイアル)を利用して私は至近距離の人間全員の目をくらませる。

 スモーカーと彼の側にいた、たしぎは余りの眩しさに目を閉じてしまった。

 

 そのスキにルフィは悠々とその横を無傷で駆け抜けることに成功する。

 

「スモーカーさん! 目が眩んで……、きゃっ!」

「大丈夫かい? 君はいつも転けるんだね。気を付けなよ。ここで死ぬのはバカらしい……」

 

 そして、私も横をすり抜けようとしたが、たしぎが足を滑らせて転んでしまったので、ついいつものように彼女を受け止めてしまった。

 

「……また、あなたですか? 正義のために死ぬことの何がバカらしいのです? 私はこの戦いに誇りを持って挑んでいます」

「そっか。でも、君が死んだら私は悲しいよ」

「――っ!? な、なんで敵なのに……、いつもあなたは――。そして、あなたと話してると胸が苦しくなる……」

「それじゃ、元気でね。たしぎ少尉……」

「この感じ……、あれ? 私はついさっきも……」

 

 彼女と何言か会話して、何か彼女がライアンのことを思い出しそうになったので、私は急いでルフィの元に飛び去る。

 でも、戦争で知り合いが亡くなるのは悲しいから――偽善だけど、きれい事だけど、死んでほしくないと思っているのは本心だ……。

 

「すげぇなライア! あんな短ェ間に色々と準備してたんだなァ!」

 

「あ、ああ、まぁね。準備は短い期間にしたわけじゃないけど……。それより、また面倒な奴だよ」

 

 ルフィからすれば私がアマゾン・リリーを出てから、この短い間に準備を済ませたように見えているんだろう。

 でもそれは違う。海に出ようと決意した日から今日のためにずっと準備をしてきたんだ。

 その割にはこの程度の戦力にしかなれないのは悲しい。

 

 理想は覇気とかマスターして、何かロギア系の実とか食べて、その力を利用して大暴れしたかったんだけど、そんな都合の良いことは起こらなかった。

 力が無いなりに何とかしようと藻掻いた結果がこれだ。

 

 ルフィの言葉に返事をした直後、スモーカーの次に私たちの前に立ち塞がったのは、今日一番厄介な相手だった。

 

「悪いが赤髪。この力、慎みはせんぞ……!」

 

「“鷹の目”!」

「手加減してくれそうにないね……」

 

 世界一の大剣豪にして王下七武海――“鷹の目”ジュラキュール・ミホーク。

 強くて面倒な七武海の中でも、この人の力の底は知れない……。

 

「さて、運命よ……。あの次世代の申し子の命、ここまでか。それともこの黒刀からどう逃がす……!」

 

「あんな強ェやつと戦ってる場合じゃねェ!」

「同感だよ。とりあえず、私が盾になるから、ルフィは出来るだけ前に進んでくれ!」

「盾って、お前!?」

 

 少なくとも処刑台のある広場まで、私はルフィにはなるべくダメージを受けて欲しくなかった。

 革命軍の幹部のイワンコフに怪しげなホルモンを打たれて復活とかしていたけど、それって確か彼の寿命を引き換えにしている。

 私は彼にそんなことをしてほしくないのだ。

 

 だから、私が彼の盾になる――。

 

「まっすぐ来るか――無謀!」

斬撃貝(アックスダイアル)ッ!」

「ぬっ……! 切れぬ……、だと!?」

 

 斬撃を吸収して、それを放つ特性がある斬撃貝(アックスダイアル)

 CP9の嵐脚(らんきゃく)を防いだ実績のあるこの(ダイアル)は、見切りさえ間違わなければ、斬撃を防ぐ絶好の盾になりうる。

 

 まぁ、刀に手を差し出すのはめっちゃ怖いけど。

 

 ゾロに付き合ってもらって精度を上げたかったけど、女相手にそんな練習やってられるかって怒られたっけ。 

 

「世界一の斬撃を吸収したぞ。一発で許容量マックスに溜まっちゃったけど……。それに衝撃がヤバい……、手が折れそうだ……」

 

 一応、ミホークの斬撃は吸収できた。でもその威力は嵐脚(らんきゃく)の何倍もあったみたいで、許容量は一撃で最大になってしまった。

 彼の斬撃は適当にそのへんの海兵にばら撒いとこ……。

 

「大丈夫か!? ライア!」

 

「あんまり大丈夫じゃないよ〜。うわっ! 今度は吸収しきれなかった。手から血が……!」

 

 二撃目は吸収しきれずにちょっと手が切れちゃった。

 ああ、この人が本気出したらこれじゃ吸収出来そうにないな……。

 

「ふむ、これでもなお切れぬか。丸腰の女に力を込めて斬りかかるのは気が引けるが――」

 

「しゃがめ! ルフィ!」

「――っ!?」

 

「デカい氷塊が真っ二つに――あんなの吸収するのは無理無理……」

 

 そんな予感がありありとした三撃目……。剣圧だけで巨大な氷山がきれいに二等分されてしまった。

 それを見て私は首をブンブン横に振って身震いする。

 

「やっぱ二人で!」

「一度、やるって言ったこと投げ出せるわけないだろう! 先に行くんだ、ルフィ! 吸収した斬撃を返してやる!」

 

「ほう、おれの斬撃がそのまま返ってくるのか。やはり面白き女だ」

 

 今度はミホークから吸収した斬撃を彼に放ってみた。

 しかし、彼は涼しい顔をしてそれを弾いて、楽しそうに私を見ている。余裕そうな顔しちゃって……。

 

「ちっ! 当たり前だけど、まったく効果なしか! 手数がだんだん増えてくる。くそっ、全然ヤツは本気じゃないのに――」

 

「トドメだ! 船長を逃がせたことを誇れ!」

 

 そして、彼の容赦ない斬撃は私の読みの力でも捌き切れなくなり、ついに私は自分が切られてしまうことを覚悟した。

 

「ゴムゴムのォォォ! JETエスケープ! ぐはっ!」

 

「ルフィ! なんで戻ってきたんだ!?」

 

 しかし、私は無事だった。ルフィがギア(セカンド)を使って高速移動しながら、私を庇いながら、私の体を上方に放ったのだ。

 

「もう、おれは船員(クルー)を失いたくない! 船長命令だ! 一緒に逃げ切るぞ! ライア!」

 

「まったく、君ってヤツは。仕方ない、チャンスは一度切りだぞ。あの“鷹の目”の油断を逆手に取るんだ」

「よしっ! わかった!」   

 

 ルフィは私を見捨てない。言い聞かせても聞いてくれない。

 ならば、あの自分を格上だと信じて止まない髭男をびっくりさせてやろうじゃないか。

 私とルフィは目で合図して頷いた――。

 

「――集中……、集中……。あいつが斬撃を繰り出す直前なら、威力は半分以下だ……。それを止める! ――未来視ッ!」

 

「二人がかりとて、無駄なこと――」

 

「今だ! ルフィ!」

「止めた!? 先程までとは読みの深さがまるで違う!?」

 

 集中力を極限まで高めることで発動する未来視――冒険に出た頃は数秒かかっていたのだが、今では一秒くらいで発動することが出来るようになっていた。

 それでも、戦闘中だと長過ぎるくらいだが、何とかミホークが斬撃を放つ瞬間を見極めてそれを止めることに成功する。

 

「ゴムゴムのォォォ! JETスタンプ!!」

 

 ルフィは私が動いた瞬間には既に技の準備をしていて、天高く振り上げた彼の足は、ミホークの剣を踏み落としたのだった――。

 

「ふっ……、見事なり。若き力よ」

 

「あの“鷹の目”が! 剣を落としたァ!?」

「あのルーキー二人がやりやがった!」

「信じられねェ! 実力は完全に“鷹の目”が上だったのに!!」

 

 ミホークはなぜか剣が叩き落とされたのにも関わらず、満足そうに笑っていた。

 

「よし、行くぞ! このスキに!」

「ああ、助かったよ。ありがとう、ルフィ」

「仲間を助けるのは、当たり前だろ?」

 

 彼は追ってはこなかった。どうやら、白ひげ海賊団の五番隊隊長にして二刀流の剣士――花剣のビスタと相見えているみたいだ。

 もしかして、あのまま苦戦していても漫画みたいに助けてもらえたのかな? でも、それを全部信じて行動するわけにはいかないもんなー。

 

 

「海軍の攻撃が大詰めを迎えてきたな。ルフィ、あれを覚えてるか?」

「シャボンティ諸島にいたくまみたいな奴、あんなに沢山!?」

 

 “鷹の目”の執拗な攻撃を振り切った私たちは、後方から大量のパシフィスタがこちらに向かって戦闘態勢を取っていることに気がついた。

 そして、それらは一斉放火を開始する。背後からの攻撃って効くんだよな。こういうとき……。

 

「後方の敵に構うな野郎共! 一気に広場へ攻め込むぞォー!」

 

「全隊ただちに氷上を離れろォ! 海賊達を決して広場にあげるな! 全ての映像が切れた時点で“包囲壁”を作動! その後すぐにエースの処刑と共に敵を一網打尽にする!」

 

「エースがやべェ! 急がねェと!」

 

 センゴクがエースの処刑を早めることを遂に宣言して、ルフィは焦りの表情を浮かべた。

 海軍はここから一気に勝負を決める気だ。

 

「ルフィ! 黄猿だ! こっちに手を伸ばせ!」

 

「レディキラー、君も邪魔だよォ〜〜」

 

「ちっ!」

 

「逃げだけは上手いねェ〜〜」

 

 さらに黄猿は私やルフィに目をつけて攻撃しようとする。

 彼が技を放つ前に避けないと速すぎて避けられないので、黄猿の技を回避するには神経がとにかく削られる。

 

「ライア! くそっ大将が出てきた!」

「今度こそ私に構うな! 行け!」

「だから行けねェ!」

 

「ルフィくん! ライアくんの言うとおりじゃ! 今は急がねば! 手強い敵がでてくるのは承知じゃったろう!」

 

 私が囮になると言ってもやはりルフィはイエスと言ってくれない。

 ジンベエは私に同意してくれるが……。

 

 そのときである。白ひげ海賊団のメンバーが私たちの横を振り切った――。

 

「エースの弟! まだまだ元気なんだろ!?」

「えっ?」

「仲間と一緒に大将一人に止められてんじゃねェ! 一緒に来い! 海兵どもが退いてく今がチャンスだ! 一気に突破するぞォ!」

 

「こりゃあ百人力……」

 

 何と彼らは私たちを同志として扱い、一緒に行こうと声をかけてくれたのだ。

 ジンベエの言うとおり、これは百人力である。

 

「負けてらんないって思うだろ? ああやって、先に行かれると」

「ああ、エースを助けるのはおれたちだ!」

 

 一緒に同じ目標に向かって突き進む者たちがいる。全然知らない人たちだけど、それでも心強いって気になれるよ――。

 

 しかし、私たちが処刑台のある広場に肉薄しようとしていたとき、事件は起こる。

 

「――オヤジィィィ!!」

「白ひげが刺されたァァァ!!」

 

「貫かれたのは腕か……、忠告してれば避けられると思ってたけど……」

「おっさん……」

 

 漫画と同じように、スクアードが白ひげを刺したのだ。まぁ、刺されたのは腹じゃなくて腕だから比較的に軽傷なんだろうけど。

 

 そこから先は概ね漫画と同じ展開だ。

 

 傘下の海賊の首を売ってエースを助ける約束をしたと疑われた白ひげはグラグラの実の力を使って、退路を作ることで疑いを晴らした。

 

「海賊なら! 信じるものはてめェで決めろォ! おれと共に来る者は命を捨ててついてこい! 行くぞォーーーー!!」

 

 白ひげの表情からは鬼気迫るものを感じた。彼の覇気は今、この場にいる誰よりも強い……。

 

「こっちに飛んでくる。おっさんが」

「すごい跳躍だね」

 

 そして、彼は信じられない跳躍力を見せて、私たちの近くまでジャンプしてきた。

 腹を刺されてないからなのか、フィジカルは漫画よりも強いのかな……。

 

「小娘、悪かったな。せっかく忠告してもらったってのに、刺されちまったぜ。間抜けな話だ。って、何やってやがる!」

 

「ん? 応急処置だよ。君に頑張ってもらわなきゃ勝てないし」

 

 白ひげが私に話しかけてきたので、それを聞きながら私は持ってきた応急処置グッズで彼の腕の止血をして包帯を巻いた。

 何かこの人、良いことをしてあげてるのに嫌な顔をするんだけど……。

 

「ふてぶてしい、ガキだぜ。エースのヤツのほうがよっぽど可愛げがある」

 

「あはは、避けられなかった方が悪いんだ。私に文句を言うのは筋違いだろ?」

 

「ちっ! んで、ホワイティベイのやつに頼んでるのか? 包囲壁の件」

 

「ああ、仕込みが成功してるならチャンスだよ。この戦争で最大のね」

 

 私はルフィのところに行く前にホワイティベイにも包囲壁が仕込まれていることを話しておいた。

 記憶ではこの包囲壁はリトルオーズの血液が入っただけで誤作動を起こすお粗末なシステムで動いてるみたいだから、予め知っておけば包囲壁の作動を抑制できるのではと考えたのだ。

 

 それ故、ホワイティベイの海賊船はこの戦争の最中、こっそりと包囲壁の作動を抑制するために動いている。

 

「そうか。じゃあ、一つ忠告しといてやる! 今からひと暴れするから、おれから離れな。ハナッタレと一緒に!」

 

「やばっ! ルフィ急ぐぞ! 向かう方向はあっちだ!!」

 

 世界最強が暴れだす。グラグラの実の能力はとんでもなく、巨人族の海軍中将をひっくり返すだけにとどまらず、この島全体を――傾けたのだ!

 

「な、なんだ!? 地震どころじゃねェ!」

「島ごと海も! 傾いて!?」

「うはぁっ! 立っていられない!」

 

「やれェ〜〜! オヤジィィ! 処刑台ごと!」

 

 余りの衝撃に地に足をつけている者たちは立っていられなくなっていた。さらに白ひげが大気を殴りつけると、その凄まじい振動の力は処刑台まで一気に突き進む――。

 

「「――っ!?」」

 

「処刑台には当たってない?」

「何で逸れたんだ?」

 

「どうやったんだろ? あの人たち……」

 

「「三大将!」」

 

 だが、それで処刑台が崩れるほど甘くない。

 青キジ、黄猿、赤犬の三大将は両手を前に突き出して、白ひげの凄まじい攻撃をいなしたのだ。何でなのかわからないけど。

 

「ライア! エースの処刑台はあっちだぞ!」

「いいんだ、ルフィ! この方向が最短コースだ!」

 

「野郎共! 話したとおりだ! 突っ込め!」

 

 私はルフィにホワイティベイの海賊船がある方向を指し示し、白ひげもそちらに動くように手下たちに指示を出す。

 

「壁がせり上がってくるぞ!」

「くそっ! ここに閉じ込めて包囲する気か!」

「いや待て! オヤジが指示した方向だけ!」

「壁が上がっていない!?」

「そして、リトルオーズが倒れているところも!?」

 

 センゴクの指示で包囲壁が作動するも、二箇所ほど作動していない箇所があった。

 一つはリトルオーズが倒れている場所。そしてもう一つは、その倍くらいの範囲に渡ってがら空きになっている、ホワイティベイの海賊船の付近である。

 

「おい! なぜ完璧に作動しない! 何事だ!? くそっ! 始めろ、赤犬!」

 

「流星火山!!」

 

「うわぁあああッ! 氷が溶けて足場が!」

「熱ィ! 海が煮えたぎってる!」

 

 センゴクはこの状況に焦りながらも、赤犬に広範囲に渡ってマグマグの実の力で攻撃をするように指示を出した。

 

 その威力は凄まじく、足場だった氷は溶けて、さらに海水は湯だって地獄のような状況を生み出した。

 

「やぁホワイティベイ! やってくれたんだね」

 

「こんなの朝飯前って言いたかったんだけどね。この広さが限界だったよ。なんか、女の海兵ばかりがやたらと攻撃してきてさ」

 

 私はようやくホワイティベイの海賊船の近くまで辿り着いて彼女に挨拶した。

 へぇ、女の海兵ばかりがねぇ。何でだろう?

 

「ライア! 早くここから中に!」

 

「せっかちなところは兄貴にそっくりだねぇ。麦わらのルフィ。何も話していないのかい?」

 

「言ったところで自重する人じゃないんでね。そろそろ頃合いだ。ルフィ。飛び乗るぞ!」

 

「「――っ!?」」

 

 ルフィは早く包囲壁が作動していない箇所から広場に入ろうと私を急かしたが、それはまだ早い。何故なら迎えが来るからだ――。

 

「船だ〜〜! まるで包囲壁の作動が失敗する場所がわかっていたかのように!」

「コーティング船をそのすぐ側に海底で潜ませてやがった!」

 

「情報提供の礼だ! 乗ってけ! ハナッタレと小娘!!」

 

「おっさん!」

「お邪魔するよ。白ひげ海賊団」

 

 そう、白ひげは切り札としてコーティング船を海底に一隻潜ませていたのだ。

 そして、ホワイティベイの船の近くまでそれを動かしており、包囲壁の発動とともに広場に突入しようと作戦を立てていたのである。

 

 私の話を聞いただけでここまで見事に状況に適応した柔軟な判断が出来るなんて……、この人の下に人が集うのは当たり前だな……。

 その上、仲間を何よりも大事にするんだから――。

 

「“外輪船(パドルシップ)”です! 突っ込んできます!!」

 

「沈めろ! モビー・ディック号のように! 撃て〜〜!!」

 

 白ひげたちと私とルフィを乗せた“外輪船(パドルシップ)”が広場に侵入するのに対して、呆気に取られた海軍だったが、少し遅れて砲弾をこちらに向かって放ってきた。

 

「遅い! おれを誰だと思ってるんだ!?」

 

「砲弾がすべて砕かれました〜〜!」

 

 しかし、白ひげは即座にグラグラの実の力を発動させて、すべての砲弾を粉々に砕いてしまう。

 何度見てもデタラメな力だ……。

 

「おれァ白ひげだ!! 野郎共! エースを救い出し! 海軍を滅ぼせェェェ!!」

 

「「うおおおおおっ!」」

 

 白ひげは自信たっぷりに、誰もが知っている通り名を叫び、手下たちの士気を最大限に高めた。  

 よし、ここまでは想定どおりだ――。

 

「ルフィ……、ここからが本番だぞ! 体力は残ってるか?」

「ああ! ほとんど疲れちゃいねェ! 必ずエースを助ける!」

 

 私とルフィも処刑台が間近に迫っていることと、本当の強敵たちが目と鼻の先にいることを感じながら、もう一度エースを必ず助けることを誓いあった。

 三大将に、ガープとセンゴクかぁ……。でも、ここまで来たんだ。

 全部出し切って、必ず生き残って、ルフィの目的を達成する。

 そして、私の目的もあわよくば――。

 

 ここから、文字通りの死闘が幕を開けた――。

 




何か書いてて思ったよりサクサクとルフィとライアが先に進んでいて驚いている。
白ひげは過去編を読んでめっちゃ好きになった。苦労してるよな〜、この人……。
いろいろと描写がテキトーになっていてスマン!

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