ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう 作:ルピーの指輪
父娘の再会
エースを逃しても尚、マルコたちは白ひげの遺体をどうにか回収出来ないかと奮闘しており、海軍との戦いを止めていなかった。
海軍も面子を丸潰しにされた怒りを海賊たちに向けており、戦争は漫画に負けず劣らずの泥沼化していたのである。
そんな中、ルフィの盟友である若き海兵のコビーが「命が勿体ない」と主張し、漫画通りに赤犬の攻撃を受けそうになり、それをシャンクスが救う展開となった。
ルフィは度重なる攻撃をイワンコフたちに守られながら、最終的には漫画と同様にトラファルガー・ローの潜水艦に乗船する。彼と再会するのは2年後……か、それとも……。
そして、シャンクスは主張した。白ひげの遺体は自分が供養する、と。暴れ足りないのなら、自分たちが相手をすると……。
四皇の出現に、場は引き締まり……万能感を得て調子に乗っていた黒ひげさえも撤退を選んだ。
「全員――この場はおれの顔を立てて貰おう」
シャンクスのこのセリフに誰も異議を唱える者は居なかった。
海軍には居たのかもしれないが、センゴクが黙らせたのだろう。
「戦争は……! 終わりだァ!!」
かくして、海軍元帥センゴクが終戦を受け入れ――このマリンフォードの頂上戦争は幕を閉じたのである。
さて、と。まだ身体中が痛いけど……目的を果たさせて貰おう。
生憎、私はまだ――。
「おい、赤髪海賊団にレディキラーが近付いてるぞ」
「あいつ、麦わらと一緒に逃げたんじゃねェのか」
「つーか、なんで……
動きが止まった海兵や海賊たちの間をすり抜けて、私は赤髪海賊団の中で一際格好を付けている狙撃手の前まで歩く。
ドレッドヘアのその男は私の顔を見るなり、涙を流しながら笑った――。
「おおおおおッ! ライアちゃん! パパに会いに来てくれたんだろ!? おれァ、手配書見た日からずっと待ってたんだぜ! まさか、ルフィの船に乗ってるとはな〜〜!」
「生憎、私はまだ暴れ足りないんだよね……」
「……ら、ライアちゃん? へぶぉッッ――!!」
ヘラヘラと笑う親父の顔面を思いきり私はぶん殴る。
この闘志だけは失うわけにいかなかった。
いくら骨を折られても、臓器が傷付いても、身体に穴が空けられても……、親父の顔面にキツイ一撃をくれてやるだけの体力は残しとくつもりだった。
「「殴ったァァァァ――!」」
「麦わらの一味は頭のおかしい奴揃いだと聞いていたが、この状況で四皇に喧嘩を売るとは」
「たった一人でなんつーヤバいことを」
「どうするつもりだ……。何を考えてる?」
親父のやつ……わざと殴られたな……。
バレバレだって……。
まったく。腹が立つ……。
気付けば、私は地面とキスしていた……。
「「倒れたァ〜〜!」」
――ダメだ。既に私の限界はとうの昔に超えていて……。
意識がぷっつりと……途切れて……、しま、った――。
◆ ◆ ◆
「痛ててて……、まだ生きてたか」
「ライアちゃ〜〜ん! おれァ、おれァ、ライアちゃんがてっきり死んじゃったかと……!」
「うるさい……」
医務室らしき場所のベッドで目覚めた私は、泣きわめく親父の声に苛立った。
大体、いい歳こいて金髪に染めるって恥ずかしくないのか。ドレッドヘアも似合ってないし……。
「おおっ! ヤソップんとこの娘が目覚めたか。こっちに来いよ。宴開いてやっから」
「赤髪のシャンクス……」
マリンフォードで見たときの覇気を剥き出しにしていた厳しい表情とは違った気さくな感じで声をかけてきたので、私は少し驚いた。
漫画ではそういうキャラってことは知ってたけど、本人を前にするとそうも言ってられない。
白ひげもそうだけど、四皇には今のルフィじゃ太刀打ち出来る気がしないなぁって感じ。
潜在能力を探れば探るほど、底知れない凄みを私は感じていた。
「……親父が世話になってる。あと、治療してくれてありがとう。助かった」
「気にすんな。ルフィの船に乗ってんだろ? 聞かせてくれよ。あいつの話とか、お前の話もな」
シャンクスはそう言って、私を甲板に誘う。親父も立ち上がり、私も後に続いた。
私は親父と会話が出来なかった。十年以上も間を空けて、積もる話もあるし、愚痴も山ほど言ってやりたい気持ちもあった。
だけど、この人はこの世界で立った一人の私の身内で……この人に会うために命を賭して海に出て……何ていうか色々と込み上げ過ぎて言葉が出なくなったのである。
シャンクスとしばらく雑談して知ったのだが、私はあれから何日か眠ってたらしい。
彼に頼んで新聞を見せてもらったから間違いない。ルフィは漫画と同様に2年後にシャボンディ諸島で会おうとメッセージを送ってくれていた。
エースは死ななかったが、あの戦いで力不足を実感したのだろう……。
「だっはっはっ! ヤソップの娘って、手配書で見たときから思ってたけど、全然似てねェな」
「どう見ても、親父より男前だもんな」
「違いねェ! この顔なら女はほっとかねェだろうな!」
「バカヤロー! こんなに可愛いんだぞ! 求婚希望の野郎共が寄って来るに決まってっだろうが!」
親父を茶化す赤髪海賊団のクルーたち。
確かに私は親父に似てない。射撃の才能を受け継いだぐらいだ。
だけど久しぶりに会って、私はこの人との血の繋がりを感じた――。
「あいつ、お前の手配書を毎日のように眺めていてな。可愛いだろって、バカ見てェに何度も
「……あの、バカ親父」
「はは、酒の肴にゃ、もってこいかもな。娘の手配書なんざ。ほれ、何日も食ってねェだろ? 腹満たしときな」
「あ〜! おれの肉ッ!」
副船長のベン・ベックマンは親父が私の手配書を毎日のように見せびらかしてる話をしてきてめちゃめちゃ恥ずかしくなった。
可愛いはずないじゃん。男みたいだって散々言われてるんだぞ。仲間にだって。
サンジとブルックはまぁ、例外として……。仲間を困惑させることをしないでほしい。久しぶりに顔が熱くなったわ。
その恥ずかしさを誤魔化すために私はシャンクスの故郷の酒とかいうのを、ハイペースで飲み進め――ルフィたちとの冒険の話をするのだった――。
「――そっか。ルフィの奴にはそんな仲間が集まったか。やっぱ、おれの見込んだ男だ。楽しくやってるならそれでいい」
「もう少し早ければ直接会えたのに、残念だったね」
「その時が来たら必ず会えるさ。約束したしな。あいつは約束を守る男だ」
シャンクスにひとしきり仲間たちとの出会いや冒険の話をした私。
酒も進み、ほろ酔いになりながら……私は親父の話を切り出すタイミングをうかがっていた。
言うなら早いほうがいい。目的を果たすために来たんだから。
「……シャンクス。あなたに頼みがあるんだけど」
「ん? おれに頼み?」
「ヤソップを貸してほしい。母が死んだんだ。かなり前にね。
これが私が海に出た望み。ワンピースとか、オールブルーとか、世界地図とか世界一の大剣豪とか……、ローグタウンを出たあの日……私たちは様々な誓いを立てたが……、私の旅の終着点はこの四皇から幹部を借り受けて、
「ルフィとの冒険はどうするんだ?」
「もちろん、彼の元には駆けつける。だけど、我々の船長は2年間猶予をくれたからね。故郷に帰るくらいルフィは許してくれるさ」
シャンクスはルフィとの冒険について尋ねたので、私は本心を述べる。
そうだ。私は親父をシロップ村に連れて行って、それで冒険を終わらせられなくなった。
モンキー・D・ルフィ――という男に魅せられてしまったから。
「私はルフィを海賊王にする。その覚悟は既に出来ている」
「ほう――」
「なんだ、ライアちゃん。ルフィと一緒におれたちを超えるつもりなのか?」
海賊王……その言葉を吐いたとき。宴会で騒いでいた赤髪海賊団の一同も一瞬だけこちらを見た。そして、親父は楽しそうな顔をして私の顔を覗き込む。
「結果的にはそうなるんじゃないかな。そのうち、ね」
「……へへっ、初めて口利いてくれたな。ルフィの話だからみてェだが……」
馴れ馴れしく肩を組む親父とそれを眺めているシャンクス。
そうかもしれないな。ルフィの話なら親父との確執を抜きにも話せるんだ……、私は。
「ルフィは凄い男なんだ。あれ程の器の人間を私は見たことがない」
「白ひげを見たんだろ? エースの小僧も……。それでも、ルフィが上に見えたのか?」
「まぁね。人を見る目だけは自信があるから。もちろん、私が勝手にそう思ってるだけなんだけど」
「はーっはっは! ――おい、お頭……ちょっと娘と二人旅させてくれ! おれァ、バンキーナに一言だけ詫び入れて来るわ!」
ルフィの自慢をしていたら、急にヤソップは真顔になってシャンクスに故郷に帰っても良いか許可を取り始めた。
私の母であるバンキーナに謝罪をさせたいという話……聞いてないふりをして聞いていたのか。
まったく、油断のならない人だ……。
「ったく、行かねェなんて抜かしたらぶん殴ってやるところだったぜ。しっかり、ケジメを付けて来い」
「おうよ。ついでにライアちゃんを鍛えてやるぜ。悪ィ男が寄って来ねェようにな……! なんせ、こんなに可愛い
親父は私を鍛えるとか何とか言いながら手配書を取り出した。
また、手配書の写真が変わっている。懸賞金が変わったのかな……。
あれ――。
数字がおかしいような……。
「い、1億9600万ベリー……、なんで私みたいな貧弱な海賊に……」
そこには確かに記されていた。レディキラーライア……懸賞金1億9600万ベリー、と。
どう考えてもおかしい。懸賞金の高さが戦闘力と見合ってない。
「別におかしいことはない。懸賞金は世界政府から見ての危険度。お前さんは、ルフィと馬鹿やっただけだと思ってるかもしれねェが。奴らはそうは思ってねェのさ」
「おれの娘だって知ったからだろ!? 心配すんな。おれがばっちり教えてやるからよォ。寄って来るバカ共を片っ端から倒せるようにな」
というわけで私の懸賞金が上がってしまった。
そして、ヤソップと私はシャンクスから小船を貰って……
最初の目的地は――。もちろん……。
「ウォーターセブンだァ? なんで、んなとこ寄るんだよ。あそこは造船くらいしか見るとこねェ島だぞ」
そう、私はアイスバーグに預けたメリー号を引き取りに行く。
アイスバーグやパウリーといった一流の船大工がメリー号を完璧に整備してくれている。それに乗ってシロップ村に帰ることこそ、私の真の目標なのだ。
カヤにも元気なメリー号を見せてやりたいし……。
「ふーん。あの金持ちの屋敷の娘さんと仲良くしてたのか。んで、船を貰ったから……その船と一緒にねェ。いい話するじゃねェか。んじゃ、行くしかねェな。ウォーターセブン」
まぁ、親父に反対されても行くつもりだったけど、ね。ウォーターセブンには。
赤髪海賊団は実にアイテムも充実していて、
さすがは四皇の船だ。期待通り、何処へでも行ける装備がある。
ウォーターセブン行きの
ウォーターセブンに行ったのは最近なのに数年ぶりみたいに感じるなぁ……。
◆ ◆ ◆
小船は進む。造船の島へ……。そして、私は親父に銃を渡された。
何の変哲もない、安物の銃を……。
「ライアちゃん。最高の狙撃ってのを知ってるかい?」
「最高の狙撃? 正確に的に当てる、とかかな? 相手が動いていても……先読みして……」
実際に私の必勝パターンはそれだ。未来を読み切り、回避不能の一撃必殺で勝負を決める。
貧弱だし、火力も不安が残る私は、この方法でしか勝ってない。
「ちょっと惜しいな。正確に当てるのは当たり前だ。最高にイカしてる狙撃ってのはな。相手に撃たれたことすら気付かせない。そして、鉛玉一つでどんな奴も……ぶっ殺すのさ――」
「――っ!?」
気付かなかった。見聞色の覇気で違和感に気付いた時には既に勝負は終わっていた。
私の背後でザバンと水しぶきを上げたのは巨大な海獣である。海王類程とは言わないが、ガレオン船なんかよりも遥かにデカイ。
それをこの親父は安物の銃の鉛玉一つで仕留めたのだ。
「おれから銃口を向けられたら、海軍大将だって余裕ぶっこいてはいられねェ。何故か分かるか? 鉛玉にはよォ――不思議な力が込められているんだ」
「ああ、武装色の覇気か……」
「なんだ、知ってんのか。使えるようには見えねェんだが」
やっぱりそうか。四皇の一角……赤髪海賊団である親父たちの銃が凡庸だったのは私の観察力不足ではなかった。
狙撃する銃弾にも覇気を込めることが出来るんだ。じゃないと、ベン・ベックマンに黄猿が銃を向けられてホールドアップする理由が分からないもんな。
「名前を知っているだけだよ。武装色の覇気は全然使えない」
「ふーん。見たところ見聞色の方はかなりいい線行ってるのに変わったやつだな……。まぁいい。ライアちゃん、シロップ村に付くまでにお前に狙撃のいろはを教えてやる。覚悟はいいか?」
「望むところだッ!」
私に必要なのは力。
懸賞金に相応しく、尚かつ未来の海賊王のクルーに相応しいパワーを。
こうして、航海と特訓が始まった――。
次の目的地はウォーターセブン。メリー号との再会だ……。
シャンクスのキャラも、それ以上にヤソップのキャラも掴めないんですが、適当に脳内で保管して描くことにします。
ライアのグランドライン逆走の旅が始まりました。
イベントを幾つか用意していますので、これからもよろしくお願いします。