ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう   作:ルピーの指輪

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スキップとリバース

「このカードって、あれだよな。UNO(ウノ)ってゲームで使うスキップカードじゃなかったっけ」

 

 私はミキータの手元のカードについて言及する。この世界にもUNOがあるとは驚いたが、トランプとかチェスとかもあったし、別に変じゃあないか。

 

「そう。このカードは世界政府も手を焼く面倒な海賊たちが関わっている証拠です。そいつらはユノ一味と呼ばれており……闇社会の情報網を掌握して覇権を手にしようと、勢力を拡大していました」

 

 ユノ一味……? 知らない連中だな。そんな奴いたっけ……。

 それに――。

 

「キャハハ、“いました”ってことは今は違うってことよね?」

 

「ええ。慎重に大物たちの影に潜んで勢力を伸ばしていたユノ一味は、新世界でビッグ・マムの縄張りを誤って荒らしてしまったことで呆気なく崩壊。少数だけ残った幹部たちが細々と前半の海で略奪行為を重ねているだけのはずなのですが……プルトンの設計図の情報をどうやったのか手に入れたみたいですね。ご主人様……」

 

 その闇の情報網とやらで、プルトンに辿り着いたってことかな。

 それなら、下手すりゃ……アラバスタとかも狙われてもおかしくない。

 

 ていうか、カリファは私のことを変な呼び方で統一するつもりか……。

 

「ご主人様っての止めてくれないか?」

 

「その突き放すような視線ゾクゾクする……」

 

「何かヤバい性癖に目覚めちゃってるじゃない。レディキラー恐るべしってとこね」

 

「ミキータも変なこと言うの止めてくれ」

 

 もう、カリファはどうしようもないかもしれない……。

 

 とにかくアイスバーグが危険だ。

 設計図など既に燃えて無くなったと知れば、彼の命の保証はない。

 

 しかし、どこを探そう? ウォーターセブンは人数が多いし、アイスバーグの気配は決して大きくない。見聞色の覇気で見つけるのは困難だ……。

 

「……ここは諜報員だった私に任せてください。ユノ一味は慎重。窓からアイスバーグを連れ出して隠れ家に向かう道中も誰にも見つからないように動くと思われます。とすると、逃走ルートは恐らく――」

 

「よし、カリファ。案内してくれ」

 

 CP9だった彼女の分析能力は高く、またアイスバーグの秘書だった経験もあるのでこの街のことを知り尽くしている。

 つまりカリファはウォーターセブンのスペシャリスト。彼女なら、アイスバーグが連れられた場所を特定出来るかもしれない。

 近付けばアイスバーグの気配も探れるだろうし……。

 

「わ、私を信じてくれるのですか?」

 

「うん。信じるさ。嘘ついてるかどうかは目を見たら何となくわかる」

 

 私はカリファの目を見て、彼女を信じることにした。

 彼女が私たちを嵌めるつもりなら、こんな回りくどい方法を取らないだろうし……。

 

「ああ! 今すぐに鎖で繋いで引っ張り回してください! ご主人様〜〜!」

 

「嫌だよ! やっぱり発想が怖いんだけど!」

「バカ言ってないで早く行くわよ!」

 

 ドン引きしてる私とイラッとしてるミキータ。

 カリファは得意の月歩(げっぽう)を使って先行し、我々も彼女の後を追った――。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「あの角を曲がったところに廃墟があります。おそらく、その中が――」

「連中のアジトの可能性があるってことだね」

 

 こんな市街地の一角に二階建ての洋館みたいな廃墟があるなんて知らなかった。

 確かにここなら、隠れ家にするにはもってこいかもしれない。

 

 アイスバーグの気配は――。

 

「ビンゴだ。アイスバーグさんはあの中にいる。――敵は意外にも一人だけみたいだ」

 

「じゃあ、今のうちに取り返しましょう。こっちは三人だし」

 

「でも、カリファはほら。アイスバーグさんとは色々とあったじゃないか……」

 

 チラッとカリファの顔を見て私は彼女が気まずいのではと懸念した。

 だって、裏切った相手だし。殺そうとしてたし……。

 

「私は構いません。あれは任務でしたから。それ以上の感情は持っていません」

 

「任務か。色々と言いたいことはあるけど、時間がない。敵が一人ならチャンスだ」

 

 マスケット銃のミラージュクイーンを片手に私は廃墟に侵入する。

 アイスバーグの気配は二階だ。なるべくなら、戦闘はせずに彼を救出したいが……。

 

 

「おーいオイオイ、アイスバーグよ。プルトンの設計図を燃やしちまったって本当か?」

 

「さっきから、そう言っている。だから政府の連中も諦めた。闇社会の情報に強いのではないのか?」

 

「脈拍は正常そのものか。ハズレかよ。オイオイ、最近の船長の情報は古すぎていけねェや。CP9を出し抜くどころか、ことが終わった後じゃねェか」

 

 洋館の二階の一室でアイスバーグは縛られて、頬から血を流しながらバンダナを巻いたキツネ目の痩せた男に尋問されていた。

 脈拍を測りながら嘘発見器みたいなことをしてるのだろう。

 

 一発、狙撃してアイスバーグと男の距離を空けて――。

 

「私がアイスバーグさんを助ければ良いんでしょ」

「いい感じで縛られてるわね……」

 

 そうと決まれば、早く動こう。あのキツネ目の男から殺気が漏れている。

 ハズレと知ったら容赦なく殺すタイプに違いない……。

 

「オイオイ、こりゃあ無駄足だな。船長に文句言わねェと……。――こいつの口を封じた後になァ!」

「必殺ッ! 火炎星ッ!」

 

 キツネ目の男の殺気に混ぜて、完璧なタイミングで私は銃弾を放つ。

 それと同時にミキータはアイスバーグを救出。男にも多少のダメージを与えたとは思うのだが……。

 

「――ぐぁはっ……。何で後ろから私が刺されるんだ……」

 

 鋭い痛みが背中に突き刺さる。

 反射的に身を反らせたから、致命傷には至らなかったが……目の前に居たあの男がいつの間に――。

 

「スキ〜〜ップ♪ オイオイ、随分と物騒なことしてくれんじゃない。おれがスキップ人間じゃなきゃやられてたぜ。さて、と。次は急所を狙わせて貰おう」

 

 悪魔の実の能力者か。一瞬で任意の場所にワープするような能力を持ってるってわけか。

 初見殺しの力だな……。

 

「無礼者! ご主人様に手を出すな!」

「……ぐっ! その動きは六式……!? オイオイ、世界政府は諦めたんじゃねェのかよ」

 

 (ソル)で間合いを詰め、指銃(シガン)をキツネ目の男に放つカリファ。

 男は反応が遅れて、指銃を食らうもすぐに瞬間移動した。

 うん。やはり、見聞色の覇気で気配を追っても完全に消えている。剃とか杓死とかそういう類の技じゃない。

 

「ユノ一味、幹部――“寝首落としのシェード”、懸賞金700万ベリー。キプキプの実の能力者……」

 

 淡々と目の前の男のプロファイリングをするカリファ。

 そういや、初対面で私らの情報も筒抜けだったっけ。

 

「目立たず成り上がるを信条にやってたが、こうも知られるようになるたァ……そろそろ潮時かねェ。……まっ、とりあえずお前らを殺してから考えることにするよ――」

 

 戦闘態勢を取るシェードとかいう男。

 とにかく、瞬間移動は厄介だ。ノーモーションで背後を取られるとか反則も良いところだし。

 

「ご主人様……。シェードのスキップは目に見える範囲のみ。それも半径10メートル程のごく短い距離に限られます」

 

 CP9の情報網をナメてた。カリファは敵の悪魔の実の能力までキチンと把握してるじゃないか。

 味方にすると頼もしいな……。特に私みたいなタイプにとっては。

 

「オイオイ、そこまで知ってるとは……。やっぱ、世界政府の犬かよ。まァいい。まずはお前から――」

「止めときな。シェードの旦那」

 

 いつの間にか、部屋の窓枠に座っていたスキンヘッドの男が声を出した。

 こいつもユノ一味の一人か……。

 

「ウォーターセブンにはプルトンの設計図はないってさ。船長が予定を変えた」

 

「はァ? おれァ、とっくに知ってるぜ。そんなこたァ。オイオイ、今から別の島に行くんじゃあねェだろうな」

 

「正解だ。とある王国に集合だとよ。何でもプルトン自体がそこに封印されてるらしいぜ。だから、とっとと旦那も船に乗りな。出港する……って、もう行っちまったのか」

 

 スキンヘッドの言葉が終わる前にシェードは消えた。

 あの能力……。ちょっと厄介だ。距離を取って狙撃するのが楽に倒せる方法かな……。

 

「じゃあ、おれも退散させて――」

「行かせるかッ!」

 

 私は咄嗟に鉛玉をスキンヘッドに向かって撃つ。

 しかし銃弾は――。

 

「リバース……」

「えっ――!?」

 

 男に当たった瞬間に跳ね返り……私の方に戻ってくる。

 私は何とかそれを躱したけど、狙撃手としてはかなり屈辱的だった。

 

 あいつも悪魔の実の能力者かよ……。気付いた時にはスキンヘッドの男はもう居なかった……。

 

「彼もユノ一味の幹部……“逆転のラルトス”。リバリバの実の能力者。触れた物の向きを逆にする……反転人間です。懸賞金は確か……1000万ベリー」

 

 反転人間って、そんなのアリ? さっきのシェードといい、面倒くさい連中だぞ。

 ていうか、シェードもラルトスも実力の割に懸賞金が低いんだけど……。

 

 

 まぁ、そんなことはどうでもいい。アイスバーグは無事か……。

 

 

「ンマー、お前らにゃ……また危ないところを助けられちまったな。ミキータの言ったとおりやって来たってわけか」

 

 ミキータによって縄が解かれて自由になったアイスバーグは私の元に歩いてくる。

 見たところ、外傷は頬の傷だけみたいだ。

 

「変な連中にばかり絡まれて不運だね。アイスバーグさんは」

 

「トムさんが遺したモノを守るための覚悟はある程度していた。ことが終わったと思ってたから、油断してたのは間違いないねェが。それにしても――」

 

 私の言葉に返事をしたアイスバーグはその隣で姿勢よく佇んでいるカリファを見る。

 やっぱり、そりゃあ気になるよね。私だって彼女がここに居るのに違和感しかないもん。

 

「……カリファ。てめェ、何のつもりだ? どうしておれを助けた……?」

 

「別にあなたを助けたいと思ったわけではない。私は自らが身も心も捧げたご主人様の意向を汲んだだけのこと」

 

「身も心も捧げた……ご主人様ァ? ……ンマー、なるほど。お前がレディキラーって呼ばれてるのは、こういうことなのか」

 

 カリファが恥ずかしいセリフと共にこの場にいる理由を答えると、アイスバーグは納得したような顔をして私を見る。

 いやいや、こういうことって……どういうことだよ。

 

 この場で揉めると面倒だから、争いにならなくて良かった。

 

「ねぇ、ライア。プルトンが封印されてる国って……」

 

「ああ、間違いなくあそこだろうね」

 

 ――アラバスタ王国。かつてクロコダイルが古代兵器プルトンを手中に収めようと暗躍した国で、私たちもその事件に関わった。ミキータに至ってはクロコダイルの元部下だし……。

 

 あんな連中に狙われたらビビたちが心配だ。元々補給地点としてアラバスタに寄ることは考えてたけど……。

 

「急ごう。あんな連中に好き勝手させる訳にはいかない。私たちでユノ一味を倒すんだ」

 

「キャハハ、船長さんも居ないのにあんな怪物共を相手に出来るのかしら? まァ、あんたとなら、死んであげても良いけどね」

 

「死ぬつもりは無いさ。故郷に帰るまでは、ね」

 

 確かにシェードとラルトスは厄介な能力者だった。

 しかし、頂上戦争で見た化物の中の化物みたいな連中と比べたら……やれないこともない。

 船長って人がどれ程の実力なのか凄く怖いけど……。七武海クラスだったら、私じゃ太刀打ち出来ないだろうし……。

 

「ご主人様、差し出がましいですが……ここは引いた方がよろしいかと。ユノ一味の船長……“万策のユノ”は悪魔の実の能力者ではありませんが、非常に狡猾な上に……世界政府からの刺客を全て返り討ちにして、闇社会で名を上げた男です。彼の犯した罪は公にしにくいヤマが多いので懸賞金こそ1200万ベリーと低めですが……危険度は王下七武海にも匹敵するかもしれません」

 

 そんなに危険な海賊が、バギーよりも懸賞金が低いのか。

 政府には知られちゃマズい案件が多いことは知ってるけど、そこをピンポイントで突くような連中って不気味だな。

 

 いくら危険でも関係ないけどね。アラバスタ王国は私たちにとって特別だし。

 

「カリファ。心配かけて悪いけどさ。私には引けない戦いがあるんだよ」

 

 私はカリファの言葉にそう返した。

 相手がいくら強くても、私は何とか知恵を働かせて対処してみせる。

 

「わかりました。私もご主人様のために微力を尽くさせて貰います。ユノ一味の討伐に協力させて下さい」

 

「ンマー、プルトンはトムさんが死ぬ直前まで気にしていた案件だ。おれには見届ける義務がある。ライア、メリー号の最後の調整はおれが船大工として乗り込んで完成させてやろう」

 

 カリファとアイスバーグが私に付いてくると言い出した。

 いや、確かにカリファは敵の情報を把握しているし、アイスバーグはフランキーにも劣らない船大工。一緒に来てくれるなら、これ以上ない助っ人だけど……。

 

 これは、アラバスタまで向かうにあたって思った以上に人数が増えてしまったぞ。

 親父はどんな反応をするんだろう……。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 パウリーにガレーラカンパニーを暫く任せると頼んだアイスバーグ、そしてへそくりをこっそり回収したカリファ、キロキロパウンドなどの荷物を手にしたミキータを引き連れて、私はメリー号と再会した。

 

 前も新品同様ってくらいにキレイになってたけど、これはもしかしたら新品以上かもしれない。

 ピカピカの船体に上がると、いい匂いがする。潮風がいつもよりも心地よい……。

 

 ニューメリー号に乗って、私は親父のいる小船の近くに船を寄せた。

 

 

 

 

「おい、ライアちゃん。父娘水入らずの旅行じゃねェのかよ……。おっさん一人に姉ちゃんが二人か」

 

追撃者(チェイサー)ヤソップ。赤髪海賊団の幹部がご主人様のお父様!?」

「キャハハ、本当に会えたんだ。おめでとう」

「恐ろしい血筋は麦わらだけではなかったということか」

 

 三者三様のリアクションを取る。しかし、ルフィに比べたら私の血統など大したことない。

 ちょっと銃の上手いだけの人だし……。

 

 

「言っとくがおれは手出ししねェぞ。勝手に動いたらお頭に迷惑かけちまうからな。まっ、これも修行だと思うこった。最強の狙撃が出きりゃ何とかなるって」

 

 四皇の幹部がアラバスタ王国で戦闘などしたら、色々と大騒ぎになるということで、思ったとおり親父は助っ人として期待できない。

 アラバスタまでの航海で今よりも強くならなきゃ……。

 

 

 こうしてメリー号はウォーターセブンを出港した。

 目指すは砂漠の国――アラバスタ王国。ビビたちは元気だろうか――。

 

 

 




ユノ一味の設定は適当です。
どうせアラバスタ王国にもう一回行くなら、何かしらイベントを起こしたくて……。
アイスバーグとカリファは新アラバスタ編のみのゲストということで。

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