ウソップっぽいポジションに転生したはずなのに、なんで私は女の子なんだろう 作:ルピーの指輪
クリークの船がやってきました。
ここから戦闘に入りますが……、その前に……。という大事な回です。
「話割ってすまねェが――」
ここまで、私たちの話をじっくりと聞いていたギンが口を開いた。
この人、割とお人好しそうなんだけど結構強いんだよね。
「おれはクリーク海賊団のギンって者なんだが……、あんたたちも海賊なんだろ? 目的はあんのかい?」
ギンは私たちに海賊としての目的を聞いてきた。人の目的なんて興味あるものなのか? いまいち理解できない。
「おれはワンピースを目指してる。
「私は父親がそっちに居るからね。会いに行くのが目的だよ」
私たちはグランドラインを目指すことをギンに伝えた。
「コックを探してるくらいだからあんまり人数揃っちゃいねェんだろ?」
ギンは私たちの様子から少人数だということを見抜いた。
「今こいつで5人目だ!」
「何でおれが入んだよ!」
「まぁまぁ、少しくらい考えてもいいじゃないか」
ルフィの図々しい発言にサンジはすかさずツッコミを入れる。私は彼を抑えて、前向きに考えてもらえるように頼んだ。
まぁ、今の段階じゃ無理だろうけど。
「悪いやつらじゃなさそうだから忠告しとくが――、グランドラインだけはやめときな。あんたらまだ若いんだ。生き急ぐことはねェ。グランドラインなんて世界の海のほんの一部にすぎねェんだし海賊やりたきゃ海はいくらでも広がってる」
彼は真顔でグランドラインに行く私たちを止めた。なんか、自殺を止めようとするオジサンみたいだ。
「へーそうか……、なんかグランドラインについて知ってんのか?」
「――いや何も知らねェ……。何もわからねェ、だからこそ怖いんだ――!」
ルフィの言葉にギンは怯えたような仕草をする。よほど、《鷹の目のミホーク》にトラウマを与えられたんだろうな。
しかし、ツイてないのは間違いないな。グランドラインに着いて早々ミホークに狙われるなんて、スライムが出てくると思ってたらバラモスが出てきたようなもんだ。
「あのクリークの手下ともあろう者がずいぶん弱気だな」
「クリークって?」
サンジの言葉にピンと来ないルフィ。彼はクリークのことなんて知らないに決まってる。
「ルフィ、
私はルフィに一応クリークについて説明をした。多分、1ミリも理解してくれないだろうけど……。
実際、50隻って凄い数だ。でも管理とかも大変そう……。
「ほう、あんたは詳しいんだな」
ギンが私の方を向いてそんなことを言う。そりゃあ賞金稼ぎやっていたし。
「船長がこんな感じだから、色々とね……」
私はそう言って誤魔化した。元賞金稼ぎなんて言ったら絶対に警戒されるから、黙っておくにこした事はない。
その後、ルフィがどうしてもグランドラインに行くと宣言したり、料理長のゼフがサンジを注意したりした。
サンジは本当に気のいい男で、怒られているのに、ギンに小船を渡して海に帰してやろうとしていた。
「悪ィな、怒られるんだろ……、おれなんかにただメシ食わせたから」
親切にしてもらったギンはサンジに申し訳なさそうな顔をしていた。
「なーに――怒られる理由と証拠がねェ」
爽やかな顔で食器を海に落とすサンジ。この感じはやはりカッコいい。
ギンもサンジの行為に心を打たれたのか、ずっと土下座しっぱなしだった。
やはりサンジは私たちの一味に必要だ。
◇ ◇ ◇ ◇
さて、それから2日くらい経った訳だが、やっぱりサンジはなかなか折れてくれない。
それにはやはり料理長でありオーナーのゼフの存在が大きいようだ。
そりゃそうだ。彼はサンジの命を救った大恩人。
彼に報いる義務みたいなものがサンジの胸の中にあるのだろう。
まぁ、だからこそサンジのような人間を仲間として欲しいわけだけど……。
しかし、そろそろだろうな。ギンが彼を連れてくるのは――。
予想通り、この日の昼間、巨大なガレオン船が海上レストラン『バラティエ』の前にやってきた。
私たちはメリー号からその様子を見ている。
「あの海賊旗はクリーク一味のものだよ。ルフィ……。彼もまた海賊王を目指してるんだ」
「ちょっと待て! 海賊王になるのはおれだぞ!」
私がクリークのことを話すとルフィは首を伸ばしてそう言ってきた。
「あはは、分かってるさ、ルフィ。さて、クリークは何のために海上レストランに来たんだろう? 少なくともギンの恩返しじゃないだろうね」
「ええーっ! 違うのか〜!?」
私はルフィにクリークの目的について疑問を投げかけてみた。どうやら彼はクリークが恩返しに来たと考えてたみたいだ。
「海賊の目的なんざ、略奪に決まってる。そう言いたいんだろ? ライア」
「そうだね。私の聞くクリークの人となりだと、その可能性が高そうだ」
ゾロの言葉を私は肯定する。
そのとおり、クリークはバラティエ自体を乗っ取るつもりでやってきたんだ。
「そっか、じゃあおれ見てくるよ! クリークって奴!」
ルフィはそれだけ言うと、腕をバラティエまで伸ばして、レストランの中に行ってしまった。
「ったく、すぐに行っちまった。どうする? おれらも行くか?」
ゾロは戦闘の気配を感じ取って、ルフィを追いかけようとした。
「よし。私も行こう。ナミはどうする?」
「えっ? 私? 嫌よ、パスに決まってるじゃない。怖いもん」
ナミはいつもどおりの仕草でバラティエに入ることを拒否した。
しかし、彼女の目はどこか寂しそうだった。
「――わかったよ、ナミ。じゃあ、君には船番を頼む」
「うん、任せて。ライア」
ナミは私の言葉に返事をした。目は合わせてくれなかったけど……。
そっか、やっぱり君は――。
私はゾロと共にバラティエに向かった。そして――。
「すまない、ゾロ。船に忘れものをしたんだ。先に行っててくれないか?」
「なんだ、また忘れものか? 仕方ねェやつだな」
彼は少しだけ呆れたような顔をしたが、一人でレストランに入って行った。
さて、忘れものを取りに行かなきゃ。
私は再びメリー号へと戻って行った。
「――おや、随分と高額な賞金首の手配書じゃないか。どうしたんだい?」
「――きゃッ! らっ、らっ、ライアッ!? なんであなたがここに? だって、レストランに行くって……」
手配書を眺めていたナミは私が後ろから声をかけると跳び上がって驚いた。
「ちょっと忘れものをしてね。戻って来たんだよ」
「へっ、へぇ。そうだったの。じゃあ、早く取りに行きなさいよ」
顔を引きつらせながら、彼女は私を見ていた。どうやら、かなり動揺させてしまったらしい。
「まぁ、焦らなくてもいいさ。ルフィもゾロも私なんかより強いんだから。しばらく君と雑談でもしたら行くとするよ」
私は努めて笑顔を作って彼女と話をした。
ナミはここで私たちを裏切ってアーロン一味の元に戻ろうと考えてる。メリー号を奪って……。
それを私は止めに来た。エゴなのかもしれないが、放っておけなかったのだ。
「その賞金首、知ってるよ。魚人海賊団、《ノコギリのアーロン》、2000万ベリー。
私はナミに質問した。意地悪な質問を……。
「元賞金稼ぎだけあって詳しいのね。別に意味なんて無いわよ。随分と高い賞金首だと思って眺めていただけだもん」
彼女はやれやれというようなポーズを取って誤魔化そうとしていた。
まぁ、簡単に話してくれるとは思わなかったけど……。
「そっか、わかったよ。――そういえば前にルフィにさ、海賊のイメージが悪いって話をしたのを覚えてる?」
「言ってたわね。そんなこと」
私がナミに以前の話を振ると、彼女は覚えてるみたいで首を縦に振った。
「このアーロンのやり方は噂になっててね。彼は縄張りの町や村を支配してるそうだ。長い間、ね。その町村の人はそれは高額な貢金を納めさせられ、出来ない人が一人でも居たら町を壊滅させるくらいのことはやってるらしい。その上、海軍に賄賂まで渡して、手を出せなくしてるみたいなんだ。噂だけど、ね」
実際、そこまで具体的な噂は聞いたことないけど良いだろう。私は嘘つきなんだから。
「そ、それがどうかしたの? だから、アーロンなんて知らないって言ってるでしょ!」
その声は悲痛な気持ちが伝わるほど、か細く聞こえた。
私は彼女のトラウマを抉っているのではないか? 罪悪感で胸が締め付けられそうになる。
「もう一つ話をしようか。魚人海賊団には一人だけ人間が居るみたいなんだ。女性がね。それでこの前、君が着替えてるときにふと見えちゃったんだよね。君の左肩にアーロン一味のトレードマークがあるのを」
私がそう言うと、彼女はハッとした顔で左肩を右手で庇うように押えた。
まぁ、着替えなんて覗く趣味はないから嘘なんだけど……。
「ライア……、やっぱり私をいやらしい目で見てるんじゃないの?」
「今は君の精一杯の冗談に応える気はないな」
ナミはわざと戯けたような声を出したが、私は真っ直ぐ彼女を見据えて、話を変えさせなかった。
「――ったく。その目で見つめるなって何回言ったらわかるのよ」
彼女は顎に手を置いてそっぽを向きながら、悪態をつく。
「そうよ。私は魚人海賊団の幹部なの。認めるわ。はい、これで満足かしら? で、私は出ていけば良いの?」
そして、ヤケになったような口調で魚人海賊団に所属していると話した。
「出ていくなんて言わないでくれよ。寂しいじゃないか」
「はぁ? 私を追い出したいから、追及したんでしょ? アーロンの部下となんか、誰も居たいとは思わないわよ」
ナミは両手を広げて訳がわからないというような仕草をとった。
私のほうがわからないよ。君を追い出したいなんて思ってもないから――。
「追及した理由は、君を助けたいからだ。仲間としてね……。そして私は君と居たいと思ってる! 関係ないよ、君の立場も過去も全部。ルフィたちもきっと同じ気持ちさ」
私はナミに感謝している。あのとき、出会ったばかりの私の頼みを聞いてくれた。
カヤを守って一緒に居てくれた。自分の命が危険になる可能性があるにも関わらず。ルフィたちみたいな戦闘力もないのに……。
要するに私は恩返しをしたいのだ。
「もう、顔が近いわよ……。私は別に助けてほしいなんて――」
「海賊を嫌っている君が何もないのに魚人海賊団に入るわけないだろう? 脅されてると考える方が自然だよ」
海賊嫌いを公言していて海賊をやってるという矛盾があるなら、そういう答えが見えてくる。
「はぁ、何でもお見通しなのね。あなたのそのキレイな瞳は……」
ナミは私の髪を触りながら、ジッと私の瞳を見ていた。目を合わせるなって言ってたから気をつけてたのに……。
「――そうよ。私はアーロンに飼われている。故郷の村をあいつが支配してるから……。あとは言わなくても分かるでしょ?」
諦めたようにナミはアーロンに村が支配されているのを引き合いにされて、今の立場にあると話した。
「うん、大体は察しがつくよ。じゃあ、私たちがアーロンを――」
「――それは絶対に止めて! 私、あなたたちを良い奴らだと思ってる。本当よ! だから、死んでほしくないの! 大丈夫よ。私は助かる見込みがあるの。もう少ししたら……」
ナミは真剣な顔で私の言わんとすることを否定した。彼女の助かる見込みは一億ベリーをアーロンに支払って、村を買い取る事なのだろうが、あいにくその約束を彼は守る気がない。
でも、それを言っても無駄だし、彼女は聞かないだろう。
「死んでほしくない、か。君の気持ちはわかるよ。でもね、君はルフィのことを見くびってる。彼は強いし、君のためなら命懸けで勝利を掴むことが出来る男だ。ナミ、私もこの話を聞いたからには引くわけにはいかないんだ。だから、1つ私とギャンブルをしないか?」
私はナミに賭けをしようと持ちかけた。彼女にウチの船長を頼ってもらうようにするために。
「ギャンブル? いきなり何を言ってるの?」
ナミは私の髪を触るのを止めて、首を傾げて不思議そうな声を出した。
「これから、ルフィは必ず
私はルフィの実力をもっと知ってもらうために彼女にこのような提案をした。
「じゃあ、私が勝ったらどうしてくれる気なの?」
ナミは私が賭けるモノについて尋ねてきた。
「そうだな。君が勝ったらこのメリー号を君にあげよう。私がこの船を賭ける意味はわかるよね?」
私はある意味、命よりも大事なこの船をギャンブルの賭け金に選んだ。そうでもしないと、本気さが伝わらないと思ったから。
漫画通りルフィが勝てなかったら、死ぬほど間抜けだとわかっていながら。
「――ライア、あなたってすっごくバカなのね。だけど……、そのバカな賭けに乗りたくなっちゃった。いいわよ。私が勝ったらこの船をホントに貰うから後悔しなさい」
ナミに私の本気さが伝わったのか、彼女は賭けに乗ってくれた。バカとは心外だな……。
「わかってるよ。そのかわり私が勝ったら、約束を守ってくれ」
「――っ!? わかったわ……。あいつらにも話すって約束する……」
ナミは少しだけ迷って首を縦に振った。
こうして、ルフィの知らぬところで彼は私とナミの賭けの対象になった。
ルフィ、お願いだから勝ってくれ。
と、そんなことを思っていたら……。今までに感じたことがないくらいの巨大な気配の接近を私は感じ取ったのだった――。
ということで、ナミも一緒にクリーク戦を見守ることとなりました。その前にミホーク戦がありますが……。