風が涼しい、花も機嫌が良さそうだ。今日も俺は花屋の店番をする。この前は彼女と期末テストでの対決をした。しかし、僅差で負けてしまった。その結果、名前で呼んでくれと言われた。はぁ、どうしてこうなった……。
「おはようございます、暁……さん」
「おはよう、紗夜。慣れないなら無理に呼ばなくてもいいぞ」
「いいえ、無理はしてません。私がテストに勝ったのですから、呼ばせてもらいます!」
とまぁ紗夜は無理をしている。俺がテストに負けたことにより、二人で名前で呼び合うということになった。いや、なってしまったが正しい。
何か近いうちにタメ口になりそうだ。さすがにそれはないか。紗夜は勇気を出したんだろうな。そうだったら無理をするなって言うのは失礼に値するか。俺は紗夜に勇気を出した、という親しみを込めてジンジャーの花を使ったアロマを贈った。
「暁さん、これは?」
「ジンジャーを使ったアロマで、花言葉は"慕われる"だ。テストで頑張ったから報酬でやる」
「報酬で……?私は暁さんに勝つために頑張ったのですよ?貰ってもいいんですか?」
「まぁ貰ってくれ。紗夜、俺はお前を慕ってるんだ。尊敬出来る"友人"なんだから」
俺は見守るかのように紗夜を見つめた。これは俺からの気持ちだ。紗夜に貰ってほしいから渡したんだ。少しはリラックスしてほしい、彼女が無理をしないように、と願いを込めてな。
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私はジンジャーのアロマを渡された。暁さんは私のことをどう思ってるんだろう。最初は放っておけないと言われた。その次は尊敬出来る友人、この言葉は何も響かない。どうして響かないのだろう。
「紗夜さーん、元気ないですけど何かありましたか?」
「宇田川さん……。いいえ、特に何もないですよ」
「そうですか?あこから見たら何かあったなぁっていう風に見えますよ?」
「何でもありませんよ。さ、練習に戻りましょう」
宇田川さんに心配されるなんて、疲れてるのかしら?宇田川さんはたまに勘が鋭い時がある。ここでバレては練習に支障が出てしまう。私は湊さん達にバレないようにアロマを使った。リラックス……リラックスだ。
練習を終え、私は日菜と話をした。慕われたことはあったか、と。日菜は天災だから慕われることはないかもしれない。でも、今話せるのは日菜しかいない。
「んーあたしはないかなぁ。慕われるってなんなのかよくわかんないんだよねー」
「そうなのね、さすがにないわよね」
「こういう話するなんて、おねーちゃん何かあった?さと君になんか言われた?」
「暁さんから尊敬してるって言われただけよ」
しまった!日菜には暁さんのことを名前で呼んでることは言ってないんだ。私はとんでもないミスをしてしまった。これは根掘り葉掘り聞かれるわね。これは自分のミス、仕方ない。
もちろん案の定、日菜から聞かれた。おねーちゃんはさと君のことが好きなんだね、と言われた。違う、私は暁さんのことは好きな訳ではない。
「言っておくけど、暁さんは友人よ!」
「ホントに?気づいてないだけなんじゃないのー?おねーちゃん可愛い!」
「か、かわ!?言わないでよ日菜!」
はぁ、今日は疲れる。何もかも暁さんのせいだ。暁さんのことを恨みたいわ。
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そろそろ一学期が終わる。夏からシャルロッテが忙しくなる。まぁ、お盆休みに伴って花買ってく人が多いんだ。もしあれなら紗夜にも手伝ってもらおうかな。手が空いてればだけどな。
「んーこれから忙しくなるなぁ。はぁ、休みがほしい」
花に水をやりながら愚痴る。こんな暑い中で店番なんて冗談じゃない。暑いというより、まだ7月だ。もう8月なのかというくらいに今年は暑い。
こんな姿見せられない!特に紗夜には見られたくない。あいつに見られたら何か言われちまう。ここで説教されるのはさすがにごめんだ。俺は背筋を伸ばし、両腕を伸ばした。まずは力を抜いて、深呼吸だ。ふぅ、よし!OK!
深呼吸を終えた瞬間、レノンが吠えた。吠えたってことはあいつが来るのか、レノンの吠える音量によって誰が来るかわかる。穏やかってことは紗夜だ。あいつ、ギターケースを持ってない。今日は暇ってところか。
「紗夜、今日はどうしたんだ?」
「今日は花を買いに……。あら?今日は大変そうですね」
「ああ、今日から忙しくなるんだ。花を買いに行く人が何人か来るらしくてな」
「そうでしたか。あの暁さん、今度店番手伝いましょうか?」
「え!?いいのか、練習あるんだろ?両立とか大丈夫か?」
紗夜大丈夫なのか?シャルロッテの常連とはいえ、店番はしたことないだろ。そこに関してはサポートするが、練習に課題に店番、これだけの量をこなすのは難しいと思うが……。
だが、紗夜はそれでもやりますと言った。こいつ、本気だ。まず母さんに話してみて相談するか。俺は紗夜に待ってろと言い、母さんに相談することにした。しかし、答えは……。
「いいよ紗夜ちゃん!むしろ助かるよ!」
「はっや!判断早いな!」
「ありがとうございます!では、よろしくお願いします暁さん!」
「お、おう。これでよかったのか?」
何か断れなくなったな。まぁしょうがない、ここまで来たら一緒にやるしかないか。俺は紗夜によろしくと言った。
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店番を早速やることになった。緊張するわ、初めてとはいえ、やっぱり固まるわね。暁さんはこれをこなしている。さすがは看板息子だわ。
「暁さんは凄いですね」
「え?凄いって何がだ?」
「店番です。私は緊張している、けど暁さんは手慣れてる。これだけなのに凄いと思えるんです。尊敬しますよ」
そうか、と暁さんは手を頭の後ろに置いた。これは照れてるわね。暁さんが顔を赤くするなんて珍しい。話している内に客が来た。さぁ、始めるわよ!
「いらっしゃいませ!」
「い……いらっしゃい……ませ」
「あら、新しく入った子?可愛いわね、頑張ってね!」
お客様から褒められた、可愛いと言われた。暁さんは笑顔で話してる。やっぱり凄いわね暁さん。私はギター、暁さんは花、何でか知らないけど、何か差を感じる。
お客様が花を買った後、彼女さん大事にね、と冗談混じりに言われた。違うわよ!私は暁さんの彼女じゃないの!友人よ!こんなこと言われるなんて想定外だった。
「紗夜、顔赤いけど大丈夫か?」
「大丈夫です。暑くはありません」
「そうか、無理はするなよ」
「はい……」
今そんな心配をされたら先行きが不安になる。私からした今は不安しかない。これは慣れるしかない。暁さんは半年で慣れたと言っていた。どうしたらそんなに慣れるのよ。私は頑張ることにした。これは暁さんに与えられた試練だ。私はこの試練を乗り越えなければならないんだ。
夕方5時、営業終了時間、やっと終わった!私はガチガチに緊張した。そんな私を置いていくかのように暁さんは接客をしていった。今だけは私の負けだ。
「お疲れ様紗夜。どうする、送ってくか?」
「お疲れ様です暁さん。大丈夫です、一人で帰れますので」
「そっか。どうだった?初めての店番」
「緊張しかなかったですね。会計や花を探す、これだけで大変でしたね。途中でパニックになってしまいましたが、いい経験になりました」
「ならよかった。何かあったら連絡するから、今日はありがとな」
じゃあな、と暁さんは手を振った。いい笑顔だ。今の私にとっては、暁さんの笑顔は眩しかった。暁さんの隣に立てるように頑張ろう。目標は接客に慣れることだ。
少女よ、試練を乗り越えよ