店番を始めて一週間、私はようやく店番に慣れてきた。最初はガチガチだったけど、暁さんのサポートもあってか、ガチガチはなくなってきた。暁さんにはお礼を言わないと……。
暁さんからは大分良くなってきたと言われた。よし、このままいけば暁さんの隣に立てる。店番に相応しいレベルになれる、それは私にとっていつの間にか出来た目標だ。
「さすが紗夜、店番慣れてきたじゃん!あとは花の名前辺りか。まぁ花は俺がサポートするが……」
「ありがとうございます暁さん。花の方は少しずつ覚えていきますので、サポートよろしくお願いしますね」
私と暁さんは周りからどう見られているのだろう。兄妹?友達?それとも……恋人?いや、恋人はないわ。多分友達に見える筈だ。
それにしても私と暁さんが知り合って3ヵ月になるのね。早いわね。暁さんのことはいくつか知ることが出来た。花屋の看板息子、私と同じ犬好き、香水とアロマを作り始めるようになった、これだけ知ることが出来たのね。それに、私のことは放っておけないという、いつか折れるかもしれないから、何を根拠に言ってるのかしら。
「暁さん、あの時私を放っておけないと言ったのはどうしてですか?もう一つ理由ありますよね?」
「もう一つ、か。それはまぁいつか壊れるんじゃないかって思ったんだよ」
「壊れるって……どういうことですか?」
「何だろうな。紗夜が何かやらかしそうな気がするんだ。俺はそれを止めたいからかな。何かごめんな、こんなこと言って」
私が何かを失敗する、それはライブや日菜辺りかしら?暁さんに言われると胸騒ぎがする。けど、私はそうならないようにする。もし何か起きてしまったら暁さんに協力してもらおう。
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紗夜の表情が険しくなってる。さっき余計なこと言っちまったのが原因だな。ここでこんな空気になったらまずい。俺は話を変えることにした。
「そうだ紗夜、店番やってて楽しいか?」
「そうですね……今は覚えることに必死で楽しいという気持ちは湧きませんね」
「そうか。まぁやってると楽しいって思うようになるさ。こんなこと言うのはあれだが、"楽しい思い出"を作ろうな」
はい、と紗夜は口元を緩ませて頷いた。よかった、笑ってくれた。この空気が続くとまずかったな。俺は店番をしつつ紗夜と話した。夏休みはどうするかだったり、店番の手伝いの予定の打ち合わせをしたり、という話をした。
しかし、紗夜の笑顔を見ること多くなったな。印象に残る、そんな笑顔だ。真面目過ぎる人でも笑うと可愛いと思えてしまう。所謂ギャップ萌えか。
「てかこれ言ってると紗夜が可愛いってなるよな……」
「暁さん、何か言いましたか?」
「へ?いや何でもない」
「そう……ですか。では私は失礼しますね」
「あ、あぁ。今日もありがとな」
営業を終え、紗夜と別れる。彼女に可愛い何て言ったら口聞いてくれなくなるな。はぁ、今後紗夜をどう見たらいいんだかな。
仕方ない、香水作るか。俺は自分の部屋に戻り、香水を作ることにした。何を材料にするか……。集中出来そうか不安しかない。紗夜、明日も来てくれるかな?
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私はベッドの上で悶えていた。さっき暁さんは何でもないと言った。けど、聞こえている。暁さんが私のことを可愛いと言ったのだ。そんなことを言われたのは初めてだ。
「明日私は暁さんとどう顔を合わせたらいいのかしら……」
最近の私、おかしいわね。もしかして暁さんのこと好きなのかしら?いや、そんな訳ないわ。暁さんは友人で話相手だ。そもそも私がシャルロッテの手伝いを始めたのは日菜がるんっと来るからさと君の手伝いするといいよ、というのが始まりだ。
るんっと来るのはどういう意味なの?暁さんの手伝いをしたらいいことあるよ、と日菜から言われて始めたけど、確かにいいことはあった。楽しいと感じる自分がいる、暁さんともう少し一緒にいたいという自分がいる、この二つがいいことだ。
「今回ばかりは日菜に感謝ね。ありがとう、日菜」
私は部屋に響くように日菜にお礼を言った。日菜に届いているのかもしれない。日菜曰く、おねーちゃんレーダーという物に響いたのかもしれない。
これってまた相談した方がいいのかしら?まぁ、今井さん辺りに相談しようかしら……。
そんなことを思っていると、スマホが振動した。画面を見ると暁さんの名前があった。暁さんと初めての通話、緊張するわね。
「も、もしもし……暁さんですよね?」
「紗夜俺だよ、暁だ。言っておくが詐欺とかじゃないからな?」
「わかってます。それで何か用ですか?」
「ああそうだった。手伝いの件なんだが、母さんから夏休みも来てほしいって言われたんだ。大丈夫そうか?」
夏休みも来てほしい、まさかそこまで言われるなんて予想してなかった。練習と手伝いを両立する、大丈夫、私ならやれるわ。私は迷うことなく大丈夫です、と言った。
「大丈夫ですよ」
「そっか、ありがと紗夜。あまり無理はするなよ?何かあったら言ってくれよ」
「心配しすぎですよ。ですが、何かあったら頼ろうかしら……」
「もう一度言うが、本当に無理だけはするなよ?紗夜のこと心配なんだからさ」
私が心配、暁さんは心配性ですねと言い、彼との初めての通話を終えた。もう少し話したかったわね。まぁいいか、手伝いの時に話せるんだ。
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紗夜との通話を終え、ベッドに横になった。何か紗夜が恋しいと感じる。これはあれか?恋なのか?どうなんだ一体……。
俺はこれまでの行動を振り返った。昼休みの時に紗夜と話す、紗夜のために香水とアロマを作る、笑顔が可愛いと思える。よく考えると俺とんでもないことしてるんだな。
「紗夜のことを考えると胸が高鳴る。そうか、これが……これが恋なんだな」
やっと気づいた。彼女と知り合って3ヶ月、たった3ヶ月なのに紗夜のことを好きだと気づいた。まさかこんなお花畑の糞野郎が好きな人出来るなんて、我ながらえぇって思うな。
今度の夏休みからどうすればいいんだよ。紗夜と二人きりでいるの更に気まずくなるじゃねえか。まぁ何とか頑張るしかないか。あの真面目過ぎる風紀委員さんを支えられるのは俺しかいないんだ。
紗夜に良いところを見せたい、そんな想いが俺の心を昂らせた。夏休みが楽しくなってきたな。早く明日にならないかな。
次の日、俺は紗夜のことを好きになったことを両親に速攻でバレた。結果、紗夜といることが気まずくなり、良いところを見せるどころかカッコ悪いところを見せてしまった。
恋愛では初心者だから仕方ないよな。少しずつ頑張ろう。紗夜のことを好きになったんだから、俺も努力しないと駄目だ。
看板息子の恋は始まったばかり