紗夜が店番を初めて早四週間経過した。シャルロッテは相変わらず繁忙期で忙しい。しかし、こうして見ると紗夜のエプロン姿似合ってるな。似合ってるといっても仕事の時の姿だけどな。
紗夜は何か迷っていた。表情からして何か悩んでいるような気がした。落ち着いた所で俺は紗夜に話し掛けた。紗夜が悩んでいるのなら力になろう。俺の心では、好きな人に良いところを見せたいっていう気持ちが若干出ていた。
「はぁ……」
「どうした紗夜、溜め息なんか吐いて」
「暁さん、お気遣いありがとうございます。実は悩みがあるんです」
「悩みか、話なら聞くぞ」
俺は紗夜の隣に座り、悩みを聞いた。その悩みは簡単なようで難しい物だった。店番のことについてのことで悩んでいた。まずは話を聞いてみるか。
「店番のことについて?」
「はい。私は今シャルロッテに"手伝い"という形で店番をやっていますよね?」
「手伝っているな。もしかしてあれか?ここでアルバイトしようかなって考えているのか?」
「そんなところです。ですが、アルバイトを始めたらバンドの練習にも支障が出るので、始めようにも始められなくて悩んでいるんです」
始めようにも始められない、か。確かに紗夜はRoseliaで活動をしている。FWFを目標に活動をしている。だが、紗夜は他の人に迷惑を掛けたくないがためにバイトを始められないのだ。
これはどうするか、両立したらいいだろって普通に言うか?いや、それを言ったら落ち込むよな?落ち込むし、怒らせるし……。もし俺が紗夜の立場だったらどうする?俺はバンド活動をしたことがない。だが、やったことはなくても役に立つような助言は出せるかもしれない。
「じゃあさ、こうしてみないか?FWFが落ち着いてからとか、卒業してからとか、それでやってみないか?」
「落ち着いてからですか?」
「そう落ち着いてから。もしくは卒業してからとかだな。俺から言えることはこれくらいしかないが、どうする?」
そうですね、と紗夜は手を顎に置きながら考えた。その様がとても美しいと感じた。普段は真面目で、たまに笑ったりする。紗夜がここまで悩むのは珍しい。聞かせてくれ紗夜、お前の答えを……。
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私は迷った。Roseliaの活動が落ち着いてからか、または卒業してからか、という暁さんの二つの助言にどうするか迷った。まず前者はわかる、けど後者はどうなのだろう。卒業してから?私は卒業してからもここに通うのかしら?そうなると、暁さんと一緒にいることになるわよね?
一先ず後者は置いておこう。前者はFWFに参加して、活動が落ち着いてからアルバイトを始める。うん、これなら私にも出来るわ。よし、前者にしよう。
「Roseliaの活動が終わってからアルバイトを始めます。それまではお手伝いを続けます。行けない時もありますが、それでもいいですか?」
「何を今更、いいに決まってるだろ。俺はいつでも待ってるぞ」
「ありがとうございます暁さん」
「でも大丈夫か?給料は出ないが平気か?」
平気ですよ、と私は暁さんの顔を見て言った。心配そうにしている、私はそんな暁さんの顔を見てこう思った。私のことを凄く心配してくれている、この人は心配性なんだな、と。
私は暁さんにお礼を言うことにした。彼の手を握ってお礼を言った。私のために親身になって考えてくれたこと、相談に乗ってくれたこと、私は少し涙目になりながら言った。
「ありがとうございます暁さん」
「ど、どういたしまして……。紗夜、そんなに泣かなくてもいいだろ」
「泣いてなんかいません。これは、目にゴミが入っただけです」
「何か照れるな。てかそろそろ手離してくれないか?見られてるような気がするんだが……」
私は暁さんに言われ、握った手を離した。離した手には暁さんの温もりが残っている。とても暖かい、もう少し手を握っていたかったわね。でも、暁さんに言われたらしょうがない。
店番をすること一時間、私は違和感を感じた。瞼が重い、もしかして私眠いの?そう思っていると余計眠いと感じた。暁さんに言おう。少し休ませてって言わなきゃ!
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俺は隣にいる紗夜の様子を見ようと紗夜の方に顔を向けた。ん?目を瞑っているのか?寝顔可愛いな……じゃなくて!紗夜がヤバい!俺は紗夜を起こそうと肩を優しく叩いた。
「紗夜、紗夜!」
「……はっ!?さ、暁さん!、」
「大丈夫か?眠そうにしてたが……」
「だ、大丈夫です!昨日少し夜更かししていただけですから」
「そうか。紗夜が夜更かしなんて珍しいな」
夜更かしの理由はさっきの悩みが原因です、と紗夜は言った。そこまで深く悩むなんて、本当に大丈夫か?やっぱり放っておけないな。紗夜は誰かが支えてやらないといけない。まぁ、それは俺がやらないといけないがな。
俺はアロマオイルを紗夜に渡した。いつも眠気覚ましに使っているアロマオイルだ。使っている材料はペパーミント、これを使えば紗夜の眠気も覚めるかもしれない。
「どうだ?眠気、覚めたか?」
「……はい。さっきよりマシになりました。ありがとうございます」
「そのアロマオイル、持ってていいぞ。お守りって思って使ってくれ」
「お守りって、暁さん何を言ってるんですか」
紗夜が笑いながら言った。お守りはおかしかったか。俺は言い直し、眠気覚ましのつもりで使ってくれ、と言った。恥ずかしい、笑われるなんて思ってなかったな。
でもいいか。紗夜の笑顔が見れただけでもいい。間違っててもいいやって思えばいいか。俺は気を取り直し、店番を続けることにした。いつか……いつか紗夜に告白しよう。今度は言い間違えないように気をつけよう。
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店番を終えて帰路に着く。今日も暁さんの笑顔が見れた。最近は暁さんの笑顔が見たいと思うようになっている。どうしてかしら?何故、こんなことを思うようになったのかしら?
「わからなくなってきたわね。もしかして私、暁さんのことを……」
いや、それはないわね。でも、店番を手伝うって思ったからなのか。店番を手伝うっていうのは日菜に背中を押されたからやろうって思ったんだ。自分でやろうっていうんじゃないんだ。
この想いがアレだというのなら受け入れたい。まだ受け入れるには早いわ。私にはやることがたくさんある。バンドや店番、色々あるけれど、アルバイトを始めるのはRoseliaのことが落ち着いてからにしよう。
「暁さん、また笑顔を見せて下さいね」
目の前に、隣に彼はいない。いないけれど、いると感じる。私は彼にお願いをするかのように言った。誰かに聞かれてたらまずいわね。
少女よ、想いに気づくのはそろそろだぞ