凍てついた心に花束を添えて   作:ネム狼

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夏祭りに想いは明かされる



ライラック「恋の芽生え」

 赤のアネモネを模様にした黒の浴衣を着て、俺は公園で紗夜を待った。まさか紗夜から夏祭りの誘いを受けるなんて思わなかったな。俺から誘おうかなって思ったが、何か情けないな。

 

「紗夜は何の浴衣を着てくるかな、楽しみだ」

 

 俺が着てきた浴衣、赤のアネモネ、この花にはある花言葉がある。"君を愛す"、それが赤のアネモネの花言葉だ。俺はこの夏祭りで紗夜のことをもっと好きになるかもしれない。好きになるという自信はある。

 

 だが、告白はしない。そもそも好きだとかわかったのは先月なんだ。紗夜の想いも知らずにいきなり告白に踏み込んだら、最悪関係が崩れる。それだけは避けたいな。

 

「お待たせしました、暁さん」

「紗夜……」

 

 紗夜が来た。振り向いた途端、俺は愕然とした。いつもの紗夜ではなかった。なかったというより、最早別人だった。

 

 紗夜の着ている白の浴衣にはライラックの花が模様になっていた。ライラックの花言葉は"恋の芽生え"だったよな?もしかして紗夜、無意識に選んだのか?無意識ならまだわかるが、知っていたとしたら明らかに狙ってる感がある。

 

 でもそれは言わなくてもいいか。言ったら紗夜を悲しませてしまう。そんなことをしたら台無しだ。誘ってくれたんだから、楽しまないと駄目だ。

 

「本当に紗夜だよな?」

「ええ、正真正銘紗夜ですよ。暁さん、酷いですね」

「そんなこと言われてもだな……別人に見えたんだよ。なんつーか、紗夜綺麗だったからさ」

「私が……綺麗?」

「あ、やべ」

 

 しまった!まだ待ち合わせだよな!?いきなり綺麗って言うなんて早かったか!?でも、あれだよな?最初に褒めるのは基本だよな?俺は紗夜の顔をチラ見した。紗夜の顔は赤くなっていた。しかも口元隠してるし!

 

 

――なんか、可愛いな。

 

 

「い、行きましょう!」

「そうだな!行こうか!ああ楽しみだな!」

 

 可愛いと思っていることがバレないように、俺は楽しみにしていると装いながら紗夜と公園を出た。はぁ、本当に大丈夫なのか?先が不安だよ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 屋台まで来たのはいいけれど、着くまで私と暁さんは一言も喋っていない。この時点で不安だわ。日菜は今井さんと一緒に行くよ、何て言っていないし、頼りになる人はいないし、気まずいし……。

 

「紗夜」

「……はい?」

「離れるなよ」

 

 暁さんはそう言うと、私の手を繋いだ。へ?離れるな?というかいきなり手を繋ぐって、暁さん、大胆すぎませんか!?

 

 私は突然のことで頭が真っ白になった。手を繋がれただけなのに、こんなことで真っ白になっては駄目だわ。私は暁さんに何故手を繋いだのですか、と聞いた。

 

 

「迷わないようにするためだ」

「そ、そうでしたか!そうですよね!」

「そうだよ。あと、髪型……似合ってるぞ」

 

 今、私の髪を褒めてくれたのよね?ポニーテールにしたのはやり過ぎたかしら?今井さんから言われたからやっただけなのに、直接言われると嬉しいわね。暁さんがそう言うのなら私も暁さんに言おう。

 

 

――これはお返しよ。

 

 

「暁さんも似合ってますよ。浴衣綺麗ですね」

「ゆ、浴衣!?ありがと紗夜……」

「照れてますね。その花、何の花ですか?」

「アネモネだ。赤のアネモネだが、花言葉は……教えねぇ」

「教えないですか、では今調べて……」

「待ってくれ紗夜!調べるのは夏祭りが終わってからにしてくれないか?」

 

 夏祭りが終わってから?暁さんの顔を見ると、冷や汗を掻いていた。怪しい。これは後にした方がよさそうね。暁さんがここまで焦っているとなると、何かあるのかもしれない。疚しいことではないと思うけど……。

 

 私は暁さんにわかりました、と言った。ありがとう、と暁さんは安堵した表情で言い、顔を逸らした。

 

 よかったって、聞こえてますよ暁さん。彼はどうやら知られたくないことがあるようね。今は楽しもう、それで私の暁さんに対する想いをはっきりさせないといけないわ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 それから俺と紗夜は手を繋ぎつつ、屋台を回った。紗夜がりんご飴を欲しそうにしていたから買ってあげたり、狐のお面を買ってあげたり、少しだけだが、紗夜に良いところを見せたりをした。

 

 赤のアネモネの花言葉が知られたらマジで恥ずかしい。この花言葉そのものが告白してるも同然なんだ。それは紗夜も同じだ。だが、紗夜の場合は想いに気づいたって言ってるようなものだからまだ大丈夫だ。

 

「紗夜、夏祭り楽しいか?」

「ええ、楽しいですよ」

「ならよかった。そろそろ花火だが、いい場所があるんだ。そこで見ないか?」

「是非とも、ご一緒させて頂きます」

 

 俺は紗夜の手を引き、いい場所に案内した。いい場所っていっても大した所じゃない。紗夜、お前に綺麗な花火を見せてやるよ。

 

 いい場所、もとい川辺に着いた。俺が何かに落ち込んだ時はここに来ることがある。来る内に気に入った場所だ。紗夜のことが好きだから、見せてやりたい。ここで告白してもいい。

 

 

――俺にその勇気があるか?

 

 

「ここは、川辺ですよね?」

「ああ、何かあったときはここに来るんだ。来てたら気に入ってな。紗夜には教えたかったんだ」

「どうしてですか?」

「どうしてって、まぁあれだ。紗夜になら教えてもいいかなって思ったんだ」

 

 勇気があるのか、そんなの関係ない。例え勇気がなくても、待てばいいんだ。怖じ気付いていても、好きでいたい。今はこの時間を堪能したいんだ。この時を……この瞬間を――

 

 

――紗夜と一緒にいるこの時間を大切にしたい!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私と暁さんは川辺の近くにあるベンチに座った。ここで暁さんと花火を見るのね。暁さんと一緒にいると落ち着く。手を繋いでいた時は安心した。やっぱりこの想いって……。

 

 本当に受け入れていいのかしら?受け入れたら後戻り出来なくなる。私が私じゃ無くなってしまう。でも、受け入れないと先に進めない。このまま止まったままになる。

 

「お、花火が上がった。始まったな」

「あ……綺麗」

 

 花火が上がる音がした。夜空に煌めく花火、いくつものの花火が空を彩る。上がる度に私の心が高鳴る。私は横で花火を見ている暁さんの顔をチラッと見た。

 

 彼は笑っていた。この花火を楽しみにしていたんだ。私は彼の笑顔を見る度に安心していた。彼の笑顔をもっと見たい、彼のことをもっと知りたい、時が経つに連れ、私は彼のことを目で追っていた。

 

「さ、暁さん!」

「ん?どうした紗夜?」

「花火、好きなんですか?」

「好きだよ。空に花が咲いてるみたいで好きなんだ。どんな花みたいなのか、どういう意味が込められてるのか、そういうことを考えるのが面白くてな。そしたらいつの間にか好きになってた」

 

 彼は微笑みながら、花火が好きになった理由を語った。ああ、そうか。やっと……やっと私は気づいた。

 

 私は本当は知っている。赤のアネモネの花言葉を知っている。君を愛す、それが赤のアネモネの花言葉だ。私の着ている浴衣にあるライラック、花言葉は――

 

 

――恋の芽生え。

 

 

 今井さんに薦められて着た浴衣だけれど、今井さんは知っていたのかもしれない。だとしたら確信犯だ。けど、今は今井さんに感謝したい。

 

 私はようやく気づけた。暁さんのことが好きなんだ。彼と話して、彼のことを知って、彼と店番をして、彼と接して4ヵ月、ここまで来て気づけた。

 

 私は今恋をしている。真面目で、ギターしかなくて、負けず嫌いな私だけど、それでも彼のことを好きでいたい。今は暁さんと花火を見ていたい。この瞬間を共有したい!

 

 私の本当の青春は、夏の終わりと共に始まった。暁さんに恋をするという、甘い青春を……。

 




夜空に咲く花と共に、恋の火は灯る
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