凍てついた心に花束を添えて   作:ネム狼

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その快楽は好きな物程クセになる


チューベローズ 「危険な快楽」

 今日は俺は休みだ。休みというのは店番のことである。シャルロッテはもちろん、絶賛営業中だ。俺は休みということで、レノンの散歩をしている。

 

「散歩してたら紗夜とばったり会う、何て都合の良いことは起きないか」

 

 レノンの散歩を終え、シャルロッテに戻った。香水作りは今日はいいか。せっかくの休みなんだ、たまには出掛けよう。香水作りで引き籠るのはあまり良くない。さて、何処に行こうかね。

 

 外に出ようとした時、近所のおばちゃんに話し掛けられた。今日は休みなの、と聞かれた。休みなので、どっかに出掛けようかな、と俺は答えた。ここで話すのもいいが、あまり時間は掛けたくない。

 

 それからおばちゃんとは30分程話をした。話といってもほぼレノンの話題くらいだった。犬好きじゃなかったら話に付いていけなかったな。危なかった。

 

「じゃあ改めて、行きますか。紗夜に会えねえかな。て、さっきも言ったな」

 

 二度も言うなんて、紗夜のこと好きすぎだろ俺。ここまで来たら重症だ。快楽にさえならなければ問題ない。下手したら、快楽にハマって抜け出せなくなるかもしれない。それだけは、避けよう。いくら好きとはいえ、そうなったら告白どころじゃねえ。

 

「あら、暁さん?」

「あれ紗夜?」

 

 

――は?紗夜!?何この偶然!?

 

 

「お、おはようございます。夏祭り以来……ですね」

「いや、夏休みは終わっただろ。二学期になってから学校で会ってるし、話してるだろ」

 

 そうでしたね、紗夜が焦りながら言った。夏祭り以来って、どうしたんだ紗夜?間違えるなんて、紗夜らしくない。つか俺も人のこと言えないな。冷静だが、心の中は心臓バクバクだ。持ってくれよ、俺の心臓!

 

 

▼▼▼▼

 

 

 今日は練習は無い。無いけれど、日菜は仕事でいない。ギターの練習も大事だけど、たまには息抜きも必要ね。そうなると、ポテトでも買いにいこうかしら。

 

 休みの日には自分へのご褒美として買っている。子供の頃、ポテトを食べた時、私はハマってしまった。癖になるくらいにハマってしまった。今では必需品というくらいに好きになっている。

 

「メニューにポテトがあったら注文せずにはいられないわね」

 

 私はポテトを買った後、店内で食べることにした。もし誰かに会ったら一大事だわ。特に、暁さんにバレたらおしまいだ。だから、今日は店内で食べよう。

 

 今日は私一人だけれど、今度は日菜も誘おう。それで、いつかは暁さんも一緒に……って私は何を考えてるの!?何か妄想してるみたいに見えて恥ずかしいわ。

 

「ご馳走さまでした。美味しかったわね」

 

 さぁ食べ終わったわ。私はファストフード店を出て、今度は何処に行こうかを考えた。次は何処に行こうかしら。楽器店?それとも……このまま帰る?迷うわね。

 

「あら、暁さん?」

 

――え?

 

 

「あれ紗夜?」

 

 

――暁さん?気のせいよね?気のせいよね!?

 

 

 私は暁さんに挨拶をした。しかし、想定外のことに動揺したせいか、夏祭り以来ですね、と言ってしまった。しまった、私は何をしているの!?こんなことで間違いを起こすなんて、私らしくない。

 

「えっと……暁さん。今日は何を……」

「散歩だな。さっきまでレノンの散歩をしてたが、今は一人だ。紗夜こそ何をしてたんだ?」

「私は……」

 

 ここでファストフード店に行ってました、なんて言ったらバレる。ここは嘘を付くしかない。嘘を付くというのはやってはいけないけど、今は状況が状況、やむを得ないわ。

 

 楽器店に行ってました、私は澄まし顔で言った。バレないようにしましょう。暁さんが気づく筈がない。さっき口の周りも拭いたんだ。だから、大丈夫!

 

「紗夜、嘘を付いてないか?」

「え?」

「紗夜から何か匂いがするんだ」

「私……匂いますか?」

「言い方が悪かったな。装ってるような感じがしたんだ。楽器店に行ったっていう辺りで一瞬真顔になっただろ?」

 

 はい、私の負けです。私は暁さんに正直にファストフード店に行ったことを白状した。好きな人にバレるなんて、ショックね。暁さんが嘘を見抜いた時のキメ顔、何か腹立つわね。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 紗夜がポテト好きだったなんて意外だ。俺は笑いながら紗夜に言った。好きな人のことを知れた、それだけのことなのに嬉しいと感じる。何でだろうな。

 

 俺と紗夜は歩きながら話をすることにした。今日は散歩をして正解だったな。紗夜に会えたっていうのが大きい。短い時間だろうけど、話に花を咲かせないといけない。

 

「笑わないで下さい!」

「ごめんごめん。紗夜がポテト好きだったのが意外だったからさ」

「そうですか。じゃあ聞きますが、暁さんは好きな物って何ですか?あ、花以外でお願いします」

「花って言おうとしたのにいきなりだな!」

 

 花以外となるとあれしかないよな?食べ物だったら野菜になるが……。ああもう!野菜って答えよう!俺は紗夜の顔を見ながら答えた。

 

「野菜だよ」

「すいません暁さん、知ってました」

「知ってたのかよ!さっきまで悩んでたのが馬鹿みたいだよ!」

「前に暁さんのお弁当を見たのですが、野菜が多めでしたので、ベジタリアン何だな、野菜好きなんだなと思ったので」

 

 何だこの複雑な感じは……。俺がベジタリアンだったのバレてたのかよ。あれ?てことはあれだよな……。昼は紗夜と一緒だった、昼飯も一緒、元からバレてたってことだよな……。

 

「負けた」

「負けたって、暁さんが自爆しただけでは?」

「やめろ言うな、追い詰めるな」

 

 そうだよ、自爆だよ!俺の負けだよ!俺は紗夜のことを知れたという嬉しさに浸っていたが、自爆したことで一気に冷めてしまった。もういいや、後でレノンに慰めてもらおう。

 

 俺と紗夜はシャルロッテに着くまで話を続けた。今度はどんな香水を作ってくれるのか、練習やライブは順調か、とか他愛のない話をした。こうして話をしていると、時間が長く感じる。シャルロッテに着けばこの時間は終わりだ。それまでこの時間を堪能しよう。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 今日は暁さんに会えてよかった。長く話が出来てよかった。暁さんと一緒にいれたのなら、ポテトのことは別にいいと思えるわ。さっきの暁さん、面白かったわね。

 

「おねーちゃん楽しそうだね」

「日菜、あの時はありがとう」

「夏祭りのことだよね。あたしはおねーちゃんの背中を押しただけだよ。そんな大したことはしてないって」

「それでもよ。日菜や今井さんのおかげで、私は暁さんのことを好きだと気づけた」

 

 私は日菜にもう一度ありがとう、とお礼を言った。日菜が涙を流した。あれ!?私、また何かしたかしら!?私は日菜に泣いた理由を聞いた。

 

「どうして貴女が泣くの」

「だっておねーちゃんに……ありがとうって言われるの……久しぶりで……」

「もう貴女は……ほら、こっちに来なさい」

 

 私は日菜を抱き締め、頭を撫でた。言われてみると、日菜にありがとうって直接言ったのは久しぶりだ。いつもは心の中で言ってたけど、今回は日菜にお礼を言いたかった。

 

 日菜のおかげで……今井さんのおかげで私は気づけたんだ。あとは暁さんに想いを伝えるだけ。でも、今の私にはそんな勇気はない。もう少し経ってからにしよう。それで、暁さんに告白をして、恋人になる。

 

 

――そのためには、暁さんのことをもっと好きにならないと駄目だ。

 

 

 




あとは自分次第だ
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