私は暁さんにある花を紹介された。その花は、ススキという秋の七草だった。平地や山、道端、空き地等に咲いている、よく見かける花だ。
「暁さん、この……ススキを私に話したいということは、何かあるんですよね?」
「そうだよ。紗夜に聞いてほしいのはそれだけじゃないんだ。ススキの花言葉を知ってほしくてな」
「花言葉?どんな意味が込められてるんですか?」
「ススキの花言葉は、″心が通じる″だ」
心が通じる、何かロマンチックね。それを聞くと、暁さんと心が通じ合っているのか知りたくなるわね。私は心が通じ合っているか気になり、彼に聞くことにした。
「あの……暁さん」
「ん?どうした紗夜」
「私と暁さんは……その……通じ合っているのでしょうか……」
「通じ合っている?何がだ?」
「えっと、心です。恥ずかしいので、言わせないで下さい」
紗夜が聞いたんだろ、暁さんが口元を緩ませながら言った。もし私と暁さんが通じ合っていたら嬉しいわね。暁さんが私のことをどう思っているかは分からない。けど、暁さんが私に伝えようとしていることが花言葉なら、調べれば分かる。
彼が花言葉で想いを伝えるのなら、私も花言葉で応える。こんなことを考えると、恥ずかしさが増すわね。私らしくないわ。こんなところ、日菜に見られたら生きていけないわ。
「心か……。それは分からないな」
「ですよね、聞いた私が馬鹿ですね」
「いや、紗夜は馬鹿じゃないだろ。別に心じゃなくてもいいんじゃないのか?」
「心以外に何かあるんですか?」
「心以外でか?そうだな……花言葉ならどうだ?」
私は思った。彼なら言うだろう、と。さっき私も同じことを思ったところなのに、この人はどうして普通に言えるんだろう。まぁ、答えは一つしかないわよね。
――花が好きだから。
「考えることは同じなんですね」
「同じ?紗夜も俺と同じ答えってことなのか?」
「え、ええ。そんなところです」
「そっか、何か嬉しいな」
「へ、嬉しい!?」
「考えることが同じだとさ、安心するんだよ」
言われてみると分かる気がする。でも、複雑だ。暁さんのことではない。主に日菜だ。
私と日菜は全く違う。日菜は初めてのことはすぐ出来る天才、私は努力を重ねないと出来ない晩成、そうなると考えることは異なってしまう。こんなこと、あまり考えたくはないのに、真っ先に頭に出てしまう。私の悪い癖だわ。
「紗夜、大丈夫か?」
「え?だ、大丈夫ですよ」
「ならよかった。あ、そうだ紗夜」
「何ですか?」
「香水を作ってなかったんだが、何か使ってほしい花はないか?今回は紗夜のリクエストに応えるから」
使ってほしい花、いきなりそんなことを言われても困るわ。私は暁さんにシャルロッテで香水に使う花を探していいですか、と尋ねた。暁さんはいいぞ、と答えた。よし、私はシャルロッテで香水に使う花を探すことにした。
▼▼▼▼
シャルロッテに戻り、紗夜は香水に使う花を選んだ。そんな紗夜を俺は後ろから見守った。紗夜は花言葉を知らない、多分見た目で選んでるんだろう。どんな花を選ぶのか楽しみだ
「暁さん、この小さい花は何ですか?向日葵みたいですが……」
「どれ……ああそれか。その花はサンビタリアっていう花で、花言葉は″私を見つめて″だ」
「ではこの花は?」
「それはアカネ、花言葉は″私を思って″だ……」
「暁さん、どうしましたか?」
紗夜、狙ってないよな?彼女の選んだサンビタリアとアカネ、花言葉が全部恋愛系ということをこいつは分かっているのか。俺は紗夜に赤面している所を隠しながら、何でもないと言った。
そうですか、紗夜は心配そうに言った。よく見ると、紗夜の耳が赤くなっているのが見えた。紗夜も意識してるのかもしれない。花言葉ってやべえ物もあるから危険だな。
「その二つでいいか?」
「え、ええ。この二つの花でお願いします。どのくらいで作れますか?」
「そうだな……早くて明日には出来るかな。なるべく早く完成させるから待っててくれ」
「分かりました、楽しみにしてますね」
紗夜、相当楽しみにしてるな。どのくらいでって言ってる時点で隠せてない。遠回しに言うんじゃなくて、直球で聞く。紗夜ってたまに天然になるな。
「そろそろ練習の時間ですね。では暁さん、また明日」
「ああ、また明日」
俺と紗夜は互いに手を振り別れた。さて、今日は徹夜だな。明日も休みだから、昼寝をすれば問題ないか。俺は紗夜と別れた後、そのまま店番を始めた。このまま休んだら何か言われちまう。言われるのはごめんだ。
――香水作ってる途中で寝ないか心配だな。
▼▼▼▼
練習を終え、家に帰った後、私はギターをケースから出してスタンドに立て掛けた。サンビタリアとアカネ、暁さんから花言葉を聞いた時、私は耳が赤くなっていた。思い出すだけで恥ずかしくなる。そのせいで、練習に集中出来なかった。
「今回ばっかりは、私が悪いわよね。今井さんにはバレるし、宇田川さんから乙女ですねーと言われるし、散々だわ」
「おーねーちゃーん!」
「日菜、ノックはしなさいと何度も言ってるでしょ?」
「ごめんごめん。ねえおねーちゃん、さと君と何かお話した?」
「お話?ええ、したわよ。それがどうしたの?」
私は日菜に質問した。確かに暁さんと話をしたけど、どうしたのかしら。日菜が楽しそうに私を見ている。あ、これはまた質問攻めになるわね。でも大丈夫だ。私は質問攻めに慣れた。今井さんはまだ慣れてないけど、日菜なら大丈夫だ。
――多分……。
「香水のことで話をしたわ」
「ふーん。じゃあ花言葉は?」
「花言葉?……特に話はしてないわよ?」
「疑問形……。ははぁ、おねーちゃん隠すつもりかな?」
「な、何のことかしら?」
「おねーちゃん目を逸らしても無駄だよ?おねーちゃん、嘘をつく時、右手で髪触るよね?ということは……他にもあるんだねー?」
しまった!日菜の言う通り、私は嘘をつく時、右手で髪を触る癖がある。今の私は右手で髪を触っている、これは逃げられないわね。
「ち、違うのよ日菜!これは……これはね……髪を触りたかっただけなの!」
「おねーちゃん、逃げられないよー?」
「わかったわ!わかったから顔を近づけないで!怖い、怖いから!」
私は両手で日菜の肩を掴み、日菜が近づくのを防いだ。日菜の胸が少し見えている。ああもう、何なのよ!この子!
その後、私は観念して日菜に全てを話した。もちろん、花言葉のこともからかわれた。だから言いたくなかったのよ。特に日菜にだけは言いたくなかった。
「おねーちゃん、それって完全に告白だよ!もう可愛いなおねーちゃんはー」
「恥ずかしいから言わないで。最初は知らなかったの、でも意味を知ったら意識しちゃったのよ」
「おねーちゃん可愛すぎだよ!」
やめて日菜、それ以上言われたら私が持たないわ。私の顔は真っ赤になっているかもしれない、こんな所、暁さんに見られたらおしまいだわ。
日菜のからかいが終わった次の日、私は暁さんに香水を貰った。暁さん、眠そうにしてたわね。もしかして徹夜したのかしら。私は暁さんに徹夜したのか聞くことにした。
「ああ、徹夜したよ。突貫工事で作った」
「ごめんなさい、無理をさせてしまって……」
「俺は大丈夫だ。紗夜のためならこんなのどうってことねえよ」
暁さんは微笑みながら言った。その笑顔が胸に刺さる。私のため、という言葉が心に響く。何か申し訳ない気持ちになるわね。
花言葉は時にやばい武器となる