やばい、すげえ眠い。徹夜で香水を作っているのが原因かもしれない。これじゃあ紗夜に心配掛けそうだな。少し寝れば大丈夫かもしれない。今は公園にいるが、ここにいるのは俺一人だ。
「紗夜は遅くなるって言ってたし、寝れば紗夜に眠い事バレないよな……」
今日はレノンの散歩はないから普通に寝れる。寝るといっても、寝すぎないようにしよう。香水作りや店番をやるのもいいが、偶には休もう。
もし紗夜がここに来たらどうなるんだ?膝枕をされるのか、寝顔を見られるのか、どっちなんだろうか。日菜だったら涎垂れてるよとか言いそうだな。
ーー紗夜だったら……紗夜だったら何て言うんだ?
「駄目だ。紗夜のこと考えてると眠れなくなる。忘れよう、今は忘れよう。寝るんだから紗夜の事は忘れよう」
今は紗夜の事は考えちゃいけない。頭を空っぽにするんだ。空っぽにすれば眠れるかもしれん。
ていうかここで昼寝するならアイマスク持ってくればよかったな。アイマスクしてれば寝顔見られずに済むんだけどなぁ。今度試してみるか。
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弓道部の活動を終え、私はシャルロッテに寄ろうか考えていた。店番をしていた時の暁さんは疲れているように見えた。今日は店番は無いって言ってたから、家で休んでいるのかもしれない。そうなると、寄るのはやめた方がいいかしら。
「暁さん、ちゃんと休めてるかしら。心配だわ……」
もし体調を崩していたらどうしよう、お見舞いに行かないと駄目よね?いつも香水を作ってくれているんだ、暁さんに恩返しをしないと合わせる顔が無い。
この前も徹夜で香水を作っていた。私は暁さんに無理をさせてしまった。徹夜してまで……私のために……ここまでしてくれた。
落胆した気持ちで歩いていると、ベンチに誰かが座っていた。凭れているのかしら?私は目を凝らし、誰が座っているのかを目視した。ここからじゃ見えない、もう少し近づけば分かるかもしれない。そう思いながら私はベンチに近づいた。
赤い髪に見覚えのある顔……暁さんだ。私は暁さんに声を掛けようとしたが、彼が寝ていることに気付いた。鼾を掻いてるみたいね。
ーー寝顔が見えてるのは突っ込んだ方がいいかしら……。
「暁さん、寝てるのよね?このままにしておくのはまずいわね。何かやれることは……」
私は暁さんに何かをしてあげたいと思った。暁さんは気持ちよさそうに寝てる、きっと疲れてるんだ。私は彼を起こさないように隣に座った。
暁さんの寝顔を眺めてようかしら……。そんな想いが過る、隣で眺めるよりもアレをやって眺めるのがいいかもしれない。日菜が言っていた……膝枕を……。
「暁さんに膝枕って恥ずかしいわね。頭を膝の上に置いて、寝顔を眺めて起きるのを待つのよね?」
暁さんにやればるんっと来るよ、なんて日菜は言っていたけど本当かしら?私は疑問を抱いた。でも、ここで止まってたら何も進まないわ、ここまで来たら行動あるのみね。
暁さんを起こさないように両肩を掴み、彼をそっと寝かせた。暁さんって意外と軽いのね。背は私より少し高いのに、軽いなんて……何か複雑だわ。
ーーあとは頭を膝の上に置くだけだ。とにかく慎重に……慎重に……。
「紗夜……」
「っ!?」
「……」
「ね、寝言?私を呼んだだけなの?」
寝てる……わよね?もし起きてたらどうしようかしら。いや、ここは冷静になろう。何があっても驚いたら駄目だわ。
それにしても、膝がチクチクするわね。暁さんの髪が当たってるのが原因だ。私は彼の頭に手を置き、撫でることにした。撫で始めると、暁さんの表情が和らいだ。気持ちいいのかもしれない。
「今の暁さん、犬みたいね。寝顔も可愛い」
もし尻尾が生えてたら振っているだろう。暁さんのこの表情は滅多に見れない、日菜の言った通りだわ。確かにこれはるんっと来るわね。暁さんが起きるまで撫でていよう、この寝顔を見ていたら私まで癒されるわ。
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誰かに撫でられてるような気がする。これは誰の手だ?柔らかい何かが頭に伝わってくるし、声もする。この声はいつも聞いている声だ。俺の隣で話を聞いてくれて、かっこよくて、綺麗で、俺が想いを寄せている人だ。
ーーそうだ、この声は紗夜だ。
「ん……」
「あら、起きましたか」
「紗夜……なのか……?」
「ええ、私です。おはようございます、暁さん」
やっぱり紗夜だ。まさか紗夜がいるなんて思わなかったな。側にいてくれるなんて……。
ーーん?側にいる?
「お、おはよう。待って、何で紗夜がいるんだ?」
「暁さんが寝てるところを見たので、その……膝枕をして……あげました」
「え?膝枕……?」
「はい、膝枕です!恥ずかしいから言わせないで下さい!」
は!?待て、紗夜が膝枕!?てことは起きるまで俺は紗夜に膝枕されてたのか?あと撫でられてたよな?もしかして撫でてくれてたのは……紗夜なのか!?
膝枕されて、撫でられて……ここまではいい。あとあれだよな?寝顔も見られてたってことだよな?うわあ、恥ずかしくなってきた。
俺は紗夜にされたことを頭の中で整理した。しかし、寝顔を見られたということで頭がいっぱいになり、整理するどころではなくなった。好きな人に寝顔を見られるとか最悪でしかない。すげえショックだ。
「なあ紗夜、寝顔見たよな?」
「い、いえ!見てませんよ!」
「目逸らしてるってことは見たんだな!写真とか撮ってないよな!?」
「だ、大丈夫です!写真は撮ってないので安心して下さい!」
よかった、寝顔は撮られてないようだ。紗夜がそんなことする訳ないよな。俺は紗夜に撮ってないことを聞き、安心した。でも、膝枕をされたことだけはアウトだ。
俺は紗夜に膝枕をした理由を聞くことにした。俺が寝てるところを見て疲れてる風に見え、何か出来ることはないかを考え、結果、膝枕をしようということに至ったそうだ。いやいや、膝枕以外になかったのかよ?
「紗夜が膝枕はビックリしたな。日菜にはいつもしてあげてるのか?」
「日菜にはたまにやってあげてます。私の顔を見て笑ってることが多いですね。途中で寝ちゃいますが……」
「へえ。紗夜はさっきまで起きてたのか?」
「ええ、暁さんが起きるまでずっと起きてましたよ」
「マジか、何かごめんな」
謝ることはないですよ、紗夜は微笑みながら言った。紗夜はどうやら部活帰りだったようだ。だから制服を着てたのか。てか駄目だ、さっきから膝枕のことで頭がいっぱいだ。紗夜の顔が見れねえよ。
「暁さん、どうしました?」
「何でもない!」
「ふふっ、変な暁さんですね」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味ですよ」
すっげえ複雑、俺は唇を尖らせた。紗夜に変って言われるの久しぶりだな。
まあいいか。今日は紗夜に膝枕をされたんだ。ここで寝ててよかったな、予想外だったけど、何か幸せだ。紗夜に癒しを貰ったってことにしておくか。
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あの後、私は暁さんと別れ、帰路に着いた。今日は私にとっていい一日になった。暁さんから寝顔を撮ってないか聞かれたけど、あれは嘘だ。本当は撮った。
「あの寝顔を見たら撮るしかないじゃない。暁さんの寝顔はレアなんだもの」
タイミングを逃したら二度と見れなくなるわ。あそこで撮らなければいつ撮るんだ。私はスマホで撮った暁さんの寝顔を見ながら思った。本当に可愛いわ、これはニヤッとするわね。
暁さんに膝枕をして正解だったわね。暁さんの寝てるところに会えなかったら、こんなことはないわ。この写真、待ち受けにしたいけど、やめた方がいいわよね?
偶然は時に互いに得を与える