五月に入ったが、連休はすでに終わっている。俺は連休はほとんど店番を勤めていたが、休みが欲しかった。若いし、客寄せには最適だから仕方ないか。
今は授業中だ。中間試験がそろそろ近いが、範囲はまだ決まっていない。氷川さんからも中間試験は勝負しませんか、と言われたが、俺はその勝負を受けることにした。まぁ、勝てるかどうかはわからないが、やってみないとわからないよな。
授業を終えて昼休みとなる。先週氷川さんから昼休みを一緒にしないかと言われ、俺はそれに同意した。ただし、噂にならないようにするため、授業が終わったらすぐに屋上に行くようにしないといけない。氷川さんと一緒に行くと後が怖い。
「氷川さん、今日は早かったんだな」
「あら、結城さんは遅かったですね。レディを待たせるとは残念です」
「それは悪かったな。次は気をつける」
俺は氷川さんに隣いいか、と聞いた。いいですよと言われたので、隣に座ることにした。それにしても気になったが、何故氷川さんは俺と昼休みを過ごすことにしたのだろう。
しかし、昼休みといえど何を話そうか……。花のことについて?連休のことについて?こういう時に限って話題が思い付かない。もう少し話題を考えたほうがいいかもしれないな。
「結城さんは連休どうしてましたか?」
「ほとんど店番だったよ。休みなんてなかった」
「それはお気の毒、まぁ私も人の事は言えません。私は練習漬けでした」
「そうか。氷川さんもお疲れ様だな」
氷川さんは練習漬けか。バンドって大変なんだな。今見ても氷川さんから疲れているような感じが出ている。隠そうと必死になっているけど、隠せてない。不器用な部分があるんだな、氷川さんは……。
俺は考えた。何か氷川さんの助けになる物はないかと。確かシャルロッテにはあれが置いてあった筈だ。あれとはアロマセラピー、花を使った香水だ。アロマセラピーなら氷川さんの助けになるかもしれない。
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はぁ、最近は疲れが出ているわね。こういう時はシャルロッテに行くのが限る。先週の連休の時はライブがあった。ライブは上手く行ったけれど、私はなかなか疲れが取れなかった。それが原因で足を引っ張ってしまったら元も子もないわ。
結城さんも休みが無かったと愚痴っていたけれど、私からしたら凄いと思う。店番をやっている、ということは接客もやっているんだ。切り替える時は結構神経を使うのだから、結城さんはそれで疲れが出ているのかもしれない。
「そういえば氷川さん」
「何ですか?」
「最近、氷川さんに似たような人をテレビで見るんだけど、気のせいか?」
私に似たような人、日菜のことよね?日菜は最近テレビに出るようになった。何せアイドルだからだ。私の双子の妹にして天才、いや天災の方が正しいわね。
何れ結城さんは日菜と会うかもしれない。もし会ったらどうなるのだろう。何も起きないことを祈ろう。
「多分気のせいですよ。私の真似をしている人がいるかもしれませんよ?」
「そうか?何か胡散臭いな……」
「私のことが信じられないですか?」
「一応信じるが、嘘だったら話を聞かせてもらうからな?」
結城さん、疑ってるわね。真似をしていると言ってる時点で怪しまれるのは当然だ。バレるのは時間の問題かもしれない。結城さんと日菜が会ったらちゃんと理由を説明しよう。
時は過ぎ、放課後になる。私は練習のため、ライブハウスに向かう。結城さんはまた店番があるとのことで自宅に帰っていった。湊さんと今井さん、宇田川さんはもう来てる筈だ。白金さんは図書委員の活動で遅くなると言っていたわね。
さっきのことは考えていてもしょうがない。今は練習に集中しよう。結城さんと日菜が会ったとしても、その時はその時だ。私が取り乱さなければいいだけのことなんだから……。
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俺は何か疑問に感じていた。テレビで見た女の子、氷川日菜のことだ。氷川さんと同じ名字、しかも顔は似ていると来た。この辺りで俺は怪しいと感じた。あの時追求はしなかったが、氷川さんは何か隠している。
あの日菜っていう子は氷川さんの妹である可能性が高い。といってもこれは俺の個人的見解だ。
とりあえずこの考えは氷川さんには言わないでおこう。まずは彼女、氷川日菜に会ってからだ。会わないと何も始まらない。それまでこのことは蓋をしておこう。
さて、これからどうするか。そろそろアロマセラピーを始めてもいいと母さんから言われたからな。俺も始めてみようか。どういう物が出来るか、楽しみだ。
「母さん、話があるんだけどいいか?」
「暁どうしたの?」
「俺にアロマセラピーを教えてほしいんだ」
母さんはアロマセラピストの資格を持っている。シャルロッテに置いてある香水は母さんが作ったもので、売りにも出している。結構売れていることから腕は確かだ。
俺はちょっとしかやったことはないが、今後必要になるかもしれないと思い、教えてもらうことにした。何処かで役に立つかもしれない、そんな気がした。
「暁、確かに私は始めてもいいって言ったよ。何かあったの?」
「やってみようかなって思ったんだ」
「……紗夜ちゃんが原因?」
「ひ、氷川さんは関係ないだろ!何でそこで氷川さんが出てくるんだ」
女の勘だよ、と母さんは言った。決して氷川さんは関係ない。氷川さんの助けになりたいからとかでもない。けど、氷川さんはいつか折れてしまうかもしれない、そんな気がした。
いつか役に立つ、それは氷川さんのためになるかもしれないと俺は心の中でそう感じた。しかし、どうしてこんなにも氷川さんのことばっかりになる?話始めてから一ヶ月しか経ってないのにどうしてなんだ?
俺は首を振ってこの考えを無くそうと決めた。こんなのとを考えるのは止めにしよう。今の俺が考えていても理解できる筈がない。
「まぁ話は置いといて、暁。あんたは初心者だから完成しても売りには出せないよ?」
「それはわかってる。あくまで出来るようにしたいだけだ」
「そうかそうか。直樹さんにも言っておこうかな。明日から大変だけど、着いていけるかい?」
「当然だ。出来るようにするんだ、やってやる!」
明日から大変だな。店が終わってから空いた時間を使って指導をしてもらうことになった。二時間くらいなら教えられると母さんは言った。
正直、まだわからない。アロマセラピーで誰かを助けられるのだろうか?けど、役に立てるのなら俺にとっても嬉しいことだ。最初の香水が完成したら氷川さんに試してもらおうかな。
少年は気づいていない。その香水が少女の支えになるということを。