母さんからアロマセラピーを教えてもらってから一週間経った。教えてもらいながら香水を作ったが、評価は最初にしては上出来だと言われた。売りには出せないと言われたが、俺はそれでもいい。
試作で作った香水を自分で試してみたが、なかなか良いと感じた。大した感想ではないが、語彙力が喪失するくらいに何を言えばいいのかわからなかった。
「おはようございます結城さん」
「いらっしゃいませ。ああ、おはよう氷川さん」
氷川さんは今日もシャルロッテに来ていた。土曜でも来てくれるなんて、嬉しいものだ。さすが常連だな。
今日来たとなると、香水を渡せるかもしれない。今回香水に使った素材はレモンとグレープフルーツだ。初心者なら橘柑系、ハーブ同士を組み合わせるのがいいらしい。
俺はアロマセラピーだけでなく、花を使った香水も作った。男がやるようなことではないが、香水を作っていたら楽しくなり、やってみたいということに至った。まぁ、そっちも試作だがな。使った花はナスタチウム、花言葉ば困難に打ち克づだ。
「氷川さん、後で話があるんだがいいか?」
「いいですよ。何かありましたか?」
「それは後で教える。休憩に入ったら話す」
氷川さんはそのまま休憩に入るまで中で待ってくれた。律儀だな。まぁいいか。俺は客に花の説明をしたり、近所の人と世間話をして時間になるのを待った。
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結城さんが休憩に入り、私は結城さんが話があると言ったので、話を聞くことにした。何だろう、日菜のことかしら?そうなると、会っていたかを聞かないといけない。
「話とは何ですか?」
「話っていうか渡したい物があるんだ」
「渡したい物?」
「これなんだ。受け取ってくれるか?」
結城さんから渡された物とは、二つの瓶だった。これは何の瓶なの?結城さんに聞いてみないとわからないわね。
「結城さん、これは?」
「これは香水なんだ。二つあって、一つはアロマセラピーの香水で、もう一つは花の香水、二つとも俺が作ったんだ」
「どうして私に……」
「最近氷川さん疲れてるだろ?それでリラックス出来るような物はないかと思って作ったんだ」
結城さんは私のために?どうしてここまでしてくれるのかしら?私は結城さんに何かしたのか、もしそうだとしたら何かお礼をしないといけない。
結城さんに理由を聞くと、放っておけないからと言われた。放っておけないって、なんか複雑だわ。
「氷川さん、真面目過ぎるんだよ。風紀委員や部活、練習とかで忙しいのはわかる。内に来てリラックスしてくれてのは嬉しいが、氷川さんにはもう少し疲れを取ってほしいんだ」
「そんな、私はそこまで疲れてはいませんよ……」
「氷川さんはそんなこと言ってるが顔に出てるぞ?気づかなかったのか?」
確かに私は相当疲れていた。実際に日菜からも心配された。ここまでされたら、私は結城さんに何て言えばいいのだろう。普通にありがとう?でいいのかしら……。
「気づいていませんでしたね。ありがとうございます、結城さん」
「どういたしまして。あと、アロマセラピーの方はレモンとグレープフルーツを使ってて、花の方はナスタチウムっていう花を使ってるんだ。花言葉ば困難に打ち克づだ」
「今の私らしい言葉ですね。あの結城さん、香水なのですが、今使っていいですか?」
結城さんは構わない、と言った。私は瓶の蓋を開けて匂いを嗅いだ。アロマセラピーの方はいい香りだ。頭の中がスッキリする、そんな感覚だ。ナスタチウムの方はあまり香りはしなかったけれど、元気が出てくるような気がした。
結城さんは本当に凄い。ここまで出来るなんて、私には出来ないことだ。私は結城さんの一面を知り、結城さんのことを見直した。
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俺は氷川さんに香水を渡した。氷川さんからは素晴らしいです、と高評価をもらった。これからは二週間に一個は作ると約束し、氷川さんの助けになりたいとも言った。恥ずかしいことを言っちまったな。
俺は休憩が終わる頃なので、店を出て空気を吸うことにした。その時、一人の女の子に声を掛けられた。
「ねえねえ、おねーちゃん見なかったかな?」
「いらっしゃいませ……って誰!?」
「どうしました結城さん?あら、日菜じゃない。仕事はどうしたの?」
「あ、おねーちゃんいたいた!仕事なら午前に終わったよ!」
仕事?日菜?あれ、どっかで聞いた名前だな……。そういえばテレビで聞いたような気がする。
俺は一瞬のことだったが、思い出した。そうだ、氷川日菜だ!氷川さんのことをおねーちゃんって呼んだが、予想通りだ。やっぱりこの子は氷川さんの妹だ。
「氷川さん、怪しいとは思ってたが……」
「ごめんなさい結城さん。この子が私の双子の妹です」
「氷川日菜だよ!君の名前は何?」
「俺は結城暁だ。よろしくな氷川さん」
俺は氷川妹に自己紹介をした。しかし、氷川妹からは日菜でいいと言われた。そうか、氷川は二人いるんだった。しかし、顔が似てる。やっぱり双子だな。
「あとあたしのことは日菜でいいよ!君はさと君って呼ぶけどいいかな?」
「俺は構わない。さと君でも暁でもいい。だが、いいのか?いきなり名前で呼ぶなんて、俺からしたら抵抗があるんだが……」
「あたしは構わないよ?名字で呼ばれるよりは増しだし。そういえばおねーちゃん、ここで何してるの?」
日菜が氷川さんに何をしていたかを聞いた。氷川さんはさっきまで花屋にいた、とだけ答えた。日菜はふーん、とそれだけ言って納得した。なんか嵐みたいな子だな。
それから氷川さんと日菜は帰っていった。あの子が日菜だなんて、明日から氷川さんとはどう話せばいいか、困ったものだ。
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「ねえおねーちゃん」
「何?」
「おねーちゃんとさと君ってどんな関係なの?恋人?」
「なっ!?そんな訳ないでしょ!私と結城さんが付き合うなんて、あり得ないことだわ」
私と結城さんが付き合う?それはまずないだろう。それにしても、日菜と結城さんがこんな早くに会うなんて、結城さんにはいくつか説明しないといけないわね。
「ホントにそう?おねーちゃんとさと君、お似合いだと思うけどなぁ」
「それは貴女の中での見解でしょ?私からしたらまだそんなに親しくないわよ」
「あれれ?゙まだ゙ってことはいつか付き合うってことだよねー?」
「そ、それは ……」
日菜にここまで聞かれるなんて、これは結城さんが悪いわ。はぁ、後で香水でリラックスしないといけないわね。
でも、日菜と結城さんは初対面だけど、何事もなくてよかった。私も胸騒ぎがするくらいにはならなかったから、これなら大丈夫ね。そのうち香水のことも日菜から聞かれるかもしれない。その時は説明しよう。
私は思った。香水を切っ掛けに日菜と仲直り出来るんじゃないのかと。今はそこまで溝が深い訳ではない。前より関係は良くなってるし、日菜に当たることも少なくなってきている。日菜に抜かされないようにするのは、この子と切磋琢磨していくということだ。
「おねーちゃんからいい匂いがする!香水でも使った?」
「使ってないわよ。何処かから匂いが紛れ込んだんじゃないの?」
「そんなことないよー。絶対に今のはおねーちゃんからだよ!」
日菜ならあっさりと当てるかもしれない。当たったなら当たったでそれでいい。しかし、数秒後に日菜にあっさりと匂い、もとい香水のことはバレてしまった。これは結城さんもからかわれるわね。
天災少女は姉の匂いの区別も付けられる