凍てついた心に花束を添えて   作:ネム狼

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可憐に咲く青薔薇、それは不可能を可能にする合図となる


ネモフィラ 「可憐」

 俺は母さんに教わったことを書いたメモを見ながら香水を作る。今回は花の方にし、ネモフィラを使うことにした。氷川さんは近々ライブがある、俺はライブが成功するようにと願いを込めて香水を渡そうと決めた。

 

 ネモフィラの花言葉は"可憐"だ。この花言葉を氷川さんが知った時、どんな顔をするのか楽しみだ。学校だと渡せないから氷川さんが店に来た時に渡そう。そのうち日菜にも香水のリクエスト来そうだな。

 

「あぁ、眠い。今何時だ?」

 

 俺はスマホの画面を開いて時間を確認した。もう十時か。ここまで作るのに二時間程掛かったが、時間は早いものだ。氷川さんは明日来るからその時に渡そう。

 

 とりあえずあと二時間、日は過ぎるかもしれないが、今日中に作らないといけない。俺はコーヒーを飲みながら目を覚ましつつ、香水作りを続ける。最後に完成したのは深夜の一時だった。これは氷川さんに怒られるかもな。

 

 次の日、俺は案の定氷川さんに怒られた。目に隈が出来ていることを指摘されたからだ。これは俺が悪いから怒られてもおかしくない。

 

「結城さん、私のために香水を作ってくれるのは嬉しいですが、少しは寝てください!」

「熱中してて時間を忘れてな。せめて一個は作ろうって思ったから、心配掛けてごめん」

「はぁ、貴方という人は……」

 

 氷川さんは溜め息を吐いて呆れているかのように俺を見つめた。今度は余裕を持ってやった方がいいかもなれない。もし倒れたら氷川さんに申し訳ないし泣かせてしまう。

 

 俺は氷川さんに謝った。香水を作る時は時間を決めよう。今回はやり過ぎたから反省しよう。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 結城さんは最近無理をし過ぎている。私は結城さんに香水を作ってもらっている。私も何かお返しを出来ないかを考えている中で結城さんの目の下に隈が出来ていることに気づいた。

 

 私はそれに気づき、結城さんに何故目の下に隈が出来ているのかを聞いた。聞いたところ、結城さんが夜更かしをしてまで香水を作っているということがわかった。

 

 結城さんは帰ったら寝ると言ってるけど、大丈夫なのかしら?心配だわ……。

 

「結城さん、本当に大丈夫ですか?」

「問題ない。帰ったら寝るから、それまでは耐える。今は大丈夫だから、氷川さんは心配しなくていいぞ」

「心配しなくていいって、不安だわ」

 

 結城さんは無理をしているかのように作り笑顔で言った。バレバレよ、本当は無理をしている。結城さんは私を心配させないために笑顔でいようとしている。こうなった結城さんは私でも強く言えない。

 

 結城さんとは明日シャルロッテで香水を貰う約束をしている。今回はどんな香水を作ったのだろう。私の楽しみの一つで、癒しでもある。

 

 ここで結城さんに言っても教えてもらえないかもしれない。私はそれでもいい、結城さんがどんな香水を作ってたのかを楽しみにしている。その時にわかれば私はそれで満足なんだから……。

 

「結城さん、今度ライブをやるのですが、観に来てもらえませんか?」

「ライブ?どうしてまた……」

「結城さんにお礼をしたいんです。香水を作ってもらってますので、私も何か出来たらなと思ったんです」

 

 そう、これは私なりの結城さんに対するお礼だ。結城さんが花なら、私は音楽だ。結城さんに私のギターを聞かせたい、だから私は結城さんにライブに来てほしいと

思った。

 

 香水を作ってもらってばかりでは駄目だ。結城さんにギターを聞いてもらいたい、私の努力を結城さんにも見てもらいたい。私はそんな思いを抱きながら結城さんにライブのチケットを渡した。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 次の日、俺は花屋で氷川さんが来るのを待った。氷川さんが所属しているバンドばRoselia゙とのことだ。由来は薔薇と椿、ローズとカメリアを組み合わせて出来たようだ。しかも薔薇は青薔薇、確か花言葉ば 不可能を可能にする゙だったか。

 

 出来ないことを出来るようにするために努力する、そんな響きがしてとても良い言葉だ。氷川さんなら出来る、俺はそう思いながら彼女が来るのを待ち続けた。

 

「おはようございます、結城さん」

「おはよ氷川さん。今香水持ってくるから待っててくれるか?」

「わかりました、楽しみにしてますね」

 

 氷川さん、笑ってたな。あんな笑顔を見せるなんて、良いことでもあったのか?まぁいいか。今回の香水、上手くいってくれればいいんだが、大丈夫だろうか。

 

 俺は二階に上がり、自分の部屋からネモフィラの香水を持って氷川さんの元へ戻った。氷川さんは花を見ながら待っていたようだ。その表情は何とも"可憐"なものだった。

 

「お待たせ氷川さん」

「そんなに待ってませんよ?」

「そうか?まぁ、これがそうだ。今回はネモフィラを使ったんだ」

「ネモフィラですか。花言葉は何ですか?」

「花言葉は可憐だ。これにした理由は特にないから、使ってくれ」 

 

 そう、決めた理由は特にない。これは本当のことだ。氷川さんは開けていいですか?と一言言い、俺はどうぞ、と言った。氷川さんは瓶を開けて匂いを嗅いだ。

 

「……何でしょう、頭がスッキリしますね。結城さん、本当に作ったの初めてですか?」

「これでも初めてだ。といっても、作ったのは二つ目だけどな。そういえば、ライブって来週だよな?」

「来週ですよ。月を跨いで六月になりますがね。湊さんが梅雨のライブをやろう、と仰っていましたので……。ああ、湊さんとはRoseliaのリーダーでボーカルです」

 

 六月か、しかも梅雨にライブをやるとは、変わった人だな。さぞかしとても頭のいい人なんだろうな。俺は氷川さんに花を買っていくか、と聞いたが、これから練習がありますので、また今度にしますと言った。氷川さんも大変だな。

 

 氷川さんと別れた後、父さんに声を掛けられた。彼女さんか?と聞かれたが、俺は咄嗟に否定した。氷川さんが彼女ってあり得ないだろ。俺が彼女を作るのはまだ早いと思うが……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 今日も練習は上手くいった。今度はライブ前日に香水を貰おうかしら。結城さんに香水をリクエストしたのは正解だったわね。日菜が知ったら即刻言うに違いない。るんっ?と来たらまた作って、何て言うわね。

 

 私は来週のライブに向けて練習をしている。今のところミスはないけれど、今日は今井さんに調子いいね、と聞かれた。怪しまれているのかもしれない。今後は気をつけた方がいい。

 

 さて、ライブもいいけれど、その後が大変だ。期末テストがある。今度結城さんと勝負をしよう。私が優秀であると思い知らせてやらないと!

 

 最近は調子がいい、これは誰のおかげだろう。花のおかげ?それとも結城さんのおかげ?今は考えないようにしよう。誰のおかげかはそのうち気づくんだから、考えないようにしましょう。

 




少女は宴にて可憐の如く舞う
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