六月上旬、氷川さんに中間テストの点数争いを申し込まれた。しかし、結果は引き分けとなった。偶然にも点数が同じだったのだ。だが、理系では俺が勝ち、文系では氷川さんが勝った。
これで互いにどの教科が苦手なのかがわかったが、氷川さんが文系を得意としているのは、彼女らしいな。俺が理系を得意としているのは、花とかで重要だろうと思って勉強したんだ。特に生物は勝つ自身はある。
まぁこの話は置いといておこう。今日はRoseliaのライブだ。先週、氷川さんからチケットを貰ったが、それはつまり優遇されている、と捉えていいのか?いや、そう思ったら氷川さんに申し訳ないな。
ライブは午前十時からだが、一時間前にも関わらず、俺が来た時には行列が出来ていた。これだけの行列とあうことは相当有名何だろう。
「初めてライブを観に行くが、波に飲まれそうだな」
正直不安しかない。こんな時、誰かいてくれればいいのだが……。
昨日、氷川さんにハーブと花の香水を渡したが、大丈夫だろうか、使ってくれているだろうか。今回は応援も兼ねて花はブーゲンビリア、ハーブはダリアを使った。ライブが上手くいってくれればいいが、氷川さんなら大丈夫だろう。
「あれ、さと君じゃん!やっほー!」
「日菜!?何でここに……」
「今日はお仕事休みだからおねーちゃんのライブ観に来たんだ。まぁお忍びだけどね」
「バレないようにしろよ?アイドル何だからバレたらスキャンダルになるかもしれないんだから」
わかってるよ!と日菜は笑顔で言った。やっぱり氷川さんと顔が似てる。前髪の分け方や声で大体は区別がつくが、日菜が氷川さん(紗夜)の真似をしたらわからなくなるかもな。
待っている間、日菜から氷川さん(紗夜)に香水を渡したのかを聞かれ、俺は渡したと答えた。知っているということは氷川さんから聞いたんだろう。実際、さと君も済みに置けないなーと言われた。はぁ、何とも複雑だな。
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「ふぅ……」
私は本番三十分前になり、体が少し震えてきたのを感じた。結城さんに演奏を見せるとはいえ、ここまで緊張するなんて、まずいわね。ここは昨日貰った香水でリラックスをしよう。
私は香水の瓶を開けて目を瞑り、香水の匂いを嗅いだ。結城さんから二つもらったけど、花はブーゲンビリア、ハーブはダリアを使ったと聞いている。帰ってから気になって花言葉を調べたけど、゙あなたは魅力に満ちている゙ど優雅゙だなんて、どういうつもりだろう。
日菜からも頑張ってね!と応援されたけど、あの子絶対に来てるわよね?いや、日菜なら来てるに違いない。今頃結城さんを見つけては私のことについて話をしているのかもしれない。はぁ、どう言えばいいのかしら……。
「紗夜、そろそろ本番だよー」
「わかりました、ありがとうございます今井さん」
私に本番が迫っていることを告げたのは、Roseliaのベーシスト、今井リサさんだ。湊さんとは幼馴染みで、世話焼きな人である。
「噂の彼、来てるんじゃないの?良いところ見せられるといいね!」
「なっ!?そ、そんな人ではありません!単なる知り合いみたいな人です」
私は練習で調子がいい度に今井さんからどうしてそんなに上手くいってるのかを聞かれることがあった。私は必死にはぐらかしたけれど、予想外にも宇田川さんから春が来たんですか?と言われた。
それに伴い、湊さんや白金さんまで便乗した。白金さんは薄々気づいていたらしく、面白そうなので、聞きませんでした。白金さん、貴女そんな人でしたっけ?
「紗夜、噂の彼氏に良いところを見せなさい。そして乱れ咲くのよ」
「湊さん、何を言ってるんですか!?そして今井さん、笑わないで下さい!」
「だって、友希那が面白くて……。おかしいんだもん!」
何だろう、最近のRoseliaは路線変更でもしたのかしら?段々と私の知っているRoseliaでは無くなっているような気がする。
――これは大丈夫かしら。先が思いやられるわ……。
控え室を出る直前、宇田川さんから「紗夜さん、彼氏さんにバーン!と良いところ見せましょう!」と言われた。宇田川さん、追い討ちはやめて下さい。私の胃がキリキリします、死んでしまいます。
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午前十時、いよいよライブが始まる。今俺はどんなことを思っているんだろう。生まれて初めてライブを観るが、どうなるかはわからないし、氷川さんがどう輝くのかもわからない。
隣にいる日菜はワクワクしているのかもしれない。実の姉のライブを観るのはこれが初めてではないだろう。もし初めてだったら、今頃感動して涙を流してる筈だ。
「さと君、今何を考えてる?」
「何をって……。まぁ、氷川さんはどんな演奏をしてくれるのかって考えてるかな」
「さと君なら絶対にるんって来るよ!あたしのおねーちゃんはカッコいいんだからね!」
日菜は自慢気に言った。なら見せてもらおうか。演奏については氷川さんに期待しよう。俺は氷川さん達が来るのを待った。そして、舞台袖から氷川さん達はやって来た。さぁ、いよいよだ。
時間はあっという間だった。あの時の氷川さんは、輝いていた。不可能を可能にしてみせよう、彼女ならどんな壁も乗り越えられる、そんなオーラを感じた。俺が言えることはこれくらいだ。花はわかっても音楽はわからない。けど、似たようなことはあるかもしれない。それはわからないがな。
「どう、凄かったでしょ?おねーちゃんカッコよかったでしょ?」
「た、確かにカッコよかった。あれだけ凄かったなんて予想してなかったよ」
氷川さんもそうだが、あの白金さんもRoseliaのメンバーだったなんて知らなかった。本当に今日は色々なことを知ることが出来た。
氷川さんは花が咲くかのように綺麗だった。ブーゲンビリアを送ったのはいいが、普通に魅力的だったな。明日どんな顔をして会えばいいんだろうか。
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打ち上げ兼反省会を終えて私は部屋に入り、ギターをスタンドに立ててベッドに倒れた。今日はいつも以上に疲れた。結城さんとは直接会えなかったけれど、案の定ライブを観に来てた日菜から話を聞いた。
私が魅力的だった、カッコよかったと結城さんは言っていた。直接言われてたら私は顔を赤くしてたかもしれない。会えなかったのは残念だけど、今日は会わなくてよかったわ。
それにしても、香水を使っていると、花を通して結城さんに応援されているように感じる。あの時結城さんは花言葉を説明してなかったわね。もしかして、私に意味を言うのが恥ずかしかったのかしら?
明日からまた普通の日常に戻る。結城さんと話をして、部活をして、練習をして、勉強をする。当たり前のような日常になる。何か、変化はないのだろうか……。
こんなことを考えるのはやめよう。とにかく、明日結城さんと会うけれど、どんなことを話そう。今日のライブのこともそうだけど、たまには結城さんのことについて聞こうかしらね。
「けれど、何なの?この胸のざわめきは……。結城さんのことを考えると、もっと知りたいと感じる、こんなことを思うなんて……」
きっとこれは……。いえ、やめておきましょう。気づくのはまだ早いかもしれない。今気づけば混乱するに違いない。私はこのざわめきを忘れるために、ギターを弾くことにした。弾いていれば忘れられるわよね?
紗夜はここから暁のことをもっと知りたいと思うようになります