六月が終わろうとしている。だが、梅雨はまだ明けていない。今日の天気は曇りだ。雨が降るかもしれないと判断し、俺はいつもより早く起きた。朝早くといっても、時間は五時だ。
床に新聞紙を敷き、ベランダのガーデニングの花を中に入れて新聞紙の上に置く。ここで対策を練っておかないと、後で痛い目を見る。花が駄目になったら何のために育てたのか、育てた花を不意にするわけにはいかない。
対策を練ること一時間、俺は花を中に入れた後、少し勉強をすることにした。そろそろ期末テストだ。前回の中間テストでは引き分けになったが、期末テストで勝つと決めている。氷川さんに勝たないと、面子が丸潰れになっちまう。
「待ってろよ氷川さん、絶対に勝つからな」
俺は苦手としている現代文の勉強をしながら鼓舞をした。登校する時は念のため傘を持ってきておこう。あと、風も強いって言ってたから、風にも気をつけないと……。
最近になって氷川さんのことが気になってきたが、何故そうなったのか理由がわからない。いや、今は気にしないでおこう。頭の隅に置いといて後回しにするか。
▼▼▼▼
今日は曇り、もしかすると雨が降るかもしれない。弓道部の朝練があって急いで来たせいか、傘は忘れて来てしまった。もし雨が降ればずぶ濡れで帰らなければならない。
日菜は放課後は仕事があるということで、帰りは遅くなる。はぁ、帰りはどうしたらいいのかしら……。昼休みな結城さんと話をするなら食堂に場所を移そう。さすがに屋上はやめた方がいいわね。
「傘を忘れるなんて、付いてない」
「氷川さん、何かあったのか?」
「あ、結城さん。何もありませんよ、結城さんの方こそどうしたんですか?」
「氷川さんが落ち込んでるように見えたからどうしたんだと思ってな。余計なお世話だったか」
余計なお世話ってそんなことないですよ、と私は結城さんにフォローするように言った。結城さんは私に言われたのか、安心したような表情になった。よかった、あまり言い過ぎてしまうと周りに注目されてしまうし、結城さんが落ち込んでしまう、ということになりかけた。
私としては事を大きくしたくない。下手をしたら噂にされてしまう、そうなってしまうと私の面子が潰れてしまうし、結城さんにも迷惑を掛けてしまう。それだけはしたくない。
「そうか、そう言ってくれると助かる」
「結城さん、私は貴方に余計なお世話だ、何て言ったことはありませんよ?」
「そうだったか……。さて、授業が始まるな。じゃあ氷川さん、また昼休み話そうか」
「はい。また後程」
私は片手を上げてまた会いましょう、のつもりで言うと、結城さんも片手を上げて返した。無言ではあるけれど、想いが伝わったようで何よりだ。けど、これはあれかしら?アイコンタクトをしている、と言った方がいいのかしら……。
そんなことを言ったら結城さんと話をしなくても想いがわかる、みたいになってしまうじゃない!私はいつからこんなことを考えるようになったのか、わからない。
――はぁ、この先どうなるのやら……心配だわ。
▼▼▼▼
昼休みになり、俺は氷川さんに今日は雨が降っているので、食堂に行きましょうと誘われた。雨だから屋上には行けないからだろう。それにしても氷川さん、思い詰めてるような顔してるな。何があったんだ?
昼食を済ませ、俺は氷川さんに話をすることにした。とりあえず、何があったのか聞いてみるか。
「なぁ、氷川さん。さっきから思い詰めてるけど、何かあったのか?」
「い、いえ。何でもありませんよ?」
「何で疑問形なんだよ。余計怪しく感じるんだが……明らかに何かあっただろ」
そもそも疑問形で否定する時点で怪しい。氷川さんは顔を赤くしている。これは話したくない事情なのかもしれない。首を突っ込んではいけないが、相談になら乗れる。それが解決に繋がるかはわからない。
そして氷川さんは悩み続けた。といっても三分くらいだ。氷川さんは俺に話があると言い、あることを告げた。
「結城さん、放課後時間空いてますか?」
「空いてるけど……どうかしたのか?」
「一緒に……帰りませんか……」
――ん?今この人は何を言ったんだ?一緒に帰る?
氷川さんはさっきの言葉を俺に言ったせいか、更に顔を赤くした。それを言うのは結構勇気いるだろ、氷川さん、よく頑張った。いや、こんなことを言ってる場合じゃないな。
俺は氷川さんに理由を聞いた。聞いたところ、朝練で急いでて傘を忘れたからとのことだった。てか部活入ってたのかよ。しかも弓道部って、初めて知ったよ。
けど、それって相合い傘で帰るってことだよな。人生初の相合い傘が氷川さんだなんて……。嬉しいのか、嬉しくないのか、複雑な気持ちだ。
▼▼▼▼
放課後になり、私と結城さんは玄関を出た。結城さんが傘を差し、私は結城さんの傘に入る。男の人と初めて相合い傘をする。それが結城さんになるなんて……。そもそも私が傘を忘れていなければこんなことにならなかった。
「氷川さん、肩濡れてないか?」
「大丈夫です」
「そうか、なら良かった」
私は結城さんに濡れていないと言ったが、本当は少しだけ濡れている。ここで言ってしまったら結城さんは気を遣ってしまう。あまり気を遣われると気まずくなる、それは避けたい。
雨の道中傘一本、ここには私と結城さんしかいない。さて、何を話そうかしら……。
「そういえば結城さん、今日はシャルロッテの店番はやるのですか?」
「大雨だから臨時休業だ。さすがに店番は出来ないな。大丈夫、香水とかはまた今度渡せるから。あまり急かすなよ」
「別に急かしてはいません。香水を取りにいけるかは気になってましたが……」
気になっていたのは本当だ。私は結城さんが作ってくれる香水を気に入っている。日菜もるんっと来た!と言っている。あの子、結城さんに頼みそうね。その時は日菜と一緒にシャルロッテに行こうかしら。
そう思っていると、強風が私達を襲った。結城さんは私に離れるなと言い、傘が飛ばされないように両手で支えようとした。しかし、傘は飛ばされてしまった。結果、私と結城さんは雨に打たれることになった。
雨宿り出来る場所を探すために私と結城さんは鞄を両手で持って傘代わりにして頭が濡れないようにした。二人して走りながら探した。これはずぶ濡れになるわね。
「氷川さん、大丈夫か!?」
「私のことはいいですから、自分の心配をして下さい!」
私は結城さんに走りながら言った。心配をしてくれるのは嬉しいけど、自分のことも大事である。いくら結城さんでも、風邪を引いてしまう。結城さんには無理をしてほしくない、だから一刻も早く雨宿り出来る場所を探さないと!
▼▼▼▼
寒い。はぁ、これはヤバイかもな。氷川さんに言われたように、自分の心配をするべきだった。今は気づかれていないだろうけど、気づかれるのは時間の問題だ。
氷川さんも寒い筈だ。こんなことになるのなら迎えを呼んで氷川さんも送れば良かった。後悔しているけれど、仕方ないか。こんな大雨の中で親に無理はさせたくないし、迷惑は掛けたくない。こんな状況下で迎えを呼ぶのは今更過ぎる。
十分くらいして、俺と氷川さんは寺に着いた。ここなら雨宿りが出来る、そう思いながら階段を上った。止むまでだが、軒下なら大丈夫だろう。
この雨宿りの中、俺と氷川さんはどうなるんだ?わからないな。俺はこの場をどう凌ごうかを考えることにした。
大雨の中で雨宿りって青春の一つなのか