凍てついた心に花束を添えて   作:ネム狼

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雨宿りの中、二人の距離に変化が起きる


マネッチア 「たくさん話しましょう」

 俺と氷川さんは雨宿りをするために寺の軒下に入った。雨は未だに止まない。いつ止むのか、それは全くわからない。俺は鞄からタオルを取り出し、氷川さんに渡した。先に氷川さんに使ってもらおう。彼女には風邪を引いてほしくないからな。

 

「氷川さん、タオル先に使ってくれ」

「いいえ、ここは結城さんが先に使うべきです。貴方が風邪を引いてしまったら店番はどうするんですか?」

「そういう問題か?氷川さんだってライブとかあるんだろ?体調崩したら誰が困るんだ?日菜だって悲しむだろ?」

「そこで日菜を出すのはズルいです!確かにそうですが、結城さんはどうするんですか?」

 

 俺はこのままでいる、そう氷川さんに言うと、普通に怒られた。そもそも女子が使った後にタオルを使うってさすがに嫌がるだろ。そう考えると、ここは氷川さんに使わせるのが当たり前だ。

 

 氷川さんは結構濡れている。何とは言わないが、制服が透けて目のやり場に困るんだ。多分、彼女は気づいていないだろう。

 

 俺は氷川さんにどうしても使ってほしいと言い続けた。何度か言っていると、彼女はようやく折れて、渡したタオルを使ってくれた。俺はこうなったら耐えてやる。風邪を引いたらそれまでだ。

 

「氷川さん、寒くないか?」

「あちこち濡れて寒いですよ。結城さん、本当に拭かなくていいんですか?」

「俺は平気だよ。このくらい耐えればどうってことねぇ」

 

 本当は寒い。ここで弱音を吐いたら氷川さんに心配を掛けちまう。そんなことをさせる訳にはいかない。無理をしてでも耐えないと……。大丈夫、雨が止むまでの辛抱だ。

 

 氷川さんは俺を心配そうに見ていた。弱音は吐いていないが、こんな姿を見せてたら意味ないか。これじゃあ耐えてる意味がない。情けないな、俺って……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 結城さんが震えている。貴方はどうして無理をするの?私にはわからない。さっきタオルを貸してくれた時も結城さんの手は震えていた。そんな姿を見せられたら心配するに決まっている。

 

「へっくし!」

「結城さん!」

「ははっ……。くしゃみ出ちまったな」

 

 笑い事じゃないでしょう!私は結城さんに貸して貰ったタオルを持って彼に近づく。そして、髪を拭く。こうでもしないと結城さんの体がさらに冷えてしまう。

 

 結城さんは私に放っておけないと言った。それは貴方も同じだ。無理をしてほしくないのは結城さんも同じ、私だけ良くされたら行動で恩返しをするしかない。

 

「ちょ、氷川さん!?」

「じっとしてて下さい!これ以上は見てられません。くしゃみが出るということは、風邪を引くかもしれないでしょう?だから結城さん、今は動かないで下さい!」

「俺は大丈夫だから……」

「いいですね?」

 

 私は圧を掛けるかのように笑顔で言った。結城さんはわかりました、と敬語で言った。こうしてると結城さんって犬みたいね。耳が垂れてたり、尻尾をゆっくり振ってる、そんな風に見える。意外と可愛いわね。

 

 髪を拭き終え、貸して貰ったタオルを結城さんに返した。それにしても、いつになったら止むのだろう、日菜は大丈夫か、日菜は傘を持っていったのか、私は妹のことが心配だった。

 

 とりあえず落ち着こう。ここで焦っていても仕方ないし、何も始まらない。雨が止むまで時間はある、それなら結城さんと話をしよう。私は落ち着くにはそれが最適だと判断した。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 結局氷川さんに髪を拭かれた。しかも氷川さんが使った後だ。普通の男子なら女子が使ったタオルで拭かれるのは嬉しいだろう。だが、俺からしたら気まずくなる、この一言に尽きる。嫌という訳ではないが、どうしても意識してしまうんだ。氷川さんは気づいているのか?

 

 隣には氷川さんが座っている。近くで見ると綺麗だな……って俺は何を言ってるんだ!?氷川さんはあくまで同じクラスの人だ。こんなことを思ってどうするんだ俺は!

 

「結城さん、何かお話でもしませんか?」

「話?いいけど、何を話すんだ?」

「そうですね……。では犬のことについて話しましょうか」

 

 犬のこと?どういうことだ?もしかしてレノンのことについてか?もしかして氷川さんって犬が好きなのか?だとしたら話は弾むだろう。これって期待していいのか?

 

 俺は頷き、氷川さんの話を聞くことにした。どうやら氷川さんも犬が好きらしい。あの真面目でお堅い風紀委員である氷川さんが犬が好きだなんて意外だ。真面目な人はギャップがある、都市伝説かと思ったが、本当だったんだな。

 

「氷川さんはどんな犬が好きなんだ?」

「そうですねぇ……。拘りはありませんが、可愛ければ問題はないですね。結城さんは好きな犬はありますか?」

「ウェルシュコーギーだな。短い足と小さい体が可愛くてさ、それに惹かれてレノンを飼うようになったんだ」

「なるほど、それはわかります」

 

 わかってくれたか。氷川さんだったらわかってもらえると俺は信じていた。氷川さんは同士がいて嬉しいですと言った。いや、それは俺も同じだ。

 

 しかし、氷川さんって意外なところがあるな。ギターが弾ける、犬が好き、これだけ知ってても凄い人だなって思える。俺なんて花や香水、女子かって言われるようなことしかない。

 

 なんでかはわからないが、俺と氷川さんはわかり合える、何かそんな感じがする。どうしてそう思ったかはわからない。無意識に思ったのかもしれない。この答えを見つけるにはまだ早いだろうな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私と結城さんは犬のことについて話し合った。多分一時間くらい話したかもしれない。話していたら雨は止んでいた。体は冷えてしまったけれど、今なら帰れる。私と結城さんは鞄を持って寺を去り、それぞれの自宅へと歩を進めた。

 

 あの時の結城さん、凄く明るかったわね。花が好きなだけかと思っていたけれど、犬も好きだなんて、いい同士だ。

 

「結城さんと話をしてよかったわね。話をしていなかったら、静かなまま終わってた……」

 

 私は独り言のように言った。日菜もずぶ濡れだったけど、無事に帰ることが出来たようだ。私も日菜も濡れて帰るなんて、この姉にしてこの妹である。そう言ったらいいのかしら……。

 

 今日はもう寝よう。明日も結城さんと色々な話をしよう。そして時間のある時は香水を貰って、モチベーションを上げて練習に励む。私の最近の日課になってきたわね。

 

 私と結城さんはわかり合えるかもしれない。何でこんなこと思ったのかしら?今はわからないけど、いつかわかるかもしれない。答えを探すにはまだ早いわね。

 




雨の中で黙り続けるのはきついね
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