虚圏の母神   作:キングゥ

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正体

 恋次を下した白哉は着替え、双極の丘に向かった。だいぶ遅れたらしいが、来ないものも多くいる。各所で感じた霊圧のぶつかりは気のせいではなかったか。

 集まっているのは一、二、四、八──そして自分の六の隊長副隊長。

 

「───に、兄……様」

「─────」

 

 白哉は何も言わず目をそらした。下手なことを言えば、それはルキアの心に未練を残し死に恐怖を覚えさせるからだ。

 山本元柳斎重國が最期に言い残すことはないかと尋ねると、今回自分を助けに来たであろう旅禍達の身の安全を願った。最後まで他者を思う、心優しい娘だ。

 元柳斎はそれを了承する。死した副隊長に代わり代理として出席した勇音がそんな気ないくせにというと、卯ノ花が諫めた。この約束はせめてもの慈悲である、と。

 そして、双極が解放された。

 ルキアの足下の対座の一部が四角い物体となり浮き上がり、ルキアの手が勝手に肩の高さまで上がる。

 足が動かせなくなる。そのまま浮き上がり、双極の磔架まで移動する。

 双極の矛が浮かび上がり、炎が包み巨大な鳥の姿をとる。

 名を燬鷇王。双極の真の姿。斬魄刀百万本に匹敵するその力で罪人を貫くことで、刑は執行される。

 恐怖はない。元柳斎が一護達の無事を約束してくれた、白哉が、取り乱さぬよう見捨ててくれた。

 恋次達と出会い、白哉に拾われ、海燕に導かれ、一護に救われた。

 感謝しかない───

 

「さよなら」

 

 光が弾ける。だが、ルキアの意識が無くなることはなかった。

 

「よう──」

 

 燬鷇王は、止められていた。オレンジ色の髪を持つ青年の斬魄刀一本に。

 

「───い……一護──」

 

 彼の名は黒崎一護。ルキアの死神の力を譲渡され、死神代行として己の町を守り、罪人として兄に斬られ、それでも自分を救おうとやってきた男。

 

「───あ……ば、莫迦者!何故また来たのだ!?」

「あ……あぁ!?」

 

 彼は一度白哉に殺されかけた。白哉は隊長だ。卍解という奥の手を持っていて、それすら使わず一方的に一護を下した。自分はもう、覚悟を決めたのだ。命を救うという約束もした。なのに、何故来てしまう──!

 

 

 

「双極を、止めた───?」

 

 双極の矛は百万本の斬魄刀と同等の攻撃力。裏を返せば、単純にあの男は平隊士百万人分以上の霊圧を持つこととなる。それは隊長格に匹敵する──あるいは、霊圧という見方だけなら凌駕しうる実力者。

 

「───貴様か?」

 

 砕蜂が斬魄刀を抜く。卯ノ花が無意識に柄に手をかける。白哉は、誰かを重ね忌々しそうに、あるいは眩しそうに目を細めた。

 と、燬鷇王が一鳴きして距離をとる。助走をつけて今度こそ貫く気らしい。旅禍の青年は真正面から受け止めようとして、燬鷇王の首に紐が絡まる。

 紐の出所は盾のようなものだった。先程まで姿を現さなかった浮竹が持っている。

 紐の先端についている杭が地面に落ちると京楽がそれに手を置く。

 

「よう、遅かったじゃないの色男」

「すまん。封印の解放に手間取った、だが──これで行ける!」

「───!」

 

 二本の筋が走った盾のようなものに描かれている四楓院家の家紋を見て砕蜂が目を見開く。

 

「止めろ!奴ら、双極を破壊する気だ!」

 

 叫ぶが、遅い。二本の筋に斬魄刀が走り、次の瞬間紐に霊圧が駆け抜け双極の矛を破壊した。それを見た旅禍はルキアの救助を優先して、何と双極の磔架を破壊した。そしてやってきた阿散井恋次に投げ渡す。

 

「何をしている!追え!あの女さえ逃がさなければ、旅禍は何度でも捕らえられる!」

 

 砕蜂が叫び大前田が追い、勇音と雀部も駆ける。それを邪魔しようとする旅禍。

 

「邪魔だぁ!」

(はし)れ!『凍雲(いてぐも)』!」

 

 勇音の斬魄刀の刃が三本に増える。

 

「穿て!『厳霊丸(ごんりょうまる)』!!」

 

 雀部の斬魄刀が西洋剣のレイピアの様に変化する。

 

「ぶっ潰しせ!『五形頭(げげつぶり)』!」

 

 大前田の斬魄刀が棘付きの鉄球に変化する。そして、旅禍の拳一つで破壊された。そのまま雀部の斬魄刀を持つ手首をつかみ顎を狙って掌底を放ち───

 

「嘗めるな───」

「───!?」

 

 視界が回る。掴んでいた手を起点に逆に投げられたらしい。

 

「油断はしない。斬魄刀を素手で破壊したところで、我が身を止めるほど貴様等を見くびってもいない。斬魄刀を手放すなど、あまり我等を侮るな、旅禍の少年」

「────ッ!」

 

 雀部の霊圧に目を見開く旅禍。明らかに隊長格の霊圧。と、勇音が凍雲を地面に突き刺す。そこから冷気が走り旅禍の足を地面と固定するように氷が覆う。 

 雪の結晶のような鍔の形と言い、名と言い、どうやら氷結系の斬魄刀らしい。

 

「くっ!」

 

 雀部の厳霊丸から雷が放たれる。雷をその身に食らい体が硬直する旅禍。

 追撃を与えようとして、旅禍が体を何とか動かし掴んだ斬魄刀に霊圧が籠もるのを感じ取り距離をとる。

 

「虎徹副隊長!私の後ろへ!」

「────!」

「濡らせ、厳霊丸!!」

 

 雀部は勇音を下がらせると厳霊丸の本領を発揮する。上空に雨雲が現れ、稲光が起こる。旅禍が斬魄刀を振り下ろすと込められた霊圧が斬撃となって放たれ、雷とぶつかり合い、弾け、閃光が辺りを包む。

 その衝撃に飛ばされる勇音。地面に体を打ちつける。

 

「やりますな──」

「あんたもな。驚いたぜ、副隊長も、あんがい強いんだな──」

「───案外?」

 

 ピクリと眉根を寄せる雀部。

 

「侮るな───そう言ったばかりですよ。時に、貴方──女性死神を手に掛けていませんか?」

「?いや、そもそもいるのか?女性死神で俺らみてぇな侵入者に向かってくる奴。って、そこの副隊長さんは向かってきたか」

「…………」

 

 嘘には見えない。つまり、彼はあくまでも向かってくる者のみを倒してそれ以外には手を出さないという事だろう。

 

「しかしだからといって、この様な事に時間をかける気はなし。早々に終わらせ、罪人を捕らえ刑を執行するまでです」

「何だよ、そんなにルキアを殺したいのかよ」

「処刑を終わらせ、次にすべき事をしたいだけですよ。貴方はお強い。故に、加減はいたしませぬ………せめて人の形を保つことを願いましょう。卍───!」

「───ッ!?」

 

 高まる霊圧に距離をとる旅禍。だが、どちらの動きも止まる。二人の間に朽木白哉が現れたからだ。

 

「朽木隊長───」

「この男は私が斬る。(けい)等は恋次を追え」

「………はっ!」

「待て!行かせ───!!」

 

 慌てて追おうとした旅禍だったが白哉が切りかかってきたので足を止める。

 

「………黒崎一護、貴様は何故ルキアを助けようとする」

「決まってんだろ、ルキアが俺を命を張って救ってくれたからだ」

「その救われた命をむざむざ失い、無為に帰すことが恩返しか?」

「無為なんかじゃねぇさ、ルキアも俺も、仲間だって生きてこっから出て行く」

「────良かろう。ならばそこに伏して己が抱いた幻想を叶えるのに、如何に無力か知るが良い」

 

 

 

 砕蜂は小椿仙太郎と虎徹清音を気絶させとどめを刺そうとすると何者かに襲われる。

 

「放せ!何者だ貴様!」

「……やれやれ、そう騒ぐな。相変わらず気の短い奴じゃの」

 

 そう言って襲撃者は顔を隠していた覆面を取る。褐色肌の美女、砕蜂の顔が強ばる。

 

「貴様、夜一───!」

「久し振りじゃの、砕蜂!」

 

 ニィ、と猫を思わせる笑みを浮かべた夜一。鬼道を放ち、爆炎が辺りを包んだ。

 

 

 

 双極の丘の下の森に落ちた砕蜂と夜一。砕蜂の部下も追いついてきたが夜一に一瞬でやられた。

 砕蜂の目で、十分追えた。この程度の実力なら彼女を殺すことなど不可能であろうが……。

 

「一つ聞きたいことがある」

「む?」

「虚月を殺したのは、貴様か?」

「………儂では不意をつこうとあの女を殺せぬよ。逆に聞くが、お主不意をついて更木を殺せるか?」

「……………無理だろうな………そうか、貴様が犯人ではないのか。ならば、早々に終わらせ犯人を捜すとしよう」

 

 

 

「あ、あの──卯ノ花隊長、私は大丈夫です。双極の丘に───」

 

 勇音は卯ノ花に運ばれていた。

 

「朽木隊長がいます。貴方がいる必要はないでしょう。阿散井副隊長も、雀部副隊長が向かった以上時間の問題ですよ」

 

 四番隊隊舎についた卯ノ花は自身の斬魄刀である肉雫唼(みなづき)の体内に入れていた怪我人を吐き出させる。後のことは彼等に任せる。

 

「付いておいでなさい勇音。少し、向かいたいところがあります」

 

 

 

「な……なんだこいつは、どういうことだ!?」

 

 冬獅郎は目の前の光景に思わず叫ぶ。

 藍染の残した遺書に書かれていた双極を使用した瀞霊廷破壊計画。首謀者こそ自分になっていたがそこは改竄されていたのだろう。だが、朽木ルキアの不自然なまでの重罪化に異例の処刑法、早まる日数。計画自体は真実の可能性がある。故に、再審を申し込みに強行突破すれば

 

「中央四十六室が………全滅!」

 

 全滅していた。血の乾きようからして死んだのはかなり前。つまり、これまでの中央四十六室からの伝令は全て偽物。犯人は誰だ?市丸か?しかし、彼一人で誰にもばれずこのようなことが行えるとは思えない。協力者がいた?

 と、その時気配を感じて振り返る。吉良が立っていた。

 逃げ出した吉良をすぐに追う。だが、吉良から発せられた雛森が冬獅郎達を追っているという発言に吉良を松本に任せて慌てて引き返した。

 そもそも雛森は冬獅郎を藍染殺しの犯人だと思っているのだ。そして、彼女は藍染の為なら命だって懸ける。冬獅郎が動いたなら後を付けるだろう。迂闊だった。

 もし、吉良が彼処から離れたのがあの光景を見て固まるであろう雛森を分断させるように市丸に命令されていたとしたら───!

 

「雛森───!」

 

 無事でいてくれ、そう願い駆ける冬獅郎の願いは、しかし覆されることとなる。彼の予想を、遙かに超える形で。

 

 

 清浄塔居林。四十六室の為の居住区域にして賢人以外の完全禁踏区域。そこで感じた霊圧を目指し向かうと、予想外の人物に出くわした。

 

「……市丸、と……」

 

 市丸ギン。此方は予想の範囲内だ。ずっと疑っていたのだから。

 

「やあ、日番谷君………」

 

 そして、此方は完全に予想外。候補にすら挙がらなかった。いや、挙げられなかった。何故なら彼は死んでいるはずなのだから。

 

「………藍染!」

 

 どうして彼が生きているのか、疑問に思っていると市丸は吉良が囮の役目を果たせず申し訳ないと謝罪する、何の話をしていると問えば、敵の戦力分散は戦術の基本だろう?と何時もの様に微笑みながら言われる。

 敵……どう考えても、今こうして単独行動をしている日番谷を指している。

 混乱する中、彼等の向こうの部屋から感じる霊圧に気づき慌てて横を通り過ぎれば部屋の中に雛森が倒れていた。大量の血を流して。

 

「残念。見つかってしまったか……済まないね、君を驚かせる気はなかった。せめて君に見つからないよう、細かく刻んで黒泥にでも沈めておくべきだったかな──此処も、どうせなら呑ませておけば良かった」

「………どういうことだ、藍染、市丸………てめぇら、何時からグルだった」

「最初からさ」

 

 日番谷の質問に、素直に応える藍染。

 

「てめぇが死を装うより前ってことか」

「理解が遅いな。最初からだよ………私が隊長になってからずっと、彼以外を副隊長だと思ったことはない」

 

 藍染は元副隊長で、前隊長が行方不明になった後隊長に昇格し市丸を副隊長に任命した。およそ百年ほど前………つまり、その頃から日番谷も、雛森も、護廷十三番隊全員を騙していたというのか。

 

「騙していたわけではないよ、誰も………いや、まあ『彼女』に比べれば十分騙していると言うべきか。とはいえ、平子隊長のように私を疑う者が一人も現れなかったのは、君達の理解の浅さが原因だ」

「理解、してなかっただと……てめぇだって知ってるはずだ………雛森は、お前に憧れて……!」

 

 死神になろうとした動機は忘れた。しかし本気で目指すようになったのは、彼に憧れて。彼の役に立つために死に物狂いで努力して副隊長にまでなった。

 

「知っているさ。憧れを持ってくる相手ほど、御しやすい相手はない。だから私は彼女を副隊長に推した──」

「───な」

「良い機会だ、よく覚えておくと良い。憧れは、理解からもっとも遠い感情だよ」

「───────!」

 

 そこまでが、限界だった。藍染に切りかかる。当然かわされるがこの程度驚くことでもない。裏切り者だろうと隊長なのだ。

 

「卍解───」

 

 ゴウ!と霊圧が寒波を吹き荒らし砂煙を吹き飛ばす。

 

「大紅蓮氷輪丸!!」

 

 卍解の姿は、刀を持った腕から連なる巨大な翼を持つ西洋風の氷の龍を日番谷自身が纏い、背後に三つの巨大な花のような氷の結晶が浮かぶと言うもの。放たれる冷気が周囲を凍らせていく。

 

「────……藍染、俺はてめぇを、殺す」

「………あまり強い言葉を使うなよ、弱く見えるぞ」

「───!」

 

 藍染に向かって切りかかる。そして───斬られた。

 

「───嘘、だろ」

 

 見えなかった。気付いたら斬られていた。意識を失い倒れた冬獅郎は周囲の冷気のおかげで止血されたが、追いかける力は残っていないだろう。季節ではない氷を少しばかり鑑賞した後出て行こうとする藍染。新たな気配が現れた。

 

「やはり此処でしたか、藍染隊長」

 

 パキ、と薄氷は踏み砕き、凛とした声が響く。放たれる霊圧がさらに氷を割っていく。

 

「……いえ、もはや隊長と呼ぶべきではないのでしょうね。大逆の罪人藍染惣右助」

「どうも……卯ノ花隊長。来られるとすればそろそろだと思っていましたよ。すぐに此処だと解りましたか?」

 

 ここは如何なる理由であろうと立ち入りを許されない完全禁踏区域。卯ノ花が誤診するほどの精巧な死体の人形を作った後、隠れるなら此処しかない、と言う卯ノ花に藍染は二つ訂正する。一つは此処には隠れに来たわけではないということ。そして───

 

()()は『死体の人形』じゃない……」

 

 そう言って手を掲げる藍染。その手には何時の間にか藍染と瓜二つの人形が握られていた。

 

「……い、何時の間に───」

 

 卯ノ花に付いてきていた勇音が思わず声に出す。先ほどまであんなものはなかった。隠せる場所もない、だと言うのにどこから───

 

「……()()()()()?この手に持っていたさ、さっきからずっとね……ただ、今この瞬間まで僕が()()()()()()()()()()のこと……」

「?」

「ど、どういう……」

「直ぐに解るさ……そら、解くよ………砕けろ『鏡花水月』」

 

 パリンと硝子が割れるような音が響き藍染の手に斬魄刀が現れる。

 鏡花水月は流水系の斬魄刀で、霧と水流の乱反射で敵を攪乱させて同士討ちさせる、そう説明していたが、それは嘘だ。

 実際は始解する瞬間を一度でも目にした相手の五感を誤認させる『完全催眠』。

 

「一度でも目に………──っ!」

「気付いたようだね」

 

 一度でも目に、だとするならおかしい。生まれた時から盲目である東仙要が藍染の死体を確認しに来た時に、気づかないはずがない。

 

「つまり、東仙要は初めから僕の部下だ───」

「───確認したいことがあります」

「何かな?」

「雫は、死んだのですか?死んだとしたら、殺したのは貴方ですか?だとしたら、何故───」

「────ああ、彼女は少し自由すぎたからね。本物の愛を以て人の心の深いところに入り込み、人を変える才能を持っていた。だから、朽木白哉が旅禍の少年と戦う理由が変わってしまったし、四楓院夜一と砕蜂の戦闘はどうやら互角のまま決着が付いていないらしい………それに、今君は怪我人の治療より僕を斬ることを優先したいだろう?」

 

 その言葉と同時に切りかかる卯ノ花。狙いは首。斬った感覚はあった、しかし愛染は後ろに立っていた。

 

「彼女はその気はなくとも人の心を支配する。その支配を以て己のために命を捨てさせもする。ずるい話だ、僕は雛森君一人でさえ演技を続ける必要があったというのに。だから、彼女には退場してもらおうと思ってね」

「だから、彼女を殺したと………?自分の計算を狂わせるから、そんな理由で!あの人は、貴方にとってその程度の存在だったんですか!?どうして、だって……あの人と貴方は───」

 

 勇音が激昂するが切りかかれない。アレもまた幻覚の可能性があるからだ。

 

「なかなか愉快な勘違いをしているようだね。それも、彼女の自由奔放さ故か………」

 

 藍染は困ったことだというように肩をすくめた。勇音は、今すぐにでも切りかかりそうになる。

 

「絶望してくれるなよ護廷十三隊、怒りを燃やせ、私をしっかり敵としてみろ。不抜けた蟻を踏みつぶしたところで、誰も私を認めないだろうからね」

 

 そう言い残すとギンが布のようなものを袖から取り出す。それは勝手に藍染とギン、二人の周囲を包み込み光り輝くと姿を消した。

 

「…………勇音、直ぐに捕捉と、全ての隊長、副隊長に今回のことを連絡。あの旅禍達にも」

「……………わかりました!」

「……………」

 

 卯ノ花は冬獅郎と雛森の救命措置に入る。深い傷だが、自分と勇音………そして雫なら治せた。

 

「……………」

 

 雫は強い。自分よりも。そして、自分を悦ばせたあの少年よりも。だが自分ともあの少年とも違い戦いを好まない。

 まだ平隊員や下級席官だった頃夜遅くまで自分の下に学びに来た。

 

──烈モ、アノ子ミタイニ遊ンデ欲シイ?

 

 怪我人が傷をいやし退院する姿を心の底から嬉しそうに出来る彼女に、彼を悦ばせられる羨望のようなものを覚えていると不意に彼女が尋ねてきた言葉。

 答えられなかった。と言うより、固まってしまった。隠していたはずの自分を知られてしまったから。

 

──?何デソレデ嫌イニナルノ?私ハ別ニアサマシイ?トハ思ワナイモノ。烈ガ人ヲ癒セル事実ハ変ワラナイデショ?

 

「………雫」

「────ナァニ?」

「──────」

 

 不意に呟いた言葉に返事が返ってくる。目を見開き振り返ると雫が小首を傾げていた。

 

「アラ、シロチャンニ雛森───片方ハ私ガ受ケ持ツワ」

「え、ええ──」

「虚月副隊長!」

「勇音、今ハ治療中ダカラ、後デネ──」

 

 そう言って雛森に手を当てる雫。傷が治療されていく。この腕は、間違いなく雫のものだ。これも、藍染の幻覚?いや、しかしする意味は?

 

「────?ドウシタノ?」

「あ、いえ………」

 

 今は治療が先だ。二人同時から一人に変わったから、直ぐに済んだ。チラリと雫を見れば此方も終わっていた。整った寝息をたてる雛森の頭を優しく撫でる。

 ああ、やはり彼女は雫だ。春の日差しに触れているような、夏の水辺に足を漬けているような、心地良い気配。

 

「………生きて、居たんですね」

「エエ、ゴメンネ」

「けど、どうして──」

 

 どうして姿をくらませたのだろうか?捕らえられていた?そこから抜け出てきたのだろうか?

 捕らえるのだとしたら、此処は確かに最適な場所だ。先程も言ったように禁踏区域なのだから。しかし生かしておいた理由は何だ?彼もまた、彼女に絆されていたと言うことだろうか?

 

「実ハ姿ヲ隠シタママ去ルヨウニ言ワレテタンダケド、ヤッパリ百年モオ世話ニナッテソレハ薄情ダト思ッテ。コウシテオ別レヲ言イニ来タノ」

「───へ?」

「お別れ?雫、何を────何を言っているのですか」

 

 彼女が生きていた時点で、考えなかった訳ではなかった。彼女に目立った外傷はなかったが、それでも、完全催眠で不意をつかれ気絶させられたか、誘導され捕らえられていただけだと、思いたかった。

 

「私ハコレカラソースケ、要、ギンノ三人ト一緒に虚圏(ウェコムンド)ニ帰ルワ。百年間、オ世話ニナリマシタ」

 

 そう言って頭を下げる雫。雛森の頭をそっと膝からおろし立ち上がる。

 

「ま、待ってください──え?一緒って、あの人は瀞霊廷の敵なんですよ!?」

「私モソウヨ?」

「───っ!嘘です!そんな、貴方が──だって──!」

「───藍染惣右助の、完全催眠ですか?あの男に、何か偽りの記憶でも」

「………言ッタデショウ?帰ルッテ……私ハ元カラ、貴方達ノ仲間ジャナイ」

 

 困ったように、申し訳なさそうに謝る雫。

 

「………だ、騙していたんですか?私も、隊長も……皆も───!笑いかけてくれたのは、傷が治った患者を嬉しそうに見送っていたのは、眠れぬ夜に抱きしめてくれたのは、全部………全部嘘だったんですか!?」

「嘘ジャナイワ。今デモ貴方達ヲ愛シテイル。コノ百年、トテモ楽シカッタ。デモ、ソレモオ終イ───ドウカ私ヲ愛サナイデ」

 

 そう言って雫は、姿を消した。




死神図鑑ゴールデン

藍染「どうやら彼女、結局姿を現してしまったらしい」
ギン「あらら~、東仙隊長がフラグたてるからやでぇ?」
東仙「たてたのは狛村だ」
藍染「そうだね。要に責任はないよ、彼女の存在を常に感じられないようにしていなかった私のミスだ」
東仙「そのようなことは!全て、私の責任です」
藍染「いいや、私の───」
東仙「私の──!」
ギン「………あー、ならボクの」
藍・東「君(貴様)の責任だ」
ギン「あら──」



恋次「───何やってんだあの人達」
ルキア「知っているぞ!アレは『どうぞどうぞ』という奴だ、現世のテレビ番組で見たことがある」



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