虚圏の母神   作:キングゥ

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天の頂を目指す者

 虎徹勇音からもたらされた藍染惣右介、市丸ギン、東仙要の裏切りの連絡。

 旅禍の中で一番頭がいい石田雨竜がその連絡を聞き藍染こそが朽木ルキアの処刑の黒幕と推理。直ぐにルキアの霊圧を探した一護は双極の丘に向かった。

 ただでさえ雀部との戦闘で疲弊していた恋次が殺されそうになっているところを何とか止め、協力して倒そうとするが一護もまた白哉との戦闘で疲弊していた。卍解は指一本で止められ腹を切られる。

 疲弊していたとは言え隊長格が一護をこうも一方的に、万全だったとしても勝てるとはとても思えない。

 そして恋次を切り捨てた藍染は今回ルキアを処刑しようとした目的を話す。

 彼の目的は浦原喜助によってルキアの中に封印された崩玉という物質を手に入れること。崩玉は死神と(ホロウ)の境界を完全に取り払うことが出来る。二つの力を手にした存在は、本来どちらかの存在のまま固まっている存在を進化させる。

 

「もっとも、崩玉などなくとも濃密な力を以てして魂魄を変質させる者もいるがね……」

 

 だが藍染は魂魄を喰らうほど成長の余地がある(ホロウ)の死神化にこそ目を付けた。ゆえに(ホロウ)の力を司る彼女では研究に限界があると崩玉を求めたのだ。

 計画の目的の説明が終わり、今回の計画の流れも教えようとした瞬間現れた狛村を無詠唱の『黒棺』で瞬殺し、ルキアから崩玉を抜き出す。浦原が用意していた装置らしく、ルキアには傷一つついていなかった。しかし器としての役目を失った彼女にもう用はない藍染は市丸に殺すように命じる。

 だが、白哉が現れルキアを庇った。その際負傷してしまったが、もとより怪我を負った彼にさらに傷が増えたところで何も変わりはしないだろうが。

 藍染が何を思ったのかは解らないが、斬魄刀の柄に手をかけ近づいていくと慌ててかばおうとするルキア。その行為に、何の意味もない。

 が、天は彼女を見放していなかったのか砕蜂と四楓院夜一が現れ藍染の腕を押さえ首に刀を押し当てる。

 

「動くな、筋一本でも動かせば──」

「即座に首を刎ねる」

「───やれやれ、先程まで殺し合っていた旅禍ともう手を組むとはね、()()()()───」

 

 こんな状況下でまるで何時もの様に名を呼んでくる藍染に、砕蜂の顔に怒りがにじむ。

 

「そんなに、彼女が転がされていたのが許せなかったかい?なら、知らず知らずに消えてた方が良かったかな?」

「───貴様ぁ!」

「待て!砕蜂!」

 

 藍染の言葉に激昂した砕蜂が斬りつけるが、藍染の首に傷一つつかなかった。

 

「─────!」

「面倒なことだ。元より私より弱い君が、そんな状態で私に傷を付けられるわけがないだろう?」

「──か、あ……?」

 

 ゴブ、と血を流し目を見開く砕蜂。何時の間にか、斬られていた。だが、何時?

 

「砕蜂!藍ぜ───!?」

 

 首をへし折ろうとする夜一だったが肋の隙間から肺が貫かれる。動きは見ていたつもりだった、しかし気付けば刺されていた。

 

「おかしいね、勇音くんから聞いていたろ?私の能力を───何故、私がおとなしく捕まっているなどと本気で思えた」

「───く、そ………」

「さて、それじゃあ………」

 

 と、ギン達に振り返ろうとすると周囲に複数の影が現れた。ギンの片手をつかみ首に刀を添える乱菊、東仙の首に刀を添える檜佐木。

 

「───言い訳は、せんでよい。大人しく捕まり、罪を償うが良い」

 

 押しつぶされるような霊圧に藍染は笑う。

 と、その時───

 

「───む」

「なん、だ……これは、歌?」

「………───!?」

 

 不意に美しい音が聞こえてくる。いや、それは音ではなく声、美しい歌声。

 思わず何処から聞こえてくるか探してしまいそうになるほど。だから、それを見つけた。

 

「──黒い、柱?」

 

 

「クソ、何だいきなり!何が起きやがった!?」

 

 突然泥の中に突っ込んだ観測機が全てオーバーフローを起こし故障。続いて泥が巨大な噴水のように水柱となった。

 霊子濃度が上がった。それだけではない、微量だった魄動も活性化していく。霊圧も放ち始めた。

 

「───この反応!?」

 

 周囲の魄動を観測していた観測機は泥に突っ込んでいなかったので無事だ。それが示す観測結果に目を見開く。慌てて水柱を見ると一部が泡立ち白い仮面が飛び出してきた。

 

「───大虚(メノス)─!!」

 

 そのままズルリと水柱から足が生え、地面を踏み込む。一歩、二歩と歩き水柱から()()()()大虚(メノス)が液状になっていたわけではない、大虚(メノス)が、()()()()

 

 

 

 

「───な、何だ、アレは──」

「一つとして同じ仮面がない───中級大虚(アジューカス)へ至る資質を持った個持ちの最下級大虚(ギリアン)の群って事かい……」

 

 浮竹が目を見開き京楽が異様な光景に冷や汗を流す。所詮は最下級(ギリアン)。対処できないことはないが数が多い。この場の人員を割くべきか?

 

「アラ、砕蜂──酷イ怪我───」

「────へ?」

「───な」

「────」

 

 と、全員の視線が藍染達から大虚(メノス)達に引き寄せられた時、不意に聞こえる声。砕蜂は弱々しく顔を上げる。

 

「────う、虚月………?生きて……生きていたん、ですね」

「モウ、副隊長ニナッタ時カラ、敬語ジャナクテ良イッテ言ッタデショウ?」

 

 虚月雫が、そこにいた。砕蜂の傷を回道で癒していく。と、彼女は次に夜一に目を向け嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「夜一! 久シブリ!」

「─────し、雫………ああ、久しぶり…じゃな──」

「喋ラナイ。肺ニ穴ガ空イテルワ」

「…………なあ、喜助が言っていたことは………嘘であろう?お主が、そのような───」

「────?」 

 

 縋るような言葉に首を傾げる雫。周囲の者達が困惑し、雀部が元柳斎を見る。

 

「────」

「失礼します」

「──?」

 

 無言で頷いた元柳斎を見て雫を拘束する雀部。雫は不思議そうに首を傾げた。

 

「虚月……無事だったのは喜ばしい。だが、何故(なにゆえ)無傷で此処におれる……死んでいなかったとするなら、捕らえられていたと見るべきだが、それにしては外傷がない」

「捕ラエラレル?誰ガ、誰ニ?」

「君が僕にだよ……」

「ソースケガ?何デ?」

 

 不思議しそうな顔をする雫に藍染が応えるとさらに不思議そうな顔をする雫。と、倒れている一護に気づきジッと見つめる。

 

「────!?」

 

 ゾワリと、背筋に悪寒が走る。

 

──愛シテル

 

 そんな声が聞こえた気がする。満面の笑みを浮かべ、雀部を投げ飛ばす。

 

「──ぬぅ!?」

「───ッ!?」

 

 そのまま一護の下に移動し、抱き締めた。

 

「ホワイト!」

「むぐ!?──づ、ぐぅ!!」

 

 頭を持ち上げられ斬られた腹がミチミチと嫌な音を立てる。それに気付いた雫は慌てて手を離しひっくり返すと傷口に手を添える。

 

「───コンナ大キナ傷作ッテ………アラ、コノ霊圧ノ残滓────ソースケネ!」

 

 治療中に傷口に残っていた霊圧から斬った犯人を理解した雫が藍染に向かって叫ぶ。

 

「ナンテ事ヲスルノ、コノ子ハ私ト貴方ノ子供ナノニ!」

「「「───!?」」」

 

 その言葉に目を見開く護廷十三隊のメンバー。

 

「………なん……だと」

 

 それは一護も同じだった。自分には両親の記憶はしっかりと存在する。目の前の存在じゃない。なのに、何だ、この感覚は──何故そんな息子を見るような目で此方を見る。

 

「何を、何を言ってやがる………俺は、あんたの息子なんかじゃ───!それに、父親だって──」

「雫、確かにその男は君の子ではあるが、私の子というのはどうかと思うよ……私はその子供を産むための手伝いをしたにすぎない」

「やー、聞きようによっては最低な男やな藍染様」

 

 疲れたような藍染にギンがケラケラ笑う。

 

「………それはつまり、その男を愛し共にいるという事か」

「エエ、約束ダモノ百年程前カラ───私ノ愛ヲソースケガ受ケ止メテクレル代ワリニ、力ヲ貸スッテ」

「な!?虚月副隊長、何を!?そのような、そのような男と共にあるなど!そのような男の愛のために───!」

「あらら──こりゃなかなか隅に置けないじゃないの」

 

 殺気立つ護廷十三隊にまた不思議そうな顔をする雫。危険な状態じゃなくなったからか治療を取りやめ藍染の下に移動する雫。

 

「─────捕らえよ、四人まとめてだ」

 

 元柳斎の言葉に隊士達が動こうとした瞬間、新たな霊圧が現れる。

 

「よおぉ!やっぱり生きてやがったかぁ!」

「ア、剣八──」

 

 現れたのは更木剣八。地面を踏み砕き獰猛な笑みを浮かべる。

 

「良く解らねぇが、裏切ったらしい藍染達と一緒にいんなら、斬っても問題ねぇよなぁ!」

「待て、更木!」

 

 浮竹が止めようとするも、それで止まる男では断じてない。

 

「───呑め」

 

 慌てて周囲にいた死神達が離れ、剣八の持つ斬魄刀が巨大な斧のような形に変化する。

 

「野晒」

 

振り下ろされ、圧倒的な破壊の力が解き放たれる。背後にあった斬魄刀百万本の攻撃にも耐える双極の磔架が完全に崩壊する。砂煙が辺りを覆う。

 これが歴代最強の剣八の斬魄刀の始解。何という破壊力、これではもう───

 

「────!?」

 

 人影があった。人の形を保っていた。砂煙が完全に晴れ、その全容が露わになる。

 

「すまない、助かったよ雫」

「気ニシナイデ───」

「───嘘、だろ……」

 

 死神の誰かが呟き、剣八が楽しそうに笑う。

 そして、異様な霊圧が周囲を包み込む。死神でも、(ホロウ)でもない………或いは、どちらでもある霊圧。

 だが、まず驚いたのは霊圧の異様性ではなく雫が今の一撃を片手で受け止めたという事。そして二つ目の驚愕は、衝撃で死覇装がボロボロになり露わになった雫の姿。

 腹に妙な紋様があるとか、それはどうでも良い。腹にあるもう一つの異常───臍と胸の間、そこに向こうが見える穴が存在していた。完全に貫通している。

 

「────(ホロウ)の、穴………」

「てめぇの言っていた、死神の(ホロウ)化か!?」

「いいや?私は言ったはずだ、(ホロウ)の死神化にこそ目を付けていたと………彼女は、初めから(ホロウ)だ。百年ほど前、私がこの地に連れてくるその以前より」

「「「─────!!」」」

 

 剣八が更に追撃をかけようとしてきたので雫は野晒を片手で弾き、腹を殴りつける。吹っ飛ばされていく剣八。遠くで砂煙が上がった。

 

「……はじめ、から………では、では貴方が私を元気づけてくれたのは!?貴方が瀞霊廷に於いて振りまいていた優しさはどうなるのです!?」

「安心すると良い。その優しさに、君たちに向けられた愛に、何一つ偽りはない。雫はそういう存在だ………ただ一つだけの嘘は、死神でないことだけ。まあ、霊術院は卒業しているわけだから一概に死神でないとは言えないかもしれないが」

「…………虚月よ、貴様は何者だ……破面(アランカル)なのか?」

「まあ、そうですね。ただ、つい最近まで(ホロウ)の力を完全に抑える道具をつけていましたが………それがなくなった今、彼女は漸く本来の力を発揮できる」

「────(ホロウ)を進化させるなど、貴様───!」

 

 元柳斎が再び霊圧を放つ。だが───

 

「残念。時間だ───」

「「────!?」」

「ア、待ッテ。総隊長、コレ───」

 

 空から光が落ちてくる。雫が慌てて『辞表』と書かれた紙を元柳斎に渡し、四人が完全に光に包まれた。

 光の出所は空に開いた穴。更に四つの穴の上に巨大な穴があき、ズルリと伸びてきた指が押し広げる。大量の大虚(メノスグランテ)が顔を覗かせた。

 そして、四人の足下が地面ごと空へと浮かび上がる。

 

「逃げる気かいこのっ――!?」

「やめい!」

 

 藍染達を追おうと光に突撃しようとした射場を元柳斎が止めた。

 

「あれは『反膜』(ネガシオン)というての。大虚が同族を助けるときに使うものじゃ。あの光に包まれたが最後、光の内と外は完全に隔絶された世界となる。大虚と戦うたことのある者ならみな知っておる。あの光が降った瞬間から、中の者には最早触れることすら出来んとな」

 

 今も目に確かに映っている。しかし、もはや別の世界にいるようなもの。

 

「東仙!!降りてこい東仙!解せぬ!貴公は何故死神になった!?亡き友の為ではないのか!?正義を貫くためではないのか!?貴公の正義は何処に消え失せた!?」

 

 東仙に狛村は語り掛ける。満身創痍でまだ叫べるとは見た目通り人間離れした生命力を持っているようである。

 だが今は気にせず東仙に問いかけた。狛村には分からなかった。何故、友の為に死神になるという決断をする優しさを持ち、正義を誰よりも貫こうとしていた東仙が隊長となり、ある程度の発言権を持った今になって反旗を翻したのか。

  

「言ったろう狛村、私のこの目に映るのは、最も血に染まらぬ道だけだ。正義は常にそこにある。――私の歩む道こそが正義だ」

 

 価値観の相違。狛村と東仙では思い浮かべていた正義は狛村のそれとは大きく異なった。

 そして、違う場所では僅かでも情報を引き出そうと、浮竹が藍染に話しかけていた。

 

「百年も前から、今日まで裏切るために僕らと共にいた?そこまでして、何を求める」

「高みを求めて」

「……地に堕ちたか」

「驕りが過ぎるぞ、浮竹。最初から誰も天に立ってなどいない。()()、僕も、()()()もね」

 

 眼鏡を取り、髪に手をかける藍染。

 

「だが、その耐えがたい天の座の空白も終わる。これからは──」

 

 雫が申し訳なさそうな顔で地上の皆に手を振る。

 

「──私が天に立つ」

 

 髪を掻き上げ、オールバックへと変えた藍染は柔和に丸めていた瞳を本来の鋭い瞳へと戻し、眼鏡を握り砕いた。

 

「さようなら、死神の諸君、そしてさようなら、雫の───ティアマトの息子よ。人間にしては君は実に面白かった」

  

 そして次の瞬間には空間の裂け目は完全に閉ざされた。




死神図鑑~ゴールデン~

阿近「くそ、こんな大量の大虚(メノス)どうすりゃ良いんだ!」
空鶴「俺等に任せな!行くぜ兕丹坊!」 
兕丹坊「おス!」
空鶴「漸く本編初登場だ!気合い入れろ!」
阿近「………ここ、オマケだぞ」
空・兕「……なん……だと」



これにて瀞霊廷編終了。感想お待ちしております

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