虚圏の母神 作:キングゥ
因みにお気に入り数より感想数の方が励みになります
俺には目しかなかった。ただ、この世界に満ちる力を感じ取ることはできた。その源泉を見つけ、飛び込んだ。俺という存在が塗りつぶされるような感覚。
膨大な力は俺などとは比較にならず、俺を飲み込み、侵蝕する。このまま俺という境界が溶け、消える。それは良い、そう思った。しかし、そうなったら俺はどうなるのだろう、そう思った───
──消エルノハ、恐イ………?
そんな声が、聞こえた。耳のない俺が、初めて聞く声。
─────────────────
黒い河から現れた女は首を傾げじっと此方を見つめてくる。これは、返答を待っているのだろうか?
「………は、ハリベルだ。ティア・ハリベル。こちらは、私の仲間たちだ」
その言葉に、女はハリベルの部下達にその赤い瞳を向ける。
「エ、エミルー・アパッチ」
「フランチェスカ・ミラ・ローズだ……」
「シィアン・スンスンと申します」
「…………ティアマト」
「………………」
もしかして、今名乗ったのだろうか?
鹿型の
ニコリと微笑まれた。何だろうか、敵意を感じないというのもあるが、それ以上に、何か、安心する。殆ど薄れつつあり、それこそ人だった頃の言葉しかない人としての記憶。そこに引っかかるような……そんな感覚。
「ティアマト……それが、お前の名か?」
この中で恐らく彼女と同格である
「エェ、ソウ……ソレデ、アナタ達ハドウシテ此処ニ?アア、霊力カシラ……」
確かに此処は元々霊子の多い
「食ベル?」
ズイ、と差し出された魚。
この河………。
だとすると、食欲が失せる。いや、魚型のただの
「い、いや……我々は、必要最低限生きていければ───」
「ソウ?変ワッテルノネ───」
不思議なものをみた、とでも言うようにじっとハリベルを見るティアマト。赤い瞳の奥に、不思議な光を見た。星海が映っている。吸い込まれそうな瞳にたじろぐハリベルを無視してティアマトは口を大きく開けて魚の頭を咥える。流石に大きかったのかんぐんぐと少しつっかえてからゴクリと丸ごと飲み干した。ペロリと唇を舐める様が、何とも子供のようで可愛らしい。
「ソウイウ事ナラ───モット近ヅイテ。進化ハデキナイケド、退化モサセナイカラ」
「近づく?」
「アッチニ、『海』ガアル───コノ河ハ、ソコカラ流レテイルノ」
普通、逆ではないだろうか?いや、人間だった頃の知識がこの世界でも役に立つとは確かに思っていないが───。
「チョット待ッテテ──」
そういうと、大きく息を吸うティアマト。次の瞬間、大気を揺らす
──AAAAAAAAAAaaaaaaaa!!!!
その声に呼ばれるように、二つの影が現れる。
「ウルキオラ、キングゥ」
「何だ、母よ」
「呼んだかい、母さん」
一人は白い身体に白い角。白い翼を持った人型の極めて
「コノ子達ヲ、海マデ案内シテアゲテ」
「解ったよ」
「ついてこい」
そういって歩き出す男達。どちらがウルキオラでどちらがキングゥなのか。尋ねたところ翼がある方がウルキオラでポンチョがキングゥ。仮面について聞くと、顔が見えないからと母に剥がされたのがキングゥ。海流に乗っている時海の岩で一部砕けて、そこから剥がされたのがウルキオラと違いはあるらしいが結局は母──ティアマトが関わっているらしい。しかし───
「母、とは?」
「母さんは母さんさ。僕を産み出したからね……」
「俺は創り直されただけだがな」
にこやかな笑顔で誇らしげに語るキングゥと淡々と述べるだけのウルキオラ。産んだ?作り直した?気になることは山ほどあるがティアマトは何時の間にか消えていた。
「それじゃあ行こうか。母さんも待ってるよ」
「『河』を通って『海』に向かったのか?しかし、何故わざわざ………」
「彼処から出てこれないからね」
出てこれない?いや、あの異常な量の霊子の水に浸かるのだ。それこそそういった進化をしていても何ら不思議ではないか。
「────これは、凄いな」
たどり着いた場所は、見渡す限り黒い水に覆われていた。対岸は見えない。なるほどこれは確かに『海』だ。『海』から溢れる霊子の濃度は、かなり濃い。
幹の何処かに穴が空き、牛骨や鹿の骨、人の骨、何処かの民族の伝統の仮面など様々な骨のような仮面が付けられているが、
なっている実を動物型の
「た、食べマスか……?退化せずニ、すミます」
四本の腕にメロンほどの果実を抱え、ハリベル達に差し出す。アパッチ達が警戒するがハリベルが受け取り食べる。霊力が肢体に満ちた。
「此処は母さんが作った
「それは、素晴らしいな」
「そうデスよね!」
と、嬉しそうな声で叫ぶ
「しかし、植物型の
いや、正確には似たようなものは見たことある。だがそれは動物が身体から生やしていたり、ハエトリグサのように動く植物に限った。この
そんなこと、あり得ない。先ほど疑問に思ったがそれでも撤回しよう。疑問に思うまでもなく、絶対に不可能だ。なにせこうなるためにはまず自身のために喰わなければならないのだから。
だが、しかし───こうして多くの
「彼等は、何故あのような姿に?」
「ん?言ったろう、ここは母さんが作ったと。彼等もその一部。母さんが産み出した
「────は?」
ハリベルは、思わずそんな声を漏らす。作った?
どうやって、どうして、そんな事が出来る。何なんだ、ティアマトは。本当に
「此処ハ、気ニイッタ?」
ズルリと海面からティアマトが姿を現した。水の上を歩くと河が生まれその上を歩く。本当にあの水から出れないようだ。というか、まさかこの広大な水は彼女の能力なのか?
「ハリベルミタイナ子、珍シイカラ大歓迎──此処ニハソウイウ子達ガ集マルノ」
それでも
「俺には理解できんな。この世界で他者のために尽くすなど」
「……………」
「母のように特別な力を持っているわけでも、この世界全てを従えられるほど強いわけでもない。なのに必要最低限しか喰わず、維持するだけで強くなろうとしない。それで他者も守りたいなど身の程知らずも良いところだ」
「ッ!てめぇ!」
ウルキオラの言葉にミラ・ローズが唸りアパッチとスンスンも不快そうにウルキオラを睨みつける。ハリベルは、実際仲間達に自身のエゴを押しつけている自覚があるのか俯くが。
「ソウイウ事、言ワナイノ」
「……………」
ティアマトの言葉にウルキオラはとりあえず黙る。
「ハリベルハ、優シイ子ヨ………仲良クシテアゲテ」
「優しいとはなんだ」
「心カラ他人ヲ大切ニ思エル事ヨ………ハリベルハ、トテモ良イ子………」
「うっ……!」
水がハリベルの足下を囲うように流れてきてその上を移動したティアマトがハリベルを抱きしめ頭を撫でる。頭を撫でられるなど
「心とは何だ?」
「ンー、口ニ出シテ説明スルノ、難シイ………デモ何時カウルキオラニモ解ルワ」
「そういうものか?」
「ソウイウモノヨ。心ッテ、トテモ素敵ヨ……誰カヲ好キニナルト、胸ノ奥ガ満タサレルノ」
「好き?」
「ウルキオラハ可愛イモノ。直グニ好キモ解ルワ」
可愛い?と首を傾げウルキオラを見つめる
森の中に点在する木の実と違い、特別な果実がある。離れ小島に生える木の実。中の霊子が桁違いで数は少なく成長も遅いが、成長できる。何時かは進化できる。
それを食せるのは少しだけだ。キングゥやウルキオラ、ハリベルのような森を守る戦力になりそうな
ティアマト自身は食事を摂らない。あの水に浸かっているのだから大丈夫だろうが。
「AAAAAAAAAAaaaaaa」
今日も歌が聞こえる。とても綺麗な声で、ティアマトが歌う。ハリベルはこの歌を聴くのが好きになった。目を閉じ、歌に耳を傾けるのが最近の日課だ。
「────?」
不意に歌が止まる。海を見ればティアマトが陸を眺める。森ではない、ずっと奥を───
「───誰カ、来タ………沢山イルワ」
「───ッ!まさか、バラガンか!?」
「サア……デモ、ハリベルヨリ強イ子モイルワ」
自分より強い。その上で大勢。間違いなくバラガンだろう。追ってきたか!
ハリベルは周囲を見回す。此処は、争いだらけの
「─────っ!!」
「何処へ行く」
駆け出そうとしたハリベルだったが呼び止められる。ウルキオラだ。
「母の話を聞いていなかったのか?今向かってきている敵は、お前より強い個体がいる。その上で群だ………お前に何が出来る」
「………奴らは私を追ってきたのだろう。その上で、此処を見つけた。だからバラガン本人も軍を連れ向かってきた───私のせいだ。だから───」
「向かったとして、勝てるのか?」
「せめてバラガンの首だけは穫る。残りは雑魚だ。キングゥとお前なら全滅させられる………ウルキオラ」
向けていた背を戻しウルキオラと視線を合わせるハリベル。今は鍛錬中であろう三人娘の顔を思い出す。
「彼奴等を頼む───」
「─────」
ウルキオラは首を振ることも頷きもしなかった。だが、ハリベルは再び背を向けて走り出した。
森を駆け抜け砂漠に出る。そのまま河に沿って走る。ティアマトはこの水に触れた者を知覚するからだ。直ぐに見えてきた。
「おお、ハリベルか……出迎えご苦労。儂の軍門に下る意志は決まったか?」
話しかけてきたのは御輿の上に腰をかけた人骨を思わせる
「聞けばこの先、
当たり前のように命じるバラガン。彼は、心のそこからこの
「引き返せ。此処から先、貴様の物など一つもない」
ハリベルの言葉に部下達が殺気を放つ。バラガンは、肩を震わせた。
「カカッ!カカカッ!
構えをとるハリベルを見て馬鹿にしたように笑うバラガン。ハリベルは彼等から逃げ続けていたのだ。だというのに、こうして対敵している。それが可笑しくてたまらないと言うようにバラガンは笑う。部下達も笑った。
「ああ、戦う。此処でお前を殺すために」
と、ハリベルに向かって飛び出す影。サーベルタイガーのように牙の長い仮面を付けた虎型の
「図に乗ってんじゃねぇぞ鮫女!陛下に対する口の利き方がなってねぇ!」
さらに鳥型、巨漢のような体型のバレリーナのような形、象型、鯨型、蠏型と様々な
ハリベルはまずサーベルタイガーを右手の大剣で切り裂き、振るった勢いをそのまま回転して拳を振り下ろしてきたバレリーナの拳に蹴りを放つ。サーベルタイガーは砂の上を転がりバレリーナが吹き飛ぶ。と、影が差す。
「死にやがれ!」
「────!」
無数に降り注ぐ羽の矢。仲間がいてもお構い無しだ。後ろに跳んでかわすハリベル。と、象が突進してきた。踏み潰す気だろう。前足を振り上げ、落とす。
「────!?」
「なめるな!」
しかし受け止めるハリベル。そのまま空高く投げ飛ばす。鳥に当たり、慌てて体勢を整えようとする鳥を蹴りつけ鯨に当てる。
「
と、蟹が高圧水流を放ってくる。それに対し、ハリベルも同様に高圧水流を放つ。同様といったがその威力は天と地の差。蟹の放った水流は押し返され鋏を切り落とされる。
「
放たれる黄色い霊力の奔流。とっさにバラガンを庇おうとした部下達が抵抗する間も無く消し飛ばされ、バラガンに接触。霧散した。
「────ッ!」
「この儂を戦場に立たせようとは………不敬千万」
ゆらりと立ち上がり重苦しい霊圧が周囲を包み込む。バラガンの怒りはどうやら部下達にも向けられているらしく、倒れた部下達が震える。
「誰一人として死んでおらぬか………儂を殺し、追い払えば良いと?相も変わらず殺したくないなどと寝言をほざくか。実に滑稽」
「…………」
無言で黄色い斬撃を放つ。バラガンが斧を振るうとあっさり霧散した。
これがバラガンの能力。触れた物を朽ちさせる力。霊力を用いた炎や雷といった光景も下の霊子に強制的に霧散させられる。
しかもこの力は自身の体の表面にも持っている。威力を弱めてもこちらの攻撃の威力が弱まり、本気を出せば触れることすら出来ない。
「【
バラガンが黒い息を吐き出す。名の通り全てを死なせる死の息吹。今、自分の周囲にはバラガンの部下が数名。舌打ちして、距離を取る。迫ってくる死はしかしハリベルよりもなお速く、足の一部に触れる。
「────ッ!」
そこから朽ち始める。すぐさま脹ら脛辺りで足を切り落とし地面を転がる。【
「最終勧告だ。我が配下となり、我が覇道の礎となれ」
「…………統一か……そのためには、この先に住まう者達も兵とするのか?」
「力があるなら、当然儂のために使うべきであろう?」
「────そうか………やはり、お前は此処で死ね」
大剣に付着した自身の血が黄色く輝く。物質化した霊子が再び霊子に還る。だが、ただ還す訳ではない。練った霊力と混じり合う。
「消えろ───!」
黄金に輝く破壊の奔流が流れる。先程とは比べ物にならない威力。地面の砂が文字通り蒸発する。
「【
が、その破壊の一撃はバラガンが己の
「────!」
迫り来る死に、目を閉ざす。死を前にした時の行動の一つ。否認だ。死を受け入れられず目を逸らそうとする。だが、ハリベルはまだ死ななかった。
片足のハリベルでは避ける手段はなかった。つまり、ハリベルが避けたわけではない。
「だからいったのだ。お前に何が出来ると───」
「ウ、ウルキオラ───?」
割れた仮面に、翡翠の瞳。涙のような
「あの連中の面倒を見るなど俺はごめんだ。さっさと足を治せ」
「あ、ああ───」
傷口に霊力を集め、超速再生を発動させる。と、ウルキオラは抱えていたハリベルをあっさり放す。自分で立てと言うことだろう。
「何じゃ、貴様は?」
「ウルキオラ・シファー……この先の森に住む者だ」
「そうか。ウルキオラよ……その女は我が命に背き軍門に下ることを拒絶し、儂に攻撃をした。許されざる罪人だ。庇うというのならば貴様も同罪である」
「そうか……つまり、俺も殺すと?」
「庇うのならば」
「ウ、ウルキオラ!私は良い!置いて逃げろ!彼等に、この事を───!」
ハリベルが叫ぶがウルキオラはバラガンに向かって歩き、光の槍を産み出す。
「フルゴール……」
「………逆らうか。不敬なり──死を以って償え!」
「消えろ──」
死が広がる。光の槍が放たれる。バラガンは己の力の絶対の自信故に、避けようともしない。光の槍がバラガンに触れ、崩れる。そして───
「────!!」
大爆発を起こした。
「なる程な、
そういって翼を振るう。煙が吹き飛び片腕を肩から失ったバラガンが姿を現す。
「───き、貴様……!貴様貴様貴様ぁ!よくも儂に傷を!許さん、許さんぞ!儂を誰と心得るか!《大帝》バラガン・ルイゼンバーン!
霊圧をまき散らし吠えるバラガンに、ウルキオラは無感情な瞳を向ける。
「大帝?神?笑わせる。単なる
「貴様───!」
バラガンが【
一発目が【
「「─────!!」」
瞬間感じる、バラガン以上の霊圧。ハリベルが目を見開き其方に目を向ける。そこには触手で覆われたドレスのような物をきたかのような姿をした
「───ザエルアポロか」
助けられたというのに……いや、助けられたからこそ忌々しげな声を出すバラガン。ザエルアポロ……それがあの
「困るなぁ君達。陛下は僕に実験材料をくれるパトロンだ。それを殺そうとするなんて」
「実験材料だと?」
「そうさ。僕は錬金術師だからね………しかし───」
仮面の奥の瞳がウルキオラ達に向けられ、細まる。
「あの森で生きている個体か。数日監視させた限り、そこでは共食いが滅多に起きない。起きたとしても魚型のただの
「─────」
その瞳に、ハリベルは震える。あれは違う。餌としてみている目とも異なる、嫌悪感を拭えぬ瞳。ウルキオラも珍しく不快そうに眉間に皺を寄せる。
「そういうわけだ。出来れば殺したくない………健康なまま解剖したいからね。おとなしく下ってくれると助かるんだけど───」
「【
膨大な水が放たれる。ザエルアポロは指を突き出す。
「
それは
「やれやれ。抵抗しないでくれ。彼我の実力差もわからないのかい?」
「────ッ!」
「───ああ、そうだな……お前は、確かに強い」
「そうさ。だから、さっさと───」
「だが、俺はお前には従わん」
「─────」
ウルキオラの言葉にザエルアポロから怒気が溢れる。ウルキオラはハリベルとは比べ物にならない速度で超速再生を行うと立ち上がる。
「………ムカつくね。ああ、くそ──
再び
「何ヲシテルノ?」
河の水が氾濫しウルキオラ達の前に壁となる。高密度の霊子が
「────ティアマト?」
「母か──」
河に目を向けるとティアマトが水上に立っていた。片手をつきだしている。今水を操ったのは彼女だろう。ザエルアポロは目を見開いていた。
「今のは、君がやったのかい?」
「エエ、ソウヨ」
「素晴らしい!」
ティアマトの肯定にザエルアポロは興奮したように叫んだ。
「何故その水に触れていられる!?何故その水を操れる!?何故?何故何故何故何故何故!?興味深い、実に興味深い個体だ!」
「────アナタ、元気ナノネ。考エル事、好キナノ?」
クスクスと笑うティアマトに、当然だろう?と返すザエルアポロ。ティアマトは笑みを浮かべる。とても冷たい笑みを。
「デモ、アナタ達ハリベル達ヲ虐メタワ───ダカラ、マズハオ仕置キ」
そういって水の槍がザエルアポロ達に迫る。それは黒い煙───バラガンの【
「無駄だ。そのような攻撃、我が前には通用せぬ」
「変ワッタ力、ネ──」
「儂が司るは『老い』………つまりは『時』!何者にも抗えぬ絶対の力よ!貴様も、そこの者達も!儂に逆らう全て物を塵に変えてくれるわ!」
「ソウ、老イ………」
迫り来る【
「確カニ、永遠ニ存在スル湖モ、永遠ニ流レル河モナイ……デモ──」
そういって、指を向ける。ゴボリと地面から黒い水が大量に溢れる。
「
黒い津波が襲いかかる。ザエルアポロの攻撃も、バラガンの死も全てを飲み込む圧倒的な質量で。
「モウ此処ニハ来チャ駄目──ネ?」
「心得た、母よ」
「解ったよ、母さん」
ティアマトの言葉に仕方ないというように肩を竦める二人。ティアマトは嬉しそうにニコニコ微笑むと二人を抱きしめ頭を撫でる。
「バラガン……何時カ
「うむ。不用意に共食いなどは起こせぬからな」
「ザエルアポロ。完璧ナ生命ニ成レルヨウ応援シテルワ」
「ああ、貴方のような存在になってみせるさ」
まるで本当に我が子を送り出そうとする母親のよう。そのまま海に飲まれ傷一つない状態で出てきたバラガンの部下達にも激励を行う。
彼等は彼等のままだ。気配も雰囲気も、性格にも変化はない。ただ、ティアマトを母としている。去っていく彼等をティアマトを手を振り見送った。
「ジャア、帰リマショウ?ワタシハ先ニ行ッテイルワ」
そういってティアマトは河の中に潜る。その場にはウルキオラとハリベルだけが残された。
「ウルキオラ……その、すまない……助かった」
「気にするな。お前が死んだ後、あの三人が面倒くさいことになりそうだったからだ。拾ったのはお前だ、最後まで面倒はお前が見ろ」
「…………そうか。そうだな……私は、まだ死ねない。死ねなかった」
仮面の奥で微笑むハリベル。歩き出したウルキオラの背を慌てて追い隣に立つ。
「なあ、ウルキオラ……一つ聞いて良いか?」
「何だ?」
「彼女───ティアマトは………あれは
「……………」
その言葉にウルキオラは虚空を見つめる。何かを考えるように……そして、口を開いた。
「ティアマトは………
破面大百科
ギン「はい、それじゃあ今回はティアマトちゃんについて説明するで~」
ティアマト「ヨロ、シク………」
ギン「大昔に生まれた始まりの
ティアマト「ン……」
ギン「因みにどれぐらい昔かというと霊王が生まれる以前……生と死が混じり合った混沌とした時代からや。いったい幾つ何なやろうなぁ」
ティアマト「ンゥ……覚エテ、ナイ………」
ギン「しゃあないね。まあそんなティアマトちゃんやからまずそこらの
ティアマト「クイン、シー?」
ギン「ティアマトちゃんからすれば雑魚や雑魚。気にせんでええ………そんでティアマトちゃんは
ティアマト「世界ソノモノ………ウルキオラモ、言ッテタ……」
ギン「そんでティアマトちゃんはその膨大な霊子を好きなように組み合わせることも出来るわけや。例えば今回の『樹のホロウ』や『魚のホロウ』といった具合に。さらには意志を持つ霊子体を侵蝕し作り替えることも出来る。作り替えられた個体はティアマトちゃんの言うことをよく聞く良い子に早変わり。例外は最初にとりあえず海からだしたウルキオラ君ぐらいや」
ティアマト「ウルキオラハ、良イ子ヨ?」
ギン「はいはい子煩悩やな。まあティアマトちゃんからすれば
ティアマト「ギンモ、要モ、ソースケモ、ネ」
ギン「僕親居ないから感激やわぁ」
ティアマト「ジャア、ギンモ子供ニシテアゲル」
ギン「ちょいまち!その水直ぐに消して!僕ホロウになる気はあらへんよ!」