虚圏の母神   作:キングゥ

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オリジナル卍解や設定が出ます


死神と虚の祖神

 子供達が頑張っている。

 一度産み直した子達は何処で何をしていようとティアマトの一部。故にティアマトは彼等の歩む様を感じつつ喜ぶ。

 長い長い時を生きた。一時期生まれた感情も、飲み込まれるほど永い時。今では虚圏(ウェコムンド)中が完全にティアマトの霊子に満ち、ティアマトに取ってそこに住まう全ての命が自身の乳飲み子のように愛しくてたまらない。叶うなら愛するために、愛されるために産み直したいぐらい。

 しかし幸いにもティアマトは未だ捨てられていない。一人の悲しみを、苦しみを知らない。故に原生(ホロウ)を一度滅ぼして産み直すという暴挙には出ない。

 

「AAAAAAAAAAA」

 

 子供達に聞かせるように歌を歌う。最近では歌う時間になるとハリベルが近くに来てくれる。頭を撫でると恥ずかしそうな顔を俯かせるが逃げないところがとても可愛い。

 

「ティ、ティアマト………そろそろ放してくれ。恥ずかしい」

「フフ……ハリベルハ、可愛イノネ」

 

 その反応に喜びハリベルの頭を抱き寄せる。放してくれと頼んでも放さぬし、そもそも力で勝てる相手でもない。仕方なくされるがままになっていると、不意にティアマトの手が止まる。不思議に思い横顔を覗くと瞳が僅かに見開かれていた。

 

「……………」

「ティアマト?」

「───ザエルアポロノ繋ガリ、切レタ」

「!?な、馬鹿な!彼奴がやられるなんて───!」

「最近多イノ。デモ、死ンダ訳ジャ無イワ。全員生キテル………繋ガリガ切レタダケ」

 

 繋がりが切れたと聞き彼等が死んだのかと驚愕するが、そうではないらしい。

 虚圏(ウェコムンド)はティアマト自身だ。今では完全に世界に対して感覚が伸びる。その上で、ザエルアポロの気配は消えていない。それでも繋がりが切れた。

 

「──誰?」

「ティア───」

「───私ノ子供ニ、何ヲ混ゼタ」

「─────ッ!!」

 

 大気が、震える。ティアマトの霊圧に押されて、ではない。ティアマトの霊圧はそもそも虚圏(ウェコムンド)と同一化しているのだ。それを当たり前のように糧としている霊体に感じる術はない。つまりは、世界そのものが震えている。文字通り、怒りに震えているわけだ。

 と、ハリベルの様子を見たティアマトが怒りを霧散させる。「怖カッタ?」と尋ねてくるその様子に怒りを隠した様子はない。

 子に何かを混ぜられるのは、怒りこそすれ許せぬことではないのだろう。生きてはいるのだろうし。それに、複数が同時に霊圧を変化させて死者が出ていないなら同意の可能性が高い。少なくともその何者かに、殺す意志はないと言うことだろう。

 

「………コノ気配、死神?マタ、懐カシイ子達」

 

 そういって笑うティアマト。死神……まだ弱い(ホロウ)だった頃、現世で何度か戦闘した記憶がある。喰うと中々栄養になったし美味かった。今は、少なくとも自分から襲いに行く気はないが死神は(ホロウ)を狩る存在、何時か此処に来るかも───

 

「大丈夫──」

「───え」

「皆私ガ守ッテアゲル」

「──────」

 

 ティアマトは、共食いを是とする。この虚圏(ウェコムンド)の何処で殺し合いが起きようと(ホロウ)の殺し合いを止めはしない。だが、此処だけは例外だ。

 犠牲を良しとしないハリベルや、戦うのが怖いが退化し人間だった頃の個を完全に失いたくない中級大虚(アジューカス)、そんなこの世界に於いて奇特な奴等のために創られた平穏なる森。此処を、此処に住む住人に害なす行為はそのままティアマトの怒りに触れる。そうなれば相手が何者であろうと生きてはおれまい。個では世界そのものを相手に出来るはずがないのだから。

 

 

 

 

「───黒い海の支配者?」

「ええ、例えるなら正にそうとしか………」

 

 虚圏(ウェコムンド)にありながら(ホロウ)に非ず。(ホロウ)を討つ存在、死神たる藍染惣右介は先日配下に加えたザエルアポロの言葉に耳を傾ける。

 ザエルアポロ──ティアマトの海にも現れた最上級大虚(ヴァストローデ)。しかしその姿は大きく異なる。

 桃色の髪に、覗く人の肌。ハリベルやウルキオラも似た特徴を持つがそれ以上に人の顔が露わになり仮面の名残は眼鏡のような部分しか残っていない。その姿も人の形をした触手の塊から完全に人にしか見えない姿へと変化していた。

 彼は破面(アランカル)。仮面を剥ぎ死神の力を手にすることで更なる力を手にした(ホロウ)。とはいえ、それは自然発生したものとは大きく異なる。

 『崩玉』。そう呼ばれる破壊不可能な完全物質が存在する。藍染が生み出した不完全なそれで行った破面(アランカル)化は完成と呼ぶには遠く、しかし失敗と呼ぶには惜しい力を与えた。

 そのザエルアポロから、配下にするに当たって相応しい(ホロウ)の存在を尋ね返ってきた言葉は「黒い海の支配者」であった。

 黒い海……虚圏(ウェコムンド)が観測され、足を踏み入れたその時代から存在した白い砂漠ばかりのこの世界における海。ある死神に『黒泥』と名付けられたそれは何時から存在するのかは解らない。しかも現世の海と異なり蒸発し雲を作り水を運ぶなんて行為もしない。むしろ海から直接水が沸いている印象さえある。

 一説には死と生が安定し始めた頃、(ホロウ)がまだ「名前のない怪物」だった時代以前に殺し合っていた最古の怪物達の血とも呼ばれている。途轍もない霊子密度と海を取り囲む樹海、樹海に住まう(ホロウ)の群のせいで調査されたことはない。

 藍染も精々が川の終わりに残っていた水を採取したぐらいだ。あれは、人造(ホロウ)の研究によく役立った。

 

「あの海に、支配者が居るのかい?」

 

 あれは虚圏(ウェコムンド)に満ちる霊子の源泉そのものだ。それを支配できるということはつまりこの世界を支配しているのと同義。ふと、情報を集めた最上級大虚(ヴァストローデ)の内一体、バラガンという個体について思い出す。バラガンは「虚圏(ウェコムンド)の神」を名乗っていたがそのような力を持っていなかった。彼は、その存在を知った上で自分が神などと名乗っていたのか?

 

「彼も知っていますよ。今もなお、支配されていますから」

「ほう……?」

「貴方に(ホロウ)とは異なる力を混ぜられたことで、支配から脱しましたがね」

「そうか。謀らずして君のためになったことを、嬉しく思うよ」

 

 よく言う、と腹の底で思うザエルアポロ。しかし口には出さない。

 

「支配内容は森と森に住まう者達への手出しを禁じる……これだけです。後は自由………研究も、統治も、殺し合いも止められない。あの森では例外ですが」

「例外?その森では、共食いが起きないのかい?」

「入り口は住み慣れた者達が逃げやすいように出来ていますが、奥に向かうと餌となる木の実があるんですよ。樹木型の(ホロウ)が生い茂り、霊子を含んだ実を成す。あそこの住人はそれを糧に生きています」

 

 そのような(ホロウ)が居るとは、正直言って信じがたい。この殺し合い、食い合いが日常の世界で他者に奉仕する進化を行う個体がいるなど……。

 

「その木々は、全てあの女が生み出したものです」

「────(ホロウ)を、産み落とすのか……その(ホロウ)は」

「ええ──名をティアマト。恐らくは、この虚圏(ウェコムンド)のみならず全ての世界を含め、最強の(ホロウ)。そして、その顔に仮面は───存在しません」

 

 

 

 

「A───」

 

 ピクリとティアマトが目を見開く。星の内海を映す瞳が一方向に向けられる。此処にハリベルが居れば、二度目なのだ。直ぐに何かが近づいてくると察せた筈。しかし今この場にハリベルは居ない。

 トプンと音が鳴る。ティアマトの姿は其処になく、波紋だけが広がっていた。

 

 

 

 

「───さて、これで此方に気付いてくれるといいのだけど」

「水に触れる。それだけで、知覚されるとのことでしたが──」

 

 藍染の言葉に顔を隠す上下二パーツに分かれたマスクを付けた褐色の男、東仙要は『河』を眺める。曰く、『海』から流れるこの『河』全てがティアマトという(ホロウ)の支配下と聞いたが、実際こうして前にしただけでも異様な霊子濃度。俄には信じがたい。

 

「要、彼は確かに私に忠誠を誓った訳ではないだろう。それでも仲間だよ、まずは疑うところからはいるのはよしなさい」

「は……───!」

「ほう?」

 

 東仙が藍染の言葉に頷くと同時に、水面が揺れる。剣を抜こうとした東仙を手で制した藍染は水面から上がってきた影を見る。

 美しい青の髪は現世の海を連想させ、赤い瞳の奥には×印のような光りが浮かんでおり、焦点は定かではないが恐らく藍染に向けられている。仮面は──ない。その頭部から生える角がなければ人間か死神と勘違いしてしまいそうだ。

 ゾッとするほど美しい顔が、笑みを浮かべ首を傾げる。

 

「コンバンハ。貴方達、ダァレ?」

「「──────」」

 

 次の瞬間二人を襲ったのは、言いしれぬ恐怖。彼女が威圧したわけではない。ただ、其処にいながらどうにかすることなど不可能な存在に興味を持たれてしまったような、たとえばこの世界が水槽の中の世界で、それを見つめる目を見つけてしまったかのような不気味な恐怖。

 

「───君が、ティアマトかい?」

「エエ、ソウヨ?」

「……………」

 

 霊圧を感じない。この距離をして、全く。そんなことあり得るのか?確かに霊圧をある程度隠すことは出来るだろう。だが、完全に隠すとなるとそういった道具か、或いは術が必要。そういう能力だろうか?いや、それよりも気になるのは、仮面だ。

 通常の破面(アランカル)と異なり名残すら存在しない。

 

「単刀直入に言おう。私の配下となって、その力を貸して欲しい」

「………何デ?」

「それは、君が軍門に下る理由かい?なら、力を与えるからと言おう。私が力を集める理由なら、霊王を殺すためと答えよう」

「レーオー?」

 

 再び首を傾げるティアマト。隠された文献には嘗て霊王を喰らおうとした(ホロウ)が居たらしいが、全ての(ホロウ)が知るわけではないのか。

 

「生と死を分け尸魂界(ソウルソサイティ)を安定化させ、世界を分割させた王だよ」

「……………アア、アノ時ノ坊ヤ」

「………知っているのかい?」

「知ッテルワ。オ友達ニ四肢ト心臓奪ワレタ、可哀相ナ子供デショウ?私ノ子ジャナクテモ、流石ニアレ以上虐メルノハ可哀相ヨ」

「………………」

 

 霊王を子供扱い。「名前のない怪物」の生き残りと言うことだろう。或いは説が本当で、海からわき出た人格なのかもしれない。それなら『黒泥』に平然と浸かることが出来るのも納得できる。或いは「名前のない怪物」を全て喰らって莫大な霊力を手に入れ、泥も彼女の力の一部か……。いや、だとしたらあの『海』が虚圏(ウェコムンド)における霊子の源泉である説明が付かない。

 まあ、今は彼女の力の正体より、彼女の勧誘だ。

 

「君は、今の世をどう思う?」

「ドウ?ソウネ……平和ヨネ。昔ニ比ベタラダケド」

「そうだね。平和だ………平和に過ぎる。文明ばかりが発展して、人の進化が停滞するほどに」

「ソレハイケナイ事?」

「歩む道が先にあるのに、その場で足踏みする事が是であって良いはずがない」

 

 藍染の言葉にティアマトは空に浮かぶ月を眺める。思案する時の癖だろうか?

 

「────?」

 

 チリッと、指についていた黒泥の一部が熱を持った気がした。そして、ティアマトが藍染を見据え笑った。或いは、嗤った。

 

「一人ガ寂シイノネ………子供ミタイ」

「─────何?」

「可哀相ナ子……特別強イ力ニ、聡明ナ頭脳ヲ併ワセテ生マレテシマウナンテ。理解者ガ欲シイ、デモ、生マレナイノハ解リキッテル」

 

 哀れむように笑う。憐れむように嗤う。その態度に、東仙がマスクの下で顔を歪める。

 

「貴様!藍染様を侮辱するか!」

「ソウネ───()()()モ本心デハアルヨウダモノ。ゴメンナサイ」

 

 振るわれた斬魄刀を細腕の白い肌であっさり防ぐティアマトに目を見開く東仙。藍染は、霊圧を放ちながらティアマトを見据える。

 

「特別ニ成リタイノネ。理解者ガ出来ナイ事ニ、納得シタイノネ………可哀相。私ガ愛シテ上ゲル」

「「────!!」」

 

 黒い河の水が噴き出す。まるで地面から打ちあがる滝のように。

 報告で黒泥を操るのは知っていたが、まさかこれほどの量を操るとは。文字通り海の支配者か───いや、これではまるで海その物を相手するかのようだ。

 スッとティアマトが藍染達に指を向ける。途端、黒の滝は形を崩し津波となって襲ってくる。

 

「縛道の八十一『断空』」

 

 藍染の言葉に出現した霊子の壁が津波を防ぐ。しかし直ぐにそれすら侵蝕していくのを見て、藍染と東仙は上へ飛ぶ。下を見回せば本来なら白く染まる砂の世界が、黒の海で染め上げられていた。その海の上に立つティアマトの瞳は藍染達を捉えていた。だが、むしろ好都合。藍染は己の斬魄刀を見せつけるように構える。

 

「砕けろ、鏡花水月」

 

 斬魄刀は死神の持つ刀で、解号と共に名を呼ぶことでその力を発動する。藍染の斬魄刀『鏡花水月』の能力は完全催眠。相手の五感全てを支配し沼地を花畑に、蠅を竜に見せることも可能な斬魄刀。

 解放の瞬間を見せることで完全催眠の条件は終了する。以降は藍染が何処で解放しようと完全催眠の術中にはまる。

 足元に霊子を纏い黒泥の上に立つ。長い間触れていたら直ぐにでも侵蝕されそうだ。さっさと、首を刎ねてしまおう。

 

「貴重な戦力になったろうに、残念だよ」

 

 とはいえ、この声も、姿も、もう見えていないだろうが。

 藍染は斬魄刀に霊圧を込める。東仙の剣で傷一つ付かなかったのだ。霊圧硬度は恐ろしく高い。なら、此方も武器に込める霊圧を上げればいい。

 

「残念?ソウネ、残念………」

「────!!」

 

 ティアマトが()()()()()()()()()()。そのあり得ない対応に藍染の目が見開かれ、黒泥が襲いかかってくる。

 

「───ッ!」

 

 ギリギリでかわすが左腕にかかる。左腕が途端に中の血液全てを鉄に変えられたかのような重さを訴えダランと垂れ下がる。

 

「ソノ刀──面白イ力ネ。デモ、残念。私ノ霊圧範囲デ、ソレハ効カナイ」

「………理由を、聞かせてもらっても?」

「私ハ常ニ大量ノ霊子ヲ生ミ出シテイル。ソシテ、体外ニ出テ大気ニ満チテイルソレモ、私ノ一部」

「……………」

「五感ヲ騙シ、霊的知覚能力ヲ騙シテモ、私ノ霊子ガ動クノハ知覚云々以前ノ問題──人ヲ欺クソノ刀ジャ、世界()ヲ欺クナンテ出来ナイ」

 

 黒泥から無数の(ホロウ)が飛び出してくる。大きさは最下級大虚(ギ リ ア ン)。感じる霊圧は中級大虚(アジューカス)級。

 見誤っていた。黒泥を泳げる特殊な(ホロウ)だとか、黒泥を操る能力を持っているとか、そんなレベルじゃない。ティアマトは黒泥そのものだ。つまりはこの世界に満ちる霊子全てがティアマトのもの。彼女の周囲はもちろんこの世界の中で彼女を欺くことは、鏡花水月では出来ない。

 

「───()()

 

 ならば()()()()()使()()()()まで。

 

可解不可解(かかいふかかい)鏡花水月」

「──────」

 

 藍染の足下に岩山が現れる。東仙が直ぐにその岩山に乗る。(ホロウ)達がその岩山ごと藍染達を潰そうと足を振り上げるも突如現れた蛇に絞め殺される。

 五感支配による幻覚───ではない。

 

「────本当ニ、可哀相ナ子………何処マデモ特別ナノネ。神様ミタイ」

「この力を、可哀相と言うか───」

 

 藍染惣右介の卍解「可解不可解鏡花水月」。その能力は、世界をも騙す催眠。幻の影響を現実に引き出す能力だ。

 蛇も、岩山も、幻影であり現実に確かに存在する。故にティアマトの霊子接触にもキチンと反応する。

 

「千刀──」

 

 ティアマトの周りに無数の刀が現れる。一本一本が副隊長の斬魄刀程度の霊圧が込められている。並の最上級大虚(ヴァストローデ)では跡形もなく切り刻まれるだろう。生憎と、ティアマトは並ではないが。 

 

「やはり、効かないか───」

 

 刃はティアマトの皮膚一枚傷つけていない。やはり要の斬撃を防いだのは、その瞬間に霊圧を皮膚に込めたというわけでは無いらしい。と、今度は顔を布で隠した巨人が現れる。

 ティアマトに向かって棍棒を振り下ろそうとする巨人達は蠢く黒泥に捕らえられる。

 

「オ──オオオオオオオオッ!?」

「────ッ!?」

 

 黒泥が触れた箇所から血管のような模様が浮かび上がり皮膚が黒く染まる。胸に穴が空き布の奥の目、耳、口、鼻から溢れた白い液体が顔を覆い仮面となる。

 (ホロウ)化───霊子の侵蝕による支配は、(ホロウ)のみに行えるわけではないのか。

 主である藍染に襲いかかってきた巨人達を雷が襲い焼き滅ぼす。大量の黒泥が迫ってくるが複数の壁を創り空中への移動の時間稼ぎにする。足下で岩山が泥に飲まれる。

 それでもなお迫る泥に炎が絡み付く。ティアマトに風の刃が、雷の槍が降り注ぐ。正に天災。しかし、ティアマトは平然と指を向ける。

 

虚閃(セロ)

 

 青黒い光が全てを消し飛ばす。広範囲に振りまかれた霊圧の奔流。霊子体を消し飛ばそうとするその力に、藍染は目を細める。

 

「────『落陽』」

 

 太陽が現れる。

 炎熱系最強の斬魄刀である流刃若火の卍解には劣るが、迫る熱量の固まり。それがティアマトに向かって落ち───泥の中から現れた巨大な手に握りつぶされた。

 

 

 

 

「私ノ、勝チ──ネ?」

 

 肩で息をする藍染と余裕綽々のティアマト。存在しない物を存在させる藍染の卍解はその神の如き力の代償に大量の霊力を持って行く。ましてや最強の斬魄刀の再現をしようとしたのだ、その疲労はむしろ起きていることを誉めても良いほどだ。

 

「─────」

「?何デ悔シソウナノ?貴方ハ、特別ナノガイヤナンデショウ?私ノ子ニナレバ、私ハ貴方ニ他ノ子達ト変ワラナイ愛ヲアゲルノニ」

「───君、人の心が解らないと良く言われないかい?」

「────?」

 

 腕のしびれが、肩から首、首から頭へと上ってくる。途端に目の前の存在に感じ始める安心感。まだ自分が特別だなんて思わず、母は自分を変わらず愛してくれるなんて、無責任であり得ない夢を抱いた頃の、安心感。

 ゴボリと白い液体が溢れだし、顔を覆おうと蠢く。東仙の声が何処か遠くに聞こえる。この愛に、身を委ねてしまいたくなる。

 だが────

 

「─────」

 

 形作られていく仮面を掴み、挽き剥がす。

 ティアマトの目が見開かれる。

 

「───私ノ愛ヲ、拒絶スルノ?」

「愛、か──なるほど確かに、君にとっては愛なんだろうね。このまま身を委ねてしまいたくなるよ。だが、そしたら私は満足してしまうだろう?」

「ソウネ、ソノ為ノ愛ダモノ───」

「君も言っていたろ?()()()も本心だと……私は今の世界が許せない。確かに、進化の果てに私の理解者が生まれてくれるかもしれないという欲があるのは否定しない。だが、それでもこの停滞した世界が許せない。我慢できない………この怒りの大本を絶つまでは、母親の愛に甘えるなんて出来はしない」

 

 パキパキと音を立て仮面が完全に剥がれる。とはいえ、今の抵抗で霊力を大量に消費した。次はない。

 

「─────ソウ」

 

 ティアマトが片手をあげる。霊圧にまだ余裕がある東仙が斬魄刀を構える。

 

「卍か───!」

「イイワ、協力シテアゲル」

 

 スィ、と腕を横に振れば黒泥が引いていき下の白い砂漠と黒い河が姿を現す。藍染の限界が来たのか、幻であり現実の岩山が消え足場を失った東仙達が地面に落ちる。ティアマトは黒い河の上に戻っていた。

 

「………どういう、心境の変化だい?」

「弱イ者虐メハ、可哀相ダケド貴方モ強イ訳ジャナイモノ。喧嘩ナラ、仕方ナイワ───ソレニ」

 

 ティアマトの目が細まる。瞳の奥に浮かぶ光が藍染を見据える。

 

「全部終ワッタラ、私ニ甘エテクレルンデショウ?」

「……………」

 

 藍染は思う。何処まで行っても、この(ホロウ)は『母』なのだろう、と。

 子を求め愛する相手を求め、ついには死神さえ己の子(ホロウ)に変える力を有するこの世界に於いて最も強大な力の持ち主。

 左腕は自由になったが彼女の霊子が残っている。いや、虚圏(ウェコムンド)の霊子か……。こうして集中すると、この世界全土が彼女の霊子で満ちていることが解る。この世界に足を踏み入れ霊子を取り込んだ時点で、彼女にとって自分達は既に乳飲み子だったのだろう。




破面大百科

ギン「はい。今日はティアマトちゃんの性格について教えるで~」

ハリベル「一話の時の内面とやってることがだいぶ異なるな」

ギン「本来短編やったから、一話の子は完全に適当やったん。けどハリベルちゃんに合った時点で文才誤魔化すためのお気楽主人公ちゃんは消えとったんやで」

ハリベル「文才誤魔化すための?」

ギン「そういう感想があったんや……んで、この子やけど、この転生者ちゃん実はティアマトちゃんに憑依したんやなくてだいぶ昔、転生した後ティアマトちゃんに喰われた子なんや。ザエルアポロ君がイールフォルト君を分離したやろ?それと似たような感じでティアマトちゃんの中に残っとった残滓や。自分の名前もよう思い出せんな」

ハリベル「ゲームは覚えていたのにか……」

ギン「それはほらあれや、『ティアマトの顔』を見たから頭に浮かんできたってやつや。本人もどういうキャラが覚えてないやない?んでもって目覚めた原因はティアマトちゃんが黒泥を広げた結果意識が広がり薄くなっとったから。それを止めたもんやから、数刻後に再び子を産みたかった本来のティアマトちゃんの人格に飲み込まれた訳やね。今度はすっかり消化されたもしれへんな」

ハリベル「成る程。だからティアマトはあんな子狂いになったのか。いや、この場合戻ったか?」

ギン「せやけどそん時転生者ちゃんの記憶やらが僅かに混じって虚圏(ウェコムンド)の侵蝕が止まったわけや。この子のファインプレーがなかったら虚圏(ウェコムンド)は黒泥に沈んでたろうなぁ」

ハリベル「我々の今があるのもその子のおかげか。感謝しよう」

ギン「せやね。そんじゃ今回の破面大百科は此処まで。みんなまたね~」
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