虚圏の母神   作:キングゥ

4 / 12
這い寄る影

 尸魂界(ソウル・ソサエティ)。一般的に言うならば死後の世界には大きく分けて二つの場所がある。

 魂の転生、成仏を管理し世界の均衡を保つバランサーである死神達の住まう瀞霊廷、一般の魂魄達が住まう流魂街だ。

 その流魂街に於いて、魂魄消失事件と呼ばれる変死事件が起きた。服だけ残して人が消えるのだ。本来魂魄が消える際は服も同様に霊子に分解される。つまりは、人の形を保てなくなり魂魄が崩れ元々人の魂魄の付属品である着物だけが残った。そう推測されている。原因は未だ不明。

 原因解明に向けて九番隊が動いていた。

 

 

 

「不明ってなに~~~?ね────拳西~~~~!」

 

 九番隊副隊長久南(くな)(ましろ)が同じく九番隊の、隊長六車拳西の説明にぶーたれる。

 拳西は原因不明だから調査してるんだろと突っ込めばなら先遣隊の報告を待てば良いのに、出たがり!と白が文句を言う。青筋を浮かべた拳西を他の隊員達が何時もの事だと押さえる。此処までが何時もの流れだ。

 

「そもそも俺が何時てめぇについてこいなんて言ったよ!?てめぇなんてついてこなくて良いんだよ。さっさと帰ってクソして寝ろ!」

「ぶー。白は副隊長だから隊長についてかなきゃ駄目なんです~。知らないの?馬鹿じゃないの拳西?ば~~か!」

「…………!」

「隊長!落ち着いて!」

「何時もの事ですって隊長!」

 

 ビキビキと血管を浮き上がらせる拳西。白の我が儘は止まらない。

 

「もーやだー!お腹すいたー!おはぎ食べたい、周りにきな粉がついてるやつー!!」

「どうします?隊長……」

「ほっとけ……」

 

 もう相手するのも疲れた、と言わんばかりの拳西。と、その時悲鳴が聞こえた。振り返ると巨大な(ホロウ)が、一人を左手で引き一人を右手に抱え一人を背負う、計三人の少年を抱えた死覇装を着た女性を追いかけていた。

 

(ホロウ)か!」

「デカい!」

 

 拳西は直ぐに斬魄刀の柄に手を伸ばし、抜刀する。

 

「行くぞ」

「「「はっ!」」」

 

 拳西の言葉に飛び出す隊員達。(ホロウ)の姿は一言で例えるなら異様に太い足を持つ六本足の首長竜。その足を隊員達が斬りつけると痛みから絶叫し、女性死神に手を引かれていた少年がひっ、と足をもつれさせ転んでしまう。

 

「吹っ飛ばせ『断地風(たちかぜ)』」

 

 解号と共にコンバットナイフのような形に変わる斬魄刀『断地風』。拳西が断地風を振るうと糸状の風が(ホロウ)の首に切れ込みを入れ、そこから爆発して首が落ちた。

 

「全員無事か!」

「「「はい!」」」

 

 拳西の言葉に直ぐに返事をする一同。先程の戦闘といい統率がしっかりと取れている。

 全員の無事を確認した拳西は泣いている子供をみる。

 

「オラ!何泣いてんだ坊主。生きてんだ!嬉しいだろ!笑え!」

「無理です隊長」

 

 ニィ、と子供が見たら間違いなく泣き出す笑みを浮かべる拳西に部下が突っ込む。と、拳西の尻を誰かが蹴った。

 

「てめぇこら白!何しやがる!」

 

 こんな事をするのは白ぐらいだ。文句を言ってやろうと振り返れば先程子供達を連れていた女性死神だった。

 

「コノ子達ヲ虐メナイデ」

「ああ?虐めてねーよ。笑えって言ってるだけだろうが、こういう風によ!」

「ソンナ怖イ顔シタラ子供ガ泣ク。シューへーハ泣キ虫ナンダカラ」

 

 独特な声色で文句を言う女性死神。シューへーというらしき少年に目を向けるとビクリと震えられて。

 

「お前しゅうへいってのか?」

「は、はい……ひ、檜左木……修兵です」

「強そうな名前じゃねぇか。泣くな!」

「────!」

 

 その言葉に修兵は涙を止める。拳西は女性死神に向き直る。

 

「甘やかすばかりが子育てじゃねーんだよ。男は厳しくして強くしなきゃなんねぇ───てか、お前誰だ?何番隊だ」

 

 先遣隊ではない。あの中に女性死神は居なかった。ならば彼女はなぜ此処にいるのか?と尋ねた瞬間だった。

 

「あー!シズり~ん!」

 

 戦闘中何時の間にかどっかに行っていた白が戻ってきて女性死神に抱きついた。

 

「えー!?何で何で!何で此処にいるのやったー!」

「………知り合いか?」

 

 抱きついた勢いそのまま押し倒し足をパタパタ振る白。親しげな様子に尋ねるが全く話を聞いちゃいない。

 

「知らないんですか?隊長……」

「衛島、知ってんのか?」

「彼女は四番隊第十七席虚月(うろづき)(しずく)。瀞霊廷一の子供好きで、副隊長の親友です」

「子供好き?」

「休日は基本的に流魂街の子供達と過ごしてるんですよ」

 

 それで修兵達と一緒にいたのか。四番隊と言えば治療が主な部隊。戦闘行為を行える者は少ない。席官らしいが下級席官。なら、(ホロウ)相手に戦えないのも仕方がないか?

 

「ジャーン」

「わーい!おはぎだ!きな粉は?」

「勿論、ツイテルワ」

「やったー!シズりん、大好き!」

「エエ、私モ白ノ事、好キヨ」

 

 ぎゅーっと抱き付く白と慈愛に満ちた顔で頭を撫でる雫。拳西は思う……あ、これ親友じゃねーわ。どっちかつーと大人と子供だ。成る程子供好きなら見た目だけ大人で中身はガキな白と仲良くやれるわけだ。

 

「ん?おい白、その手に持ってんのなんだ?」

「え?拳西知らないの?死覇装だよ?」

「知ってるわ。なんでんなもん持ってっか聞いてんだよ」

「えっとね、いっぱい脱いであった。10着ぐらい」

「────!」

 

 白の言葉に直ぐに落ちていたという死覇装を集めさせる拳西。死覇装の数は、白の報告通り全部で10着。

 

「隊長、これは──」

「ねーねー、10着だとなんかあるの?ねー?」

「馬鹿やろう……先遣隊の数と同じじゃねーか!」

「え!?でもこれ其処に脱いであったんだよ?」

「………?」

 

 話についていけない雫がコテンと首を傾げると、衛島が魂魄消失事件の調査のために動いた九番隊がこの付近に10人小隊の先遣隊を送ったことを教える。ならばこの死覇装は彼等の物なのだとみるのが妥当だろう。しかし死神が仕事の途中死覇装を脱ぐのか?と疑問に思う白。

 

「帯締めたままどうやって死覇装を脱ぐんだ!?草履はいたままどうやって足袋脱ぐんだよ!?」

「うう~~?」

 

 その言葉に考え出す白。構造的に考えて不可能だろう。しかし真面目に考える。馬鹿だから。

 拳西が魂魄消失の初の死神の被害者が出たことを中央に報告し、未知の病原体の可能性を考え調査のために十二番隊から研究員の派遣を要請するように部下達に連絡する。

 

「笠城!待機中の本体に天幕を持ってこさせろ。今夜は此処で野営を張る」

「──!」

「これが死神を狙う敵の仕業なら、いずれ狙いは瀞霊廷に及ぶ。瀞霊廷に近づく前に、此処で潰す」

「「「はい!」」」

「いけ!」

「「「はっ!」」」

 

 と、すぐさま行動に移す一同。

 

「隊長、私は──」

 

 残った部下が尋ねてくる。拳西はこの辺を調べるからついてこいと命令し、子供達と雫を見る。

 

「お前は子供達を送り届けてこい。それと、仮にも四番隊席官だ、治療は出来るな?有事に備えて此処に戻ってこい」

「解ッタワ──行キマショウ、皆──」

 

 そう言って子供達の手を引く雫。修兵は拳西の胸に刻まれた69の入れ墨をジッと見つめていた。

 

 

 

 

「ねーねー、シズりん、一緒に寝よー!」

「ガキかてめぇは」

「ぶー、拳西には聞いてないもん」

 

 天幕の中、雫に抱き付き豊満な胸に顔を埋める白。拳西が呆れたようにため息を吐くとべー、と舌を出した。

 

「あんたも甘やかすなつったろ」

「白、女ノ子ヨ?」

 

 緑の髪を優しく撫でる雫。その姿はやはり親友同士より親子にしか見えない。

 

「マジでガキじゃねぇか。鏡見てこい、完全に母親に甘える子供だぞ」

「母親?ソウ見エル……?」

 

 その言葉に嬉しそうにする雫。白はんー、と考え込むように雫を見る。

 

「確かにシズりんみたいなお母さん欲しいかも」

「本当?私モ、白ミタイナ娘ガ欲シカッタ」

「そんな馬鹿が?子育て疲れでぶっ倒れるぞ」

「ソンナ事ナイ。白、素直デ良イ子ダモノ」

「そうだそうだー!私はひねくれた拳西とは違うんだー!」

「……………」

 

 一発殴ってやろうかこのガキ、と青筋を浮かべる拳西だったが雫が白に自分をあげるために他人を下げるなと注意した。母親にほしいと言っただけあり素直に聞き入れ恥ずかしそうな顔をする白は小さな声で謝ってきた。と、その時──

 

「ぐぁ!?」

「がっ!」

「────!?」

 

 外から悲鳴が聞こえてきた。

 

「衛島達の声だ!」

「どうした!」

 

 慌てて天幕からでると三人の見張りのうち二人が倒れており、東堂だけが立っていた。一瞬東堂が裏切ったのかと思えば東堂も血を流し倒れる。

 

「東堂!」

「くそ!構えろ笠城!敵はまだ近くにいる!」

 

 悲鳴が聞こえて僅か数秒。瞬歩の使い手なら距離もとれるだろうがこんなに堂々仕掛けてきて撤退するとは思えない。

 

「白!その女を守って───」

「ヴっ!?」

 

 回復要員を守るよう白に命じようとした瞬間、返ってきたのはくぐもった短い悲鳴。振り向けば白の胸が貫かれていた。

 貫いたのは、雫。ズルリと白の胸に沈んでいた腕を抜く。

 

「し……シズ、りん……?」

「白!てめぇ!」

「─────」

 

 倒れる白を見て目を見開いた拳西が斬りかかる。雫はあっさりかわし距離を取る。四番隊の───いや、どの隊だとしても十七席の動きではない。

 

「どういうつもりだ!?白は、てめぇのダチだったんじゃねーのかよ!娘にしたいぐらい、大好きだったんじゃねぇのか!」

「………?ソウヨ、ソウ言ッタデショウ?」

 

 それがどうかしたの?とでも言うように首を傾げる雫。

 

「貴様!」

 

 笠城が斬魄刀を上段に構え切りかかるが、片手で殴り飛ばされる。やはり十七席の動きではない。力を偽っていたか。

 

「ダカラ私ノ血ヲ分ケタノ」

「───何?」

 

 不意に霊圧を感じる。死神の物ではない、(ホロウ)の。近付いてきたわけではない。突然現れた。

 

「───あ、ああ──」

「白!?」

「ああああああああああああああッ!!」

 

 絶叫と共に血が口から溢れ、目から涙のように白い液体が溢れる。口からも───それは粘性を持って蠢き顔を覆い隠すように仮面を象る。

 

「なんだ、あれ──(ホロウ)の仮面」

「良カッタ。上手ク出来タ───ヤッパリ、ヤル気ハ大切ネ───」

「てめぇ、何しやがった!」

「ダカラ、私ノ血ヲ分ケタノ───霊子、ノ方ガ解リヤスイ?デモ、失敗バカリダッタノ」

「失敗だと?」

「エエ、ソースケノ方モ同ジダッタ。二種類ノ霊子ガ上手ク均衡ヲ保テズ、崩壊スルノ──私ト相反スル死神ノ力ナラ、境界ヲ取リ除ケレバ均衡ヲ保ツハズト言ワレタンダケド、量ノ調整ガ上手ク出来ナクテ十回ホド」

「─────」

 

 死神と相反する力───(ホロウ)の力か?いや、それよりもこいつ今、死神で10回試したと言っていた。つまり──

 

「卍解──」

 

 今回の一連の魂魄消失事件、犯人は此奴───!

 

「『鉄拳断地風(てっけんたちかぜ)』!!」

「─────!」

 

 まるで風神の羽衣のような防具が両腕を包み、懐剣状の斬魄刀を両手に構える。

 断地風の能力は糸状にした風で切った場所を爆発させる能力。卍解である鉄拳断地風は、その炸裂能力を拳に込める力。それだけなら遠距離からわざわざ近距離になったようだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という特性も得る。

 ドドドドドン!と大気を震わせる炸裂音。並の(ホロウ)ならこれで消滅するし、隊長格だって無傷では済まない。だが──

 

「残念──ネ─」

 

 片手で受け止められている。雫は傷一つない。

 

「コツハ掴ンダ。モウ、失敗シナイ」

「─────」

 

 ズブリと雫の手が拳西の胸に突き刺さる。

 

「───くそ」

 

 

 

 

 

 研究員要請で現場に向かっていた十二番隊副隊長猿柿ひよ里は襲ってくる影から逃げる。影が殴りつけた地面が砕けた。とんでもない威力。

 肩で息をする獲物を追い詰めるべく迫る影。舌打ちするひよ里だったが、その攻撃は弾かれた。

 

「………真子……!」

「アホか、何で刀抜かへんねん」

 

 金髪のロングおかっぱ、死覇装の上に白い隊長羽織を着込んだ男。護廷十三隊の五番隊隊長、平子真子だ。

 

「………アホか、抜ける訳ないやろ」

 

 何故刀を構えないかと言う真子の言葉に苦しそうな声を返すひよ里。何の偶然か雲が動き月が姿を現す。月光に照らされた影は、その細部を露わにする。

 

「……拳西……!?」

 

 それは、拳西だった。胸に穴があき顔はホッケーマスクのような仮面で覆われ背中や肩からは突起物が生え手や足を妙な鎧のような物が覆っているが、見知った相手。

 彼の霊圧が消えたという報告が来たから、この場に来た。彼が生きているのなら喜ぶべきだがその姿に困惑する。

 

「真子!」

「大丈夫かひよ里!」

 

 九番隊隊長六車拳西、及び副隊長久南白。隊長格二人の霊圧が消えたことから派遣された複数の隊長格のメンバーが追い付いてきた。

 拳西と同じく隊長であり交流もある三番隊隊長鳳橋楼十郎、通称ローズと、七番隊隊長愛川羅武も目を見開く。

 副隊長ではあるが隊長と行動するため彼を知っていた矢胴丸リサも異様な光景に固まる。

 

「どういう事だありゃ……」

「本当に拳西なのかい?仮面も、霊圧も、胸の穴も──まるで(ホロウ)じゃないか──!」

 

 何が起きているのかさっぱり解らない。だが、真子は感じたことをそのまま口にする。斬魄刀を抜かなければ、死ぬ、と──。

 

「オオオオオオオオッ!!」

 

 獣のような咆哮を上げる拳西。慌てて距離を取る一同。そのうち一人、羅武の後ろに移動した拳西が殴りかかってくる。

 彼の斬魄刀、鉄拳断地風の爆発する拳。しかしその威力は桁違い。だが羅武とて隊長格。とっさに拳を斬魄刀でそらし直接爆破されるのは避けた。

 

「はっ……はっ……ふぅ~、効くじゃねぇの、流石拳西だぜ」

「……………」

 

 冷や汗を流しながらも軽口を叩く羅武。その軽口に反応を示さない拳西。だが、ひよ里が叫ぶ。

 

「あかん!わかってんのか!?相手、拳西やぞ!こんなん……ぐっ、げほ!げほ!」

 

 彼女とて拳西に追われ無傷ではなかったというのに拳西を心配する。真子は拳西だからこそ止めるべきだと言い切る。

 それに、彼等とて殺す気はない。原因は十二番隊本隊に調べさせればいい。隊長の浦原喜助なら、戻す方法をきっと見つけてくれるだろう。動けないようにして連れて帰る。まずは手足の腱を斬る──

 空中に立つ拳西へと向かって跳ぶリサとローズ。と、ローズの後ろに影が差す。先に気付いたのはリサ──

 

「後ろや!ローズ!」

 

 叫びも遅く蹴り落とされるローズ。蹴り落としたのは死覇装にバッタのような仮面を付けた女。足が白い鎧のようなもので覆われ、腕には副官証。

 

「白か!?」

 

 髪の色と言い、白にしか見えなかった。しかし普段無駄に元気な彼女と異なり何も言わずに襲いかかってくる。

 

「───ッ!?」

 

 何とか防いだが、重い。締めがひび割れる。このままでは、押し負ける!と、その時──

 

「『五柱鉄貫』」

 

 五本の鉄の柱が降り注ぎ白を押しつぶす。

 

「皆サン……走るの速いデス」

「………ハッチ」

 

 現れたのは太った男性。鬼道衆副鬼道長、有昭田鉢玄だ。鉢玄はさらに戦闘中の拳西に『鎖条鎖縛』をかける。六十番台の中級縛道。副鬼道長の物となれば簡単に抜け出せるものではない。

 

「真子サン!これはいったいなにがどうなっているのデスか!?拳西サン達はどうして───」

 

 その言葉は、バキンという何かが砕けたような音を聞き止まる。振り返れば拳西が鎖条鎖縛を引きちぎろうとしていた。

 

「そんな、腕力だけで六十番台の縛道をやぶるなんて───」

「ヒイ、フウ、ミイ、ヨ───イツ、ムウ、コレデ全員?」

「「「─────!?」」」

 

 その言葉に振り向くと何時の間にか女性死神が立っていた。彼女は援軍を指差しながら数え首を傾げ尋ねてくる。

 

「雫ちゃん──?」

 

 真子が彼女の名を呼ぶ。四番隊十七席、虚月雫だ。彼女が何故此処に───

 

(──なんや、拳西達が───)

 

 先程まで(ホロウ)の様に暴れていた拳西達がその動きをぴたりと止める。彼女が現れたから?なら、彼女は何者──

 

「───!!」

 

 斬魄刀を抜く。真子達を見据えながら。

 四番隊だ。回復系の斬魄刀の可能性もあるがとてもその様な雰囲気に見えない。

 

「大海ヲ騙レ──」

「ッ!止めろ!」

 

 解号。斬魄刀の力を解放しようとした雫を止めようと叫ぶ真子と、真っ先に動くリサ。他の面子も直ぐに動く。しかし、遅い──

 

「『虚海独雫(ファム・ファタール)』」

 

 

 

 

 

「────かっ………あ……!」

「ぐっ……うぅ……」

「な、なんや……これ──」

 

 何が起きた?一瞬、そう一瞬黒い何かが襲ってきた。避けようとしたらその黒い何かから出て来た手のような物に掴まれ、飲まれた。視界を取り戻すと斬魄刀を鞘に納める雫。何をしようとしたのかは知らないがもう終わったという事だろうか?

 

「───ぐ、ぶ……えぇ!」

 

 ゴポリと口から白い液体が溢れる。それは意志を持つかのように顔に貼り付き形を変える。真子だけではない、此処にいる全員に同じ症状が起きていた。

 

「雫……何やねんこれは!お前、何をした!」

「何ッテ───子作リ?」

「間違っていないのだろうが、言葉を選べティアマト」

 

 真子の質問に斜め上の回答をする雫に、彼女の名とは異なる名を呼び諫める影が現れる。

 顔を隠したマスクの上部を取ると褐色の肌と色のない瞳が露わになる。

 

「東仙──!」

 

 九番隊隊員の一人、東仙要だ。九番隊、つまり拳西の部下──

 

「何でや……お前、拳西を──自分とこの隊長裏切ったんか──」

「裏切ってなど居ませんよ」

「────」

 

 その声は東仙のものではない。しかし真子が良く知る声。振り返り、やってきた人物に目を向ける。

 

「彼は忠実だ。ただ忠実に、僕の命令に従ったに過ぎない……」

 

 やってきたのは柔和な笑みを浮かべた青年に、銀髪に糸目の少年。どちらも死神で、どちらも真子の部下。

 

「どうか彼を、責めないでやってくれますか。平子隊長───」

「…………藍……染……!」

 

 

 

「ソースケ、私ニ嘘ツイタ───白、連レテ帰ッテ良イッテ言ッタ」

 

 あの後浦原喜助がやってきて、藍染達は撤退した。雫──もといティアマトは不服そうだ。この瀞霊廷に潜入して数年。仲良くなった久南白という死神は純真で素直で、本当に子供にしたいと思っていたのに。

 

「大丈夫さティアマト。浦原喜助なら彼女を生かす。彼女自身喜ぶ形でね」

「喜ブ形ッテ、意識ガアルコト?ソレナラ私ダッテソウヨ?」

「そう、どちらにしろ同じだ。君のそばにいないかいるかの違い。距離が開いたところで君の子への愛が変わるわけでもない。構わないだろう?」

「…………………マア、ソースケ手伝ウッテ言ッタノ私ダモノ。我ガ儘一ツ二ツ聞クワ」

「感謝するよ」

 

 とはいえやはり逃した子が惜しいのかこの中で最年少かつ子供ともいえる市丸ギンの頭を撫でるティアマト。何ともいえない顔で頭を撫でられるギンは不意に目を薄く開く。

 

「なぁなぁお姉さん。お姉さんあの人達(ホロウ)化しとったやろ?あれ、何でできたん。崩玉は藍染副隊長が持つ一つだけやないの?」

「ソウヨ。私ノハ、崩玉トハ違ウ方法───私トイウ(ホロウ)ノ血ト霊子ヲ流シコンダノ」

「───(ホロウ)?お姉さんが破面(アランカル)やったん?」

「失敗だがね」

 

 ギンの言葉に藍染は今回集めたデータを見ながら言う。失敗?隊長格を圧倒する力を見せながら?疑問に思うギンに藍染はティアマトを見つめ、言う。

 

「私は彼女を、()()()()しまった。今の彼女は、帰刃(レスレクシオン)の名が示すよう大海の僅か一滴(ひとしずく)に過ぎない」

 

 本来の彼女には遠く及ばない。そういった藍染の言葉に、ギンは信じられない物を見るような目でティアマトを見る。

 

「別ニ、気ニシテナイワ。アノ時、モウズット忘レテイタ砂ヲ踏ム感覚トカ楽シカッタモノ」

「君にとって失敗でなくても、君が弱くなることは私にとって失敗だ」

「ドウセ()()ガ壊レタラ戻ル────多分」

 

 ティアマトは己の体を指しながらそういう。ギンは、結局何を言っているのか解らなかった。




感想をお待ちしております
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。