虚圏の母神 作:キングゥ
《大帝》バラガン・ルイゼンバーン。古くから
飲み物を注ごうとした女官にいらん、と手を振り制して退屈そうにため息を吐く。
「……退屈じゃな。攻めいるべき敵を持たぬ軍ほど意味のないものはない。そうは思わんか、お前達」
バラガンはこの
「問うた所で、是以外の言葉が返ってくるわけでもなしか」
故に彼が尋ねたことを否定するものは此処にはいない。
が、その日は何時もと違った。門番である
「何だ!?」
「ガガメルがやられた!?」
「…………ほう?」
漸く訪れた変化。バラガンは興味深そうに、そして何の問題にもならないと事の成り行きを見ていると三人の男性が現れる
一人は銀髪に糸目の狐や蛇を思わせる青年、一人は何本もの三つ編みを首の後ろあたりで束ねた褐色の青年。そして、彼らのリーダーであろう眼鏡をかけた柔和な笑みを浮かべる青年。何者だ!と襲いかかった部下が褐色の青年に切り捨てられた。
「お初にお目にかかる。君が、
「何だてめぇは………」
白い砂漠の一部を赤く染める肉片が転がる中、佇むは獣の王。青い長髪を持った二足歩行の獣のような
「成リタテネ………デモ、希少ナ
「てめぇは何者か聞いてんだよ」
「私ハティアマト……ソースケノ仲間ニナル子ヲ探シニ来タノ」
「失せろ」
「………アラ?」
ふん、と鼻を鳴らし立ち去ろうとする
「更ナル高ミ?ヲ目指シテミナイ?ソースケニ従ウナラ、更ナル力ヲ───」
爪が振るわれる。砂漠に四本の爪痕が刻まれる。
「従えだぁ?なめた口利いてんじゃねーぞ女!俺が王だ、従うのはお前等だ!」
「────王様ニ成リタイノ?」
「───!?」
服が切り裂かれた女。しかし爪痕から覗く肌には傷一つついていない。
「デモ、貴方ハマダ弱イワ。バラガンヤキングゥ、イシュタルニエレシュキガルニウルキオラ──私ガ産ンダリ産ミ直シタ子達ハ勿論、ハリベルニモ劣ル」
「───ッ!」
「ソースケガ在リ方ヲ変エタザエルアポロニモネ───王ヲ名乗ルナラセメテバラガンヤ■■■■程度ニハ強ク成ラナクチャ───ア、今アノ子名前ナインダッタ」
弱い、そう言われ黙ってはいられない。再び攻撃するも、やはり効かない。ティアマトは困ったような顔をする。
「強ク成リタインデショウ?」
──『共に行こう、グリムジョー』
──『貴様が我等の王となるのだ』
──『悟ったのだ』
──『我等は
仲間達は付いて来れなかった。王の臣下となる力が足りなかった。
──『我等を喰え、グリムジョー』
「………こいつ等を治せ」
「ンー、弱クナッチャウワヨ?」
「構うか」
「友達想イナノネ」
「馬鹿を言うな。こいつ等は俺についてこれねぇ雑魚。俺に喰われるだけの餌だ──だが───」
「───?」
「力だけ手にして従う者もいねぇ俺を、誰が王と認める──俺に相応しい臣下が集まるまで、俺を王と讃える。此奴等の価値はそれだけだ」
「──ソウ」
ティアマトは笑みを浮かべグリムジョーの頭に手を置き横に動かす。頭を撫でる、人間や死神なら子供扱いに当たるそれだがグリムジョーには人間だった頃の知識こそあれど記憶はない。だが、どこか懐かしいそれに───舌打ちしてティアマトを蹴りつけた。
勿論少しも揺るぎはしなかったが。
其処からさらに年月が立つ。藍染の
彼等には11から始めとする数字を与えられた。グリムジョーだけはその後も成長を続けている。浦原喜助の造った崩玉を藍染の崩玉と合わせた暁には新たなる進化も行われるだろう。
「ふっ!」
「はぁぁ!」
広大な
複数の影が狙うは、たった一人の女。チャクラムにワイヤーを通したような形状の武器が襲いかかる。あっさり弾かれ、反対から迫るネイティブ・アメリカン・ファッションの男が刀を振るうが女性の持っていた刀で防がれる。
「
「───ッ」
しかし両手は開いた。チャクラムを弾いた手が戻る前にアフロの男性が無防備な腹をバグ・ナグを装着した手で殴りつける。
「
直ぐ様二撃目。いや、それでは足らない。連続で何度も攻撃を放つ。
「
文字通り百発百中の拳。全てを浴びた女性は、アフロの青年の顔をつかむと武器の形状から距離を取っていた女性に向かって投げつける。
「
と、女性の真横──ネイティブ・アメリカン・ファッションの男から暴風と煙が放たれる。煙を突き破り襲ってきた鳥の嘴を持った竜巻、それを足で踏みつけ潰す。
「
「掻っ斬れ──
と半月形の巨大な刃が向かってくる。女性は指を軽く上に向ける。足下から現れた黒い泥が周囲に展開し光線も刃も等しくふれた瞬間浸蝕し霊子の構成から崩す。
「これならどうかね!」
と、泥の壁を吹き飛ばそうと暴風が吹き荒れ嘴が襲いかかる。それも複数。
「残念、足リナイ──数任セ、一ツ一ツガ弱イトソレ意味ナイ」
「前回も同じ事を言われたよ。────
「────」
球体状に圧縮された霊圧と複数の嘴が一つとなり鋭く変化する。さらには嘴の周囲にまで風が取り巻き泥の壁を貫き嘴が女性に突き刺さ───ろうとして片手で受け止められた。
「ぬぅ!」
「食らえ!」
「
「
「やれやれ、まだ
「今日も母さんに
「まーそれはあれよ、相手が母さんだからって思えば納得できるわよ」
一応、彼らは幹部クラスなのだが
今回は新しく生まれた
「ところでコレ美味しいわ」
「
「ちょ、やめて母さん恥ずかしい!」
菓子の味を誉めたことで頭を撫でられるチルッチ。ドルトーニは手元のクッキーを口に放り込む。
「うむ!
「アリガトウ」
幼さの中に確かに母性を感じさせる笑みを浮かべる美女が見た目は完全に年上の満足そうな中年男性の頭を撫でるという何とも珍妙な光景を、チルッチは頭の感触を名残惜しみながら見ていた。
「けど母さんが居る時しか食えねぇのは残念だな」
「平気。ルドボーンガ食材
「……過労死しないか」
「大丈夫でしょ、数だけは多いじゃない彼奴等」
「ピカロ達ノオ世話モ任セラレルシ……色々助カッテルワ」
「あー、ピカロ達ねぇ……ジャックがお姉ちゃんやってるおかげで纏まるようになったけど私どうも子供苦手なのよね」
ピカロという名を聞いてキャッキャッケラケラ騒ぐ彼らを思いだし顔を歪めるチルッチ。どうやら子供はあまり好きではないらしい。
「可愛イノニ」
「母さんからすりゃバラガン様でも可愛い範囲だろうしな」
「ウルキオラモ、ピカロ達ミタイニ笑エバ良イノニ。キット可愛イワ」
ウルキオラといえば、ティアマトと古くから共にいるティアマトによって産み直された個体だったか。不完全な
「アラ、ハリベル……」
三人から離れ他の面子にも菓子を配ろうと部屋から出ようとしたティアマト。そこに褐色肌の顔が露わになったハリベルがやってきた。
「久し振りだな。
「楽シイワ。最近、剣八ガ代ワッタンダケド、素直デ、自分ニ正直デ可愛イ子ナノ」
「…………」
ティアマトの言葉に純真無垢そうな少年を想像するハリベル。
「半殺シニシテアゲルトトテモ喜ブノ」
「────?」
「ヤチルモ、キチントオ礼言ウ良ク出来タ子デネ」
「そ、そうか……」
半殺しにされて喜ぶ?お礼を言う?護廷十三番隊は魔境か何かだろうか?
「デモ、隊長ガ嫉妬スルノ───可愛イワヨネ」
「逆にお前が可愛くないと思う相手がいるのか疑問だな」
「………年上?」
「いないだろ、お前に年上など………」
と、ハリベルは去っていく三人の背中を不意に見つめる。
「お前を母と呼ぶ
「一時期アノ森ニ来テ、力ヲ求メテ出テ行ッタ子達ハ今デモ私ヲ慕ッテクレテルワ。ハリベルハ、私ヲ母ト呼ンデハクレナイノ?」
「む、あ………それは──」
少し寂しそうに言うティアマト。ハリベル自身ティアマトは好いている。彼女が『母』というあり方に並々ならぬ思いを寄せているのも気付いている。呼ぶことに、特に不満があるわけではないのだが───
「か、母……さん?」
「────モウ一回」
ハリベルが照れながら言うとティアマトがズイ、と顔を近付けてくる。気のせいか何時もより目がキラキラしている。
「や、その………か、母さん」
「モウ一回」
「……え」
「後一回……一回ダケデ良イカラ」
「───う」
頬を染め目を逸らすハリベル。何だろう、思ったよりだいぶ恥ずかしい。しかしティアマトの期待の視線が眩しい。
「その辺にしときなさいな、母さん」
「ハリベルも困っているのだわ」
と、其処へ現れるのは双子のようにそっくりな
「イシュタル、エレシュキガル───」
彼女達はイシュタルとエレシュキガル。『海』を広げるのをやめた当時のティアマトが頭に残った記憶を基に海から生み出したティアマトの子だ。ウルキオラのように産み直したのとは異なり文字通り魂魄の意思すら溶けて消えた霊子の海から生まれた
「ピカロ達がソワソワしてたわよ。さっさと行ってあげなさい」
「帰ってくるの楽しみにしてたんだから」
「アア、ソウネ───アリガトウ」
そう言って去ろうとするティアマトに少しだけ不機嫌そうな二人。首を傾げたハリベルは、ああと気付く。
「ティアマト、久し振りに会ったんだ。二人の頭も撫でてやったらどうだ?」
「ちょ!?ハリベル!」
「べ、べべべ別に頭を撫でてほしいなど思ってないのだわ!」
「フフ。二人トモ、偶ニシカ帰ッテコレナクテ、ゴメンネ」
そう言って二人の頭を撫でるティアマト。恥ずかしがる彼女達だが振り払わないあたりイヤではないのだろう。
「待て待て~」
「やだー!」「捕まらないよー!」「こっちこっち!」
「きゃははは」「鬼さんこっちら~!」
「よーし──」
そんな小さな影を追い掛ける白髪の少女。ぐっ、と足に力を込め、床を砕くほどの踏み込みで急加速する。
「わわ!」「あ、捕まっちゃった!」
「逃げろ逃げろ!」
一人が捕まったので逃げ足を加速させる少年少女。しかし白髪の少女の方が、速い。
「遊べ!」「あーそべ!」 「あ、遊べ!」
「……遊べ」 「Asobe!!」「あっそっべ!」
「あそべ?」 「アソベ!」
「────!」
彼等が一斉に叫ぶと目を見開く白髪の少女。
「「「「
虫を思わせる様々な翅を広げる子供達。空を飛ぶ彼等にズルイ!と叫んだ少女は自身の斬魄刀、ナイフサイズのそれを抜き構える。
「潜め
瞬間、周囲を霧が覆う。その霧に触れた壁が少しずつ崩れる。少年少女達の肌も僅かに崩れていく。
「二人目──」
「───!?」
空高く逃げようとした一人が蹴り落される。グシャリと頭が潰れ脳漿が飛び散った。
続いて離れていた場所の獣が壁に殴りつけられ、別の場所で翅を切り落とされる者も居た。
気配は、掴めない。そう言うのが得意な個体がキョロキョロ周囲を見渡すが仲間の気配しか感じ取ることが出来ない。その少年の背後から振り下ろされる足───しかし───
「「「「「あ、お母さん」」」」」
霧に一歩踏み込む女性。霧が晴れ、白髪の少女が姿を現し翅をはやした少年少女達も翅を消し女性に向かってかける。床に激突して頭が潰れていた個体もムクリと起き上がり血だらけの頭のまま飛びついていく。総勢100人以上の子供達。それを、黒い泥が飲み込んだ。
「はー、お母さんの中、温かかったなぁ」
と、ティアマトの膝の上で頭を撫でられ満足そうにホワホワ微笑む少女。名をジャック・ザ・リッパー。
本来なら未練などなく輪廻に還るか、生まれてすらいないので成仏も何もなく霊子となって消える筈の水子達の霊。当時は余りに多すぎて、互いに足りぬ霊子を補い合うように集まり
記憶の縁を刺激するその海を気に入り何度出されようと何度も飛び込む。高濃度の霊子に浸かり続けた彼女は同胞を食らわぬまま
群にして個のピカロ達をお姉ちゃんぶって纏める。そうすると大好きなお母さんに誉めてもらえるから。
「ねーねー、次は何時帰ってくるの?」
「サア、ソースケノ都合ニヨルカラ」
「そっかー…あ、じゃあ今日は一緒に寝よ!」
「エエ、良イワヨ」
「げぶらぁ!」
悲鳴を上げながら吹っ飛んでいく少年。ピクピク痙攣する少年を前に雫はやりすぎたかな?と首を傾げる。
「どう考えてもやりすぎですよ虚月
四番隊第三席、虎徹勇音が山田花太郎という覚えやすいんだか逆に覚えにくいんだか解らない少年に駆け寄る。
「さ、三途の川が見えました」
「しっかり!此処があの世よ!」
「花子、斬魄刀使エバ私ヤ勇音ヨリ回復早インダカラ直グ駆ケツケラレルヨウニ鍛エナキャ」
「でも斬拳まで鍛える必要あります?後、彼は花太郎君です」
「アルワ。太郎、コノ前十一番隊ニ虐メラレソウニナッタデショ?彼処ハ傷ヲ勲章ナンテ言ッテ治ソウトシナイ子モ居ルカラ、力デダマラセナキャ」
「四番隊でそれ出来るの隊長か副隊長ぐらいですよ~。それと僕は花太郎です」
四番隊は戦闘もできない腰抜け集団、などと言われ他の隊からなめられている。特に戦闘集団の十一番隊から。しかし隊長である卯ノ花烈は笑顔のまま十一番隊隊士を威圧し雫は十一番隊隊長と鍛錬と称して何度も切り結んでいる。その度に死にかけた剣八を連れて戻ってくる。
何で四番隊に居るんだろうこの人。
「ていうか虚月副隊長って、何時もどうして更木隊長を中途半端にしか治さないんですか?」
「ダッテ私ガ彼ニ関ワリ過ギルト、烈ガ拗ネルモノ」
「?けど、隊長はともかく副隊長はどうして四番隊に?」
「救エル命ガアルナラ、救イタイデショ?ソノ時自分ニハ何モ出来ナイナンテ、成リタクナイカラ」
「……………」
確か彼女は流魂街出身だったはず。前世は子を授かれるほどの年齢で、事実授かったと聞いている。それでも、見た目はとても若い。なら、死んだのも子が産まれて直ぐかあるいは───
「勇音───」
ポス、と頭に手を置かれた。
「私ハ今、幸セヨ──?」
「……はい、すいません」
「勇音ハ、良イ子」
ギュ、と抱き締められる。頭を撫でられる。恥ずかしい……恥ずかしいのだけど、心地いい。
四番隊副隊長の決定時、自分か彼女かで話し合いが行われていたらしいが、彼女が自分の上司で良かったと、心から思える。
「虚月副隊長!急患です!」
と、その時勢いよく飛び込んでくる人影があった。
「十三番隊志波都、及び数名の隊士が
「「「────!」」」
三人は直ぐ様立ち上がる。
「勇音、付イテキテ。花三郎、斬魄刀ヲ取ッテキタラ直グニ治療室ニ───」
「は、はい!」
「わかりましたぁ!あと、花太郎です」
結局、助けられなかった。皆ひどい重傷であった。此処に運ばれる前に事切れた者もいる。特に志波都など胸から下が喰われてなくなっていた。しかし、運ばれてきた死体の中に妙な傷が幾つもあった。まるで斬魄刀に斬られたような。
そして次の日、十三番隊副隊長志波海燕が死亡した。
「────っ……!?がぼ、ごほ!……此処、は……俺は、助かったのか?」
目を覚ました海燕は上体を持ち上げ周囲を見渡す。薄暗い見覚えのない部屋。四番隊隊舎ではなさそうだ。自分はどうやら黒い泥で満たされた容器の中に入れられていたらしい。何だろう、十二番隊の怪しい実験につき合わされたのだろうか?
「───!」
胸に、穴があいている。
その辺は技術開発局でも不可能だったのだろうか?まあ命が助かったのだから文句は言わないが──。
「誰か来てくんねぇかな、裸じゃねぇか俺───」
「ア、起キタ?メタスタシア」
「───ん?」
誰か来たかと振り返る。其処には死覇装を着た女性死神。十二番隊は基本的に白衣を着る。十二番隊ではないのか?と疑問に思いながら顔を見る。
「───母さん?」
意図せずそんな言葉が口からこぼれた。何を言っているんだ自分は?彼女の顔は知っている。しかし母親ではない。
「わりぃ、寝ぼけてたみたいだ。虚月、ここは?俺ぁ助かったのか?」
「─────アレ?海燕?」
「?おう、皆大好き海燕副隊長様だぜ!てか、俺朽木にかっこつけてくたばったと思ったのに、ネタにされんなこりゃ───」
「───ドウシヨウ」
「ん?」
「海燕ナラ、アーロニーロニ食ベサセタク無イシ───ヤッパリ死体ノママニシテオケバ良カッタ」
「………食べさせる?お前、何を──」
警戒しながら四番隊副隊長、虚月雫を睨む海燕。雫は手に持っていた斬魄刀を投げ渡してくる。
「コウシマショウ?勝ッタ方ガ負ケタ方ニ何デモ命ジラレル。此処ガ何処デ、私ノ目的ガナンナノカ、勝テタラ教エテアゲル」
「そうかい、だが一ついいか?」
「…………?」
「服を着させてくれ」
破面大百科~ゴールデン~
グリムジョー「てめぇがハリベルか」
ハリベル「そうだ。ティアマトが拾ってきた奴だったか?」
グリムジョー「殺す!」
ハリベル「何故!?」
ちょっと前
ティアマト「ハリベルニモ劣ル」
ハリベル「──と言うことがあったんだ」
ネリエル「ノイトラみたいな子ね」
二人に友情が芽生えた
感想お待ちしております