虚圏の母神   作:キングゥ

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旅禍進軍

 ガン!とまるで巨大な鉄の塊がぶつかったような衝撃音が響き周囲の建物が震える。

 霊圧同士がぶつかり、周囲の霊子で構成された建物が崩れる。柱のように吹き出した黄金の霊圧と青黒い霊圧が雲を突き抜け散らす。

 

「ははははははは!!」

「楽シソウネ……何ヨリ───ヨ!」

 

 2メートルを超す大男の振り下ろす剣を弾くのは160センチ程の小柄な女性。更木剣八と虚月雫だ。

 どちらも桁違いの霊圧を振りまきながら刀をぶつけ合う。

 

「はっはぁ!」

「────!」

 

 大きな体を捻り、引き絞り、放たれる突き。矢の如く放たれた突きをかわそうと身体を仰け反らせるが頬にひきつった痛みが走る。

 ボロボロの刃が皮膚を斬る──いや、引きちぎると言った方が近いだろう。あんな刀身で綺麗に斬れるはずがないのだから。

 だが、雫は笑う。まるで子供と遊ぶ母親のように。

 嬉しいのだ。護廷十三番隊で、此処までまっすぐな者は少ないから。皆それぞれ夢があって、望みがあって、しかし霊術院という場所で常識を、規律を、義務を学ばされる、社会的な見方をすれば大人になる。己の願いより義務を優先する。

 だが涅マユリや草鹿やちるに、酔った時の乱菊、そして目の前の剣八のように規範も、規律も、義務も無視して己のやりたいことをやろうとする存在がいてくれる。素直な()()()、なんとも愛らしい。

 この世の誰よりも永い時を生きている彼女にとって全てが子供。大人ぶる姿も微笑ましいがやはり無邪気に遊んでいる方が好ましい。

 

「ソレジャア、モウ少シ重クイクワ」

「─────!!」

 

 ガァン!と振るわれた斬魄刀同士がぶつかり、剣八の巨体が吹き飛ばされる。

 霊子体である死神の戦いは霊圧の戦い。如何に華奢で儚げな女性であろうと霊圧さえ高ければとんでもない怪力を生む。そして雫の霊圧は解き放てば島一つ消し飛ばす水爆のような馬鹿げた霊圧だ。剣八の巨体をはじき飛ばせるほどの膂力を生む。

 

「ぬぅ──らぁ!」

 

 だが、剣八も負けてはいない。今ははずしているが無限に霊力を食らう生きた眼帯を付けたまま、それでも斬魄刀に霊圧を込める方法を知らないながら隊長クラスの霊圧を持っていたとしても斬れない霊圧を垂れ流すような規格外だ。ひび割れた塔をそのまま踏み砕くような踏み込みで跳ねる。

 勢いと全体重が乗った一撃。雫の身体が押される。草履がザリザリと削れながらも少しずつ勢いが弱まっていき───

 

「ははは!」

 

 剣八が足に力を込めたことで再び加速する。瓦礫を、壁を背中に何度も打ちつけながら斬魄刀を押し返そうとする雫だが、体格差と滑って踏ん張れない状況では厳しい。対する剣八は石の床を踏み砕いてしっかりと斬魄刀に力を加えていく。だが、唐突に止まる。

 雫の草履と足袋が擦れてなくなり白い足が姿を現したのだ。足に力を込めれば指が床を割りしっかりと支える。同じ条件なら、雫の方が剣八より上。

 

「────フフッ!」

 

 剣八の剣が弾かれ体が大きく仰け反らされる。そのまま蹴りを放ち、吹き飛ばす。

 と、脹ら脛辺りから血が吹き出た。斬られたらしい。

 

「モウ、オ終イ?」

「んなわけねぇだろ!」

 

 と、巨大な瓦礫が跳んでくる。切り裂くと瓦礫の陰から剣八が現れる。振り下ろされた斬魄刀を斬魄刀で受け、傾け流す。勢いを殺さず追撃しようとすると胸ぐらをつかみ空高く投げられる。

 

「せっかく数年ぶりにお前が遊んでくれんだ!もっと続けようぜ!」

「エエ、良イワヨ───」

 

 落下しながら回転し、勢いを乗せた斬撃が放たれる。防ごうとした剣八だが防ぎきれず新しい傷が生まれる。しかし剣八は気にせず切りかかってくる。

 体を反らすと死覇装の襟に斬魄刀のふくらが引っかかり胸元が露わになる。もっとも、雫も剣八もそんなこと微塵も気にしないが。ただ、死覇装は結局雫の身体の一部ではないから、脆い。ちぎれかけるそれを斬魄刀を捻ることで固定した剣八が引き寄せ頭突きを放つ。

 雫の額が赤くなり、剣八の額から血が出る。

 

「~~~~~ッ!!」

「はぁっはっはっ!」

 

 明らかにダメージは剣八の方が多い。しかしそれで止まる剣八ではない。再びゴッ!と額がぶつかり雫がたまらず死覇装の襟をちぎり距離をとる。

 

「頭、強ク打ツノ良クナイワ」

「知るかよ!此処で頭蓋が砕けようが、んなもん楽しむためなら安いもんだろうが!」

「ソウネ───デモ、ゴメンナサイ」

「あ?」

「ヤリスギルト、予定ガ狂ウノ。モット遊ンデアゲタカッタケド、ヤルコトモアルシ………後ハホワイトト遊ンデキテ」

「あ、おい!待ちやがれ!」

 

 斬魄刀を下ろすのを見て戦う意思が消えたのを察した剣八が叫ぶが、雫は音を立てずに消えた。消化不良の剣八は舌打ちしながら瓦礫を蹴飛ばす。

 

「何だよ、せっかく楽しくなってきたのによぉ───」

 

 拗ねた子供のようなその態度はさぞ雫の母性本能を擽ったことだろう。

 後はホワイトとやらと遊んでもらえと言っていたが、誰だそれは?まあ今の疲れた身体なら少しは楽しめるかもしれないが───

 

「…………ん?」

 

 と、その時大きな霊圧を感じる。明らかに隊長格の霊圧。ちょうどいい、ホワイトかどうかはおいておいて、代わりに遊んでもらうとしよう。

 

 

 

 

 剣八に付けられた傷を回道で治癒する雫。本来なら藍染の死体の検分を手伝わされそうになっていたのだが雛森に疑われている状況で自分が行うのは雛森の精神上よろしくないと言い訳をして抜け出してきたわけだが、さてどうしよう。

 と、爆音が聞こえてきた。

 

「───アラ、昨日ノ」

「あんたは………丁度良かった。彼等のちりょ───!?な、何てかっこうしてるんだ!!」

「…?………アア」

 

 何故か驚く昨日出会った大柄な旅禍の少年。そういえば傷は治したけど血は拭っていなかった。直ぐに拭う雫。

 

「コレデ良イ?」

「そっちじゃない!胸を隠してくれ!」

「…………!」

 

 こっちか、と自分の胸元をみる。

 

「全く、羞恥心はないのか」

「子供ニ見ラレタトコロデ、微笑マシイダケデショ?」

 

 そう言って隠そうとした時だった。

 

「いたぞ!旅禍だ!っ!?虚月副隊長!」

「あの姿は、まさか旅禍め!」

「何とうらやま──恨めしいことを!」

「え、いや……ちが───」

「覚悟しろこの強姦魔が!」

 

 怒り心頭の様子で向かってくる死神達。何せ胸元がはだけた女性と、大柄な不審者だ。まずはそういうことを想像してしまったのだろう。

 まあ、全員あっさり倒されたが………。

 

「ソノ力───」

「え、ああ……確かに変わっている自覚はある。死神とも、滅却師(クインシー)とも異なるからな」

「ドレグライ使エルノ?」

「そうだな……最初は一日二回が限界だったが、今では五回撃っても疲れを感じなくなった」

「…………トコロデ、貴方ハホワイト──黒崎一護ト仲ガ良イノ?」

「っ!何故、一護の名を──!」

 

 距離をとり警戒した面持ちになる大男。しかし拳を構えないあたり女は殴れないということだろうか?

 

「朽木ルキアカラ聞イタノ。瀞霊廷ニ戻ッテ来タバカリノ彼女ノ健康状態、診タノ私ダカラ」

「そ、そうだったのか………」

 

 真実を確認する術はないが、やはり敵意を感じない。警戒を少しだけ解く大男。

 

「そう言えば、昨日は名乗らせるばかりで名乗っていなかったな。茶渡泰虎だ……」

「ヘェ───良イ子ネ、貴方………」

「一護とは、親友同士だと思っている。俺のこの拳にも意味をくれた……彼奴のためなら俺は命を懸けられる」

「───ソウ。素敵ネ」

 

 そう言って微笑む雫。見惚れる程に美しく、思わす鼓動が早まる。と、雫は徐に斬魄刀に手をかけた。

 

「───!?」

 

 流石に武器を構えられれば対応せざるを得ない。加減して、と余裕を持つ程度には雫を甘く見ていたが、不意に雫が視界から消える。

 

「んぐ!?」

 

 口の中に何かを突っ込まれた。見れば何時の間にか接近していた雫が茶渡の口に指を突っ込んでいた。

 

「───舐メテ」

「ふぁ、ふぁひお──!」

「舐メテ?」

 

 慌てて抜こうにも、華奢な外見に似合わずものすごい力だ。雫が指を動かし舌に擦り付ければ口の中に鉄の味が広がる。これは、まさか血か?

 

「飲ンデ?」

 

 指が口から引っこ抜かれる。代わりに口を掌で押さえつけられる。指が進入し口の中をねぶった際に出た唾液ごと、血を飲み込む。まだ口の中に血の味がする。

 

「あ、あんた……いったい何を──」

「コレカラモアノ子ト仲良クシテアゲテネ」

 

 突然の奇行を問いただすもニコニコと笑みを浮かべたまま去っていく雫。何だったんだろうか、今のは?

 いや、今は良い。とにかくルキアの下に向かおう。そう切り替え走り出した。

 

 

 

 暫く経ち、何度目かの死神との交戦。茶渡は違和感を覚えた。

 右腕がざわめく。かといって力が減ったわけでなく、むしろ強くなっている。原因を考えるとしたら雫だが、まさか血を媒介にした霊圧強化的な術でも使ってくれたのだろうか?だとしたら何故?

 そう言えば彼女は自分が一護と仲が良いと聞いて嬉しそうにしていた。あの顔は、そう──一護の家に招かれた時の一心に似ている。我が子が友達を連れてきたのが嬉しいと言ったような顔。

 

「ここは死後の世界。まさか───いや……」

 

 一護の母の写真はデカデカと壁に飾られていた。確かに雫も彼女も美人ではあるが顔はまるで違う。

 

「───まさか、祖先か?」

 

 と、考えがこんがらがっていると再び死神達が現れた。仕方なく対処する。幸いにも自分より強い者は今のところいない。あっという間に倒し終えた。

 

「待てい!そこまでだ愚かなる旅禍よ!」

 

 と、自信にあふれた声がかけられる。

 ガタイの良い、おさげの大男が現れた。

 

「八番隊第三席副官補佐、円乗寺辰房である!」

 

 男、円乗寺は名乗りを上げると倒れていた死神達がおお、と声を上げる。それだけで彼がその実力を信頼されている人物だとわかる。やたらめったらと斬魄刀を振り回し始め隙だらけだったので殴って気絶させた。

 

「ひゅー♪やるねぇ──」

 

 今のが三席なら、何とかなるかも知れない、そう思っていると軽い声がかけられ花びらがヒラヒラと舞う。

 ふわりと男が着物をはためかせ音もなく降りたった。

 

「八番隊隊長、京楽春水……はじめまして♡」

 

 現れたのは笠をかぶり派手な女物の服を着た中年の男性。僅かに覗く胸や腕から鍛え抜かれた身体をしていることが良く解る。

 

「……八番隊、隊長……」

「…フフフ…そ♡よろしくね………ンフフフ……フフ……フ?」

 

 と、先程から落ちてくる花びらが止まるどころか増えていく。上から落としている七緒というらしい眼鏡の女性に止めてくれるように言うが無視され口説きだしたら花びらが入ったザルをひっくり返され花びらに埋もれる。

 

「…………悪いがコントにつき合っている暇はないんだ。通してもらう」

「なんだいもうちょっとぐらいノってくれても良いじゃないの。雫ちゃんはノってくれるんだけどなぁ」

「………虚月雫の事か?彼女は四番隊と聞いたが」

「なんだい、知ってるの?まあ、彼女は基本的に争いとか好きじゃなさそうだし、君が出した怪我人を治療、搬送の時に話したってとこかな………うん、安心した」

「安心?」

「少なくとも君は女の子に手を挙げるような奴でも、敵だからと言って怪我人に追い打ちをかけるような奴でもない、善人って事が解ってね」

 

 ちなみに雫ちゃんはリサちゃんの代わりに七緒ちゃんに本を読んでくれる心優しい子だよ、彼女が小さい頃は僕も一緒に寝かしつけて貰ってたんだぁ、と上の女性を指す。彼女が七緒なのだろう。先ほどそう呼んでいた。

 

「君は悪い子じゃないみたいだから戦いたくないねぇ」

「俺もだ。そこを退いてくれると助かる」

「それは出来ないから、退いてくれと言ったら?」

「俺も、それは出来ない………」

「そうかい……そいじゃ仕方ない……」

 

 京楽はそう言うとその場に腰を下ろす。

 

「飲もう!仲良く!」

 

 さらに酒瓶を取り出し杯を二つ手に持つ。

 

「………は?」

「イヤイヤ退くのが駄目ならせめてここで止まってくれないかと思って。何、少しの間でいいんだ。今、他の隊長さん達も動いてる。この戦いも直に終わるからさ。それまでここで僕と楽しく()ろうじゃ───」

「……他の隊長?」

 

 京楽の言葉を遮るように、茶渡は気になった言葉を呟く。

 

「一護も……他の連中も、隊長格に襲われているのか?」

「参ったね。失言だったかな、どうも」

「事情が変わった。京楽さん、そこを退いてくれ」

 

 右腕から霊子を放ちながら言う茶渡を、京楽は酒を飲みながら見据える。

 

「イヤだと言ったら?」

「言わせない」

 

 次の瞬間右腕から霊圧が光線のように放たれる。三席の円乗寺を瞬殺した威力より遙かに高いそれを───京楽は片手でかき消した。

 

「やれやれ……面倒な事になってきたねぇ……どうも」

「────!!」

 

 直ぐに追撃を放つ。

 

「はずれー」

 

 かわされる。それでも放つ。

 

「またはずれー」

 

 やはりかわされる。何発打っても同じだ。一発もかすりもしない。

 先程の円乗寺は三席と名乗っていた。つまり目の前の男とはたった二階級しか違わないはず。なのに、次元がまるで違う。八番隊の総勢がどの程度か知らないが彼が百人いたとしても目の前の男には敵うまい。

 

「……もうよしなよ。もう解ったろう?君の技は確かにすごい。硬いし迅いし破壊力だって人間にしちゃ大したもんだ。だけど僕には当たらない。それが全てだよ。もう諦めて帰ったらどうだい」

 

 敵意は、感じない。しかし雫のようにそもそも敵意を持たないのではなく、いちいち敵意を持つ必要がないからだろう。それだけ茶渡と彼の実力はかけ離れている。しかし──

 

「忠告どうも──だけど退くわけには行かない───!」

「よせと言っている」

 

 そう言って再び殴りかかってくる茶渡の拳を躱して背後をとる。京楽の退けという言葉は茶渡が自分に敵わない、無駄なことをしているという意味と、彼の心配の意味がある。

 技というのは発動限界を過ぎると出せなくなるのと命を削って出す二種類があり、茶渡は後者だ。このままではいずれ死ぬ。

 指で軽くたたき吹き飛ばした京楽は問う、なんのためにここに来たのかと──。

 

「目的は──朽木ルキアを助けるため」

「ルキアちゃんを?彼女が行方不明になったのは今年の春だろう?短いね……浅い友情だ、命を懸ける価値はないよ」

「………確かに。俺は彼女のことを何も知らない。命を懸けるには少し足りないかもしれない」

 

 京楽の言葉を肯定する茶渡。だが、立ち上がる。

 

「だけど、一護が助けたがっている……」

 

 自分が命を懸けるのは、それだけの理由で充分だ。そう言いきった茶渡を見てそうかい、と残念そうに肩をすくめる京楽。

 

「そこまで覚悟があるんなら、説得して帰ってくれなんて失礼な話だ………仕方ない──」

 

 京楽は腰に差していた斬魄刀を抜く。

 

「そいじゃ一つ、命をもらっておくとしよう」

「────!」

 

 茶渡は駆け出す。嘗て一護と交わした約束、自分のために力を振るえないなら、一護の為に力を振るってくれ、代わりに一護も自分のために力を振るってくれる。そんな約束。

 そう、約束だ。だから、負けられない。

 

「─────」

「ごめんよ」

 

 京楽の声が背後から聞こえた。胸が一文字に切り裂かれる。

 

「───クソ」

 

 意識が遠のく。地面が傾く。違う、傾いているのは自分だ。そのまま倒れる。

 

「─────?」

「ドウシタノ?」

 

 不意に人影が指す。声がかけられる。目だけを何とか持ち上げると、雫がいた。いや、これは幻覚か?何となく、そう感じる。

 

「───負けた」

「負ケタ?確カニ本気出シテモ勝テナイケド──ソウイウノハキチント本気デ戦ッテカラ言ウモノヨ」

「俺は本気で───」

「イイエ。マダ──折角与エタ力ダモノ───ホラ、キチント使ッテ?」

 

 星の内海を映したかのような不可思議な光が揺らめく瞳が細められる。頭をなでられたような気がした。茶渡の意識は、そこで一度闇に沈み、直ぐに無理やり浮き上がらされた。

 

 

 

「人間が瀞霊廷に入るってだけで凄いのに。まさかここまで戦えるなんてね───それにしても──」

 

 倒れた茶渡を見てから、後ろを見る。そこは茶渡の攻撃が放たれた場所。今までにないぐらいの破壊の跡があった。

 

「最後の一撃が──ここまでとはね。これはまともに食らってたら危なかったかもしれない」

 

 そう肩をすくめる京楽に七緒が駆け寄ってきた。

 

「伝令です!」

「どうしたの息を切らせて、らしくない。そういえば今裏廷隊の子が来てたね」

 

 裏廷隊とは隠密部隊のことだ。その一人が七緒に何かを報告していたのを京楽はしっかり見ていた。

 

「───藍染隊長が、お亡くなりになりました」

 

 死因は事故ではなく殺害。山本総隊長と日番谷隊長の二名による一級厳令。間違いない情報だろう。

 そうかい、と呟いた京楽は顔を見に行こうと七緒を連れて行こうとする。と、七緒はついて行こうとして茶渡を見て目を細める。

 

「……どうかなさったんですか、京楽隊長。死んでませんね、この旅禍」

「……………」

「止め、刺しておきましょうか?」

 

 そう言って霊圧を溜める手を、京楽が掴んで止める。

 

「よしなさい。女の子がそんなことするもんじゃあないよ……」

「しかし!藍染隊長を殺したのもおそらくこの旅禍の一味……」

「そうだね、でも……そうじゃないかもしれない………」

「………え?」

 

 どちらにしろ彼等には事情を聞かなければなるまい。その言葉に納得し、救護班を手配しようとした時だった──

 

「───!?」

「───へぇ」

 

 茶渡が、立ち上がった。霊圧が別人レベルに跳ね上がった。

 

「破道の三十一!『赤火砲』(しゃっかほう)!」

 

 直ぐ様七緒が鬼道を放ち茶渡が爆炎に包まれる。しかし、霊圧は健在。煙がはれるとそこにはさらに異形化した右腕を構える茶渡の姿があった。

 

「………盾?」

 

 七緒が呟いたとおり、その形状はまるで盾のようだった。刻まれた髑髏のような紋様は、どこか(ホロウ)を思わせる。

 

「そうだな。これは、盾だ………俺の防御の力───『巨人の右腕』(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)だ」

「………防御の力、ねぇ」

「流石だな、京楽さん……そうだ、防御の力───そしてこっちが、攻撃の力───」

 

 そう言って、白く染まった左腕を出す茶渡。

 

『悪魔の左腕』(ブラソ・イスキエルダ・デル・ディアブロ)───」

「────でぃ、悪魔(ディアブロ)?」

「物騒な名だねえ、どうも───」

 

 京楽は目を細める。傷が塞がっている。完全ではない、あくまで止血程度。

 しかし、妙な感じだ。京楽とて彼の力にまだ奥があるのは気づいていた。しかしその素人を隠しきれない動きから単純に使いこなせる熟度に達していないと判断した。ここまで急激にあがると、外的要因を感じる。

 

「仕方ないか───」

「────」

花風紊(はなかぜみだ)れて花神啼(かしんな)天風紊(てんぷうみだ)れて天魔嗤(てんまわら)う───『花天狂骨』」

 

 二本の青竜刀のように変化した斬魄刀。感じる霊圧も跳ね上がる。

 

「悪いね、君を斬るよ」

「構わない。此方こそ、全力で行かせてもらう!」

 

 二人が同時に踏み込む。茶渡は先程まで瞬歩すら使っていなかった京楽に翻弄されていたとは思えぬほど速く────そして、京楽はそれよりも速く。

 胸に十字の傷を入れられた茶渡。再び倒れる。今度こそ、起き上がることはなかった。

 

 

 

 

「な、なんだこれ───気持ち悪い」

 

 その頃瀞霊廷の一角。嘗て罪人を落とし(ホロウ)と殺し合わせていた処刑場跡地で妙な霊子が観測されたという報告が相次いだ。そこにはどす黒い泥が並々と注がれていた。




格隊の雫の評価

一番隊

隊長:茶会に菓子を持って参加してくれる。常に他者思いやれる良くできた死神である

副隊長:現世の東洋文化の話を嫌がらずに聞いてくれる。紅茶を入れるのがうまい

二番隊

隊長:夜一が罪人になり当時落ち込んでいた自分を慰めてくれた人。闇雲に鍛えようとして怪我をした自分を癒してくれた優しい人。

副隊長:良く油煎餅をくれるな

三番隊

隊長:ひみつや

副隊長:綺麗な人ですよね

四番隊

隊長:私を悦ばせて、私が悦ばせられなかった男を悦ばせることが出来る人。その力に対して心優しく他者のために治癒を学ぼうとする優しい人。そのあり方が少し羨ましい


五番隊

隊長:とても子供好きの優しい人だよ

副隊長:とっても素敵な人です。藍染隊長も、あれぐらい綺麗な人の方がいいのかな?

六番隊

隊長:甘い女だ。ひさなとは仲が良かった

副隊長:怪我した時は本当に世話になったっす

七番隊

隊長:儂の素顔を見ても動物としてではなく幼子として可愛らしいという瞳を向けてくる女子だ。後、吾郎が良く懐いている

副隊長:良い女やな

八番隊

隊長:良い人だよ♡甘えさせてくれる時の母性が凄いのなんの。胸に顔を埋めても安心感ばかりでいやらしい気持ちになれないんだよね

副隊長:小さい頃は本を読んでもらいました。今でも偶にもらいます

九番隊

隊長:規律に緩いところはあるが人を思いやれる人物だ。星が綺麗な夜は酒を片手にやってくる事がある

副隊長:小さい頃は、まあ、その……世話になりました

十番隊

隊長:やたら菓子を渡してくるな

副隊長:酔った私を介抱してくれる良い子よぉ。あ、年上だった

十一番隊

隊長:最高の女

副隊長:お菓子がとっても美味しいんだよ!

十二番隊

隊長:子供が好きと聞いたからネ。忙しいワタシに代わり子育ての権利を与えてやったヨ。あんなとろい娘に育てたことにはいろいろ言いたいことがあるがネ

副隊長:お義母様です

十三番隊

隊長:良く日番谷隊長にお菓子をあげに行くぞ!クリスマス、皆のプレゼントを一緒に考えたする

副隊長:現在不在

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