遊戯王部部活動記<番外編集>   作:鈴鳴優

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※注意
 これは月詠クレスさんの作品『闇霊術士の決闘記録』とのコラボ作品です。
 本編と『闇霊術士の決闘記録』をご覧になっていない方は、本編と『闇霊術士の決闘記録』を読んでいただいてからをオススメします。

 ※時間軸について。
 
 『遊戯王部活動記』
 第2章終了時から第3章始まりの間。

 『闇霊術士の決闘記録』
 PRLG-JP000から PRLG-JP001の間。



ex01.魔法にも等しい力を持った桜が咲く世界の話

 並行世界という言葉を御存じだろうか?

 

 

 並行世界。

 別名、パラレルワールド。

 

 ある世界から分岐し、それに平行して存在する世界(wiki抜粋)。

 物理学の世界でも量子力学の多世界解釈や宇宙論の仮説すらあるが現在の技術では観測する事ができず存在の是非を確かめる術が無い。だから絵空事、空想の類だと回答するのが一般的だろう。

 

 わかりやすく言えば、あの時こうしていれば。ああしていればなどという分岐点から枝の様に分かれて行った世界の事だ。分岐点はさらに分岐して行き常に増え続けている。無限とも等しい数ある世界ならば元となった世界とはまったく別の世界が存在してもおかしくはないだろう。

 

 ──これは、魔法にも等しい力を持った桜が咲く世界の話。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「ここは……どこだろう?」

 

 橘晃(たちばなあきら)は呆然と辺りを見渡していた。

 見知らぬ風景、見知らぬ景色。何より彼がこの場にどうやって来たかという記憶が無いのだ。彼の脳がこの場の理解に追いつきもしないのだが、この場に見える景色の異常さを除所に理解し始めてきた。

 

「さ、寒っ……なんだよ? 今、5月じゃないのか? というか何で雪景色の中で桜が咲いているわけっ!?」

 

 晃の記憶が正しければ、彼が4月に遊戯王部に入部してから数週間が立ち廃部を賭けた生徒会メンバーとの決戦を終えたのち数日、月が変わり5月の上旬ごろだろう。

 

 なのだが、ここは神社の境内だろうか?

 それは別にいいとして辺り一面が白銀の雪景色で覆われているのだ。時期的に考えれば冬であるものの、一つ大きな墨染の桜には満開ともいえる桜の花が咲き乱れているのだ。

 今の時期がいつになるのか狂わせるかのような珍妙な光景を見上げながらぽかんと口を開けていた。

 

「……あれ?」

 

 珍妙な光景に気を取られていたが、微かに人の声が聞こえた気がする。

 耳を澄ませば、それは何かの話声の様で視線をそちらへと向ければ雪景色と桜とは正反対に、この場に相応しい建物が目に移った。

 

「神社……か?」

 

 スタスタと建物へと近づき歩いて行くと中の雰囲気を窺う様に覗いて見た。

 神社の中には、確認できる限り少年と思える人物1人に少女と思える人物2人。加えて決闘盤だと思われる装置を手に決闘(デュエル)を行っていると思われる2人の少年と着物を着た少女の計5人が目に映った。

 

 もっとも決闘(デュエル)の状況は明らかに少年が劣勢。今すぐにでも決着が付きそうだ。

 

「これで、仕舞いじゃ!」

「っ……うわぁああ!!」

 

 立体映像(ソリッドビジョン)であるもののモンスターの攻撃を直に受ける事で軽く体が後方へと飛び仰向けに倒れてしまう。それを心配して駆け付けるかのように静観していた3人の少年少女が彼の前へと向って行った。

 

「ふぅ……まだまだの様じゃな」

 

 などと、余裕そうな声で決闘の勝者たる着物を着た少女は扇子をバッと開いて見せていた。

 

 外から静観していた晃だが、見た感じ年齢も近く何より彼にも同じ決闘(デュエル)という名の共通言語があるのだ。まず、ここがどこで今は何月なのか聞きに行こう。そう決心して晃は神社の戸を開いた。

 

「すみません。ちょっと尋ねたい事があるんスけど」

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「成程……俺たちと状況が似ている様だね」

 

 晃の話を聞いてふむふむと頷きながら語る少年の名前は、風見蓮(かざみれん)

彼もまた。ここ卯花神社にわけもわからず突然召喚されたのである。

 

「と言うことは、彼も私達と同じで転生者を護る役目があるってこと?」

 

 などと着物を着た少女に問うのは、身長と髪の長さを考慮しなければ風見蓮と瓜二つとも思える容姿の少女である天河沙耶(あまかわさや)だ。彼女らには、先ほど口から出た様に転生者と呼ばれる人物を保護する役目を頼まれこの世界に召喚されたのだ。

 ならば晃もまた、同じ役目を背負った新たな仲間なのかと先ほど決闘(デュエル)をしていた着物を着ていた少女、卯花之知流夜姫(うのはなのちるやひめ)に聞く。

 もっとも、彼女は望月知流(もちづきちる)と名前を変えているとも聞いた。当の知流夜姫は一度、扇子を閉じては首を左右へと振った。

 

「いや妾が召喚したわけではない。おそらく桜の力が働いたせいじゃろう」

「桜……? 桜って、あそこに咲いてる桜ってことッスか?」

 

 晃は立ちあがり、今もなお咲き誇る桜の方角を指差して問う。

 それに同意するかのように先ほど決闘で負けた少年以外を除いてた全員がコクリと頷いた。続けて一人の少女が肯定して言葉を繋いだ。

 

「そっか。じゃあ、例の“桜隠し”ってこと?」

 

 などと語る腰辺りまで伸ばした長い髪、アクセントとして左右に髪を小さく束ねた少女は紗耶の実妹である天河沙姫(あまかわさき)である。

 ちなみに天河沙姫と天河沙耶は風見蓮の義姉だ。

 

「“桜隠し”って……何ッスか?」

「“桜隠し”って……何だ?」

 

 当然、晃はその“桜隠し”について知らないため聞こうとしたのだが、ふと彼と同じく知らないと思われる人物。望月黒乃(もちづきくろの)と声が重なってしまう。

 彼の名前は先ほど自己紹介で知ったものの、彼が遊戯王……この世界でデュエルモンスターズと呼ばれる《闇霊使いダルク》のカードの精霊でありダルク=インフェリオであるとまでは知らない。

 

 卯花神社にある御神木の桜の木には様々な噂がある。

 千年以上も花を咲かせ続けている“魔法の桜”。願いを叶える“奇跡の桜”などがあり、その桜が引き起こす神隠しと同じ現象。それが“桜隠し”だ。

 もっとも、それは70年前に“奇跡”を代償に桜は“奇跡”を失ったなどという噂があるのだが。

 

 この桜について知らなかった晃。そして黒乃は知流夜姫から説明を何故か正座しながら受けていた。説明を終え、開いていた扇子を再び閉じると晃へと視線を向けて問う。

 

「ところで晃よ。おぬしは何か異世界にでも行きたいなどと言う願いを持っておったのか?」

「願いッスか……?」

 

 晃は首を捻る。

 眉唾ものであるが、もしその“桜隠し”についての話が本当であるならば晃の願いを叶えた結果としてこの場にいるのだろう。だがしかし、晃は別段その様なファンタジーな願いを望んだ覚えなど──。

 

「あっ……!?」

 

 あった。

 微妙に違うが、紛れも無く願いと一致する。

 

「ふむ。あるのか?」

「はい。オレ、遊戯王部って部活に入っているんスけど。まったく勝てなくて……それで一度、どこか遠くに行きたい。なんて、言ってしまった記憶が……」

 

 間違いなくそれだろう。

 どこか遠くへ行きたいなんて言った結果が異世界とは彼も想定外とはいえ、確かに願いとしては叶った……のだろう。

 

「と言うことは、君も遊戯王をやってるの?」

「ん、まあ一応……」

 

 蓮の質問に若干、言葉を濁しながら答えた。

 言えない。遊戯王を始めてから勝率が1割にすら満たないなんて言えない。

 

「そっか。じゃあ、戻る方法は後で考えることにして一度、決闘(デュエル)してみるってのはどうかな?」

 

 パンッと手を合わせて提案する沙姫。

 それに同乗するかのように沙耶も答えた。

 

「お姉ちゃんに賛成! で、誰がやるの?」

 

 などともはや完全に決闘(デュエル)をしなければならない流れだ。

 嘆息しながら晃は立ちあがり、腰につけていたデッキホルダーにちゃんと自分のデッキがあるか確認する。

 

「そうじゃの。なら、黒乃がやるのが良いのではないか?」

「え、俺!?」

「うむ。妾たち以外とも決闘(デュエル)するよい機会じゃ」

 

 『あっ……!?』と他のメンバーは声を揃えて賛同する。彼、望月黒乃もまた遊戯王に関しては最近始めたばかりの初心者でありここで知流夜姫、蓮、沙耶、沙姫としか対戦を行っていないのも事実だ。

 経験を積むにしても絶好の機会だと言えよう。

 

「まぁ……オレは誰でも良いッスよ」

「……わかった」

 

 などと、これで対戦メンバーが決定した。

 黒乃は先ほど付けていた決闘盤を装着し、晃もまた決闘盤を借りては自分のデッキを装着する。神社の中は、決闘を行うのに十分なスペースがあるため両者互いに距離を取ってはデッキと手札を持って構えた。

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 と、両者が宣言した瞬間、突如けたましい音量のブザーが鳴り響いた。

 気付けばライフ設定が違いますとの表記が出現し、晃の方はLP8000であり黒乃にはLP4000と設定されていた。

 それを見ては沙耶が嘆息をついた。

 

「そういえば、デュエルモンスターズを遊戯王って言っていた時点でこうなると想定するべきだったわね。けど、私たちの世界のルールをやってみるのもいいんじゃないの?」

 

 などと提案する。

 気付けば蓮が黒乃を説得しては、ライフの設定が変更され4000から8000へと変わっていた。

 

「それじゃ、気を取り直して行こうか」

「わかった」

「「決闘(デュエル)!」」

 

 再び両者が宣言する。

 今度は、何の問題もなく進み。決闘盤が先攻を選んだプレイヤーは黒乃だ。彼のスタートで決闘が始まる。

 

「俺のターンからか、ドロー。メインフェイズ、モンスターをセットしリバースカードを2枚セットしてターンエンド」

 

 黒乃の場に3枚の巨大な裏側のカードが出現する。

 晃は黒乃のデッキを知らない。そのため何の情報も得る事なく自分のターンに移ったところでどのように行動すればいいのか迷ってしまう。しかも、手札が今回に限って悪いのだ。

 

「オレのターン、ドロー。まずは《強欲で謙虚な壺》を発動!」

 

 引いたカードをさっそく使用。

 悪い手札でもこれでうまく手札を整えて行く。などと考えながらデッキトップから3枚のカードを表へと捲るのだが上から《武神─ヤマト》、《武神─ヤマト》、《武神─ヤマト》である。ギャンブルのスロットであるならば見事3つ揃ってしまった。

 

「うわぁ……」

 

 声を上げたのは蓮だ。

 もっとも、《強欲で謙虚な壺》で同じカードが連続で3枚出るなど絶対ではないにせよ。普通では見かける事などない確率だろう。

 

「じゃ、じゃあ……《武神─ヤマト》を手札に」

 

 しかし、晃が使う【武神】においては主要とも言えるカードだ来ておいて損は無い。だが、しかし彼の手札には他に《武神─ミカヅチ》、《武神─アラスダ》、《武神─ヒルメ》と“武神”が最初の1ターン目で手札に結集してしまったのである。

 

「まあ……こいつさえいれば回る! 《武神─ヤマト》を召喚!」

 

 武神─ヤマト

 ☆4 ATK/1800

 

「っ……【武神】!?」

 

 黒乃は晃の召喚したモンスターを見ては、驚く様な顔を見せまるで【武神】を知っているかのような表情を見せた。もっとも晃には、そんな事関係なく彼は普通にいつも通りのプレイを行う。

 

「バトルフェイズに入る! “ヤマト”でその伏せモンスターに攻撃!」

 

 裏側のカードが表となる。

 青い髪。魔法使いのような服装、鏡が取り付けられた杖を携えるそのモンスター。

 彼女は殴りかかる《武神─ヤマト》の攻撃を水の障壁を張って見事に防いだのだ。

 

 リチュア・エリアル

 ☆4 DEF/1800

 

「セットモンスターは《リチュア・エリアル》。リバース効果によりデッキから“リチュア”と名の付くモンスターで同じ《リチュア・エリアル》を手札に加える!」

 

 《武神─ヤマト》の攻撃力と《リチュア・エリアル》の守備力は同数値だ。

 結果、ライフの変動もモンスターの破壊も無く終わるだけだが、ここで《リチュア・エリアル》が裏から表になった事で効果を発動する。杖に取り付けられた鏡から1枚の彼女のカードが映し出された。

 リバース効果故に遅延性だが、“リチュア”をサーチする効果。初見である晃はまず、このモンスターの効果を鑑みて黒乃のデッキが【リチュア】だと推測した。

 

「成程……【リチュア】ね。始めて相手にするデッキだ」

「……は?」

「……え?」

 

 もっとも、その推測を否定したのは黒乃だ。

 何言ってんだコイツみたいな目で見られては晃も自分が言った言葉が間違いなのだとさすがにわかる。《リチュア・エリアル》ならば確かに【リチュア】で必要だと思ったカードを思う様にサーチできるだろう。だが、彼はこのデッキに“リチュア”は《リチュア・エリアル》しか入っていないのだ。

 

「違う……のか。ま、まあカードを1枚伏せてターン終了。エンドフェイズ《武神─ヤマト》の効果でデッキから《武神器─ハバキリ》を手札に加え……手札の《武神─アラスダ》を墓地に送る」

「俺のターン、ドロー。2枚目《リチュア・エリアル》を通常召喚!」

 

 『……あ』と晃はここで思った。

 《リチュア・エリアル》を入れているのに【リチュア】で無い理由。同名カードすらサーチできるこの効果で今回の様に相手の攻撃を防ぎきれば返しのターンでエクシーズ召喚ができる。いわゆる出張と呼ばれる扱いなのだろう。

 

「行くぞ。レベル4《リチュア・エリアル》2体でオーバーレイ!」

 

  我束ねしは大いなる闇、世界を擁する夜天の翼!

 

  時空を束ねし森羅の記録、〝50〟を刻みて顕現せよ!

 

    ☆4×☆4=★4

 

「力を貸せ、《No.50ブラック・コーン号》!」

 

 No.50ブラック・コーン号

 ★4 ATK/2100

 

 《リチュア・エリアル》だった二つの青い球体は円環となって孔を開けるそこからゆっくりと現れるのは巨大な船だ。帆に50と言う数字が描かれた巨大な船がまるで海に漂っているかのように空中に浮かぶ。

 

「“ブラック・コーン号”の効果だ! エクシーズ素材を取り除き、《武神─ヤマト》を墓地に送る。そして1000のダメージを受けて貰う! Black Destraction!」

 

 晃 LP8000→7000

 

 《武神─ヤマト》が突如、吸い込まれ無理矢理砲弾の中に詰め込まれてしまう。その後、何をするのかと思えば当然の如く、砲弾は晃へと照準を定めて躊躇なく発射した。

 

 《No.50ブラック・コーン号》には、このカードの攻撃力以下のモンスターを墓地に送る除去と1000ダメージのバーンを兼ね揃えた効果を持つ。この効果のおかげで破壊に耐性を持つ《ガチガチガンテツ》などのモンスターすら難なく除去できる優良カードだ。

 

「ターンエンド」

 

 これで主軸のモンスターは除去された。

 だが、それでも十分に戦える。晃の手札にはまだ“武神”のカードと《武神─ヤマト》がサーチした《武神器─ハバキリ》が残っているのだ。

 

「じゃあ、オレのターン……《武神─ミカヅチ》を召喚!」

 

 武神─ミカヅチ

 ☆4 ATK/1900

 

 《武神─ヤマト》が赤い鎧を纏ったモンスターならば《武神─ミカヅチ》は青い鎧を纏ったモンスターだ。しかし、攻撃力は下級のアタッカークラスであり《No.50ブラック・コーン号》にはわずかに及ばない。にもかかわらず攻撃表示での召喚だ。

 黒乃も知っている。彼がサーチした《武神器─ハバキリ》は“武神”がモンスターと戦闘を行う際に攻撃力を倍へと上昇させる効果を持つのだ。この効果なら《武神─ミカヅチ》でも十分に《No.50ブラック・コーン号》を倒せる。だからでこそ、彼は1枚の伏せカードを使用した。

 

 黒乃 LP8000→6000

 

「《神の警告》発動!」

 

 それはモンスターの召喚、反転召喚、特殊召喚を無効にすると言うカードだ。

 ライフ2000という重いコストを持つがここで、むざむざやられるよりかは十分マシだろう。

 

 けれど、今回は運が悪かった。

 ならばと晃はさらに追撃のモンスターを呼ぶ。

 

「だったら墓地の《武神─アラスダ》を除外。来い《武神─ヒルメ》!」

 

 武神─ヒルメ

 ☆4 ATK/2000

 

 天照大神の呼び方の一つ日霊(ひるめ)

 今まで男性らしき姿とは逆に女性のような“武神”のモンスターだ。それでも攻撃力は“武神”随一であり展開力と攻撃力ともにトップである。

 

「バトルフェイズに入る。《武神─ヒルメ》で《No.50ブラック・コーン号》に攻撃!」

 

 ああ、これだけは避けたかったのにと黒乃は嘆息する。

 今伏せてあるもう1枚のカードもここで使ったところで無意味であり、ダメージステップ。そしてダメージ計算時へと移る。

 

「ダメージ計算時、《武神器─ハバキリ》の効果を発動! 手札から捨て“ヒルメ”の攻撃力を倍にする!」

 

 武神─ヒルメ

 ATK/2000→4000

 

 空から飛来する十束剣、天羽々斬(あまのはばきり)を手に取り攻撃力が倍化する。神の一角である《オベリスクの巨神兵》と同等の力を得た《武神─ヒルメ》にとっては巨大な船など紙切れの如く切り裂いたのだ。

 

「っ……」

 

 黒乃 LP6000→4100

 

ライフが大幅に減少して行く。

《神の警告》のコストである2000が高くついてしまったと黒乃は後悔する。《武神器─ハバキリ》の効果を知っていた事が裏目に出てしまった。

 

「よしっ、これでターン終了」

 

 現状、晃が優勢だ。

 【武神】に必須と言える《武神器─ハバキリ》を1枚使わせたとしても、まだ2枚がデッキもしくは手札にある可能性がある。それに、見す見す優良カードである《No.50ブラック・コーン号》が返しのターンで破壊されてしまったのだ。

 何とかしないと、と思いながら黒乃はカードを引く。それは、彼が待ちわびたカードだ。

 

「よしっ、俺は《マジカル・コンダクター》を召喚!」

 

 マジカル・コンダクター

 ☆4 ATK/1700

 

 緑色のローブを纏った女性の魔法使いが現れる。

 攻撃力は《武神─ヒルメ》には敵わない。ならば効果か、と晃が身構えた途端、黒乃はさらにこのターンにドローした1枚の魔法カードを使用する。

 

「《グリモの魔導書》を発動、デッキから“魔導書”と名の付く《セフェルの魔導書(・・・)》を手札に加える!」

 

 名前の由来はおそらくGrimoire(グリモワール)だろう。

 フランス語で「魔術の書物」を意味し、特にヨーロッパで流布した魔術書を指す言葉でありデッキから“魔導書”と名の付くカードをサーチする効果を持つ。

 

「《セフェルの魔導書》を発動。発動時、手札の《魔導書(・・・)院ラメイソン》を公開し墓地から《グリモの魔導書》をコピーする。デッキから《魔導書(・・・)士バテル》を手札に加える」

 

 生命の樹「Sephirot(セフィロト)」が描かれた魔導書が起動する。

 Sefer(セフェル)。ヘイブラ語に於いて書物を現すこのカードの効果は言うなれば墓地の“魔導書”の模倣(コピー)だ。

 条件として自分の場に魔法使い族がいる事。手札からこのカード以外の“魔導書”を公開するという条件を持つが非常に強力な効果とも言える。

 

 マジカル・コンダクター

 MC0→2→4

 

 途端、《マジカル・コンダクター》の周囲に浮遊するように魔力カウンターが4つ出現する。彼女は魔法カードが発動する度に2つずつ魔力カウンターを貯める効果を持つのだ。

 

「フィールド魔法《魔導書院ラメイソン》を発動。これで《マジカル・コンダクター》の魔力カウンターが6つになるが、効果で4つ取り除く!」

 

マジカル・コンダクター

MC4→6→2

 

 フィールド魔法の演出なのか、神社の内部だった空間が一変し天井から青空が見えるようになった。近未来を思わせるような世界に黒乃の背後にはカードのイラストに映る巨大な塔がそびえ立っている。

またも魔法カードを使った事でさらに魔力カウンターが溜まり合計6つとなるが、ここで効果を使用するのか浮遊する6つの中から4つが弾けとんだ。

 

「取り除いた魔力カウンターは4つ。同じ数のレベルである《リチュア・エリアル》を墓地から特殊召喚だ!」

 

 《マジカル・コンダクター》の効果は2つ。

 魔法が発動する度、魔力カウンターを2つずつ溜める効果と取り除いた分と同レベルの魔法使い族モンスターを手札、墓地から特殊召喚するという効果だ。魔法使い族と魔法カードを多様するデッキに扱いやすく展開の補助になるというまさに黒乃のデッキに高相性を誇る。

 しかもレベルが4であり、今呼んだ《リチュア・エリアル》もまたレベルが4だ。

 

「行くぞ! レベル4《マジカル・コンダクター》《リチュア・エリアル》でオーバーレイ!」

 

  我束ねしは大いなる闇、世界を擁する夜天の翼!

 

  (ことわり)外れし異端の箱舟、〝101〟を刻み顕現せよ!

 

    ☆4×☆4=★4

 

  エクシーズ召喚! 浮上せよ、遺恨の騎士!

 

「力を貸せ、《No.101 S(サイレント)H(オナーズ)Ark Knight(アークナイト)》!」

 

 No.101 S・H・Ark Knight

 ★4 ATK/2100

 

 同じく2体のモンスターだった球体が描いた円環から出現する巨大な戦艦の如きモンスター。カードについては無知に等しい晃であったが《No.101 S・H・Ark Knight》の効果は知っている。かつて遊戯王部部長の新堂創(しんどうはじめ)が遊戯王部を賭けて戦った氷湊涼香(ひみなとすずか)に対し使用しフィニッシャーとなったカードなのだ。

 

「“Ark Knight”の効果発動! エクシーズ素材を2つ取り除く事で特殊召喚された《武神─ヒルメ》をこのカードのエクシーズ素材とする! Fallen Ark Vortex!」

 

 戦艦へと吸収される《武神─ヒルメ》。

 それだけでなく、このモンスターにはエクシーズ素材を取り除くことで破壊耐性を付加する効果まで存在するのだ。これを厄介と呼ばず何と呼べばいいのだろうか。

 

「バトルフェイズ! “Ark Knight”で攻撃── 」

 

 黒乃の宣言により攻撃の引き金が引かれる瞬間、晃は伏せていた1枚のカードを発動させる。

 

「だったら。《ピンポイント・ガード》を発動! 墓地のレベル4以下《武神─ヤマト》を守備表示で特殊召喚し、このターン中あらゆる破壊を受け付けない!」

 

 墓地から蘇った《武神─ヤマト》。

 このターンは《ピンポイント・ガード》による恩恵によって戦闘、効果ともに破壊される事は無く“Ark Knight”からの攻撃も防ぎきれる。

 これも駄目か。まだ“ブラックコーン号”の効果でしかダメージを与えていない黒乃はまだ晃に決定打を決めていない。これも展開力は低いものの防性である【武神】故なのだろう。彼はターンの終了宣言を行った。

 

「オレのターン、ならここいらで攻めさせてもらおう! 《武神器─サグサ》を召喚!」

 

 武神器─サグサ

 ☆4 ATK/1700

 

 兎の様な武神器のモンスターが場に現れる。

 先ほどの黒乃と似た状況だ。召喚した《武神器─サグサ》は攻撃力では“Ark Knight”に敵うはずが無い。だが、これで彼の場には2体のレベル4モンスターが出揃ったのだ。

 

「光属性レベル4《武神─ヤマト》と《武神─サグサ》でエクシーズ! 来い《輝光子パラディオス》!」

 

輝光子パラディオス

★4 ATK/2000

 

 光り輝く装甲と剣を纏ったロボットの様な騎士。

 攻撃力では、いまだ100という数値のみだが劣っている。しかし、このカードの効果ならばと晃は“パラディオス”の効果を発動させる。

 

「《輝光子パラディオス》の効果! エクシーズ素材を二つ取り除く事で《No.101 S・H・Ark Knight》の効果を無効にし攻撃力を0にする!」

「なっ──!?」

 

 効果にしても規格外だろう。

 簡単に言えば、対象となったモンスターを完全に無力化する効果だ。この効果で“パラディオス”は光の粒子を集め鎖を生成し解き放つ。これが“Ark Knight”を絡め取るのだろうと向う時、一人の魔法使いが光弾で鎖を断ち切る。

 

「《エフェクト・ヴェーラー》の効果を発動! 《輝光子パラディオス》の効果をエンドフェイズまで無効!」

「っ……!?」

 

 晃は現在の流れに乗って一気に攻めに乗じようとしたが、それは愚策だった。

 効果を無効にされた今では攻撃を行ったところで返り討ちに合い、魔法、罠でのサポートも現状できない。

 

「カードを1枚伏せ、ターン終了」

 

 なんとか《エフェクト・ヴェーラー》1枚で流れを引き戻す事ができた。

 手札も前のターンで伏線を張っていたカードを使えば一気に状況を逆転させる事ができるだろう。

 

「俺のターン、ドロー、《魔導書院ラメイソン》の効果発動! 墓地の《セフェルの魔導書》をデッキに戻し追加ドロー。そして《サイクロン》を発動だ!」

 

 晃の場にあった1枚のカードを吹き飛ばす。

 それは黒乃が1度使用したカードであった《神の警告》だ。これで彼は何の遠慮も無く展開する事ができる様になった。

 

「《魔導書士バテル》を召喚! 効果で2枚目の《グリモの魔導書(・・・)》を手札に加える」

 

 魔導書士バテル

 ☆2 ATK/500

 

 黒乃の場に現れたのは青い法衣を纏った少年。

 召喚・リバースした際に《グリモの魔導書》と同じく“魔導書”をサーチする効果を持つ。

 

「《グリモの魔導書》を発動! 今度は《ネクロの魔導書》を手札に加え、墓地の《リチュア・エリアル》を除外、《ヒュグロの魔導書》を公開する事で発動! 墓地の《エフェクト・ヴェーラー》を攻撃表示で特殊召喚させ装備!」

 

 エフェクト・ヴェーラー

 ☆1→5 ATK/0

 

 名前の由来はNecronomicon(ネクロノミコン)

 クトゥルフ神話に登場する魔導書で、ギリシャ語で「死者の掟の書」といった意味を持つ。

 効果は平たく言えば魔導書版の《早すぎた埋葬》であるが発動するのに、墓地から魔法使い族モンスター1体の除外と《セフェルの魔導書》同様に手札の“魔導書”の公開。また除外したモンスターのレベル分、蘇生したモンスターのレベルの上昇という効果も持つ。

 特に、今回のようにチューナーを蘇生した場合には有用な効果だ。

 

「水属性レベル2《魔導書士バテル》にレベル5となった《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!」

 

 我束ねしは大いなる闇、世界を擁する夜天の翼!

 

 氷の世界に眠れる龍よ、氷槍を抱き全てを貫け!

 

☆2+☆5=☆7

 

シンクロ召喚! 制圧せよ、第二の氷槍!

 

「力を貸せ、《氷結界の龍グングニール》!」 

 

 氷結界の龍グングニール

 ☆7 ATK/2500

 

赤い瞳に凍えるかのような冷たい青を纏い突き刺す様な鋭利な身体。

北欧神話に登場する大神・オーディンが所持していたとされる伝説上の槍の名を持った龍が出現した。

 

「“グングニール”の効果! 手札から《リロード》を捨て《輝光子パラディオス》を破壊! Critical Crystal!」

 

 赤い瞳が怪しく輝く。

 龍が咆哮を上げた途端、周囲の水分が凝縮され冷気によって凍結する。伝説の槍の名を持った龍の目前に鋭い氷の槍が生成されて行き輝きを持つ騎士を貫いた。

 手札をコストに相手の場のカードを破壊する効果。本当は手札2枚までコストにすることができるが今、彼の場にはカードが1枚しかない。

 

「ぐっ……けれど《輝光子パラディオス》が破壊されたことで1枚ドロー!」

 

 カードをドローする晃。

 しかし、今の彼の場にはモンスターもなければ伏せカードもない完全な丸裸だ。

 対する黒乃の場には2体のエクシーズとシンクロモンスター。たった1ターンにて状況を180度ひっくり返されてしまったのだ。

 

「バトルフェイズ! 《No.101 S・H・Ark Knight》で直接攻撃(ダイレクトアタック)! Fallen Ark Vortex!」

 

 晃 LP7000→4900

 

 戦艦を思わせるモンスターの中心から極太のレーザーが解き放たれる。

 まず生身で受ければ肉片一つ残らないであろう威力だろうが、これは立体映像。晃の身体は無傷だったもののライフは削られていた。

 

「続けて《氷結界の龍グングニール》で攻撃! Flozen Lost!」

 

 晃 LP4900→2400

 

 今度は氷の龍の攻撃。

 先ほどと同じく水分を集めては凝縮し凍結させるのだが、今度は先ほどの大きさは無くバスケットボール程度の大きさの鋭利な氷の弾が複数生成される。弾幕の如く放射される氷の弾の嵐を受けまたも晃のライフが減少する。

 残り2400と後一撃、“グングニール”の攻撃すら受け止めきれない。

 

「まず……」

「ターンエンドだ」

「っ……」

 

 相手の場には1度のみだが破壊耐性を持った《No.101 S・H・Ark Knight》。

 手札を破壊効果のカードへと変化させる《氷結界の龍グングニール》。

 

 そのどちらかを引きによっては対処する事はできるだろう。

 だが、この状況において対処する程度で精一杯だ。ここから逆転して勝つなんて事は、同じ遊戯王部メンバーである創や涼香であれば超絶的な引きによって覆す芸当をやってのけるだろう。

 しかし、晃はどうだろうか?

 彼は天才と呼ばれるような人物たちにどうやっても届かない。それどころか、今までまともな勝利を経験していないにも関わらずここで逆転など普通に考えてみればありえないだろう。

 

 普通に考えて絶対絶命。

 だと言うのに晃の口元は吊り上がり笑みを浮かべていた。

 

 自分と同じ。初心者でありながらも、自分よりも真っすぐな目をした少年。望月黒乃と対峙していたためなのだろうか。

 

 『そういえば忘れていたなぁ』なんて思いながら。

 最近、まったくと言っていいほど勝てない自分が情けなく感じていたり、負けてはならないと自覚している生徒会戦でも敗北したりとしていたせいだろう。最近では少々、結果に拘り過ぎていた気がする。

だからだ。晃が始めて決闘(デュエル)をしては諦めてかけていた時に同じ部員からかけられた言葉を思い出す。

 

「そうだな……立ち向かった方がカッコイイもんな。オレのターン……よしっ、手札から《武神降臨》を発動!」

 

 《武神降臨》。

 それは相手の場にのみモンスターが存在している時、墓地と除外の場からそれぞれお“武神”と名の付くモンスターを1体づつ特殊召喚できるカードだ。この場で引けたことに感謝しながらも晃は特殊召喚するカードを選ぶ。

 

「墓地から《武神─ヤマト》、除外から《武神─アラスダ》を選択! どっちも守備表示で特殊召喚する!」

 

 晃の場に2体の“武神”が出現する。

 どちらも数値では黒乃のモンスターには敵わない。

 だが、晃のエクストラデッキには手札のカードと噛み合わせる事でこの決闘を終わらせるカードが眠っている。

 

「よし、“武神“レベル4《武神─ヤマト》《武神─アラスダ》でエクシーズだ! 現れろ《武神帝─スサノヲ》!」

 

 武神帝─スサノヲ

 ★4 ATK/2400

 

 《武神─ヤマト》にあらゆる武神器を装備したモンスター《武神帝─スサノヲ》が現れる。このカードこそが晃の【武神】においてのエースモンスターなのだ。

 

「バトルフェイズ! 《武神帝─スサノヲ》で《氷結界の龍グングニール》を攻撃!」

 

 《武神帝─スサノヲ》では殴り勝つ事ができないから晃はさらに1枚のカードを手札から発動した。

 

ダメージステップ時に入った時(・・・・・・・・・・・・・・)《オネスト》を発動! 《氷結界の龍グングニール》の攻撃力分を《武神帝─スサノヲ》に加える!」

 

 武神帝─スサノヲ

 ATK/2400→4900

 

 《オネスト》は光属性モンスターがモンスターと戦闘を行うダメージステップ時に相手モンスターの攻撃力分を加算させるという文字通り必殺の効果だ。

 これで《武神帝─スサノヲ》は攻撃力が2500上昇した4900であるが、この効果はエンドフェイズまで続く。そして《武神帝─スサノヲ》は相手モンスター全てに攻撃できるモンスターである故に攻撃力4900のまま《No.101 S・H・Ark Knight》に攻撃できるのだ。

 この戦闘で与えるダメージは黒乃の残りライフを削りきれる。

 

 はず──だった。

 

「チェーンだ。《禁じられた聖槍》を発動、対象はもちろん《武神帝─スサノヲ》だ!」

 

 武神帝─スサノヲ

 ATK/4900→4100

 

 対象となったモンスターの攻撃力を800下げ魔法、罠の効果を受けなくさせる速攻魔法だ。このカードで自分のモンスターを守ったり、現在の様に相手モンスターの攻撃力を下げたりと使用法は様々だ。

 

「っ……けど、攻撃は止まらない!」

 

 黒乃 LP4100→2500

 

 晃が宣言した様に攻撃は止まらずに、光の翼を纏った“スサノヲ”は剣を構え一閃の一太刀を放つことで伝説の槍の名を持つ龍を両断したのだ。ダメージにしても決して低くは無い。

 

「《武神帝─スサノヲ》は相手モンスターにそれぞれ攻撃できる! 今度は《No.101 S・H・Ark Knight》に攻撃だ!」

「くっ……だが《No.101 S・H・Ark Knight》の効果! エクシーズ素材を取り除いて破壊は免れる」

 

 黒乃 LP2500→500

 

 さらに戦艦への攻撃で大ダメージを受ける始末。

 モンスター効果のおかげで戦艦はなんとか生きながらえる事ができたものの、彼のライフは残り3桁と風前の灯だ。それでもなんとか生き残れた。

 

 ──《禁じられた聖槍》が無ければ勝てたのに。

 ──《禁じられた聖槍》のおかげで生き残れた。

 

 などと思考が飛び交う中。水を差すかの様に蓮が晃に尋ねた。

 

「えっと、晃……なんでダメージ計算時に《オネスト》を発動しなかったの?」

「……はい?」

 

 晃は知らない。

 確かに《オネスト》はダメージステップ時にと書いてはあるものの《武神器─ハバキリ》と同様にダメージ計算時に発動できる事を。

 

 

 ダメージ計算時と言うのは、基本的に『ダメージ計算時』と明確に記されているカードのみが発動できるタイミングでありフリーチェーンである《収縮》や《突進》まして《禁じられた聖槍》ですら発動が許されないタイミングなのだ。

 

 つまり。

 晃があの場面、ダメージ増減カードが飛び交うダメージステップの『ダメージ計算前』に《オネスト》を発動せず『ダメージ計算時』に発動していれば黒乃は攻撃力を下げる《禁じられた聖槍》を発動する事は敵わず、攻撃力4900の《武神帝─スサノヲ》の攻撃が決まる。次の2撃目で《禁じられた聖槍》を放ったとしてもわずかに残りライフが足らずに黒乃のライフは0になっていただろう。

 

「…………」

 

 この場で、誰一人として声を出す事がなく静まり返っていた。

 特に晃から発せられるやってしまった感が半端ない。

 

「え、っと……」

 

 静寂を破ったのは晃だ。

 彼は冷や汗を掻きながら、かき消えそうな声で語った。

 

「それは……作戦、なんだ……」

 

 明らかに隠し切れていない言い訳だった。

 それを察してあげたのか、蓮たちは何も言わず、対戦相手の黒乃も晃に対して何も語らない。むしろ、この空気をどうにかしてくれと言わんばかりに晃に決闘を続行するように促した。

 

「続けてくれ」

「あ、ああ……了解。って、忘れてた……《武神帝─スサノヲ》の効果発動! エクシーズ素材を一つ取り除いてデッキから《武神器─ハバキリ》を手札に加える」

 

 勝負に焦っていたのか、晃は《武神帝─スサノヲ》の効果を使いわすれていた。

 これも、使っており《武神器─ハバキリ》をバトルフェイズ前に加えていれば勝利という結果が訪れていたのだが、いまだ初心者の域を越えることができない晃は気付いていない。

 

 このような冷めた空気になってしまったが、現状晃が優勢になったのだ。

 黒乃の残りライフはたった500であり場にカードが1枚も無い。それどころか晃の場には《武神帝─スサノヲ》と手札にはサーチした《武神器─ハバキリ》があるのだ。

 

 だから──今度は、黒乃が逆転する番なのだ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードは《召喚僧サモンプリースト》。

 手札にある《ヒュグロの魔導書》を切ってランク4につなぐ事はできるのだが、現状彼のエクストラデッキでレベル4、2体で《武神帝─スサノヲ》を倒せるカードは無い。

 ならば、と黒乃は次の可能性に賭けて見る。

 

「《魔導書院ラメイソン》の効果で墓地の《グリモの魔導書》をデッキに戻しさらにもう1枚ドロー!」

 

 追加ドローしたカードは《死者蘇生》。

 黒乃はこれを見て、何をすべきか決まったのだ。

 

「《召喚僧サモンプリースト》を召喚。このカードは召喚したら守備表示になる!」

 

 召喚僧サモンプリースト

 ☆4 ATK/800→DEF/1600

 

「《召喚僧サモンプリースト》の効果発動! 手札の《ヒュグロの魔導書》を捨て、デッキから3枚目の《リチュア・エリアル》を特殊召喚! さらに《死者蘇生》を発動!」

 

 展開を次々と行う黒乃。

 彼が《死者蘇生》で呼ぶのはレベル4魔法使い族であるならば何でもいい。

 

「《マジカル・コンダクター》を特殊召喚!」

 

 これで呼ぶ準備は揃った。

 自分の境遇を知りながらも自分の味方でいてくれた彼女のエクシーズ召喚を──。

 

「魔法使い族、ランク4《召喚僧サモンプリースト》《リチュア・エリアル》《マジカル・コンダクター》の3体でオーバーレイ!」

 

  我束ねしは大いなる闇、世界を擁する夜天の翼!

 

  機械と魔術の交差点、世界の真理をこの地に描け!

 

    ☆4×☆4×☆4=★4

 

  エクシーズ召喚! 人知を超え、神域へと到れ!

 

「始めようか、《アルケミック・マジシャン》!」

 

 アルケミック・マジシャン

 ★4 ATK/1500→2700

 

 黒乃のデッキ。

 そのエースモンスターとも言えるのは彼にとって思い入れのあるエクシーズモンスターとも言える。

 

 《アルケミック・マジシャン》の効果は二つ。

 そのうちの一つ、自分の墓地の魔法カードの数×200ポイントの攻撃力上昇効果だ。個の効果により墓地には《サイクロン》、《ネクロの魔導書》、《リロード》、《禁じられた聖槍》、《ヒュグロの魔導書》、《死者蘇生》の合計6枚で1200アップだ。

 これで《武神帝─スサノヲ》の攻撃力は越えた。ただし、それでも手札に《武神器─ハバキリ》がいるため勝つことはできない。

 ならば、と黒乃はエンドフェイズを告げる。

 

「ターンエンドだが、エンドフェイズに《アルケミック・マジシャン》のもう一つの効果が発動する。エクシーズ素材を一つ取り除き、手札の《トーラの魔導書》を捨てデッキから魔法カード1枚をセットする」

 

 アルケミック・マジシャン

ATK/2700→2900

 

 《アルケミック・マジシャン》が試験官に入った薬品をバラまくとそこから練成されるように1枚のカードが構成される。これが第二の効果だ。エンドフェイズにエクシーズ素材1つと手札1枚をコストとし魔法カード1枚をセットする効果。

 

「ならオレのターンか。ドロー……《武神帝─スサノヲ》の効果を発動! エクシーズ素材を取り除きデッキから《武神器─ヘツカ》を墓地へ」

 

 《武神器─ヘツカ》は墓地から発動する“武神器”だ。

 場の武神1体が対象となった時、その効果を無効にする効果。

 

 加えて同じく墓地に1度のみ破壊耐性を付与する《武神器─サグサ》と攻撃力を倍化させる《武神器─ハバキリ》。さらに攻撃を無効にする《武神器─ヤタ》まで手札にあるのだ。

 体勢は盤石。これで晃は最後に攻撃をすれば勝てると信じ──。

 

「バトルフェイズ! 《武神帝─スサノヲ》で《アルケミック・マジシャン》を攻撃!」

 

 攻撃宣言を行う晃。

 これで手札から《武神器─ハバキリ》を使用し試合終了(ゲームセット)

 

 なのだが、黒乃はこの瞬間、口元を釣り上げた。

 

「読んでた! 《ゲーテの魔導書》を発動! 墓地の魔導書“ネクロ”、“ヒュグロ”、“トーラ”を除外し《武神帝─スサノヲ》を除外する!」

「除外!? くっ……だったら《武神器─ヘツカ》で無効に──」

「いや、《ゲーテの魔導書》は対象に取る効果じゃない。《武神器─ヘツカ》で無効にはできない!」

 

 アルケミック・マジシャン

ATK/2900→2300→2500

 

 黒乃が《アルケミック・マジシャン》の効果で《ゲーテの魔導書》を伏せたのはただ単純に攻撃を防ぐためじゃない。対象を取らない効果だったからだ。

 

 黒乃は《武神─ヤマト》、《武神器─ハバキリ》、《武神器─ヘツカ》の効果は知っていた。

 《武神器─サグサ》などについてはまだ知らないにしても、このまま確実に決めに入るのであれば耐性を付加する《武神器─ヘツカ》を落とす確率が高い。ならその穴である対象を取らない効果である《ゲーテの魔導書》こそがベストだと判断したのだ。

 

「成程……悪くないわね」

 

 などと沙耶が黒乃の経験を活かした成長ぶりを見ては呟く。

 もっとも一番なのはスタンバイフェイズに使った方が良かったが、それでも初心者からして見れば十分な理解だろう。

 

《次元幽閉》のカードの如く《武神帝─スサノヲ》は次元の狭間へと吸い寄せられる。

 

「…………」

 

 晃は、一度天井を見上げては目を閉じた。

 手札に残るカードは全て“武神”をサポートする“武神器”のカードだ。だが肝心の“武神”がいない今では、それは単なるモンスターでしかない。最後の悪あがきとしてメインフェイズ2に移る。

 

「メイン2。モンスターを伏せて……ターン終了」

「俺のターン、ドロー」

 

 黒乃のターンに移るが、晃の表情を見ればなんとなくだがこの決闘は終わりを迎えているのが理解できた。彼が伏せたモンスターは壁であるがおそらく足止めにすらならないのだろう。

 

「バトルフェイズ! 《No.101 S・H・Ark Knight》でセットモンスターを攻撃! Flood Phantasm!」

 

 武神器─ムラクモ

 ☆4 DEF/900

 

 伏せていたのは墓地で効果を発揮する“武神器”のカードだ。

 守備力で劣り、場で発動するカードでない《武神器─ムラクモ》は壁という役目を終えて墓地へと送られる。

 

「これで最後だ! 《アルケミック・マジシャン》の攻撃! Material Burst!」

 

 薬品の入った試験官を晃へと向けて投げる。

 勝敗を決する最後の一撃だ。

 

 これを晃はただ黙って見つめていた。

 全力を尽くしたのだ。悔いはない。むしろ礼を言いたいぐらいだ。晃は過去に忘れかけていた大切な事を彼のおかげで思い出したのだから。

 

 ──ありがとう、と口に出さずとも晃は彼に対して礼を言った。

 

 晃 LP2400→0

 

 彼の足元へと着弾した瞬間、爆散し晃を包むほどの爆風が巻き上がった。

 ちなみに、墓地の魔法カードの数によって攻撃力が変動する《アルケミック・マジシャン》だが、最終的な数値は歴代遊戯王主人公たちのエースモンスターと同じ2500だ。それがどうと言うわけでもないのだが。

 

 『よしっ』と勝利を噛みしめた黒乃であったが、突如カツンッと大きな音が鳴り響いた。

 気が付けば晃がいた場所には、デッキが入っていない決闘盤(デュエルディスク)だけが落ちていて晃の姿は……どこにもなかった。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「……あれ?」

 

 ふと晃は何事もなかったかのように目を覚ます。

 見慣れた天井。見慣れた景色は他ならない自分の部屋だ。

 

「何だか……変な夢を見ていた気がするんだけど……」

 

 頭を押さえて夢の内容を思い出そうとする。

 だが、記憶の奥底。そこには手が届かずまるで靄がかかったように見る事ができないのだ。ただ、それでもおぼろげながら覚えている事が一つ。

 

「なんか……そこで忘れかけてた大切な事を思い出した様な。ああ、なんかもやもやするなぁ! もう一度、寝直すか!」

 

 なんて言いながら布団を頭から被る。

 晃の傍らに置いてあるデジタル表示の時計には、月曜日の7時過ぎを指しており、今二度寝をしてしまったら遅刻してしまう事などいざ知らずに晃は気分転換に寝ようとする。

 もう、遅刻確定だ。

 

 そんな晃の勉強机の上には丁重に自分の【武神】のデッキが置かれている。

 そのデッキの上。何故かはわからないが、もうすでに散って見かけなくなったであろう桜の花びらが彼のデッキの上に乗っていた。

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「〝胡蝶の夢〟かぁ……。」

 

 装備者を失い地面に落ちたデュエルディスクを見て、紗姫がそう呟いた。

 〝枯れない桜〟の咲き続ける〝卯花神社〟には、こういった人々が夢の中で訪れる。大抵それはこの世界の人間ではなく、そして大小問わず何かしらの悩みを抱えた人々で。今回訪れた〝橘晃〟もまた、同様に悩みを抱えていたのだろう。

 今回の〝夢〟で彼が悩みを解決できたのか、ここにいる彼らにはわからない。そして、夢であるが故に、残念ながら彼がここでの出来事を覚えていることはないだろう。

 

 ―――だが、きっと。

 

「もしかしたら、また彼に会える日が来るかもしれないね。」

 

 そんな蓮の言葉に、ここにいる皆が頷いた。

 

 

 〝桜〟咲き誇り、ずっと夢は続く。今日もまた、楽しい日になりそうだ。

 

 

  EXVS-JP001《心の影、桜に照らされて。》

 




 どうもFlagです。

 月詠クレスさんの『闇霊術士の決闘記録』とのコラボでした。
 私個人としては、読みやすい文章。決闘シーンでは現実の遊戯王を思わせるかのような読みあい。たまに見かける意外性などを気に入ってます。
 また原作関係無しのオリジナルストーリーでLP4000とLP8000の使い分け、精霊が普通の人の様な名前を持って振舞っていたりと多く見かける遊戯王小説の中でも一味違う印象を受ける作品です。
 
 興味を持った方は、是非とも読んでもらうことをオススメします。
 きっと気に入るはずです。
 
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