今回も短いです・・・
檜山「俺は間違ってない・・・何でこんな目に・・・!!」
「随分良い部屋に住んでるじゃん。異世界最初の殺人クラスメートさん?」
檜山「ッ!? だ、誰だ!」
「こんばんわぁ!」
檜山「お、お前、なんでここに・・・」
「そんなことはどうでもいいよ。それより・・・人殺しさん?今どんな気持ち?想い人から憎しみの目を向けられてどんな気持ち?」
城の牢屋に幽閉された檜山の目の前に立っていたのは見知ったクラスメートの一人だった。その人物はクスクスと笑いながら、まるで喜劇でも見たように楽しそうな表情を浮かべる。その態度に檜山は不気味な印象を持ち、声を震わせながら質問する。
檜山「それが・・・お前の本性なのか?」
「本性?そんな大層なものじゃないよ。誰だって猫の一匹や二匹被っているのが普通だよ。そんなことよりさ・・・君、このまま負け犬のまま終わる気なのかな?」
檜山「ッ!?そ、そんなこと・・・俺は・・・!」
「ないって?君はもう誰からも確実に信用されないよ。ずっとこの狭い牢屋の中で一生を過ごす事になると思うよ?・・・自分でもよく分かってるでしょ?」
檜山は追い詰められる。まるで弱ったネズミを更に嬲るかのような言葉。まさか、こんな奴だったとは誰も想像できないだろう。二重人格と言われた方がまだ信じられる。目の前で嗜虐的な表情で自分を見下す人物に、全身が悪寒を感じ震える。
檜山「何が望みだ!!」
「うん?やだなぁそんな言い方。まるで僕が脅迫しているみたいじゃない?ふふ、別に直ぐにどうこうしろってわけじゃないよ。まぁ、取り敢えず・・・今は僕の手足となって従うって約束だけしてくれればいいよ・・・幸い教会の連中は自分達の保身の為に君を中途半端に幽閉するだけで止めてるだけだしね。時期が来たら・・・僕が君をここから出してあげるよ。」
檜山「そ、そんな事本当に・・・!?」
「白崎香織、欲しいでしょ?」
檜山「ッ!?」
一縷の希望を与えられ、驚愕に目を見開いてその人物を凝視する檜山。そんな檜山の様子をニヤニヤと見下ろし、その人物は誘惑の言葉を続ける。
「僕に従うなら、いずれ彼女が手に入るよ。本当はこの手の話は南雲にしようと思っていたのだけど・・・君が殺しちゃうから。まぁ、彼より君の方が適任だとは思うし結果オーライかな?まぁ、白崎香織は光輝君たちと一緒に南雲君を探しに出て行っちゃったみたいだけど・・・。」
檜山「なんだよそれ!?それじゃあもう・・・!」
「戻ってくるよ・・・あの娘の性格・・・君が良く知ってるでしょ?」
檜山「・・・そういうお前は何が目的なんだ。お前は何がしたいんだ!」
「ふふ、君には関係のないことだよ。まぁ、欲しいモノがあるとだけ言っておくよ。・・・それで?お返事は?」
あくまで小バカにした態度を崩さないその人物に苛立ちを覚えるものの、それ以上にあまりの変貌ぶりに恐怖を強く感じた檜山。どちらにしろ自分に選択肢などないと諦めの表情で頷いた。
檜山「・・・分かった・・・従うよ。」
「アハハハハハ、それはよかった!僕もクラスメートを告発するのは心苦しかったからね!まぁ、仲良くやろうよ、人殺しさん?アハハハハハ!!!」
牢屋内でコダマする邪悪に満ちた笑い声。光輝達が知らない間に、目に見えない悪意が少しずつ動き始めていた。その頃、光輝達はハジメ捜索の為にオルクス大迷宮攻略に挑戦していた。一か月前よりも桁違いに強くなっていた光輝達は何の苦戦もする事無く、しかし油断する事も無く順調に大迷宮の階層をマッピングし、ハジメを隈なく探し回っていた。そして・・・65階層へと辿り着く。
ベヒモス「グルルル・・・!!」
光輝「ま・・・居るよね・・・当然。」
龍太郎「よし、俺が・・・。」
香織「待って・・・私が行くよ。この先の戦い、周囲に守られてばかりじゃなく・・・自分だけでも戦える経験が欲しいから・・・。」
光輝「分かった・・・任せよう。トラウムソルジャーは俺が減らす。龍太郎、退路の確保を・・・雫は万が一に備えて香織の加勢に行ける様に準備して。」
雫「了解。」
再び現れるベヒモス、そして周囲に召喚されたトラウムソルジャーに少しも慌てない4人。迷宮の魔物の発生原因は現在解明されておらず、一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にあると言う事は既に周知していた。香織は単身ベヒモスの前に近づき、その間に光輝達は退路の確保、万が一香織がピンチに陥っても直ぐに加勢出来る体勢を作る。魔法陣から出現するトラウムソルジャーに関しては光輝の剣の一振りで数秒足らずで壊滅に追い込み、ベヒモス単体だけの状況を作り出す。
香織「・・・。」
雫「香織、分かってるわね。」
香織「うん、雫ちゃんの”思考共有”のおかげでこいつの弱点は把握出来てるよ!」
新たに獲得した天職”軍師”によって得た能力、思考共有。それは、自分が得た知識・作戦などを相手の頭へ瞬時に送りだしコミュニケーションを取らずとも無言で自分の考えを相手に伝えられる能力である。この能力でベヒモスの最適な攻略方法を香織に送り込んだ雫。
ベヒモス「ガァアアアアアアアアアアアア!!!」
光輝「・・・。」
龍太郎「うるせぇよ・・・。」
雫「・・・。」
香織「もう誰も奪わせない。あなたを踏み越えて、私達はこの先へ行く!!!」
ベヒモスの咆哮を受けて平然とする4人。香織はベヒモスが突進してくる前にベヒモスを攻略する準備を始める。ベヒモスの攻略法、それは絶大な防御力を誇る一方である一点だけが脆いと言う弱点である。その弱点は、頭部から生えている2本の角の中央部分に当たる薄らと残る傷跡である。この箇所だけが他と比べ異常に脆く、しかも頭部に当たる部分であるため、上手く攻撃を加えれば頑強なベヒモスであれ大ダメージは免れない。しかし、その箇所は直径50cmと言う、まさしく針の穴を通すが如く精密な攻撃が要求される。香織は光輝から改造された武器”アイシクルスプラッシュメイス”の固有能力を行使、右手の人差し指と中指から小さくも鋭く堅い氷の針を形成し、指鉄砲の構えでベヒモスの頭部へ狙いを定める。
香織「・・・狙いは一点。」
ベヒモス「ガァアアアアアアアアアアアア!!!」
香織「冷血なる氷よ・・・その鋭さを持ってただ真っ直ぐに撃ち貫け・・・。・・・氷針穴(ひょうしんけつ)!!!」
ベヒモス「ガウ!??」
構わず突進するベヒモスの頭部目掛けて正確に氷の針を打ち放つ香織。プシュっと頭の中から何かが聞こえた瞬間、突進を急遽やめたベヒモスは蹲り頭を抱えながら激痛にのた打ち回る。その状況を冷静に観察した香織はベヒモスの元へゆっくりと近づきながらメイスをブンブン振り回し、次の追撃の準備を始める。
香織「無慈悲の乱撃を持って鉄槌を下す・・・修羅!!!」
メイスを光輝かせる修羅を発動させる香織は目を赤く発光させる。修羅・・・新たにクラスアップした事によって身に付いた棒術のスキルの一つ・・・数十発以上の乱打を一度の攻撃で多段ヒットさせるパワーアップ技であり、限界突破・剛力などと同系統の技に値する。ベヒモスの顔に近づいた香織は赤い目をギラつかせながら、メイスを振りかざしベヒモスの横っ顔を思い切り叩き始める。ベヒモスは香織の顔をみた時点で既に戦意を喪失させ、ただ一方的に殴られるのであった。
香織「ウアッ!!!」
ベヒモス「ガァ!!!」
香織「ゼァアア!!」
ベヒモス「アブゥ!!」
香織「ラァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ベヒモス「ブ!!ゴ!!アゴォ!!アグゥ!!」
違う個体ではあるものの、ハジメを奈落に落とした敵を討つかのように一振り一振り重い怒りの一撃を何度も何度もベヒモスの顔へ左右に殴り続ける香織。スピードは徐々に増し、中国拳法家顔負けのスピードで重いメイスを自在に操り、200発以上の打撃によってベヒモスの顔を歪に変形させる。止めの一撃を脳天に振り降ろし、全く動かなくなったベヒモスを完全に絶命させる香織。戦いは香織のワンサイドゲームであっさりと終わり、香織はベヒモスから魔石を回収する。
香織「フゥ・・・フゥ・・・フゥ~・・・。(ごめんね南雲君・・・もっと私にこの力が早く備わっていれば・・・君を奈落に落とさずに済んだのに・・・自分の力の無さが恨めしいよ・・・。)」
龍太郎「俺達の出る幕は無かったな。」
雫「やったわね、香織。」
香織「うん、雫ちゃんが攻略法を教えてくれたおかげだよ!」
光輝「・・・。」
香織「あ、光輝君・・・光輝君も・・・。」
光輝「浮かれるな。」
香織「!」
光輝「ここはまだ65階層だ。100階層までまだまだ道は続く。俺達は強くなり、多少の敵程度なら単身でも苦も無く倒せるだろうが・・・その中で一番危険なのは油断だ。・・・ましてハジメの手がかりも掴めてない・・・良いか、一瞬たりとも油断するな。」
香織「う・・・うん!」
龍太郎「お・・・おう!分かってるぜ!」
雫「(そうだった・・・これからの一戦一戦が命がけなんだ・・・負ければ全てを失う・・・強くなった事でどこかでまだ気持ちが浮ついていた・・・油断なんてとんでもない!!・・・ごめん、光輝。)」
光輝「でも・・・さっきの戦いはお見事だったよ。」
香織「!」
光輝「最小限の力で敵を上手くねじ伏せる・・・理想的な戦いだった。俺も、見習わないとな。」
香織「い・・・いやぁ・・・。」
光輝「それも、雫が事前に敵の戦力を入念に研究した努力の賜物だな。」
雫「な・・・何よ急に・・・///」
光輝「さ、油断せず行こう。」
雫「(フフ・・・アメと鞭を上手く使ってくるから隙が全く無いわね・・・。)」
厳しい指摘をすると思いきや今度は褒めちぎる光輝。彼から隙の無い喝と激励を受けた3人は士気を更に高める。そして・・・いよいよここからが本題であった。
光輝「龍太郎・・・出番だ。」
龍太郎「おうよ。」
龍太郎が習得した新たな能力”気功”を使い、両足に目に見えないエネルギーを溜めこむとそのまま空中を浮遊し始める。3人が龍太郎の身体にしっかりと捕まり、ハジメが落ちた奈落の底へゆっくりと下降する。どこまで続くんだと光輝はボソリと喋る中、ようやく下へと到着する。陣形を保ちつつしばらく歩く中、地面に無造作に散らかった魔物の骨を見つける。
光輝「?」
龍太郎「どうした?光輝・・・。」
光輝「皆、周囲を警戒しててくれ・・・敵が潜んでるかもしれない・・・ちょっとこの辺りを調査したい。」
雫「?・・・分かったわ。」
光輝の言う通り、周囲を警戒し魔物が潜んでいないか確認する3人。光輝は魔物の骨を頼りに周囲を調査した結果有力な手がかりを見つける。
龍太郎「ここいらの魔物は片付けたぜ。」
香織「何か分かったの?」
光輝「見ろ・・・火を炊いた後がだ。」
「!?」
光輝「それにこの骨についた肉片・・・火で焼いて食べた形跡がある。ここにも・・・魔物の皮を上手く剥ぎ取った形跡もある・・・誰かがここで暖を取って、飢餓に耐えかねて魔物の肉を食ったかもしれない。」
香織「もしかして・・・南雲君!?」
光輝「・・・可能性は充分に有り得る。」
香織「じゃあ、早く先を・・・!」
光輝「浮かれるなって言ってるだろ。」
香織「あ・・・。」
光輝「気持ちは分かるけど・・・落ち着くんだ。ましてこの先は誰も行ったことのない未知数の世界だ・・・情報も何もない、何が起きるか分からない。・・・今日はここで野宿を取ろう・・・交代で休むんだ。」
雫「えぇ・・・そうしましょう。」
香織「でも・・南雲君が今もたった一人で頑張ってるなら・・・。」
龍太郎「その為に、俺達がここで欠けないようにしないとだろ。ここまで来たんだぜ・・・少しのミスでパーにしたくねぇだろ。」
雫「今は休めるときに休みましょう・・・ね?」
香織「うん・・・そうする。」
ハジメを一刻も早く助けたい気持ちが先攻して若干焦る香織を三人が冷静に諭し、野宿の準備を進める。簡単な食事を済ませた後、三人が寝静まる間、光輝は見張りをしながらも疲弊した全員の装備を管理し、入念に手入れをする。しばらく経ち、雫が起きて見張りの交代を告げ始める。
雫「光輝、交代よ・・・。」
光輝「分かった・・・あと3分待ってくれ。雫の刀の手入れがもう直ぐ終わる。」
雫「えぇ・・・。」
光輝「・・・。どの辺だろうな・・・ここは・・・。さっき降りた時間を考えると・・・もう一階層目をとっくに越したように俺には思えてならない。もしかしたらだけど・・・ここは地下じゃないか?」
武具の手入れが終わるまでの間、光輝は雫と世間話を始めながらハジメの消息と今ここにいる場所について仮説立てながら話し合う。
雫「えぇ、私も下に降りた時そんな印象があるわ。オルクス大迷宮は全百階層からなるって聞いてるけど・・・地下の事までは特に説明を受けてなかった。」
光輝「ここがもし地下だとして・・・あくまで仮定だけど、この地下も同様に百層で成り立っているのだとしたら、攻略は相当困難だと考えた方が良いな。・・・もし百層まで行ってもハジメの行方が分からず地上へ一気に戻る道も無ければ・・・地下百層からまた地上へ戻るのはかなりしんどくなる。」
雫「南雲君・・・。」
光輝「気になったのは・・・あいつがもし生きていて、魔物の肉を本当に食ったとするなら・・・あいつは・・・本当に今も生きているのかという疑問だ。」
雫「南雲君は私達以上にここの世界の事について勉強していたわ。魔物の肉を食べれば死ぬという事ぐらい充分知っているはず・・・それに耐えかねて食べてなお生きているとすれば・・・。」
光輝「或いは・・・ハジメは・・・。」
雫「止めましょう・・・その先を言うのは・・・。まだ確証も無いのだから・・・。」
光輝「・・・そうだな。・・・この先を歩いていけば、また手がかりも見つかるかもしれない。・・・待たせたな、刀の手入れが終わった。」
雫「うん、ありがとう。」
光輝「じゃあ、少し寝るよ・・・おやすみ。」
雫「おやすみなさい・・・。」
オルクス大迷宮の新たな事実・・・そしてハジメが生きている可能性、もしくは既に死んでしまった可能性・・・二つの可能性の真実と一つの事実に辿り着いた光輝達。彼等の戦いはまだ続く。
次はいきなり100層かな?