ハジメ・光輝がミュウの服を揃えて空き家に戻ってくると、ミュウは既に湯船から上がっており新しい毛布にくるまれてシアに抱っこされているところだった。雫はミュウに「はい、あ~ん♪」と串焼きを与え、はぐはぐと小さな口を一生懸命動かして食べている姿にニヤニヤする。薄汚れていた髪は、本来のエメラルドグリーンの輝きを取り戻していた。
シア「あっ、お二人ともお帰りなさい。素人判断ですけど、ミュウちゃんは問題ないみたいですよ。」
雫「食欲もあるし、やっぱり単に衰弱してただけみたいね。」
光輝「そうか、服を買ってきた。それ食べた後で良いから着替えさせよう。」
ハジメ「・・・良い子にしてたか?」
ミュウ「・・・うん。」
二人が帰ってきた事に気がついたシアが、ミュウのまだ湿り気のある髪を撫でながら雫と共に報告をする。ミュウもそれで二人の存在に気がついたのか、はぐはぐと口を動かしながら、再びジーと二人を見つめ始めた。良い人か悪い人かの判断中なのだろう。ハジメに注目している間、光輝は買ってきた服を取り出し、下着・乳白色のフェミニンなワンピース・サンダルを順に着せる。駄々をこねられ苦戦するかと思いきや、光輝は手慣れたようにテキパキと服を着させるのであった。ミュウは光輝のされるがままであったが、未だにジーと腕組みをしているハジメを見ていた。更に宝物庫からドライヤーを取り出し、湿ったミュウの髪を素早く乾かす。僅か2分でミュウの身だしなみを完璧に整えるのであった。
光輝「よし、完了。」
ミュウ「ありがとなの・・・。」
シア「・・・光輝さん・・・凄く手際が良いですね。」
光輝「小さい頃、仕事で忙しかった両親に代わって妹の世話を任されてたからな。懐かしかったよ・・・。」
シア「へぇ~・・・優しいんですね。」
雫「フフ・・・そういえば光輝の妹、よく道場にも遊びにきてたわね・・・。」
ハジメ「お疲れ・・・さて、今後だが・・・。」
雫「ミュウちゃんをどうするか、よね・・・。」
二人が自分の事を話していると分かっているようで、上目遣いで雫とハジメを交互に見るミュウ。ハジメは取り敢えず、ミュウの事情を聞いてみることにした。その結果、光輝の推測通りの情報を得ることが出来た。ある日、海岸線の近くを母親と泳いでいたらはぐれてしまい、彷徨っているところを人間族の男に捕らえられたらしいということだ。そして、幾日もの辛い道程を経てフューレンに連れて来られたミュウは、薄暗い牢屋のような場所に入れられたのだという。そこには、他にも人間族・・・の幼子たちが多くいたのだとか。そこで幾日か過ごす内、一緒にいた子供達は、毎日数人ずつ連れ出され、戻ってくることはなかったという。少し年齢が上の少年が見世物になって客に値段をつけられて売られるのだと言っていたらしい。いよいよ、ミュウの番になったところで、その日たまたま下水施設の整備でもしていたのか、地下水路へと続く穴が開いており、懐かしき水音を聞いたミュウは咄嗟にそこへ飛び込んだ。三、四歳の幼女に何か出来るはずがないとタカをくくっていたのか、枷を付けられていなかったのは幸いだった。汚水への不快感を我慢して懸命に泳いだミュウ。幼いとは言え、海人族の子だ。通路をドタドタと走るしかない人間では流れに乗って逃げたミュウに追いつくことは出来なかった。だが、慣れない長旅に、誘拐されるという過度のストレス、慣れていない不味い食料しか与えられず、下水に長く浸かるという悪環境に、遂にミュウは肉体的にも精神的にも限界を迎え意識を喪失した。そして、身を包む暖かさに意識を薄ら取り戻し、気がつけばハジメが目の前に居たというわけだ。
光輝「予想通り、裏オークションが絡んでたか・・・。」
シア「どうしましょう・・・。」
光輝「保安署に預けよう。」
ハジメ「あぁ、それがベストだ。」
シア「そんなっ・・・この子や他の子達を見捨てるんですか・・・雫さんは・・・。」
雫「私も二人に賛成よ。」
シア「!」
ハジメ「あのな、シア。迷子を見つけたら保安署に送り届けるのは当然のことだ。まして、ミュウは海人族の子だ。必ず手厚く保護してくれるさ。それどころか、海人族をオークションに掛けようなんて大問題だ。正式に捜査が始まるだろうし、そうすれば他の子達も保護されるだろう。いいか?おそらくだが、これは大都市にはつきものの闇なんだ。ミュウが捕まっていたところだけでなく、公的機関の手が及ばない場所では普通にある事なんだろ。つまりこれはフューレンの問題だ。どっちにしろ通報は必要だろう?・・・お前の境遇を考えると、自分の手で何とかしたいという気持ちはわからんでもないがな・・・」
光輝「ハジメの言うように、大問題だからこそこうやってギルドにもクエストの申し入れがあったんだ。この都市はこの都市なりに、問題解決に尽力してたって証拠さ。今回ミュウが貴重な証人として正式に立件出来れば、裏オークションを根底から叩き潰せる鍵にもなり得るし、たくさんの子供達を救う手立てにもなる。」
シア「で・・・でも・・・。」
雫「シア・・・二人は別に意地悪で言ってるわけじゃないわ。それに私達は迷宮攻略に向かわなきゃならないのよ。そんな危険な場所にこの子も同伴できる?その子の親だって心配してるはずよ・・・情が沸いてしまったのは分かるし私も一緒よ・・・でも、この子の為なの・・・分かって。」
シア「・・・うぅ、はいです・・・。」
三人の正論に圧倒され、シアは凹んでしまう。自分の事で不穏な空気が流れていることを察したのか、ミュウはシアの体にギュウと抱きついている。ミュウの方もシアにはかなり気を許しているようだ。そして、ハジメはミュウに対して優しく語りかける。
ハジメ「いいか、ミュウ。これから、お前を守ってくれる人達の所へ連れて行く。時間は掛かるだろうが、いつか西の海にも帰れるだろう」
ミュウ「・・・お兄ちゃん達とお姉ちゃん達は?」
ハジメ「悪いが、そこでお別れだ。」
ミュウ「やっ!」
ハジメ「いや、やっ!・・・じゃなくてな・・・」
ミュウ「お兄ちゃん達とお姉ちゃん達がいいの!4人といるの!」
思いのほか強い拒絶が返ってきてハジメが若干たじろぐ。ミュウは、駄々っ子のようにシアの隣でジタバタと暴れ始めた。今まで、割りかし大人しい感じの子だと思っていたが、どうやらそれは、4人の人柄を確認中だったからであり、信頼できる相手と判断したのか中々の駄々っ子ぶりを発揮している。元々は、結構明るい子なのかもしれない。ミュウの態度を予想していたのか、光輝は予めある物を錬成してミュウに見せる。
光輝「ミュウ、君にこれをあげるよ。」
ミュウ「え?・・・わぁ・・・かわいいの///」
光輝が錬成したのは可愛らしい花の形をあしらった髪留めだった。駄々をこねていたミュウを一瞬で大人しくさせ、光輝は髪留めをエメラルドグリーンに輝く髪の毛に挟むと、跪きミュウの目線に合わせながらミュウの頭に手を置きながら話し始める。
光輝「ミュウ・・・そんなにこのお兄ちゃんとお姉ちゃん達が好きになった?」
ミュウ「うん・・・。」
光輝「そっか・・・皆の事を好きになってくれてありがとう。お兄ちゃんたちもミュウの事が大好きだよ・・・でもね・・・ミュウはまだ小さいんだ。小さい子はね、親の愛情を一心に受けてすくすく成長しなくちゃいけないんだよ・・・ミュウは、お母さんの事は大事?」
ミュウ「うん・・・。」
光輝「そうだよね・・・ミュウのお母さんもミュウが居なくなってとっても寂しくて泣いちゃってると思うんだ。・・・ミュウのお母さんが泣き止むにはどうしたらいいと思う?」
ミュウ「・・・ミュウが家に帰るの・・・。」
光輝「そう・・・だから、今は我慢してお兄ちゃん達の言う通りにして欲しいんだ。お兄ちゃん達は、ミュウを嫌いになったわけじゃない・・・お母さんに早く会わせて上げて、ミュウに幸せになって貰いたいんだ。・・・分かるかい?」
ミュウ「・・・うん。」
光輝「よし!良い子だ・・・我慢してくれたご褒美に、その髪飾りはミュウにあげるよ。」
ミュウ「えへへ///ありがとなの・・・。」
頭を撫でながら笑顔で自分が作った髪飾りをミュウに与える光輝。ミュウを数秒で言う事を聞かせた光輝の巧みな子供との対話テクニックに感心する3人。もはや勇者よりも保育士に向いてるんじゃないかと疑うレベルであった。
ハジメ「・・・あいつ、マジで子供の扱いが上手いな・・・。」
シア「最早プロですね・・・。」
雫「フフ、私達も見習わないとね・・・。」
その後、ミュウは打って変わって大人しくシアと雫の二人で両手を繋ぎ、保安署へ向かう事となった。事情を聞いた保安員は、表情を険しくすると、今後の捜査やミュウの送還手続きに本人が必要との事で、ミュウを手厚く保護する事を約束しつつ署で預かる旨を申し出た。ハジメと光輝の予想通り、やはり大きな問題らしく、直ぐに本部からも応援が来るそうで、自分達はお役目御免だろうと引き下がろうとした。だが、やがて保安署も見えなくなり、かなり離れた場所に来たところで突然事件は起きた。
ドォガァアアアン!!!!
雫「爆音!?」
ハジメ「っち!保安署か!」
そう、黒煙の上がっている場所は、さっきまでハジメ達がいた保安署があった場所だった。四人は、互いに頷くと保安署へと駆け戻る。タイミング的に最悪の事態が脳裏をよぎった。すなわち、ミュウを誘拐していた組織が、情報漏えいを防ぐためにミュウごと保安署を爆破した等だ。焦る気持ちを抑えつけて保安署にたどり着くと、表通りに署の窓ガラスや扉が吹き飛んで散らばっている光景が目に入った。しかし、建物自体はさほどダメージを受けていないようで、倒壊の心配はなさそうだった。ハジメ達が、中に踏み込むと対応してくれた保安員がうつ伏せに倒れているのを発見する。両腕が折れて、気を失っているようだ。他の職員も同じような感じだ。幸い、命に関わる怪我をしている者は見た感じではいなさそうである。光輝がリザレクトオーブで職員達を回復している間、ほかの場所を調べに行ったシアと雫が焦った表情で戻ってきた。
シア「お二人とも!ミュウちゃんがいません!それにこんなものが!」
~~ 海人族の子を死なせたくなければ、白髪の兎人族を連れて○○に来い ~~
雫「こんなの口先だけよ・・・約束を守る気はゼロね・・・。」
ハジメ「・・・どうやら、あちらさんは欲をかいたらしいな。」
光輝「・・・あぁ・・・最悪の選択を選んだね・・・。」
シア「みなさん!私!」
ハジメ「みなまでいうな。わーってるよ。こいつ等はもう俺の敵だ・・・御託を並べるのは終わりだ。全部ぶちのめして、ミュウを奪い返すぞ・・・。」
光輝「俺の?・・・・違うだろ・・・俺達・・・だろ?」
ハジメ「だったな・・・。」
光輝「それに、ミュウの居場所なら分かるよ。」
シア「本当ですか!?」
そう、光輝は万が一に備えて保険をかけていたのだ。ミュウにプレゼントした髪飾りには再来の腕輪から発するマーキング魔法を打ち込んでいると全員に説明する。打ち込んだ魔法を発信機代わりにしている光輝はPCを取り出し魔法の位置を特定、今もどこかに移動している事が分かった。
シア「それじゃあ直ぐに追いかけましょう!ワープすればすぐにでも・・・!」
光輝「駄目だ・・・移動中は位置を捕捉できないから、再来の腕輪でワープする事は出来ない。」
ハジメ「それに・・・ここでミュウを取り返しても奴らは今日みたいにまた執拗にミュウを奪いに来る・・・元から潰さなけりゃ堂々巡りだ。」
光輝「・・・3人は、龍太郎達と合流してギルドからこのクエストを正式に受け付けてくれ。俺は・・・メモ用紙に書かれている場所に向かう。」
シア「だったら私も!」
光輝「いや・・・一人で行く・・・。心配しないで、上手くやるから。」
シア「で・・・でも・・・。」
ハジメ「まぁ待てシア・・・分かった、そっちは任せる。・・・ギルドで待ってるからな。PCを貸してくれ、ミュウの居場所を逐一確認したい。」
光輝「あぁ、頼む。・・・奴らから色々吐かせて情報を入手してくるよ。そしたら・・・全員潰す・・・。」
雫「・・・光輝・・・程々に。」
光輝「・・・努力はする。」
冷静に立ち振る舞いながら、ハジメ達にクエストの受付を頼み自らはメモ用紙に書かれた場所に一人で向かう事を告げて保安署を出て行く光輝。一番胸中穏やかでないのは4人の中で光輝なのかもしれない・・・そう悟ったハジメと雫は言う通りにする。そして・・・メモに書かれた指定の場所に向かうと、武装したチンピラが溜まり場で屯していた。
光輝「・・・。」
「あ?なんだ兄ちゃん・・・用が無いならとっとと。」
バキャアアアア!!!
「な!?」「てめ!!」
有無を言わさず複数の内の一人のチンピラを自分に駆け寄った瞬間、裏拳で殴り飛ばす光輝。怒気を孕んだ眼をギラつかせながら、チンピラ集団のヘッドと思わしき人物だけは無傷で残し、自分に向かってくるその他のチンピラはわずか数秒程度で殴り殺す。そして、最後のヘッドに詰め寄り光輝の尋問が始まる。
「ひ・・・ひぃいいい!!」
光輝「今から・・・俺があんたに質問するから5秒以内に正直に話せ。下らない答えだったら八つ裂きにするからな・・・海人族の子供を攫ったはずだが何をする気だ・・・?」
「し・・・知らねぇよ・・・。」
バキ!!!
「アグゥ!!!」
光輝「今2秒かな?・・・あと3秒残ってるよ?・・・良いの?」
「いや・・・だから・・・。」
バキ!!!
「うがぁ!!!・・・知らねぇよ!!本当だ!!他のアジトの連中に引き渡してそれっきりだ!!あとの事までは知らねぇ!!」
光輝「(こんな末端連中じゃ大した情報は持って無さそうだな・・・なら・・・)だったらアジトの場所を全部吐け。一つ残らずだぞ・・・。」
「な・・・そんな事したら俺の命がやべぇ・・・。」
バキ!!!
光輝「俺はお願いしてるわけじゃない・・・命令してるの・・・意味・・・分かってるかな?・・・分かってるかなぁ??」
「わ・・・分かった!!分かったよぉ!!」
質問の答えを渋るたびに顔面を殴りつけ、冷静かつ鬼のような怒気で話を続ける光輝は敵が持っている情報を全て吐かせる。フリートホーフが裏で牛耳ってるアジトの場所を全て吐かせた光輝はフューレンの地図にメモする。
光輝「最後に一つだけ答えて。」
「な・・・なんだよ・・・。」
光輝「・・・見ず知らずの子供の人生食い物にして得た金で食べるメシは旨いか?」
「・・・ハ!くだらねぇ・・・金は金だろ・・・見ず知らずのガキの運命なんざ知るかよ。」
光輝「・・・そっか。」
最後の質問に答えられた瞬間、剣で男の右腕を斬り落とす光輝。斬られてから数秒後、ウギャアアアアア!!!と見苦しい悲鳴を浴びながらのた打ち回る男。本当の事を言ったのに何でと涙目で訴えるが、光輝はこう答える。
光輝「下らない答えだったからだよ。」
「やめて・・・死にたくねぇ・・・助けてくれ・・・!」
光輝「見ず知らずのゴミの運命なんざ知るかよ。」
意趣返しと言わんばかりの返答後、男の首をはね飛ばす光輝。アジトの場所を全て記された地図を持って、ギルドにて待っていたハジメ達と合流する。香織達は雫達から事の話を全て聞き、当然このクエストに参加するつもりでいた。クエストを正式に受けた一同は光輝が持ってきた地図を確認する。指定された場所にはミュウは既にどこかのアジトに護送された情報を聞いた一同は今後の行動について話す。
香織「・・・それで、ミュウっていう子を探せばいいんだね?」
ハジメ「ああ。今もまだ発信源は移動中だ・・・恐らくはフリートホーフの元締めに移送している再送中だろう。光輝の情報から察するに、フリートホーフはかなり大きな組織みたいでな・・・地図を見る限り関連施設の数も多数ある。俺達に舐めた真似をしてくれた連中を・・・このまま全員生かす理由は無い・・・手伝ってくれるか?」
ユエ「ん・・・任せて」
ティオ「ふむ。ご主人様の頼みとあらば是非もないの」
イルワ「ギルドとしても君達が受けてくれるのであれば本当に助かる限りだよ。彼等は言わずと知れたならず者だ・・・今回みたいに保安署を容赦なく痛めつける連中に、一切の容赦はいらないよ。・・・今回のクエスト・・・生死は問わない。」
光輝「・・・了解しました。・・・で・・・報酬の件ですが・・・。」
イルワ「あぁ・・・勿論それは・・・君達なら追加報酬も喜んで・・・。」
光輝「いえ、お金の追加報酬は結構です。追加報酬は、フリートホーフの構成員の一人の身柄をこちらで預かる事です。」
イルワ「え・・・生死は問わないと言ったしそれは良いが・・・一体何を・・・。」
光輝「ハジメ・・・園部の例の最後の特訓だが・・・。」
ハジメ「!・・・あぁ・・・成程な・・・分かった。・・・お前ら・・・分かってると思うが・・・。」
龍太郎「生死を問わない・・だろ。・・・俺達だってメルド団長から殺しの訓練は受けてる・・・覚悟は出来てるぜ。」
雫「子供を平気で誘拐する連中に・・・かける慈悲は無いわ。」
香織「・・・大丈夫・・・やれるよ。」
ハジメ「よし・・・決まりだ。」
全員が全会一致でこのクエストを引き受ける事となった。まずはミュウを二度と攫う真似をさせないようにフューレン中に潜んでいるフリートホーフのアジト潰しから進める為、一同は分かれて事に当たる。半刻後・・・商業区の中でも外壁に近く、観光区からも職人区からも離れた場所。公的機関の目が届かない完全な裏世界。大都市の闇。昼間だというのに何故か薄暗く、道行く人々もどこか陰気な雰囲気を放っている。そんな場所の一角にある七階建ての大きな建物、表向きは人材派遣を商いとしているが、裏では人身売買の総元締をしている裏組織フリートホーフの本拠地である。いつもは、静かで不気味な雰囲気を放っているフリートホーフの本拠地だが、今は、騒然とした雰囲気で激しく人が出入りしていた。おそらく伝令などに使われている下っ端であろうチンピラ風の男達の表情は、訳のわからない事態に困惑と焦燥、そして恐怖に歪んでいた。本拠地の7階にいる頭、ハンセンは激怒していた。
ハンセン「ふざんけてんじゃねぇぞ!アァ!?てめぇ、もう一度言ってみやがれ!」
「ひぃ!で、ですから、潰されたアジトは既に百軒を超えました。あとはここだけです・・・襲ってきてるのは二人組が四組です!」
ハンセン「じゃあ、何か?たった八人のクソ共にフリートホーフがいいように殺られてるってのか? あぁ?」
「そ、そうなりまッへぶ!?」
ハンセン「てめぇら、何としてでも、そのクソ共を生きて俺の前に連れて来い。生きてさえいれば状態は問わねぇ。このままじゃあ、フリートホーフのメンツは丸潰れだ。そいつらに生きたまま地獄を見せて、見せしめにする必要がある。連れてきたヤツには、報酬に五百万ルタを即金で出してやる!一人につきだ!全ての構成員に伝えろ!」
ドォガアアア!!
ハンセンが命令を下した瞬間、爆音を響かせて扉が木っ端微塵に粉砕される。ドアノブに手を掛けていた男は、その衝撃で右半身をひしゃげさせ、更にその後ろの者達も散弾とかした木片に全身を貫かれるか殴打されて一瞬で満身創痍の有様となり反対側の壁に叩きつけられた。その正体は龍太郎が正拳突きで扉を破壊した衝撃であった。
シア「構成員に伝える必要はありませんよ。本人がここに居ますからね」
ティオ「ふむ、外の連中は引き受けよう。手っ取り早く済ますのじゃぞ?シア」
シア「ありがとうございます、ティオさん」
香織「私と龍太郎君も一緒に行くよ。」
龍太郎「じゃ、手っ取り早くやっか。」
シア「はい、よろしくお願いします。」
ハンセン「・・・てめぇら、例の襲撃者の一味か・・・その容姿・・・チッ、リストに上がっていた奴らじゃねぇか。シアにティオ、それに香織に龍太郎だったか?あと、雫とユエとかいうちびっこいのもいたな・・・なるほど・・・女共の見た目は極上だ。おい、今すぐ投降するなら、命だけは助けてやるぞ?まさか、フリートホーフの本拠地に手を出して生きて帰れるとは思って・・・!?」
バキャアアアアアアアアアア!!!
ハンセン「ガフ!!?」
龍太郎「悪い・・・あんまりにもたらたら話してたもんだから・・・我慢できずにやっちまった。」
ハンセンが何かを言う間に龍太郎が縮地を使い距離を潰し軽い左ジャブを見舞う。気絶しない程度に手加減したためまだ意識はあるがそれでも大ダメージを受けたハンセンはのた打ち回っていた。騒ぎを聞きつけた本拠地に居る全ての構成員もティオのブレスにより自分達の居る部屋を除いて建物諸共全て消し炭と化す。部屋に居る構成員に関しても龍太郎・シア・香織の手により全て殺害されるのであった。そして・・・
ハンセン「ぐ・・・この・・・。」
香織「こっちですよ。」
ハンセン「!」
ドゴォオオオオオオ!!!
ハンセン「ウグ・・・オエェエエエエエエエエエエ!!!!」
ハンセンの直ぐ傍に近づいた香織のボディブローをモロに受け、ゲロを吐きながら悶絶するハンセン。そのままうつ伏せに無理矢理倒した香織は縛光刃を詠唱し、ハンセンをうつ伏せのまま捕縛する。その後ろからシアがハンセンの背中にドリュッケンをそっと置き少しずつ力を入れる。同様に香織もハンセンの後頭部にメイスをゆっくりと置くと力を込め始める。
ハンセン「アググ!!・・・た、たのむ。助けてくれぇ!金なら好きに持っていっていい!もう、お前らに関わったりもしない!アガ!」
香織「もう手遅れです・・・これは、あなた方が始めた戦争でしょう?」
シア「質問に答えて下さい・・・知らんふりするのであればその都度、重さが増していきますので・・・内臓が出ないうちに答える事をオススメします。」
龍太郎「お~こわ。・・・おいあんた、やせ我慢しない方が良いぜ?」
ティオ「素直に吐いた方が利口じゃぞ?」
シアからの質問に対し素直に答えるハンセン。どうやら秘密裏に今日行われるオークション会場に目玉商品として売り出される予定らしい。それを知ったシアは念話でハジメに連絡、ハジメも既にPC上でアイコンが静止してる事を確認し、既にオークションの準備が始まっている事を予想した。
ハンセン「た・・・頼む・・・助け・・・!」
香織「何の罪も無い子供の人生を犠牲にして良い思いしてきたんでしょう?もう充分良い夢を見てきたじゃないですか・・・。その報いを、今ここで受けましょう・・・ね?」
ハンセン「や・・・やめ・・・!」
グシャアアアアアアアアア!!!
小さい子供を嗜めるようにハンセンに語りかけた後、後頭部に押し付けたメイスに一気に力を込め、頭をトマトの様に破裂させる香織。返り血が白い服に数的付着するが特に気にもせずその場を後にする。シア・ティオ・龍太郎・香織が立ち去った後には、無数の屍と瓦礫の山だけが残った。裏世界では三本の指に入る巨大組織”フリートホーフ”は、この日実にあっさりと壊滅したのだった。
雫「また下水に行く羽目になるなんてね・・・。」
ユエ「帰ったらお風呂入りたい・・・。」
光輝「そろそろか・・・。」
目的地付近に到着したハジメ達は、敵に見つからないように再び地下からミュウが居る場所へと向かっていた。やがて、地下深くに無数の牢獄を見つけた。入口に監視が一人おり居眠りをしている。その監視の前を素通りして行くと、中には、人間の子供達が十人ほどいて、冷たい石畳の上で身を寄せ合って蹲っていた。十中八九、今日のオークションで売りに出される子供達だろう。
「誰?・・・」
雫「ねぇ・・・ぼく達、海人族の子供がここにいなかった?」
「え?・・・」
ユエ「大丈夫・・・私達はあなた達を助けに来た・・・恐がらなくて良い。」
雫とユエが子供達を優しくなだめながらミュウの状況を聞き出すと、一人の男の子が話しはじめる。どうやらミュウは既に連れ出されてしまった後らしい。もしそうなら既にオークションに競り出されて客が値段を付けているはずだろう。時間にあまり猶予が無い事を知った4人は直ぐに行動を起こそうとするが、居眠りから起きてきた監視が牢獄に急行して来た。
「なんだてめぇら!!何者だ!!」
光輝「おっとまずい・・・。」
雫「良いわ、私がやる。」
短剣を抜いて襲い掛かってきた監視を雫が目にも映らぬ速さで全て斬り捨てる。ユエは殺しの様子を見せないよう子供達に対し”皆・・・眼を瞑って後ろを向いて”と優しく指示する。僅か3秒にも満たない時間に雫は監視数人をあっという間に絶命させるのであった。
雫「・・・。(これで私も人殺し・・・けど・・・自分で誓った事を守る為に・・・光輝の為に・・・私は決して折れない・・・!)」
光輝「・・・雫・・・大丈夫か?」
雫「平気よ・・・さ、子供達を避難させましょう。」
ハジメ「よし、ユエと八重樫はこいつらを安全な場所へ避難させてくれ。俺と光輝はもうひと暴れしなきゃだからな。」
ユエ「ん・・・気を付けて。」
光輝「既に周辺にはイルワ支部長に頼んで人を回して貰ってる。あとは彼等に子供達を保護して貰ってくれ。」
雫「分かったわ。あとの事は任せて。」
牢屋の格子を錬成で消し去ったハジメと光輝は子供達を全員逃がし、避難誘導を雫とユエに任せる。二人は再来の腕輪を装備し、ミュウの居る場所へワープする準備を整える。そこへ、雫達にミュウの事を教えた一人の男の子がハジメ達に頼み始める。
「兄ちゃん達!助けてくれてありがとう!あの子も絶対助けてやってくれよ!すっげー怯えてたんだ。俺、なんも出来なくて・・・」
どうやら、この少年は亜人族とか関係なく、ミュウを励まそうとしていたらしい。自分も捕まっていたというのに中々根性のある少年だとハジメと光輝は感心する。自分の無力に悔しそうに俯く少年の頭を、ハジメはわしゃわしゃと撫で回した。
「わっ、な、なに?」
ハジメ「ま、悔しいなら強くなればいい。つか、それしかないしな。今回は、俺がやっとくさ。次、何かあればお前がやればいい!」
「僕も・・・強く・・・なれるかな?」
光輝「なれるさ!この兄ちゃんなんて最初は周りから無能扱いされてたけど、バリバリ頑張りまくって今や最強最悪の兄ちゃんになったからね!」
ハジメ「最悪は余計だ!」
「アハ・・・うん!!」
二人の言葉を受けた少年は頭を下げ、雫達の元へと戻る。”ああいう子が将来増えれば、この世界の未来は明るいな。””あぁ・・・きっと俺達より強くなる・・・。”と軽い世間話をかわした後、二人はミュウの元へとワープを開始するのであった。その頃・・・オークション会場は、一種異様な雰囲気に包まれていた。会場の客はおよそ百人ほど。その誰もが奇妙な仮面をつけており、物音一つ立てずに、ただ目当ての商品が出てくるたびに番号札を静かに上げるのだ。素性をバラしたくないがために、声を出すことも躊躇われるのだろう。そんな細心の注意を払っているはずの彼等ですら、その商品が出てきた瞬間、思わず驚愕の声を漏らした。出てきたのは二メートル四方の水槽に入れられた海人族の幼女ミュウだ。衣服は剥ぎ取られ裸で入れられており、水槽の隅で膝を抱えて縮こまっている。海人族は水中でも呼吸出来るので、本物の海人族であると証明するために入れられているのだろう。一度逃げ出したせいか、今度は手足に金属製の枷をはめられている。小さな手足には酷く痛々しい光景だ。
ミュウ「お兄ちゃん・・・お姉ちゃん・・・。」
ミュウがそう呟いたとき、不意に大きな音と共に水槽に衝撃が走った。「ひぅ!」と怯えたように眉を八の字にして周囲を見渡すミュウ。すると、すぐ近くにタキシードを着て仮面をつけた男が、しきりに何か怒鳴りつけながら水槽を蹴っているようだと気が付く。どうやら更に値段を釣り上げるために泳ぐ姿でも客に見せたかったらしく、一向に動かないミュウに痺れを切らして水槽を蹴り飛ばしているらしい。しかし、ますます怯えるミュウは、むしろ更に縮こまり動かなくなる。縮こまりながら光輝から貰った髪飾りに手を当てたままギュウと体を縮めて、襲い来る衝撃音と水槽の揺れにひたすら耐える。フリートホーフの構成員の一人で裏オークションの司会をしているこの男は、余りに動かないミュウに、もしや病気なのではと疑われて値段を下げられるのを恐れて、係りの人間に棒を持ってこさせた。それで直接突いて動かそうというのだろう。ざわつく客に焦りを浮かべて思わず悪態をつく。
「全く、辛気臭いガキですね。人間様の手を煩わせているんじゃありませんよ。半端者の能無しのごときが!オラ!!とっとと芸の一つでもやりなさい!!誰も助けになんか来ないんだからよぉ!!なんなら助けに来る連中の名前でも叫んでみやがれやぁ!!!」
悪態を突きながらそれでも棒を突く事を止めない男。そこへ、一瞬でその場所に現れた二人の青年が並び立ち、オークションの会場は途端に静まり返る。司会の男は何事かと振り返ると、そこには鬼の形相をした魔王と勇者が、司会の男が命令した助けに来る連中の名前を呼べと言った事に対し、リクエストに答えるが如くがん首揃えてこう言った。
光輝「天之川光輝・・・・。」
ハジメ「南雲ハジメ・・・・。」
「・・・え?」
光輝・ハジメ「何やってんだてめぇえええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
怒号と共に二人は行動を即座に開始する。まず光輝は司会の男をボコボコに叩きのめし止めの剣戟を与えて殺害する。続いてハジメはバリンッ!という破砕音と共に水槽が壊し、ミュウを解放する。流れの勢いで、ミュウも外へと放り出された。思わず悲鳴を上げるミュウだったが、直後ふわりと温かいものに受け止められて、瞑っていた目を恐る恐る開ける。そこには、会いたいと思っていた人の一人が、声が聞こえた瞬間どうしようもなく期待し思い浮かべた人が・・・確かにいた。自分を抱きとめてくれていた。ミュウは目をパチクリとし、初めて会った時のようにジッーとハジメを見つめる。
ハジメ「よぉミュウ。お前、会うたびにびしょ濡れだな?」
ミュウ「お兄・・・ちゃん?」
ハジメ「光輝に感謝しろよ?あいつがプレゼントした髪飾りのおかげで、こうして助けられたんだからな。」
今も綺麗な輝きを失っていないミュウの髪に取り付けられた髪飾りを優しく触るハジメは”にかっ”と微笑む。その瞬間”お兄ちゃん!”と叫ぶミュウはハジメの首元にギュッウ~と抱きついてひっぐひっぐと嗚咽を漏らし始めた。ハジメは困った表情でミュウの背中をポンポンと叩く。そして、手早く毛布でくるんでやった。と、再会した二人に水を差すように、ドタドタと黒服を着た男達がハジメとミュウを取り囲んだ。客席は、どうせ逃げられるはずがないとでも思っているのか、ざわついてはいるものの、未だ逃げ出す様子はない。
「クソガキ共が、フリートホーフに手を出すとは相当頭が悪いようだな。その商品を置いていくなら、苦しまずにブチ殺してやるぞ?」
ハジメ「ったく・・・まだいやがる・・・。」
光輝「ハジメ、先に脱出して良いぞ。あとは俺がやる・・・。」
ハジメ「そうだな・・・ミュウをここから逃がしてぇし・・・分かった、頼む。ギルドに着いたらそのまま宿屋へ戻ってるからな。」
光輝「あぁ・・・それで良いよ。」
「何をごちゃごちゃ言って・・・な!?」
二十人近くの屈強そうな男に囲まれた瞬間、ハジメはミュウと共に再来の腕輪でその場をワープして脱出する。一人だけになった光輝は周囲の連中をじっと睨み続けていた。”何しやがったこのクソガキ!!””目玉商品を返しやがれ!!””ぶっ殺すぞ!!”と言った暴言を吐かれるが、意にも介さず光輝は剣を抜き救いようのない悪党連中に成敗を下しながら怒りの嵐を巻き起こす。
光輝「殺す殺すとか!!!!!」
「ウギャアアア!!」
光輝「簡単に野蛮な言葉使ってんじゃねぇよ!!!!」
「アギャアアア!!」
光輝「子供が見ている前だろうがぁああああ!!!!」
「グピ!!!」
目にも映らぬスピードでフリートホーフの構成員を全て斬り伏せる光輝。誰もが何をされているのかわからず硬直している間に、彼等が正気を取り戻す頃には人間二十人分を八つ裂きにされた死体が出来上がった。その時になってようやく、目の前の少年を尋常ならざる相手だと悟ったのか、黒服たちは後退り、客達は悲鳴を上げて我先にと出口に殺到し始めた。しかし、出口付近には既に雫がイルワに頼んで寄こしたであろう保安署の人間たちによって全員御用となった。そして、生き残った最後の黒服の一人に近づく。
「お、お前、何者なんだ!何が、何で・・・こんなっ!」
光輝「何で?・・・っは!・・・子供を売り買いするときに”何でこんな”って聞かれた時、あんた等答えたのかよ?他人にはするけど自分達がされた時は御免被りたい・・・通らないでしょ?そんな身勝手・・・。」
「う・・・。」
光輝「でも・・・あんたは運が良いな・・・しばらくの間だけだが生かしておいてやるよ。」
バキィ!!!
黒服の質問に対し鼻で笑い返答した後、黒服の一人をパンチ一発で気絶させた光輝。ギルドでの約束通り、フリートホーフの一員の一人を身柄としてこちらで預かる為、一人だけ生かす事にした。・・・全ては終わった・・・その後、保安署の人間に事後処理の報告を全て兼任した光輝は、しばらくの間だけフリートホーフの一員を預かってもらう事にした。一方ハジメはワープで既にギルド内へと避難した後であり、既に雫達とも合流し、ギルドで事後報告後は宿屋へと向かっていった。事後処理を全て終えた光輝は流石に疲れたのか肩をコキコキと鳴らしながらそのまま宿屋へと直帰するのだった。そして・・・宿屋の入り口前には・・・
ミュウ「お帰りなの~!光輝お兄ちゃ~ん!!」
光輝「おぉ!ミュウ!」
仲間達が入り口前で全員が首を長くして光輝の帰りを待っていたのだ。自分に向かって走ってきた満面の笑顔のミュウを抱きしめる光輝。仲間達から労いの言葉を受け、シアからは特に感謝の言葉を述べられた。光輝は疲れた顔が嘘のように晴れやかになり、今日の勝利を深く噛みしめるのであった。
ミュウちゃんカワユス!
ハジメに気のある園部優花はウルの町での騒動以降、ハジメ達の仲間として付いて行く
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賛成
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反対