左側のライセン大峡谷と右側の雄大な草原に挟まれながら、一行はブリーゼ・トライドロンの二台の車を走らせ再びホルアドへ向かっていた。優花が仲間に加わり、さぁ次の神代魔法を習得しに旅を再開しようとした矢先、フューレンのギルド支部長イルワから頼まれごとをされたからだ。本来なら素通りしてもよかったのだが、もともとグリューエン大砂漠に行くつもりだったし、ホルアドくらいなら特に手間でもないので引き受けることにした。ちなみにハジメの車に香織は乗りたがっていたが、ジャンケンで負けたため結局光輝達の車(トライドロン)でホルアドに向かう事になったため香織は後部座席でふくれっ面であった。光輝は運転しながら香織をなだめる。
香織「ぶぅ~・・・。」
光輝「もう諦めなってば。まだチャンスはこれから幾らでもあるんだからさ。」
香織「だけど、優花ちゃんも仲間に加わったんだよぉ・・・頼もしい仲間が増えて嬉しいけど・・・強力なライバルも増えちゃったし・・・。」
雫「確かにまたしても競争率が高くなっちゃったわね。」
ミュウ「ママァ~、お菓子食べて良い?」
光輝「だ~め。今食べたら後でご飯食べられなくなるでしょ?我慢しなさい。」
ミュウ「ぶぅ~・・・。」
龍太郎「ハハ、おい香織。ミュウもお前と同じ文句言ってるぜ?」
香織「私そんな子供じゃないもん!ぶぅ~!」
ミュウ「ぶぅ~ぶぅ~!」
香織・ミュウ「ぶぅ~!」
光輝達が車内でワイワイしている中、ハジメ達も車内でワイワイと楽しんでいた。助手席に座っているのはなんと、ジャンケンで一番手に勝った優花であった。
ハジメ「そうだ、園部に渡しておくものがあった。」
優花「え?」
ハジメがそう言って渡したものは優花専用に錬成した二対の短剣だった。黒い短刀は”シュバルツドルヒ”、白い短刀は”ヴァイスリヒト”と命名。それぞれの担当に固有能力が付与されており、シュバルツドルヒは重力魔法が付与されており、刺した対象に半径10m分の重力場を形成させる能力を持つ。ヴァイスリヒトは”縮地”の付与がされており、これに優花の投擲能力を組み合わせる事で投げた後には刺さった結果しか残らない程の光速の投擲術を可能にする。ハジメは優花の特性に合わせ考えた武器を数日前から完成させていた。優花はハジメのプレゼントを実に嬉しそうに抱きしめながら受け取る
優花「良いね・・・ありがと///!」
ハジメ「気にすんな。美味い飯を食わせて貰った礼も兼ねてっからな。」
シア「ブゥウウウウウ!!ハジメさん!!なんだか優花さんに依怙贔屓してませんかぁ!」
ティオ「ブゥ~なのじゃ・・・。」
ユエ「ブゥ~ブゥ~。」
ハジメ「お前等はもう光輝から専用の装備やらアイテムやらを既に受け取っただろ?園部だけ何もなしの方がそれこそ依怙贔屓だろうが。」
シア「ウグ!?」
ユエ「痛いところを突かれた・・・。」
ティオ「おのれ~光輝めぇ~!!」
ハジメ「いや、なんでそこで光輝を恨むねん・・・。」
そんなこんなで、一同はホルアドに到着。ハジメと光輝は右手と左手でミュウと手を繋ぎながら歩き、懐かし気に目を細めている。周囲に並びたてられた屋台の美味しそうな匂いに釣られたミュウはハジメに甘えはじめる。
ミュウ「パパァ~!あの屋台の食べ物食べたいのぉ~!」
ハジメ「お、食いたいのか?じゃあ・・・。」
光輝「お父さん駄目だって甘やかしたら・・・。さっきも言っただろミュウ。今食べたらご飯食べられなくなるでしょ?我慢しなさい。」
ミュウ「やぁ~あ~!」
ハジメ「パン一個ぐらい良いだろ。ママはお厳しいなぁ~?ミュウ?」
ミュウ「なぁ~!」
光輝「甘々お父さんめ・・・後でちゃんとご飯食べる?」
ミュウ「食べる!」
光輝「嘘つかない?」
ミュウ「つかない!」
光輝「じゃあお父さんと買って来なさい。」
ミュウ「はぁ~い!」
光輝「お父さん、一個だけだからね。」
ハジメ「わーってるよ!ママ・・・ってか?」
ハジメにパンは一個だけとくぎを刺し、ミュウをハジメに任せて屋台に向かわせる。やれやれと言った表情で頭をポリポリ掻きながら後ろを振り向くと、何故かユエ達は黒いオーラを出しながら嫉妬心丸出しで光輝を睨みつけながら詰め寄り始める。その理由は明解であり、本来であればあのような夫婦じみたやりとりは香織達が一番にやりたかっていたのによりによって光輝がそのポジショニングを完全に奪って?しまったからである。
光輝「な・・・なに?なんだよ?」
香織「なんだか今、無性に光輝君に嫉妬心が沸き立ってるんだよねぇ~・・・!」
ユエ「うん・・・ずるい。」
シア「卑怯です。」
ティオ「反則なのじゃ。」
光輝「いででででで!!何すんの!?」
香織「ごめんね。ちょっとだけいじめさせて。」
ユエ「この泥棒犬。」
シア「天誅です。」
ティオ「裁きを下そうぞ。」
そう言いながら香織達は協力してチクチクと光輝を囲んでプチいじめを開始。膝を蹴る、脇腹を手刀でチクチク刺す、鼻をつまむ、耳を引っ張る、髪を引っ張る、頭をポコポコ殴る・・・嫌がらせのオンパレードであった。唯一余裕のあった優花は雫達と共にその様子を観察していた。
優花「・・・あの子らって、いつもあんな調子なわけ?」
龍太郎「あ~・・・まぁな。」
雫「苦労が絶えないのがオカンの宿命なのよ。アニメでも確かそう言ってたわ。」
優花「慣れてるってわけ・・・御愁傷様、天之川・・・ナンマンダブナンマンダブ・・・。」
その後、買ってきたパンをミュウが食べ終えた後、ようやく冒険者ギルドのホルアド支部に到着した。前回、ハジメ達がホルアドに来たときは、冒険者ギルドに行く必要も暇もなかったので中に入るのは今回が初めてだ。ホルアド支部の内装や雰囲気は、最初ハジメ達が抱いていた冒険者ギルドそのままだった。ハジメ達がギルドに足を踏み入れた瞬間、冒険者達の視線が一斉にハジメ達を捉えた。その眼光のあまりの鋭さに、ハジメと光輝と手を繋いでいたミュウが「ひぅ!」と悲鳴を上げと光輝の後ろに隠れしがみついた。ハジメは光輝達に”先に行っててくれ、こいつらにちょっと話がある。”と言って手続きを先に済まさせる。
ミュウ「ママ・・・パパ大丈夫?」
光輝「大丈夫。パパは怖いおじさん達にちょっとお願いするために話をしてるからね。」
香織「ミュウちゃん・・・ちょっと目を閉じて耳を塞いでようか?」
雫「あの・・・すみません。支部長は御在籍でしょうか?フューレンのギルド支部長から手紙を預かっておりまして、本人に直接渡して欲しいとの事です。」
「は、はい。お預かりします。え、えっと、フューレン支部のギルド支部長様からの依頼・・・ですか?」
背後でハジメが冒険者たちに”お願い”をしている間、ちゃっちゃと受付を済ませようとする雫。自分のステータスプレートを見せ、受付嬢は目を見開いて驚愕する。
「き・・・金ランク!?」
その言葉にギルド内の冒険者も職員も含めた全ての人が、受付嬢と同じように驚愕に目を見開き、ハジメのお願いを無理矢理聞かされていた冒険者たちも同様に驚愕する。そう、ウルの町救出・フリートホーフ壊滅・・・等と言った高難易度クエストを見事にこなした光輝達は、フューレン支部から優花を除き全員が金ランクを取得していたのだった。
ハジメ「聞いての通りだ・・・俺の連れは全員が金ランクの実力者でお前等とは桁が違う。・・・分かったら二度とその強面顔を晒すんじゃねぇぞ・・・ウチの子にトラウマ植え付けた奴一人一人にこいつらが総出でトラウマを植え付けにやってくるからな・・・良いかぁ!?」
「は・・はい!!失礼いたしましたぁ!!!」
龍太郎「もう良いだろハジメ。早く済ませて帰ろうや。」
ハジメ「そうだな。」
そんなこんなで受付を進めていた一同。五分も経たないうち、ギルドの奥からズダダダッ!と何者かが猛ダッシュしてくる音が聞こえだした。何事だと、ハジメ達が音の方を注目していると、カウンター横の通路から全身黒装束の少年がズザザザザザーと床を滑りながら猛烈な勢いで飛び出てきて、誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡し始めた。最初に一目見たハジメは、その人物に見覚えがあり、こんなところで再会するとは思わなかったので思わず目を丸くして呟いた。
ハジメ「・・・遠藤?」
ハジメの呟きに”!”と某ダンボール好きな傭兵のゲームに出てくる敵兵のような反応をする黒装束の少年、遠藤浩介は、辺りをキョロキョロと見渡し、それでも目当ての人物が見つからないことに苛立ったように大声を出し始めた。
浩介「南雲ぉ!いるのか!お前なのか!何処なんだ!南雲ぉ!生きてんなら出てきやがれぇ!南雲ハジメェー!」
光輝「遠藤・・・。」
香織「遠藤君・・・。」
優花「どうしたのあんた・・・。」
浩介「!・・・白崎・・・天之川・・・園部・・・!!お前等も帰ってきてたのか!?良かった!!これで百人力だ!!・・・そうだ!!今、南雲の声がした気がしたんだが一緒に探してくれないか!?それとも・・・幽霊か?やっぱり化けて出てきたのか!?俺には姿が見えないってのか!?」
龍太郎「あ・・・あのなぁ遠藤・・・」
雫「落ち着いて・・・前見て・・・前・・・。」
浩介「・・・前?前って・・・??」
ハジメ「いや、目の前にいるだろうが、ど阿呆。つか、いい加減落ち着けよ。影の薄さランキング生涯世界一位!!」
浩介「!?・・・また、声が!?ていうか、誰がコンビニの自動ドアすら反応してくれない影が薄いどころか存在自体が薄くて何時か消えそうな男だ!自動ドアくらい三回に一回はちゃんと開くわ!」
ハジメ「三回中二回は開かないのか・・・お前流石だな。」
光輝「それ単純にセンサーが壊れてんじゃないの?」
この遠藤と言う男、トータスに来る前からクラスでダントツの影の薄さを誇っている。そのすさまじさは、日本にいた頃からであり、ハジメ達の気配感知にも引っかからない程であった。その後、マジマジと今のハジメの姿を観察した遠藤は改めて声をかける。
浩介「まさか・・・本当に南雲なのか?」
ハジメ「はぁ・・・ああ、そうだ。見た目こんなだが、正真正銘・・・南雲ハジメだ。」
香織「そうだよ遠藤君。見て分からないの?」
浩介「分かるわけないだろ?何か、えらく変わってるし・・・見た目とか雰囲気とか口調とか・・・。」
香織「何言ってるの・・・指の指紋は変わってないし、目の虹彩も前と同じだし、髪の質感も肌の柔らかさも爪の色も毛の生え方も歩き方も声質も唇のシワもまつ毛の本数も体臭も一緒でしょ?・・・見て聞いて嗅いで分からないの?」
つらつらと当たり前のようにハジメの身体的特徴をビシッと指摘する香織。そのあまりのマニアックぶりに対し、内心逆にドン引きしてしまった一同。虚ろ目で香織を見るが、”どうしたの?皆?”と当の本人は頭の上にハテナマークを付けており、何故自分が引かれているのかよく理解していなかった。幼馴染の光輝でさえ流石にこれは自制させた方が良いじゃないかと雫に忠告しかけるが、雫は親友として香織をなんとかフォローしようと汗を垂らしながらあわあわ弁護する。
光輝「雫・・・あれはギリギリアウトじゃないか?」
雫「で・・・でも!あの子普段は普通に優しくていい子だし!まぁ多少行き過ぎちゃうところもあるけど、それはそれであの子の良さでもあるし・・・これは拘りゆえの情熱の現れであって、だから~つまり~・・・。」
光輝「いや・・・良いよ。無理に弁解しなくて・・・。」
ユエ「ボソ(ハジメ・・・ハジメは私が守るから・・・。)」
ハジメ「・・・。・・・ノーコメントだ。」
浩介「え・・・っと・・・まぁとにかく・・・良かったよ・・・生きてて・・・本当に・・・良かった・・・。天之川達も元気そうで・・・良かった・・・。」
ハジメ「・・・サンキュ・・・全部こいつらのおかげだ・・・。」
浩介「そっか・・・。」
光輝「心配してくれて、ありがとう。」
微笑するハジメと光輝の態度に困惑する遠藤だったが、それでも死んだと思っていたクラスメイトが本当に生きていたと理解し、安堵したように目元を和らげた。いくら香織に構われていることに他の男と同じように嫉妬の念を抱いていたとしても、また檜山達のイジメを見て見ぬふりをしていたとしても、死んでもいいなんて恐ろしいことを思えるはずもない。ハジメの死は大きな衝撃であった。だからこそ、遠藤は純粋にクラスメイトの生存が嬉しかったのだ。
浩介「っというか・・・皆揃って冒険者をやってたんだな・・・しかも金か・・・。」
光輝「そうだね・・・っというか・・・君ボロボロじゃん・・・何があったの?」
光輝の返答に遠藤の表情がガラリと変わる。クラスメイトが生きていた事にホッとしたような表情から切羽詰ったような表情に。改めて、よく見てみると遠藤がボロボロであることに気がつく一同。
浩介「頼む!一緒に迷宮に潜ってくれ!早くしないと皆死んじまう!一人でも多くの戦力が必要なんだ!健太郎も重吾も死んじまうかもしれないんだ!頼むよ、皆!」
ハジメ「ちょ、ちょっと待て。いきなりなんだ!?状況が全くわからないんだが?死んじまうって何だよ。迷宮攻略してんならメルド団長が当然指揮を取ってんだろ?そうであれば二度とベヒモスの時みたいな失敗もしないだろうし・・・。」
浩介「・・・んだよ」
ハジメ「あ?聞こえねぇよ。何だって?」
浩介「・・・死んだって言ったんだ!メルド団長もアランさんも他の皆も!迷宮に潜ってた騎士は皆死んだ!俺を逃がすために!俺のせいで!死んだんだ!死んだんだよぉ!」
「!?」
ハジメ「・・・そうか。」
光輝「メルドさん・・・。」
香織「そんな・・・。」
龍太郎「信じらんねぇよ・・・。」
優花「嘘・・・。」
雫「何てこと・・・。」
癇癪を起こした子供のように、「死んだ」と繰り返す遠藤に、ハジメはただ一言、そう返した・・・同様に光輝達も非常に残念な顔をしながら一言ずつ漏らす。別に、メルドさんが死ぬわけがないと思ってはいなかった。ここは殺し合いの戦場である事は全員百も承知であるしだれがいつ死んでもおかしくはない。それが、王国最強の騎士であるメルドさんでもだ。しかしここにいる生徒達はメルドさんから大変世話になっていた事は言う間でも無かった。光輝達が出て行く際も最後まで気にかけてくれた。一同は心の中でメルドさんの冥福を祈った後、とにかく遠藤から詳しい事情を聴き始めようとする。
ロア「話の続きは、奥でしてもらおうか。そっちは、俺の客らしいしな」
しわがれた声で制止がかかった。声のした方を見ると、60歳過ぎくらいのガタイのいい左目に大きな傷が入った迫力のある男がいた。おそらく、この男がホルアドのギルド支部長なのだろう。それに、遠藤の慟哭じみた叫びに再びギルドに入ってきた時の不穏な雰囲気が満ち始めた事から、この人からも話を聞いておいた方がいいだろう。ギルド支部長と思しき男は、遠藤の腕を掴んで強引に立たせると有無を言わさずギルドの奥へと連れて行った。遠藤は、かなり情緒不安定なようで、今は、ぐったりと力を失っている。・・・とりあえず、この状況を見る限り、ロクなことが起きそうにないな。
ハジメ「魔人族ね・・・。」
冒険者ギルドホルアド支部の応接室にてハジメの呟きが響く。対面のソファーにホルアド支部の支部長ロア・バワビスと遠藤浩介が座っており、遠藤の正面にハジメが、右手には光輝が座り、その両サイドにユエとシアがシアの隣にティオが座っている。ミュウは、光輝とハジメ間に挟まる形で座っていた。左右のソファーには龍太郎達が座り話を聞いている。ミュウはハジメから買って貰ったパンをもしゃもしゃ食べ始めながら聞いていた為いまいち深刻になりきれなかった事に遠藤は苛立ちを隠せずにいた。
浩介「つぅか!何なんだよ!その子!何でパン食わしてんの!?状況理解してんの!?みんな、死ぬかもしれないんだぞ!」
ミュウ「ひぅ!?パパぁ!」
ハジメ「てめぇ・・・何、ミュウに八つ当たりしてんだ、ア゛ァ゛? 殺すぞ?」
浩介「ひぅ!?」
場の雰囲気を壊すようなミュウの存在に、ついに耐え切れなくなった遠藤がビシッと指を差しながら怒声を上げる。それに驚いてミュウが小さく悲鳴を上げながらパパであるハジメに抱きついた。当然、ハジメから吹き出す人外レベルの殺気。それを自制させるかのようにママの光輝が説得する。
光輝「はいはい・・・お父さん落ち着く。ミュウ、今ママたちはこのお兄さんと大事なお話をしているから、買って貰ったパンを食べるのは後にしなさい。」
ミュウ「分かったぁ・・・。」
光輝「?・・・っていうか屋台の前でもパン食べてたよね・・・あ!?それ二個目でしょ!?駄目じゃないか!ご飯食べられなくるから!ママに渡しなさい!」
ミュウ「ひぅ!ママ・・・ごめんさいなの・・・。」
ハジメ「お・・・おいそんな怒るなよ・・・。」
光輝「お父さん!!パンは一個だけって言ったよね!?ミュウを甘やかしたら駄目だろ!?」
ハジメ「わ・・・悪い・・ついな・・・。」
光輝「可愛がるのは良いけど甘やかすのは絶対駄目!この子の為にならないでしょ!?」
ハジメ「わ・・・分かってんよぉ・・・。」
雫「二人とも・・・子供の教育方針の話し合いはそこまでにしなさい。」
浩介「な・・・・なぁ・・・・その子・・・お前等の子か?」
光輝「あ・・・あぁ、色々あってね・・・ごめん、話を脱線しちゃって。続けよう・・・。」
愛娘を甘やかすお父さんを嗜めるお母さんの構図というこの見事な夫婦漫才?を見せられた一同。当然香織達はまたしても”悔しいぃいいいい!!!光輝君めぇええええ!!!””光輝さんずるいですぅ!!!””やっぱり反則・・・。””くぅううう!!羨ましいのじゃぁあああ!!”心の中でハンカチをかじりながら嫉妬の炎を燃やしていたが今は状況が状況だけに自分を抑える。ロアが呆れたような表情をしつつ、埒があかないと話に割り込んだ。
ロア「さて、雫。イルワからの手紙でお前達の事は大体分かっている。随分と大暴れしたようだな?」
雫「まぁ、全部成り行きですが・・・。」
ロア「手紙には、お前たちの”金”ランクへの昇格に対する賛同要請と、できる限り便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていた。一応、事の概要くらいは俺も掴んではいるんだがな・・・たった数人で六万近い魔物の殲滅に巨大魔物の撃破、半日でフューレンに巣食う裏組織の壊滅・・・にわかには信じられんことばかりだが、イルワの奴が適当なことをわざわざ手紙まで寄越して伝えるとは思えん・・・ハジメのその魔王ぶりも含めて、流石は勇者一行と言った所だな。」
ハジメ「バカ言わないでくれ・・・魔王だなんて、そこまで弱くないつもりだぞ?」
龍太郎「だな、今のハジメは魔王というよりかは悪魔王だもんな。」
ロア「ふっ、魔王を雑魚扱いか?随分な大言を吐くやつだ・・・だが、それが本当なら俺からの、冒険者ギルドホルアド支部長からの指名依頼を、お前たちに受けて欲しい・・・」
光輝「迷宮にいる生徒達の救出ですか・・・。」
その話を聞いた光輝は内心渋っていた。自分の親友を無能扱いしていたクラスメートを助けろと言うのだから・・・その事を遠藤自身も分かっていたが、それでも話を続ける。
浩介「天之川・・・お前等が出て行った後・・・俺達も俺達になりに考え抜いて迷宮攻略に乗り出したんだ。・・・自分達がこの世界で生き残る為に少しでも力を付けたい・・・その為に迷宮攻略に乗り出そうって・・・。・・・だから・・・。」
光輝「ハジメにしたことを水に流せと?」
浩介「・・・。・・・虫の良い話なのは分かってる・・・。・・・分かってるんだ・・・。」
その場で遠藤は椅子から立ち上がり、光輝たちに向かって土下座する。”俺の友達を助けてください!お願いします!お願いします!!”・・・何度も懇願し助けを求める。
香織「光輝君・・・。」
雫「光輝・・・。」
光輝「分かってるよ・・・多分その中には中村や谷口も恐らく居るだろうし・・・個人的には向かおうとは思うが・・・でもハジメ、お前は無理してこなくても・・・。」
ハジメ「俺はいいぜ、行っても。」
優花「!・・・・一緒に助けに行ってくれるの?」
ハジメ「特に関心の無い連中だが・・・まぁお前らがやりたいってんならやってやるよ。・・・あとは、ユエたちさえ良ければだが・・・。」
光輝「そうか・・・ありがとう。クラスの連中にあんな目にあったのに・・・昔と一緒でハジメは優しいな・・・。」
ハジメ「・・・別に。ただの気まぐれだ。」
ハジメ自身が言った通り、ハジメにとってクラスメイトは既に顔見知り程度の認識だ。今更、過去のあれこれを持ち出して復讐してやりたいなどという思いもなければ、逆に出来る限り力になりたいなどという思いもない。本当に、関心のないどうでもいい相手だった。ただ、だからといって問答無用に切り捨てるのかと言われれば、答えはNOだ。なぜなら、その答えは愛子先生のいう”寂しい生き方”につながっていると思うから。ましてここにいる自分が心から信じられる仲間達が助けに乗り出そうというのに、自分だけ無視というのは何とも後味が悪すぎる。
ユエ「ハジメのしたいように。私は、どこでも付いて行く」
ハジメ「・・・ユエ。」
シア「わ、私も!どこまでも付いて行きますよ!ハジメさん!」
ティオ「ふむ、妾ももちろんついて行くぞ。ご主人様」
ミュウ「ふぇ、えっと、えっと、ミュウもなの!」
香織「ありがとう!ハジメ君!」
優花「ま・・・まぁ?あんたがそう言うのはこっちとしては分かりきってたっていうか?」
ハジメとユエがまた二人の世界を作りそうな中、そうはさせじと慌てて自己主張するシア達。ミュウは、よくわかっていないようだったが、取り敢えず仲間はずれは嫌なのでギュッと抱きつきながら同じく主張する。対面で、愕然とした表情をしながら”え?何このハーレム・・・”と呟く遠藤。すっかり蚊帳の外に追い出された光輝は出された自分のティーカップを持って雫の隣のソファーに座り、雫・龍太郎の三人でゆっくりお茶を飲む。
浩介「なぁ・・・お前等、あれどういう事?」
光輝「ズズ・・・ご覧の通りだよ。」
雫「ズズ・・・私達の知らない間に南雲君はフラグを立てまくって、ああなったって事。」
龍太郎「ズズ・・・しばらくすりゃ慣れるぜ。」
浩介「あ・・・そう・・・。・・・え、えっと・・・結局、皆一緒に行ってくれるんだよな!?」
ハジメ「ああ、ロア支部長。一応、対外的には依頼という事にしておきたいんだが・・・。」
ロア「上の連中に無条件で助けてくれると思われたくないからだな?」
光輝「そうです。それともう一つ、帰ってくるまでミュウのために部屋を貸していただけないでしょうか?」
ロア「ああ、それくらい構わねぇよ。」
結局、ハジメが一緒に行ってくれるということに安堵して深く息を吐く遠藤を無視して、ハジメと光輝はロアとさくさく話を進めていった。流石に、迷宮の深層まで子連れで行くわけにも行かないので、ミュウをギルドに預けていく事にする。その際、ミュウが置いていかれることに激しい抵抗を見せたが、何とか全員で宥めすかし、ついでに子守役兼護衛役にティオも置いていく事にして、ようやくハジメ達は遠藤の案内で出発することが出来た。
光輝「ティオ、くれぐれもミュウにおねだりされても何か買っちゃだめだからね。」
ティオ「フフ・・・分かっておるよ。安心せず言ってくるが良い。」
ハジメ「おら、さっさと案内しやがれ遠藤!」
浩介「うわっ、ケツを蹴るなよ!っていうかお前いろいろ変わりすぎだろ!」
ハジメ「やかましい。さくっと行って、一日・・・いや半日で終わらせるぞ。仕方ないとは言え、ミュウを置いていくんだからな。早く帰らねぇと。一緒にいるのが変態というのも心配だしな。」
浩介「・・・お前、本当に父親やってんのな・・・美少女ハーレムまで作ってるし・・・一体、何がどうなったら、あの南雲がこんなのになるんだよ・・・。」
迷宮深層に向かって疾走しながら、ハジメの態度や環境についてブツブツと納得いかなさそうに呟く遠藤。強力な助っ人がいるという状況に、少し心の余裕を取り戻したようだ。しゃべる暇があるならもっと速く走れとつつかれ、敏捷値の高さに関して持っていた自信を粉微塵に砕かれつつ、遠藤は親友達の無事を祈った。
魔人族の蹂躙が始まる・・・
ハジメに気のある園部優花はウルの町での騒動以降、ハジメ達の仲間として付いて行く
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賛成
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反対