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ここは、オルクス大迷宮70階層。今後自分達の自衛能力を高めると共に教会側の指示に沿ってクラスメートたちはメルド団長を先頭に遠征が行われていた。以前、メルドは光輝達に関して”勇者光輝は、戦いに恐れをなして数人の仲間を引き連れて逃げた”と教会に報告したが、教会側は神エヒトが召喚した勇者がそんな馬鹿をするずが無いとその事実を受け入れようとはせず、勇者は魔人族討伐の為に旅に出たという事実に置き換えたのだった。メルドは教会のあまりに馬鹿げた現実逃避に内心嫌気をさしながらも、戦う意志のあるクラスメートを引き連れて大迷宮遠征に向かっていた。ちなみに檜山の腰巾着的存在だった斎藤良樹・近藤礼一・中野信治は檜山が捕まった事実がショックだったのかはたまた自分達でどうにかする頭が無いのか部屋に引きこもるようになってしまう。そして・・・大迷宮90階層に差し掛かった直後だった・・・そこで魔人族の女であるカトレアに出くわす。カトレアは「あんたら、召喚された勇者一行の仲間だろ?魔人族側に来ないかい?」と勧誘してきたのだ。当初は敵の未知数の戦力にどうにか状況を把握しようと話を長引かせようと試みるも、敵は相当に頭も切れ、「無駄話で戦力分析する暇があるならやらせて貰うよ。ここであたしにやられるような弱い連中ならどの道いらないしね。」と言い捨て戦闘は開始される。最初は、ただの魔物なら自分たちに敵うはずがないと思っていた。だが、実際はカトレアが使役する透明になるキメラや回復魔法を使う鴉などといった強力な魔物に蹂躙され、メルドの配下であるアランを騎士の殆どが殺され先陣を切ったメルドも倒され敵の手に落ち、後方で支援をしていた鈴と永山パーティの一人である吉野真央が重傷を負い劣勢に追いやられてしまう。
重吾『浩介・・・頼みがある・・・。』
浩介『え・・・?』
重吾『状況は最悪だ・・・ウチのパーティメンバーの中で最強戦力であるメルド団長が人質に取られた今、やることは一つだけだ。撤退と同時にお前は隠密スキルでこの迷宮を抜け出してどうにか応援を呼んで欲しい・・・お前しか頼めないんだ・・・!』
浩介『・・・!・・・・分かった。・・・死ぬなよ・・・!』
重吾『努力はするが、そう長くは持たない・・・。』
健太郎『俺が土魔法で奴の気を引く。その間に行け。』
浩介『頼む!』
撤退を余儀なくされた一行は、永山パーティの一人である野村健太郎の土系の上級攻撃魔法"落牢"を煙幕代わりに使いどうにか命からがら70階層に移動すると同時に遠藤を先に脱出させる。仮設で作った隠れ家にて体力回復に勤しむクラスメート達。回復役の要である香織が抜けた今、治癒師である辻綾子が治療を努めるが鈴の治療は困難を極めた。更に悪いことに、即席で作った隠れ家で体力回復に努めていたところで、魔人族に襲撃された。更にこれでもかとダメ押しに気絶したメルドを人質をとして用意しクラスメートを窮地に追い詰める。こうして現在に至る。大柄な柔道部の男子生徒で190cmを超える巨漢で柔道部の主将である彼は龍太郎と並ぶクラスの二大巨漢でもある。寡黙でふけた顔つきだがかなりの常識人で、窮地の状況でも冷静に戦況を思慮深く考えて遠藤を救援に送り込ませる。戦況はやはり不利だが、重吾は前線に立ち仲間達へ進んで指示を出しどうにか戦況を保っていた。後方では恵里は降霊術を使い、敵の僕である死体のキメラを蘇らせゾンビのように従え戦力に仕立て上げる。しかしそれも限界が近づいていた。
カトレア「良く持ちこたえてるようだね・・・風の噂じゃ勇者は尻尾を巻いて逃げ出して残りカスしか居ないかと思ったけど・・・あんたは中々筋あるよ・・・今ならどうだい?あたし達の軍門に下るチャンスをやるよ。ついでにこの虫の息に近い騎士様も助けてやる。10秒以内に決断しな、過ぎたらもう敵とみなし殲滅するよ。・・・10・・・9・・・8・・・。」
恵里「永山君・・・もう魔力が・・・!」
健太郎「こっちも殆どねぇ・・・。」
綾子「ごめん・・・こっちも魔力が尽きそう・・・鈴と真央の治療も不完全なのに・・・!」
重吾「ック!(限界か・・・クラスの連中の士気もこれ以上は保てない・・・俺の体力も限界で回復薬もストックゼロ・・・時間稼ぎをしようにもこの女には効かない・・・浩介・・・!)」
メルド「ッグ・・・お前達・・・。」
重吾「!・・・メルドさん!!」
メルド「お前達は生き残る事だけ考えろ!・・・信じた通りに進め!・・・私達の戦争に・・・巻き込んで済まなかった・・・お前達と過ごす時間が長くなるほど・・・後悔が深くなった・・・だから、生きて故郷に帰れ・・・人間のことは気にするな・・・最初から・・・これは私達の戦争だったのだ!」
カトレアの隣でブルタールモドキに捕らえられ虫の息だったメルドが息を吹き返す。メルドの言葉は、ハイリヒ王国騎士団団長としての言葉ではなかった。唯の一人の男、メルド・ロギンスの言葉、立場を捨てたメルドの本心。それを晒したのは、これが最後と悟ったからだ。重吾達が、メルドの名を呟きながらその言葉に目を見開くのと、メルドが全身から光を放ちながら自分を拘束していたブルタールモドキを振り払い、一気に踏み込んでカトレアに組み付いたのは同時だった。
メルド「魔人族・・・一緒に逝ってもらうぞ!」
カトレア「それは・・・へぇ、自爆かい?潔いね。嫌いじゃないよ、そう言うの。」
メルド「抜かせ!」
メルドを包む光、一見、光輝の”限界突破”のように体から魔力が噴き出しているようにも見えるが、正確には体からではなく、首から下げた宝石のようなものから噴き出しているようだった。それを見たカトレアが、知識にあったのか一瞬で正体を看破する。その宝石は、名を”最後の忠誠”といい、カトレアが言った通り自爆用の魔道具だ。国や聖教教会の上層の地位にいるものは、当然、それだけ重要な情報も持っている。闇系魔法の中には、ある程度の記憶を読み取るものがあるので、特に、そのような高い地位にあるものが前線に出る場合は、強制的に持たされるのだ。いざという時は、記憶を読み取られないように、敵を巻き込んで自爆しろという意図で。メルドの、まさに身命を賭した最後の攻撃に、重吾達は悲鳴じみた声音でメルドの名を呼ぶ。しかし、重吾達に反して、自爆に巻き込まれて死ぬかもしれないというのに、カトレアは一切余裕を失っていなかった。そして、メルドの持つ”最後の忠誠”が一層輝きを増し、まさに発動するという直前に一言呟いた。
カトレア「喰らい尽くせ、アブソド」
カトレアの声が響いた直後、臨界状態だった”最後の忠誠”から溢れ出していた光が猛烈な勢いでその輝きを失っていく。
メルド「なっ!? 何が!」
よく見れば、溢れ出す光はとある方向に次々と流れ込んでいるようだった。メルドが、必死にカトレアに組み付きながら視線だけをその方向にやると、そこには六本足の亀型の魔物がいて、大口を開けながらメルドを包む光を片っ端から吸い込んでいた。六足亀の魔物、名をアブソド。その固有魔法は”魔力貯蔵”。任意の魔力を取り込み、体内でストックする能力だ。同時に複数属性の魔力を取り込んだり、違う魔法に再利用することは出来ない。精々、圧縮して再び口から吐き出すだけの能力だ。だが、その貯蔵量は、上級魔法ですら余さず呑み込めるほど。魔法を主戦力とする者には天敵である。メルドを包む”最後の忠誠”の輝きが急速に失われ、遂に、ただの宝石となり果てた。最後のあがきを予想外の方法で阻止され呆然とするメルドに、突如、衝撃が襲う。それほど強くない衝撃だ。何だ?とメルドは衝撃が走った場所、自分の腹部を見下ろす。そこには、赤茶色でザラザラした見た目の刃が生えていた。正確には、メルドの腹部から背中にかけて砂塵で出来た刃が貫いているのだ。背から飛び出している刃にはべっとりと血が付いていて先端からはその雫も滴り落ちている。
重吾「メルドさん!」
メルド「ハハ・・・すま・・・ない・・・。」
重吾が大声でメルドの名を呼ぶ。メルドが、その声に反応して、自分の腹部から重吾に目を転じ、謝罪すると悔しげな笑みを浮かべた。直後、砂塵の刃が抜き取られメルドは人形のように力を失い地面に蹲る。少しずつ血溜りが広がっていく。誰が見ても、致命傷だった。満身創痍の状態で、あれだけ動けただけでも驚異的であったのだが、今度こそ完全に終わりだと誰にでも理解できた。カトレアはメルドの状態を簡単に診る。
カトレア「驚いたねぇ・・・この攻撃を食らってもまだ息があるよ・・・敵ながら天晴れとはこの事だね。・・・さて、カウントダウンの続きを始めようかい・・・確か、8からだったね・・・8・・・7・・・。」
カトレアがカウントダウンを再開する中、カウントが終了した直後に攻撃を仕掛けようと数十体の馬頭の魔物”アハトド”がクラスメートを囲み完全に袋のネズミにする。メルドの悪あがきも不発に終わり、身柄も敵の手に落ちた今、全ての命運は重吾の決断にかかってしまった。降伏か・・・抵抗か・・・どちらにせよ犠牲は免れない。
カトレア「6・・・5・・・4・・・3・・・2・・・!」
重吾「・・・!・・・(すまない・・・浩介・・・!)・・・待て!・・・わか・・・!」
・・・トス!!
カトレア「・・・ハ?・・・・・・イギ!?ガァアアアアアアアアアアアアアアア!!!???」
重吾が降伏を勧告しようとする中、一本の白い投げナイフがカトレアの右腕を貫通し風穴が開く。同時に轟音もなりだす。轟音と共に2体のアハトドの頭上にある天井が崩落し、同時に紅い雷を纏った巨大な漆黒の杭と深紅の槍が凄絶な威力を以て飛び出した。スパークする漆黒の杭は、そのまま眼下のアハトドをまるで豆腐のように貫きひしゃげさせ、深紅の槍はもう一体のアハトドの脳天を貫き、激しくスパークしてアハトドの体を蒸発させてしまった。全長120㎝ほどの巨杭と全長2mほどの槍がそのほとんどを地面に埋もれさせ、それを中心に血肉を撒き散らして原型を留めていないほど破壊され尽くした2体のアハトドの残骸に、眼前にいたクラスメート達はもちろんのこと、重吾や彼等を襲っていた魔物たち、そして痛みでのたうち回った後、どうにか正気を取り戻したカトレアまでもが硬直する。
ハジメ「よぉ・・・楽しそうじゃねぇか・・・俺らも混ぜてくれよ。」
重吾「・・・!?・・・その声・・・まさか・・・!?」
浩介「重吾!!健太郎!!」
重吾「浩介!?あれは・・・!?」
浩介「信じられないかもしれないが・・・南雲ハジメだ・・・。」
健太郎「何!?」
浩介「それと・・・勇者も一緒だ。」
浩介の報告と共に登場する勇者”天之川光輝”とそのパーティメンバー、更に魔王”南雲ハジメ”に永遠の愛を誓うパーティメンバーがこぞって駆けつける。香織はけが人の状態を見るため、直ぐにクラスメート全員の怪我の具合と治療に入る。クラスメートは勇者の再臨に一筋の希望を見出し沈んでいた顔つきが変わる。そんなクラスメートのことに関して特に見向きもしなかった光輝は、一先ず戦況を確認し始める。カトレアの隣には人質として捕らえたメルド団長が大怪我を負い横たわっていた。
光輝「!・・・(メルド団長・・・!)・・・龍太郎、シア・・・頼む。」
龍太郎「おう!」
シア「了解です!」
カトレア「急にどっから沸いて来たんだいあんた・・・!」
カトレアが何かを言おうとした瞬間、爆縮地を使いカトレアに急接近する二人。龍太郎の正拳突、シアのドリュッケンがカトレアの腹部にジャストミートし吹き飛ばす。その間に龍太郎はメルドを抱え、二人は光輝達の元へ戻るのだった。
浩介「メルドさん!!」
龍太郎「心配すんな。息はまだあるぜ。」
光輝「フゥ、良かった・・・間に合ったとは言い難いけど、一先ずは・・・龍太郎、リザレクトオーブを渡すからメルドさんの治療を頼む。」
龍太郎「おう!」
ハジメ「ユエはあっちで固まっている連中のお守りを頼む。シアは白崎と協力して怪我人の治療をしてくれ。」
光輝「君にもリザレクトオーブのスペアを渡しておくよ。」
ユエ「・・・ん、任せて」
シア「了解ですぅ!」
雫「私達が討ち漏らした魔物が襲って来たら、そいつらは任せるわ。」
テキパキと仲間達に指示を下す光輝とハジメ。残りのメンバーは戦闘体勢に入り、周囲の魔物を警戒する。ハジメはクロスビットを3つほどだし、周囲を守るように展開させ、吹き飛ばされたカトレアが再び立ち上がってきたと同時に語りかける。
ハジメ「そこの赤毛の女。今すぐ去るなら追いはしない。死にたくなければ、さっさと消えろ」
カトレア「ハァ・・・ハァ・・・何だって?」
もっとも、魔物に囲まれた状態で、普通の人間のする発言ではない。なので、思わずそう聞き返すカトレア。それに対してハジメは、呆れた表情で繰り返した。
ハジメ「戦場での判断は迅速にな。死にたくなければ消えろと言ったんだ。わかったか?」
ハジメの言葉は、まだこのカトレアが自分達の敵かどうかの判断であり、彼なりの慈悲の言葉だった。だが、カトレアは、これを挑発と受け取ったらしく。表情を消して「やれ」と魔物の群れに命令し周囲にいたアハトドは一斉に襲い掛かり始める。戦闘開始の狼煙と受け取り、ハジメと光輝の隣に居た雫と優花は動く。目にも映らぬスピードで動き回り、スピードにも長けたアハトドであるが、雫のスピードに全くついて行けず一方的に斬り刻まれ肉片に貸す。更に優花は黒い短刀は”シュバルツドルヒ”を巧みに使い、アハトドの胸元に命中させ重力魔法を展開。複数のアハトドを重力魔法で一網打尽にする。最後の一体であるアハトドは止めの一撃として雫は八重樫流刀術”霞穿”を放ち神速の三段突きで倒す。この間、約15秒の出来事であった。
雫「南雲君、挑発するにしても少しは言葉を選んでね。」
ハジメ「俺は、事実しか言ってないぜ。」
優花「にしても、酷くノロマな魔物だったね・・・。」
カトレア「(ノロマ!?あのアハトドをノロマ扱いだと・・・!?)」
光輝「・・・で、あんたの答えはこれで良い・・・ってわけね」
ハジメ「だな・・・つまりは、俺達の敵ってことでいいんだな?」
ハジメは左手の義手で揺れ動いている空間をつかみ上げ、同じく揺れ動く空間を剣で斬り伏せた光輝。ほとんど同時の動作であり、光輝が斬り伏せたところから、キメラのような魔物が肉塊となって現れる。
ハジメ「おいおい、何だ、この半端な固有魔法は?大道芸か?」
光輝「大道芸だとしても、こんなんじゃお昼のワイドショーにも呼ばれないよ。」
ハジメ「だな、せいぜい街角でおひねりをもらえる程度にしか稼げねぇな。」
光輝とハジメは二人して冗談を言いながら何もないところへ斬り伏せるか銃弾を打ち込む。すると、なにもない空間から頭部を撃ちぬかれた迷彩のキメラと真っ二つになったブルタールモドキが現れ、すぐに崩れ落ちた。気配を消すための迷彩なのに、動いたら空間が揺れるなど、もはや迷彩の意味がないのは自明の理だった。それからの戦いはただの蹂躙だった。4人が一歩踏み出すと、カトレアからの命令を受けた魔物たちは忠実にその命令をこなそうと4人に襲い掛かる。数体の黒猫が4人の後ろに回り込んで触手を伸ばそうとするが、ハジメは自分に触手を向けてきたノールックショットで撃ち抜き、雫と光輝はゆらりゆらりと敵の攻撃を軽やかにかわしながら全て斬り伏せ、優花はヴァイスリヒトを使い同じく襲い来る魔物を倒し続ける。
鈴「・・・う?」
香織「鈴ちゃん!」
鈴「カオ・・・リン・・・なんで・・・ここに?」
恵里「助けに来てくれたの・・・光輝君達と一緒に・・・!」
鈴「本当?信じられない・・・!」
香織の治療を受け、久しぶりに出会った友人との再会に鈴は信じられないと言った表情を浮かべながら喜ぶ。しかしその喜びも束の間、雫から”魔物が行ったわ!!”との声を聞き、鈴は咄嗟に咄嗟にシールドを発動させようとする。度重なる魔法の行使と回復したてもあり鈴の身体は悲鳴を上げる。ブラックアウトしそうな意識を唇を噛んで堪えようとするが、そんな鈴をユエの優しい手つきが制止した。頭をそっと撫でたユエに、鈴が「ほぇ?」と思わず緩んだ声を漏らして詠唱を止めてしまう。
ユエ「・・・大丈夫、私の仲間があなた達に指一本触れさせないから。」
香織「安心して、ゆっくり休んで。」
ユエと香織がそう言った瞬間、襲い来る魔物を回し蹴りの一つで龍太郎が一瞬の内に叩き潰し全て返り討ちにする。更に後続から遅い来るキメラの襲撃に対し、龍太郎は両手に火炎エネルギーを溜め込み放出する必殺技”波動烈風”を放ちすべて焼き尽くす。戦闘は僅か6秒程度で済むほどの瞬殺である。気功術と固有武器の属性効果である火炎攻撃を合わせ、以前よりも別人レベルに上げた龍太郎の無双ぶりにクラスメート全員は自分達とは別世界の人間であるかのようにその様子をただただ見ていた。唯一ユエと香織はは当然といった表情でその様子を見守る。
龍太郎「遅刻か?」
ユエ「ん~ん。でもまぁ滑り込みに近いかな?」
香織「お疲れ様。」
龍太郎「!・・・よぉ、治ったんだな!無事で良かったぜ!・・・お前が居なくなっちまったら、香織達も悲しむからな。」
鈴「え!?・・・う・・・うん////・・・ありがと・・・。」
龍太郎のニカっとした表情を見て思わず顔を赤くする鈴。自分の中で生まれた小さな感情、それが自分にとってどんな感情なのかを自覚するのはまだ先であった。一方、カトレアは、遠くから龍太郎の活躍を目にし、内心「化け物ばっかりか!」と悪態をついていた。そして、次々と駆逐されていく魔物達に焦燥感をあらわにして、先程致命傷を負わせたメルドの傍らにいるシアに狙いを変更することにした。しかし、シアに襲いかかったブルタールモドキは、振り向きざまのドリュッケンの一撃で頭部をピンボールのように吹き飛ばされる。逆方向から襲いかかった複数匹の四つ目狼も、光輝が改良を加えたNEWドリュッケンの性能を駆使しシアは倒しにかかる。魔法力を注ぎ込み、普段の二倍の大きさになったドリュッケンを巧みに使い、襲い来る狼達をまとめて叩き伏せ、あっという間に粉砕され絶命させるのだった。シアは新たなドリュッケンの性能にご機嫌になりながら”うっひょぉお!!なんとご機嫌なハンマーでしょう!!ありがとございまーす!光輝さぁん”と思わず声を上げる。
カトレア「てぇっ!!!」
アブソドに対し砲撃を指示したカトレア。アブソドから一斉射撃が放たれるも、光輝は何事も無かったかのようにしれっと全て払いのけてしまう。先ほどメルドが使った最後の忠誠を吸収した莫大な魔力を込めた砲撃であるにもかかわらず、光輝はその砲弾を剣で簡単に払いのけられた事実にカトレアは再び驚愕する。アブソドの魔力が枯渇したと同時に、ハジメは攻撃に転じる。光輝が自分のために錬成してくれたNEWシュラークをドンナーに連結、簡易型シュラーゲン”ヴァーケッテン”を使いアブソドの亀頭を電磁砲で全て撃ち滅ぼす。その威力はシュラーゲンに多少劣るものの、使い回しと取り回しが良く連射も効く為、ハジメはその性能に内心ヒャッハー状態であった。次々と積まれる魔物の死体の山。カトレアは自分の肩にいるはずだった白い鴉に回復を命じようとするが、鴉は動こうとしない。何事かと確認すると、既に白い鴉の頭部は風穴が開き既に絶命していた。先ほどカトレアの腕に風穴を開けられたときと同じものであった。
優花「悪いね、ここに来るまでの間に遠藤からあんたの情報を事前に聞いてたから、回復役を潰させて貰ったよ。」
カトレア「(こいつが・・・!?だがいつどうやって・・・?)」
優花「速過ぎて見えなかった感じ?これが・・・。」
優花はヴァイスリヒトを見せびらかしながら、カトレアの取り巻きである魔物に対し再び投擲を始める。投げる瞬間すら目で追えるか追えないかのレベルだが、目を見張るのは投げた後の事だった。ナイフを投げ飛んでくる過程が全くといって良いほど無いからだ。投げた瞬間にはナイフが刺さった結果しか残らない。避ける術があるはずも無く、魔物たちはされるがままに無数のヴァイスリヒトの投擲により次々と死体へ化していく。カトレアは半分茫然自失となる。
カトレア「ホントに・・・なんなのさ。」
力なく、呟いたカトレア。何をしようとも全てを力でねじ伏せられ粉砕される。そんな理不尽に、諦観の念が胸中を侵食していく。もはや、魔物の数もほとんど残っておらず、誰の目から見ても勝敗は明らかだ。カトレアは最後の望みと逃走のために温存しておいた魔法をハジメ達に向かって放ち、全力で四つある出口の一つに向かって走った。ハジメ達のいる場所に放たれたのは”落牢”だ。ハジメは”下がれ!”と言い放ち、光輝達を退けさせる。ハジメの直ぐ傍で落牢が破裂し、石化の煙がハジメを包み込んだ。動揺するクラスメート達を尻目に、カトレアは、遂に出口の一つにたどり着いた。しかし・・・
カトレア「!?」
香織「こんにちは。お帰りですか?」
カトレア「はは・・・既に詰みだったわけだ。」
ハジメ「その通り」
カトレアの目の前、通路の奥には全ての治療を終え先回りして見張っていた香織とクロスビットが浮遊しており、クロスビットはその暗い銃口を標的へと向けていた。乾いた笑いと共に、ずっと前、きっとハジメ達に攻撃を仕掛けてしまった時から既にチェックメイトをかけられていたことに今更ながらに気がつき、思わず乾いた笑い声を上げるカトレア。そんな彼女に背後から憎たらしいほど平静な声がかかる。カトレアが、今度こそ瞳に諦めを宿して振り返ると、石化の煙を紅い波動”魔力放射”で別の通路へと押し流すハジメの姿が見えた。光輝達は再びハジメの元へ合流する。
カトレア「だがねぇ・・・あんた達は最大のミスを犯したよ・・・それは、回復役を足止めに使ったことさぁ!!」
雫「あぁ・・・一番の悪手を・・・。」
クロスビットの攻撃をぎりぎりでかわしながらもカトレアは香織に向かって突進する。回復役である彼女に戦闘力は殆ど無いと踏んだカトレアは香織を人質にこの劣勢を覆そうとする。しかし、ハジメを含む光輝達は”やっちまったなぁ”っと言った表情でその様子を見る。雫に至っては頭を横にフルフル振りながら敵に同情する始末だ。カトレアの放った右ストレートを香織は左手で簡単に受け止め握り締める。予想外の怪力にカトレアは驚愕と右手の痛みが一気に襲い掛かる。香織は首をかしげながら純粋な質問を投げる。
カトレア「な・・・ぎっ・・・あぎ!?」
香織「どうしましたか?顔色悪いようですが・・・診てあげましょうか?」
カトレア「こんのアマァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
安い挑発に乗り、カトレアが残った左腕を使い手刀を振り下ろそうとするが、香織はその前に右手に持ったメイスを下から振り上げ、カトレアの顎にジャストヒットさせる。歯を数本へし折られそのまま無理矢理空中で回転させられながらカトレアは吹き飛ばされると、地面に着地した瞬間転がり続け壁にぶつかりようやく止まる。人身事故に匹敵するレベルのダメージであった。カトレアはふらつきながら立ち上がるも、もはや支え無しに立ち上がれる身体ではなく、壁によりかかりながら詰め寄るハジメ達を見上げる。
カトレア「・・・この・・・化け物共・・・め。どいつもこいつも・・・本当に人間?」
ハジメ「実は、自分達でも結構疑わしいんだ。だが、化け物というのも存外悪くないもんだぞ?」
光輝「俺達は違うよ?一緒にしないでよね化け物。」
優花「そだね、化け物は南雲だけ。」
ハジメ「そこは乗っとけよ馬鹿野郎が!」
そんな冗談や軽口を互いに叩き合いながら少し距離を置いて向かい合うハジメ達とカトレア。チラリとカトレアが部屋の中を見渡せば、いつの間にか残りの魔物もユエ・シア・龍太郎の手により全滅しており、改めて小さく”化け物共め”と罵った。
ハジメ「さて、普通はこういう時、何か言い遺すことは?と聞くんだろうが・・・生憎、お前の遺言なんぞ聞く気はない。それより、魔人族がこんな場所で何をしていたのか・・・それと、あの魔物を何処で手に入れたのか・・・吐いてもらおうか?」
カトレア「あたしが話すと思うのかい?人間族の有利になるかもしれないのに?バカにされたもんだね。」
嘲笑するように鼻を鳴らしたカトレアに、ハジメは冷めた眼差しを返した。そして、何の躊躇いもなくドンナーを発砲しカトレアの両足を撃ち抜いた。
カトレア「あがぁあ!!」
悲鳴を上げて崩れ落ちるカトレア。魔物が息絶え静寂が戻った部屋に悲鳴が響き渡る。情け容赦ないハジメの行為に、背後でクラスメート達が息を呑むのがわかった。しかし、ハジメはそんな事は微塵も気にせず、ドンナーをカトレアに向けながら再度話しかけた。
ハジメ「人間族だの魔人族だの、お前等の世界の事情なんざ知ったことか。俺は人間族として聞いているんじゃない。俺が知りたいから聞いているんだ。さっさと答えろ」
カトレア「・・・。」
痛みに歯を食いしばりながらも、ハジメを睨みつけるカトレア。その瞳を見て話すことはないだろうと悟った光輝は、相手の反応を観察する為に推測を話し始めた。
光輝「大方の予想はつくよ。ここに来たのは”本当の大迷宮”を攻略するためでしょ?」
カトレアが、光輝の言葉に眉をピクリと動かした。しめたと言わんばかりにその様子をつぶさに観察しながら光輝が言葉を続ける。
光輝「あの魔物達は、神代魔法の産物・・・その表情から察するに図星かな・・・なるほど、魔人族側の変化は大迷宮攻略によって魔物の使役に関する神代魔法を手に入れたからか・・・すると、魔人族側は召還された勇者一行の調査・勧誘と並行して大迷宮攻略に動いている・・・そんなところでしょ?」
カトレア「どうして・・・まさか・・・。」
光輝「そう・・・俺達は、その本当の大迷宮を攻略したメンバーだ。」
光輝が口にした瞬間、悔しそうに表情を歪めるカトレア。納得したかのように乾いた笑みを浮かべながら、完全に絶望する。
カトレア「ハハ・・・なるほどね。あの方と同じなら・・・あんた達の化け物じみた強さも頷ける・・・もう、いいだろ? ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね・・・。」
ハジメ「あの方・・・ね。魔物は攻略者からの賜り物ってわけか・・・。」
捕虜にされるくらいならば、どんな手を使っても自殺してやるとカトレアの表情が物語っていた。そして、だからこそ、出来ることなら戦いの果てに死にたいとも。ハジメとしては神代魔法と攻略者が別にいるという情報を聞けただけで十分だったので、もう用済みだとその瞳に殺意を宿した。カトレアは、道半ばで逝くことの腹いせに、負け惜しみと分かりながらハジメ達に言葉をぶつけた。
カトレア「いつか、あたしの恋人があんた達を殺すよ」
ハジメ「敵だと言うなら神だって殺す。その神に踊らされてる程度の奴じゃあ、俺達には届かない・・・。それに、こっちには神に選ばれた勇者もいるしな。なぁ、光輝・・・。」
カトレア「そうかい・・・あんたが・・・通りで・・・。分かってたらとっくに逃げてたのに・・・・ますます持って、自分の大誤算ぶりに笑けてきたよ。」
光輝「自分から勇者になった気はないけどね。」
カトレア「ごめん・・・先に逝く・・・愛してるよ、ミハイル・・・。」
愛しそうな表情で、手に持つロケットペンダントを見つめながら、そんな呟きを漏らすカトレア。自分達と同じように、誰かを愛し、誰かに愛され、何かの為に必死に生きている・・・・それを全て分かった上で、光輝は剣を迷い無く振り下ろし、カトレアを真っ二つに引き裂く。後に残ったのはカトレアと呼ばれた死体だけだった。光輝はカトレアの手から零れたペンダントをカトレアの手に再び握り締めさせる。彼なりの慈悲だったのだろう・・・。
光輝「お生憎様・・・必死に生きてるのは、こっちも同じでね・・・来世でお幸せに・・・。」
戦いは終わった・・・そして、光輝達はクラスメートとメルドの様子を見るためにカトレアの死体を後にするのであった。
カトレア・・・来世ではお幸せになって下さい・・・
ハジメに気のある園部優花はウルの町での騒動以降、ハジメ達の仲間として付いて行く
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賛成
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反対