ホルアドを離れてから数日後、サンドワームと呼ばれる平均二十メートルから百メートルに相当する砂漠特有の魔物に出くわしながら旅を続けていた。このグリューエン大砂漠にのみ生息し、普段は地中を潜行していて、獲物が近くを通ると真下から三重構造のずらりと牙が並んだ大口を開けて襲いかかる。察知が難しく奇襲に優れているので、大砂漠を横断する者には死神のごとく恐れられている。しかし、今のハジメにはユエ他達以外に光輝が連れてきてくれた強力な仲間がいる。彼等のハイレベルな実力も相まってこの砂漠の魔物たちでは到底相手にならず、道中は特に苦戦する事無く旅を続けられていたが、その道中先にてアンカジの者と思わしき青年が倒れていた。放っておけなかった香織は早速その青年を診てみる。
龍太郎「どうだ?」
香織「これ・・・魔力が暴走している?」
ハジメ「どういう事だ?」
香織「おそらくだけど、何かよくない飲み物を摂取して、それが原因で魔力暴走状態になっているみたい・・・しかも、外に排出できないから、内側から強制的に活性化・圧迫させられて、肉体が付いてこれてない・・・このままじゃ、内蔵や血管が破裂しちゃう。出血多量や衰弱死の可能性も・・・。天恵よ ここに回帰を求める”万天”」
万天を使い症状の進行を遅らせることは出来たが、完全に治すことは出来なかった香織。今の段階では、明確な治療法無いと判断し、応急措置を採ることにした。魔力を他者に譲渡する光上級魔法”廻聖”を使い、暴走状態の魔力を抜き出し、症状を緩和させることにした。
ハジメ「全員・・・特に体調が悪くなったりはしてないか?」
ユエ「ん・・・大丈夫。」
ハジメ「空気感染の心配は無し・・・か・・・。病気の症状も誰も知らねぇし・・・あとはこいつから色々と聞き出すしかない・・・か・・・。」
ティオ「念の為、妾の神水を全員分に飲ませようぞ。はい、花鳥風月~!!」
ティオは光輝から譲り受けた鉄扇”花鳥風月”を使い、全員に神水を飲ませこの病に対して念のための予防を施す。同時に、香織により回復した青年が眼を覚ます。
「・・・う?」
シア「あ!気が付きました!」
「・・・女神?そうか、ここはあの世か・・・」
龍太郎「ボソ(女神っつーか・・・邪神兼般若・・・。)」
香織「・・・なに?龍太郎君?ぶん殴られたいの?」
龍太郎「すまそ・・・。」
寝ぼけた青年に若干苛立ったハジメは”このクソ暑い中寝ぼけてんじゃねぇよ”と罵り青年の腹を蹴り込み無理矢理目を覚まさせる。
ティオ「(なんと羨ましい・・・)ご主人様、お熱いのであれば妾にお任せあれじゃ!はい、花鳥風月~!!」
噴水の如く発射された花鳥風月の水がハジメの脳天に降り注ぐ。輪をかけて苛立ちのボルテージが上がったハジメは”ついでに殺されてぇかあ!?”とティオを罵り引っ叩く。確信犯の如くその悪口と暴行にビクビクとティオはご満悦であった。しばらくして一同は青年から色々と事情を聞き込み、目的地へと進む。
・・・一方その頃、仲間達が旅を続けている間、オスカーの隠れ家にて光輝は一人錬成の技術向上に向けて奮闘していた。書物の山に囲まれた光輝は、少し休憩を取り自分のステータスプレートを眺めていた。
光輝「ふぅ・・・よかった・・・一先ず天職は習得できた・・・。」
============================
天之河光輝 17歳 男 レベル:5
天職:錬成師、■■■
筋力:10
体力:10
耐性:10
敏捷:10
魔力:15
魔耐:15
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成]、生成魔法、■■■、言語理解
==============================
光輝「(でもこの成長速度・・・初期のハジメ以下だな俺・・・。マジで勇者から無能になったなぁ・・・このまま普通に鍛錬したとしても成長は見込めそうにないし・・・。それに・・・)・・・なんだ?この文字化け?天職と技能をもう一つ習得できたのか?」
天職である錬成師、そして生成魔法を習得する事が出来た光輝。イシュタルにより天職が抹消されるも、オルクス大迷宮の攻略の経験までもが抹消されていたわけでは無かったため、生成魔法習得に関しては滞りなく済む事が出来た。しかし光輝は自分のステータスの低さと意味不明な謎の天職に頭を悩ませながら、今後の見通しを考えていた。このままでは全員のお荷物になってしまうのは明らかであり、どうにかならないか書物を漁り打開策を探す。・・・小一時間後・・・オスカーが残した書物の知識と錬成技術、そして自分のもと居た現代技術の情報を照らし合わせた結果、光輝は一先ずの自分がすべき方向性が決まり錬成師としての更なる技能習得に向けて、優花から貰った食料を食べながら座学を再開した。そして・・・翌日・・・雫、そしてミュウを連れてきたハジメがオスカーの隠れ家へと訪れてきた。
ハジメ「光輝いるのかぁ!?」
雫「光輝ぃ!」
ミュウ「ママァ!!」
やってきた三人は屋敷の外から叫び、光輝を探し始めると、その数秒後にドカンッ!!っと爆音が響き渡る。何事かと三人は急ぎ爆発した場所へとやってくると、そこには爆発に巻き込まれて黒こげになっていた光輝がそこにいた。
光輝「ウェッホ!!ゲッホ!!・・・・ん?おぉ!!ハジメ!!雫!!ミュウも!!」
ミュウ「ママきたな~い・・・。」
雫「ど・・・どうしたの?」
ハジメ「黒焦げじゃねぇか・・・なにやってたんだよ・・・。」
光輝「見ての通り、錬成さ。・・・ちょっと失敗しちゃったけどね・・・テヘペロ♪」
ハジメ「か、かわいい・・・くねぇんだよ!おどかしやがって!!」
光輝「あいて!」
ハジメ「!・・・そういや・・・錬成ってお前・・・。」
光輝「あぁ、どうにかだけど錬成師の天職は習得できたよ。」
ふざける光輝の頭をポコンと殴るハジメは、同時に光輝が既に錬成師の天職を再取得した事に驚く。ボロボロの光輝は三人に出会い笑顔を浮かべ、三人を歓迎する。一先ず汚くなった服を着替え、光輝はお茶を入れて居間に案内すると、自分のステータスプレートを三人に見せる。この短期間で天職を習得でき尚且ついくつかの錬成師の技能を習得したのは驚異的ではあったものの、やはり成長速度が勇者時と比較しても低い事にハジメと雫は不安を感じていた。一先ずお茶を飲みながらハジメはまず、現在の状況を光輝に説明し始めた。自分達が道中に出くわし助けた青年がアンカジ公国の領主の息子である事・・・アンカジ公国にてオアシスの浄化、グリューエン大火山にて静因石の確保、しばらく経っていない数日間の間にハジメ達は次々と問題が降りかかっていた。
光輝「それで、ハジメは幼気なミュウのお願いを聞いてその依頼を受けた・・・と?」
ハジメ「あぁそうだ。・・・子供の純真無垢な願いを無下には出来ないだろ?」
光輝「ふ~ん・・・へぇ~・・・。」
ハジメ「・・・っち!虚ろ目で見んじゃねぇよ!分かった降参だ!」
雫「冗談よ。・・・慈善稼業じゃないし、それなりに後ろ盾になってくれるよう約束してるわ。」
光輝「ま、そうだろうね。」
ハジメ「オアシスの浄化は済んだ。あとはグリューエン大火山で迷宮攻略しながら、感染者に必要な静因石を回収して行くつもりだ。で・・だ・・・悪いが、ここでしばらく八重樫と一緒にミュウの面倒を見てくれないか?」
ハジメはアンカジで蔓延している病にミュウが伝染する恐れを抱き、せめてミュウだけでも今現在安全なこの隠れ家でしばらく預かって欲しいと光輝に頼む。その間に身の回りの世話を雫も一緒になって協力する旨を雫の口から聞く。光輝的には雫も前線でハジメ達の力になって欲しいとの事だったが、パーティメンバーも充実しているため、多少の余裕があるとの事で全員の合意を取って雫は隠れ家にしばらく滞在する事になった。
光輝「分かった・・・実を言うと助かるよ。食事の支度とか掃除もやらなきゃだからね。園部の料理も全部食べちゃったし・・・。」
雫「それ位は任せて。あなたはあなたのやるべき事に集中すれば良いから。」
ハジメ「ミュウ、しばらくは八重樫お姉ちゃんとママと一緒にここで過ごすんだ。良い子でな。」
ミュウ「は~い!」
雫「それで光輝・・・。・・・次はあなたの事なのだけれど・・・。」
雫は重い口を開き魔物の肉について説明を始める。魔物の肉を食べれば飛躍的にステータス値も上がり技能も増えるが、光輝の肉体が著しく変貌し今のハジメのような見た目になるかもしれないリスクも話す。口にした時の苦痛も話したが、光輝は強くなれる可能性があるならそれでも構わないと当然の様に魔物の肉を食べる事を迷いなく受け入れる。
ハジメ「(園部に頼んで魔物の肉を調理して貰ったが・・・味は良くなっても魔物の肉を食った時の痛みが消えたとは限らない・・・。)・・・園部に頼んで魔物の肉を料理してくれた。・・・食ってみてくれ。神水も忘れずにな。」
光輝「よし・・・。」
雫「(光輝・・・。)」
光輝は迷いなく魔物の肉を咀嚼する。雫は光輝が魔物の肉を食べる事を予想していたものの、内心では今のままの光輝で在って欲しいと願っていたのか、食べた途端に悲しい表情を浮かべる。食べた味としては園部が調理しただけあって普通に焼いた魔物の肉よりも味は良くなっており食べ易くなっていた。そして、肉を食べた光輝は身体に異変が起き始める・・・・・はずだった。
光輝「・・・う・・・うぐ!うぉおおおおおおおおおおお!!!」
ハジメ「来たか!?」
ミュウ「ママ・・・。」
雫「ミュウ、こっち来て・・・。」
光輝「うごぉおおおおおおおおおおおおお・・・・・うぎゃああああああああああ!!!」
ハジメ「・・・あ?」
光輝「ほいやあああああああああ!!!はいやああああああ!!!うきょぉおおおおおおおおおおおおお!!!」
雫「・・・・・・光輝?」
光輝「・・・・うぁあああああああ・・・・・・・・・・・って・・・あれ?」
光輝は魔物の肉を食べ自分はチート級の能力を手にしたと勘違いしたのか、大袈裟に縁起混じりに苦しむフリをしてみたが、自分の身体に全く変化が無かったことに若干呆気にとられてしまう。
ハジメ「・・・お前・・・・・何ともないのか?」
光輝「・・・・。うん・・・・特に何ともないかな・・・。」
雫「え?・・・ステータスプレートはどう?」
============================
天之河光輝 17歳 男 レベル:8
天職:錬成師、■■■
筋力:15
体力:15
耐性:15
敏捷:15
魔力:15
魔耐:15
技能:[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系合成][+鉱物分離] [+複製錬成] [+鉱物複製] [+消費魔力減少][+鉱物分解][合成錬成][精錬錬成]、生成魔法、■■■、言語理解
==============================
光輝「変化なし・・・。」
ハジメ「・・・馬鹿な・・・!」
魔物の肉は確かに咀嚼した。ほぼ即効性であるため、全身に激しい痛みが始まり身体もそれに比例して変化するはずだが光輝には全く効果を示さなかった。遅行性と言う可能性も考えたが、今の状況を見る限りではそれも望みが薄かった。
ハジメ「(この文字化けした天職に関係してんのか?勇者の天職が外れて光輝の体質が変わった?今の光輝の成長速度に関連が?・・・いずれにせよ・・・)当てが外れたな・・・。」
光輝「みたいだね・・・。」
ハジメ「すまないな光輝・・・お前の力になりたかったが・・・。」
光輝「・・・いや、これで取るべき道はもうハッキリしたよ。そもそも・・・イケメン勇者のこの俺が魔物の肉で更にかっこよくなってしまったらハジメの出番を食べてしまうからね!ハジメも内心安心したでしょ?」
白い歯を輝かせ、気障な台詞を吐く光輝。それには流石にイラっと来たハジメは光輝の後ろに回り込みチョークスリーパーをかける。”元だろうがぁあああ!!元勇者の分際でどやってんじゃねぇえええ!!””やめてやめて~!!今俺一般人一般人!!死んじゃうよぉ!!”そんな掛け合いをくすくすと笑いながら雫とミュウは見ていた。雫にはちゃんと分かっていた。自分達を落ち込ませない為に、わざとおどけた態度を取っていたことは・・・そして、彼は全くもって諦めてはいなかった。ハジメ本人も内心では光輝が魔物の肉の効果で苦痛に苛まれる心配も無かったため、それはそれでよかったと考えていた。その後、光輝は今自分が錬成で何を作成していたのか3人に説明を始める。その作成物とは、パワードスーツだった。
ハジメ「やはりスーツか・・・。」
光輝「あぁ、身体能力の向上が見込めない以上・・・あとはパワードスーツで戦闘力を補うしかない。」
雫「それで・・・どんな物を作るの?」
光輝「まずは・・・動力源だ・・・。」
光輝がまず見せたのは、手のひらサイズの魔晶石であった。しかし、その魔晶石はハジメが錬成した魔晶石シリーズとは比べ物にならない純度と魔力を漂わせていた。光輝は今まで自分が回収した魔石を”精錬錬成”により不純物を取り除き、魔力純度100%の魔晶石へと変換・・・更に”合成錬成”を使い、以前自分が錬成した神水を結晶化したリザレクトオーブを中心に魔晶石を合成、魔力の純度と放出量を魔晶石以上に高める。錬成に錬成を重ねたこのハイブリッド魔晶石は”魔光神聖結晶”と名づけられた。
光輝「これを作るのに何回か魔力暴走を起こして爆発させちゃったけど・・・どうにか形に出来たよ・・・どうよ?」
ハジメ「(俺が作った魔晶石とは出来が月とスッポンだ・・・これだけの魔力量なら確かにパワードスーツを動かすには十分だが・・・)・・・名前が神聖結晶ってファンタジー世界観的にありきたりじゃねぇか?・・・俺だったら・・・」
光輝「・・・ドイツ語フェチのハジメ君には言われたくないかなぁ?」
ハジメ「な!?」
雫「そうね・・・”白髪眼帯の処刑人”さんからは突っ込まれたくないわね。」
ハジメ「い!?」
雫「眼帯を外してこう言うんでしょ?邪眼の力を舐めるなよ・・・!」
光輝「そうそう!・・・うぅ!!俺の呪われた機械の左腕が疼くぜ・・・喰らえ!!!邪王炎殺黒龍・・・!!」
ハジメ「別のアニメの中二病技名を言うんじゃねぇ!!やめろぉ!!分かったからやめてくれぇ!!」
ミュウ「じゃおうえんさつこくりゅうは~~!!」
光輝と雫はハジメの痛すぎる黒歴史を知り尽くしていた為、本人に対してどのような精神的攻撃が有効なのかは分かっていた。ちなみにミュウにもこの情報は行き届いており、ハジメの羞恥心はマックスを振り切りのた打ち回り果てた。冗談はこれぐらいとして話を進める光輝。腕・胸・脚・頭・・・等々のパワードスーツのパーツを正確に記載した設計図を重ね合わせると、白い甲冑騎士がモデルのパワードスーツもとい鎧が描かれていた。名前も既に決まっており、アーサー王伝説に登場する最大の英傑騎士である”ランスロット”をこの鎧に名付けていた。このネーミングにまたしてもハジメはケチをつけ始めていたが、先ほどと同じやり取りを行い制止させる。話はまとまり、ハジメは隠れ家を後にしようとする。
ハジメ「じゃ、俺はもう行くぜ。何かあったら念話石で連絡してくれ」
光輝「あぁ!そっちも気を付けてな・・・龍太郎達にもよろしく伝えておいてくれ。」
ミュウ「いってらっしゃいパパァ!」
雫「香織の事、頼んだわよ。」
ハジメ「あぁ、分かってる。ミュウ、良い子にしてるんだぞ?・・・じゃあな!」
再来の腕輪を使い、アンカジ公国へと一先ず戻るハジメ。ハジメを見送った光輝は、残ってくれた雫達を引き連れ、屋敷へと戻り始めた。
光輝「それじゃ・・・行こうか。」
雫「えぇ・・・炊事だけじゃなく、手伝えることがあるなら何でも言って。」
光輝「え・・・今何でもって・・・。」
雫「常識の範疇でね。言うまでも無いだろうけど・・・。まぁ?”何”かが起こりえそうになったとしても、今のあなたじゃ軽く捻られちゃうけどね。」
光輝「っちぇ・・・。」
ミュウ「雫お姉ちゃん!何かってな~に?」
雫「子供にはまだ早いわ。・・・お腹空いたでしょ!何か作りましょうか!」
ミュウ「わ~い!食べるのぉ!」
光輝「夕飯近いから軽めね。」
雫「はいはい、お母さんは口うるさいわねぇ~。」
ミュウ「ねぇ~!」
雫は香織達に申し訳ないと思いつつも、なんだかんだ言って今の状況を楽しんでいた。疑似的であれ、少しの間だけだがこうして想い人と家族生活を営めることに心の奥底で幸せを噛みしめていた。光輝の力に少しでもなれるよう、自分が出来る限りの事をしよう。そう心の中で決心し、この家族生活を送るのであった。
ランスロットのモチーフは白騎士物語"ウィゼル"となります。
ハジメに気のある園部優花はウルの町での騒動以降、ハジメ達の仲間として付いて行く
-
賛成
-
反対