ありふれた職業と選ばれた勇者で世界最強   作:わったさん

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感想の返信および投稿が遅くなり申し訳ございません
風邪引いてくたばってました・・・
スロースターターになるかもですが、よろしくお願いします。


白騎士、舞う

光輝と雫が隠れ家にてランスロット製造後の鍛錬に勤しんでいる頃、グリューエン大火山攻略に向かったハジメ達、そして香織は医療院の教職員達に混じり、患者の治療に勤しんでいた。緊急性の高い患者から魔力を一斉に抜き取っては魔晶石にストックし、半径十メートル以内に集めた患者の病の進行を一斉に遅らせ、同時に衰弱を回復させるよう回復魔法も行使する。その獅子奮迅振りに医療員の教職員は驚愕と尊敬の念を抱くが、香織自身が驚愕していた事もある。それは、医療院にてあの龍太郎が治療の為に残って居る事だ。

 

龍太郎「香織、半数の連中のツボは打っておいた。こいつ等なら少量の魔力での治療で良い。重症患者にだけ回復魔法を使え。」

香織「あ、うん!」

 

龍太郎が今やっている事、それは香織が魔力を抜き取り衰弱した患者のツボを押し自分の気力を送り込む事で体力を回復させると同時に、毒に対する抵抗力と回復力を促進させるものであった。これにより、ある程度の患者は衰弱による死を遅める事が出来る為、香織だけでの治療なら二日しか持たない患者も一週間以上持たせることが可能となる。本来であれば自分もと勇んでグリューエン大火山攻略に行こうと誰もが思っていたが、龍太郎は意外にも自分はここに残り香織と共に患者の治療を手伝うと本人が希望したものであった。事実、香織は龍太郎のサポートにより負担は軽くなり、かなり楽をさせて貰っている。

 

香織「龍太郎君・・・残ってくれて本当にありがとう。でも・・・何で・・・。」

龍太郎「分業だ。攻略に必要な奴らも足りてるし、わざわざ俺が行く必要はない。ならここでお前一人に患者の治療を任せちゃお前が参るだろうよ。・・・そんだけだ。それにお前になんかあったら、雫と光輝にどやされるのは俺だしな。・・・少し休憩しとけ、後の軽症患者は俺が診る。」

香織「で・・・でもあと少し。」

龍太郎「駄目だ、休める時はちゃんと休め。お前が居なけりゃここの連中を守れねぇだろうが・・・余所に引っ込んで、メシでも食ってろ。」

香織「・・・うん、ありがとう。」

龍太郎「(もし・・・ハジメ達に万が一何かあったときは・・・光輝、雫・・・頼むぜ。)」

 

一方その頃・・・グリューエン大火山最終試練の部屋・・・

 

シア「ハジメさん!ハジメさぁん!」

優花「南雲ぉ!!」

ティオ「落ち着くのじゃ、シア!優花!今、妾の守りから出てはお主でも死ぬぞ!」

シア「でもぉ!ハジメさんが!」

 

ハジメ一行はピンチに陥っていた。最後のマグマ蛇に止めを刺そうとしたその瞬間、何の前触れもなく天より放たれた白き極光をまともにハジメは喰らい大ダメージを受けたのだからだ。そして駄目押しと言わんばかりに今も小極光の豪雨を受け続けていたが、ハジメの傍にいたユエが防御魔法”聖絶”を使いハジメを守り続ける。その様子を泣きそうな表情で小極光の豪雨の中に飛び出そうとするシアと叫び続ける優花。ティオは自身が放つ渦巻く風のシールドでその軌道を逸らしながら、必死に二人を諌める。ティオとて、ハジメが心配でならない。二人の気持ちは痛いほどわかる。しかし、縮小版とはいえ、ハジメに重傷を負わせた挙句、神水による治癒効果すら薄れさせるという恐るべき攻撃の最中に無防備で飛び出させるわけには行かない。十秒か、それとも一分か・・・永遠に続くかと思われた極光の嵐は最後に一際激しく降り注いだあと、ようやく終わりを見せた。周囲は、見るも無残な状態になっており、あちこちから白煙が上がっている。ユエもティオも魔力を使いきり、肩で息をしながら魔晶石、そして光輝から貰ったタブレットを使い魔力を充填した。と、同時に、上空から感嘆半分呆れ半分の男の声が降ってきた。

 

「・・・看過できない実力だ。やはり、ここで待ち伏せていて正解だった。お前達は危険過ぎる。特に、その男は・・・。」

 

ユエ達は、その声がした天井付近に視線を向ける。そして驚愕に目を見開いた。なぜなら、いつの間にか、そこにはおびただしい数の竜とそれらの竜とは比べ物にならないくらいの巨体を誇る純白の竜が飛んでおり、その白竜の背に赤髪で浅黒い肌、僅かに尖った耳を持つ魔人族の男がいたからだ。

 

「まさか、私の白竜が、ブレスを直撃させても殺しきれんとは・・・おまけに報告にあった強力にして未知の武器・・・女共もだ。まさか総数五十体の灰竜の掃射を耐えきるなど有り得んことだ。貴様等、一体何者だ?いくつの神代魔法を修得している?」

ハジメ「質問する前に、まず名乗ったらどうだ?魔人族は礼儀ってもんを知らないのか?」

ユエ「ハジメ!」

シア「ハジメさん!」

優花「南雲!」

ティオ「無事か!ご主人様よ!」

 

ハジメは、何とか上体を起こすものの、やはりダメージが深いのか再び倒れそうになる。それを、すかさずユエが支え、残り僅かな足場にシアとティオも飛び移ってハジメを気遣うように寄り添った。ハジメは、心配そうな眼差しで自分を見つめるユエ達に大丈夫だと笑みを見せ、自らの足で立ち上がった。しかし、すぐさま戦闘が出来るような状態ではないだろうし、額に浮かぶ脂汗が激痛を感じていることを示している。それでも、ハジメは、ユエ達から視線を上空の魔人族に転じると、不敵な笑みを見せた。

 

「・・・これから死にゆく者に名乗りが必要とは思えんな」

ハジメ「全く同感だな。テンプレだから聞いてみただけだ。俺も興味ないし気にするな。ところで・・・お友達は元気そうか?上手く逃げたみたいだが・・・。」

 

ハジメは、回復のための時間稼ぎがてらに、そんな事を揶揄するように尋ねた。魔人族の男の報告やら待ち伏せていたというセリフから、以前、ウルの町で暗躍し、最後にハジメの銃弾から逃げ切った魔人族を思い出したのだ。おそらくそいつから情報を得たのだろうと。魔人族の男は、それに眉を一瞬ピクリと動かし、先程より幾分低くなった声音で答えた。

 

フリード「気が変わった。貴様は、私の名を骨身に刻め。私の名はフリード・バグアー。異教徒共に神罰を下す忠実なる神の使徒である」

ハジメ「神の使徒・・・ね。大仰だな。神代魔法を手に入れて、そう名乗ることが許されたってところか?魔物を使役する魔法じゃねぇよな?・・・極光を放てるような魔物が、うじゃうじゃいて堪るかってんだ。おそらく、魔物を作る類の魔法じゃないか?強力無比な軍隊を作れるなら、そりゃあ神の使徒くらい名乗れるだろうよ・・・。」

フリード「その通りだ。神代の力を手に入れた私に、アルヴ様は直接語りかけて下さった。我が使徒と。故に、私は、己の全てを賭けて主の望みを叶える。その障碍と成りうる貴様等の存在を、私は全力で否定する」

 

どこか聖教教会教皇イシュタルを彷彿とさせるフリード・バグアーと名乗った魔人族は、真っ向からハジメ達の存在そのものを否定した。その苛烈な物言いに、しかし、ハジメは不敵に笑うのみ。回復は遅いが、魔力変換の派生”治癒力”で魔力を治癒力に変えているので、止血だけは出来ている。左腕は使えないが、右手は骨が見えていても折れてはいないから使えないこともない。それでもこの戦力差は如何ともし難く、シアはハジメがフリードと会話している最中に独断で行動を始める。

 

シア「ボソ(優花さん・・・お願いがあります。念話石で光輝さん達に再来の腕輪でここに来てくださるよう伝えて下さい。)」

優花「え?」

シア「ボソ(この物量差は幾ら私達でも苦戦は免れません・・・。仮に切り抜けたとしても無事では済まない可能性もあります。香織さんと龍太郎さんは患者の治療で手一杯、あとは光輝さんと雫さんだけ・・・お願いします!どうにか隙を見つけて応援を呼んでください!)」

優花「・・・分かった。」

 

優花は戦闘の準備を始めながら自分一人だけでもこの状況から脱するために隙を伺い始める。ハジメとフリードは会話を終え臨戦態勢を整える。

 

フリード「貴様達は今日・・・ここで終わる。」

ハジメ「それは、俺のセリフだ。俺の前に立ちはだかったお前は敵だ。敵は・・・皆殺す!」

 

ハジメは、そう雄叫びを上げながら、激痛を堪えてドンナーをフリードに向け引き金を引いた。本来であればシュラークを連結させヴァーケッテンを使いたかったが、今の状態ではそれすら叶わなかった。激発の反動に右腕と体が悲鳴を上げるが全て敵への殺意で捩じ伏せる。更に、クロスビットを突撃させそれと同時に、ユエが雷龍を、ティオがブレスを、優花が短剣を放つ。しかし、灰竜と呼ばれた体長三、四メートル程の竜が数頭ひらりと射線上に入ると、直後、正三角形が無数に組み合わさった赤黒い障壁が出現し、ハジメ達の攻撃を全て受け止めてしまった。その障壁は、ハジメ達の攻撃力が絶大であるために数秒程で直ぐに亀裂が入って砕けそうになるのだが、後から更に他の灰竜が射線上に入ると同じように障壁が何重にも展開されていき、思ったように突破が出来ない。よく見れば、竜の背中には亀型の魔物が張り付いているようだ。甲羅が赤黒く発光しているので、おそらく、障壁は亀型の魔物の固有魔法なのだろう。シアは障壁に対し接近し、巨大化させたドリュッケンで障壁を粉砕寸前まで追いつめるが、フリードは少しも慌てない。

 

フリード「私の連れている魔物が竜だけだと思ったか?この守りはそう簡単には抜けんよ。さぁ、見せてやろう。私が手にしたもう一つの力を。神代の力を!」

 

そう言うと、フリードは極度の集中状態に入り、微動だにせずにブツブツと詠唱を唱え始めた。手には、何やら大きな布が持たれており、複雑怪奇な魔法陣が描かれているようだ。おそらくはこのグリューエン大火山で手に入れた神代魔法なのだろう。神代魔法の絶大な効果を知っているハジメ達は、詠唱などさせるものかと、更に苛烈に攻撃を加え始めた。しかし、灰竜達は障壁を突破されて消し飛んでも、直ぐに後続が詰めて新たな障壁を展開し、ハジメ達の攻撃をフリードに届かせない。ドンナーをしまい、反動の少ないオルカンを取り出し全弾ぶっ放すが、数頭の灰竜を障壁ごと吹き飛ばして終わりだった。フリードには届いていない。クロスビットも、威力が足りず障壁を破壊しきるには至らない。と、その時点でタイムアップだったようだ。フリードの詠唱が完成する。

 

フリード「界穿!」

シア「ッ!後ろです!ハジメさん!」

 

最後の魔法名が唱えられると同時に――フリードと白竜の姿が消えた。正確には、光り輝く膜のようなものが出現し、それに飛び込んだのだ。ハジメ達は、フリードが魔法名を唱えると同時に叫んだシアの警告に従い、驚愕に目を見開く暇もなく背後へ振り返る。そこには・・・ハジメの眼前で大口を開けた白竜とその背に乗ってハジメを睨むフリードがいた。白竜の口内には、既に膨大な熱量と魔力が臨界状態まで集束・圧縮されている。ハジメが、咄嗟にオルカンを盾にするのと、ゼロ距離で極光が放たれるのは同時だった。

 

ハジメ「ぐぅう!! あぁああ!!」

 

轟音と共に、かざしたオルカンに極光が直撃しハジメを水平に吹き飛ばした。凄絶な衝撃に、ただでさえダメージを受けていた肉体が悲鳴を上げ、ハジメの食いしばった口から苦悶の呻き声が上がる。

 

ユエ「ハジメ!」

 

極光に押され吹き飛ぶハジメを助けようと、ユエ達が咄嗟に、白竜に向かって攻撃を放とうとするが、それを読んでいたように灰竜からの掃射が彼女達に襲いかかり、その場に釘付けにされてしまった。吹き飛ぶハジメは、直撃こそ受けていないものの極光の衝撃に傷口が開いてしまい盛大に血飛沫を撒き散らす。そして、必死に傷ついた右腕のみでオルカンを支え、空力で踏ん張りつつも、このままでは煮え滾る海に叩き落とされると悟ったハジメは、限界突破を発動した。傷ついた体で限界突破を使うのは非常に危険な賭けだ。それでも、状況の打開に必要だと判断する。

 

ハジメ「らぁあああ!!」

 

雄叫びを上げながらオルカンを跳ね上げ極光を強引に上方へと逸らす。それでも、完全に逸らす事は出来ず、極光の余波を喰らい更に血を噴き出しながら吹き飛んだ。白竜が、追撃に光弾を無数に放つ。そんなところまでヒュドラにそっくりだ。だが、かのヒュドラよりも極光の威力が上である以上、光弾の威力も侮ることは全く出来ない。神代魔法の使い手とのコンビネーションも相まって厄介さは格段に上だ。

 

ハジメ「クロスビットぉ!」

 

ハジメは、襲い来る光弾を極限の集中によりスローになった世界で、木の葉のように揺れながらかわしていく。そして、極光により融解して使い物にならなくなったオルカンをしまうと、ドンナーを連射しながら、同時にクロスビットを飛ばしてフリードを強襲した。

 

フリード「何というしぶとさだ!紙一重で決定打を打てないとはっ!」

 

フリードは、再び、亀型の魔物が張る障壁の中に包まれながら、重傷を負っているはずのハジメのしぶとさに歯噛みすると同時に驚嘆の眼差しを送った。そして、白竜を高速で飛ばしながら、再び、詠唱を唱え始めた。

 

ティオ〝そうはさせんよ!〟

 

クロスビットの猛攻に耐え、光弾を掻い潜りながら距離を詰めてくるハジメから後退して時間を稼ごうとするフリードと白竜に、突如、空間全体に響くような不可思議な声が届く。と、同時に、横合いから凄まじい衝撃が襲いかかった。吹き飛ばされ、白竜にしがみつきながら思わず詠唱を中断してしまったフリードが、体長十メートルの白竜を吹き飛ばした原因に目を向けた。直後、驚愕にその目を見開く。

 

フリード「黒竜だと!?」

ティオ〝紛い物の分際で随分と調子に乗るのぉ!もう、ご主人様は傷つけさせんぞ!〟

 

フリードと白竜を吹き飛ばしたのは、フリードの言葉通り竜化したティオだ。竜人族であることを魔人族に知られることによるリスクを承知の上で、その姿をあらわにしたのだ。白竜より一回り小さいサイズではあるが、纏う威圧感は白竜を遥かに凌ぐ。

 

ティオ〝若いのぉ!覚えておくのじゃな!これが〝竜〟のブレスよぉ!〟

ゴォガァアアアア!!

 

轟音と共に黒色の閃光が白竜もろともフリードを呑み込もうと急迫する。白竜は身をひねり迫るブレスに向けて同じように極光のブレスを放った。黒と白の閃光が両者の間で激突し、凄絶な衝撃波を撒き散らす。直下にあるマグマの海は衝突地点を中心に盛大に荒れ狂いマグマの津波を発生させた。最初は拮抗していたティオと白竜のブレスだが、次第に、ティオのブレスが押し始める。

 

フリード「くっ、まさか、このような場所で竜人族の生き残りに会うとは・・・仕方あるまい。未だ危険を伴うが、この魔法で空間ごと・・・。」

ハジメ「させねぇよ!」

フリード「ッ!?」

 

竜人族については報告がされていなかったのか、フリードは本気で驚いているようで、まさかの事態に歯噛みしながら懐から新たな布を取り出し、再び正体不明の神代魔法を詠唱しようとした。しかし、それは、背後から響いた声と共に撃ち放たれた衝撃により中断される。傷口から血を噴き出しながら、いつの間にかフリードの背後に回っていたハジメがドンナーを連射したのだ。一発の銃声と共に放たれた弾丸は六発。その全てが、ほぼ同時に、一ミリのズレもなく同じ場所へピンポイントに着弾した。フリードの傍にいた亀型の魔物が、フリードが反応するより早く障壁を展開していたのだが、赤黒く輝く障壁はほぼゼロ距離から放たれた閃光と衝撃により、あっさり喰い破られた。焦燥感をあらわにしたフリードの懐へハジメが潜り込む。そして、ドンナーに纏わせた風爪を発動させながら、一気に振り抜いた。

 

フリード「ぐぁあ!?」

 

間一髪、後ろに下がることで両断されることは免れたが、フリードの胸に横一文字の切創が刻まれる。ハジメは攻撃の手を緩めず、フリードを切り裂いた勢いそのままに、くるりと回転すると〝魔力変換〟による〝魔衝波〟を発動させながら後ろ回し蹴りを放った。

 

ドォガ!!

フリード「がぁああ!!」

 

辛うじて左腕でガードしたようだが、勢いを殺すことなど出来るはずもなく、左腕を粉砕されて内臓にもダメージを受けながら、フリードは白竜の上から水平に吹き飛んでいく。主がいなくなったことに気がついたのか、気を逸らした白竜に黒きブレスが一気に迫る。そして、ハジメが白竜の上から飛び退いた直後、ティオのブレスが白竜を極光ごと盛大に吹き飛ばした。

 

「ルァアアアアン!!」

 

悲鳴を上げて吹き飛んだ白竜は、ティオのブレスの直撃を受けた腹を大きく損傷しながらも空中で何とか体勢を立て直し、天井付近へと一気に飛翔する。そこには、いつの間にか灰竜に乗ったフリードがいた。上空で合流すると、フリードは再び白竜に乗り込んだ。ハジメは、〝空力〟で追撃を仕掛けようとする。しかし……

 

ハジメ「ぐっ!?ガハッ!!」

 

ハジメを包んでいた紅色の光が急速に消えて行き、傷口からだけでなく、口からも盛大に血を吐き出した。限界突破のタイムリミットだ。傷を負った状態で、更に限界越えなどしたものだからダメージは深まり、リミットも早かったらしい。空力が解除されて、マグマの海に落ちそうになるハジメ。

 

ティオ〝ご主人様よ! しっかりするのじゃ!〟

ハジメ「ぐっ、ティ、ティオ……」

 

落下しかけたハジメを、飛翔してきたティオが自分の背に乗せる。ハジメは、〝限界突破〟の副作用と深刻になったダメージに倒れそうになるが、何とか片膝立ちで堪え、ギラギラと光る眼光で上空のフリードを睨みつけた。見れば、フリードの周囲に、ユエ達を襲っていた灰竜達も集まっている。

 

ユエ「ハジメ!」

シア「ハジメさん!」

 

ユエとシアが、ハジメの名を叫びながら駆けつけてきた。ティオは、近くにあった足場に着地する。今のハジメでは、攻撃を受けたときのティオの戦闘機動に耐えられず落下するおそれが高いからだ。同じ足場に飛び移ってきたユエとシアは、直ぐにハジメの傍に寄り添いその体を支えた。

 

フリード「・・・恐るべき戦闘力だ。侍らしている女共も尋常ではないな。絶滅したと思われていた竜人族に、無詠唱無陣の魔法の使い手、未来予知らしき力と人外の膂力をもつ兎人族・・・よもや、神代の力を使って、なお、ここまで追い詰められるとは・・・最初の一撃を当てられていなければ、蹴散らされていたのは私の方か・・・!?(もう一人の女がいつの間にか居ない?・・・どこへ・・・。)」

 

何かを押し殺したような声音で語りながら、ハジメと火花散る視線を交わすフリード。肩で息をしながら、無事な右手で刻まれた胸の傷口を押さえている。

 

ハジメ「なに既に勝ったこと前提で話してんだ?俺は、まだまだ戦えるぞ」

 

ハジメは、フリードの言葉に不快げに表情を歪めると、ボロボロの体で、それでも殺意で眼をギラギラと光らせながら戦闘続行を宣言する。

 

フリード「・・・だろうな。貴様から溢れ出る殺意の奔流は、どれだけ体が傷つこうと些かの衰えもない。真に恐るべきはその戦闘力ではなく、敵に喰らいつく殺意・・・いや、生き残ろうとする執念か・・・。」

 

フリードは、一度目を伏せると決然とした表情で再びハジメを睨みつける。

 

フリード「だが・・・それもここまでだ。」

 

フリードが勝利宣言をした瞬間、連れてきた総数五十体の灰竜とは別にもう百体の灰竜が空から飛来する。今の疲弊しきったハジメ達にはこの数の暴力は脅威であり戦力もほぼ残っていなかった。

 

シア「そんな・・・。」

フリード「貴様等はよくやったが・・・黒龍がいるとは言えこれだけの数を相手に戦える戦力が果たして残っているかな?(報告に会ったもう一人の化物用に残して置いた予備戦力だが・・・ここで使う!)」

ユエ「!・・・ガリ!!」

 

ユエはタブレットを数粒噛み砕き、フリードが余裕の言葉を並べると同時に、自分達の周囲に対し再び防御魔法”聖絶”を唱え防御に徹し、極光を受け止める。フリードの言うように、ハジメがほぼ戦闘不能状態である今のユエ達には戦える戦力がほぼ残っていない。シアは最後の希望を胸に今はどうにか耐え凌げるようただ心の中で願っていた。

 

シア「(お願いです・・・早く・・・!)」

 

一方その頃、優花からの連絡を受け取った光輝と雫。自衛手段を学んでいる最中であったが、ハジメのピンチを聞き中断、光輝は急ぎ身支度を整え再来の腕輪で優花がマーキングした場所へと向かおうとする。雫も当然一緒に向かうと言い出すが、ミュウの世話をしてもらう為ここにまだ残って欲しいと光輝は雫にお願いする。雫は当然抗議するが、敵の戦力がまだ未知数である以上、もし俺が駄目だった時の予備戦力として来てもらう為に待機して貰いたいとの事だった。

 

光輝「・・・じゃあ、行ってくる。」

ミュウ「パパ・・・ママを助けてなの・・・。」

光輝「クス・・・勿論さ、任せて。・・・あとの事は頼むよ・・・雫。」

雫「えぇ・・・分かってるわ。・・・あぁ、待って。」

光輝「?」

雫「ミュウ、ちょっとだけ目を瞑っててね。」

ミュウ「?・・・うん。」

 

光輝を引き留めた雫はミュウに目を瞑るようにお願いした後、首に巻き付き深いキスを交す。無事で帰ってきて・・・ただそれだけを願うかのように・・・光輝もそれに応えるかのようにキスを深く交し、雫の想いに応える。

 

光輝「あ~・・・この続きはベッドの上で如何ですか?お嬢様・・・。」

雫「・・・////////・・・まぁ・・・気分が乗れば・・・///」

光輝「ッフ・・・冗談だよ。じゃ、行って来まーす!」

 

光輝は今度こそ再来の腕輪を使い、ハジメ達を助けにグリューエン大火山の迷宮へと向かう。優花がマーキングした場所にて登場した光輝、涙目になりながら早く南雲達を助けてと優花は光輝の両肩を掴みながら懇願する。落ち着けと一言発した光輝は優花と共にハジメの元へと急ぐ。

 

ユエ「・・・っく・・・魔力が・・・。」

フリード「よく耐えたが・・・もう限界が来ただろう・・・。仮にまだ余力が残っていたとしても反撃の余地は決して与えない・・・。」

ハジメ「・・・ユエ!聖絶を解除しろ!もう一度限界突破で奴を叩く!」

ティオ〝何を言うご主人様よ!その身体じゃ無理じゃ!妾が・・・!〟

シア「そうです!今の状態で限界突破を使ったら本当に死んじゃいます!!後は私達で!!」

ハジメ「お前等だけじゃあの物量に対抗できねぇだろうが!!他に手は無ぇ・・・ユエ!早くしろ!」

ユエ「!!・・・・」

フリード「まだ足掻くが・・・だが・・・。」

ヒュ・・・・ピ!!

 

フリードが余裕の言葉を述べようとした瞬間、頬に投げナイフが飛びフリードの頬に一筋に傷が残る。反応出来なかった攻撃に一瞬怯んだフリードは灰竜への攻撃を一時中断させ状況を把握する。攻撃が止んだその先には優花と光輝がいた。

 

フリード「貴様は・・・!」

シア「優花さん!光輝さん!!」

光輝「・・・間に合ったとは言い難いけど・・・一応無事か?ハジメ・・・皆・・・。」

ユエ「ん!・・・タブレットのおかげでどうにか持ちこたえられた・・・でもハジメが・・・。」

ハジメ「っは!元気一杯だってんだよ・・・お前が来なけりゃこの後反撃する予定だったんだ。」

ティオ〝喋るでない!傷口が開くぞ!〟

光輝「ッフ・・・それだけ強がりを言えれば大丈夫そうだね。園部、後は俺がやるから皆と合流して後方へ下がらせて。」

優花「あの数を一人でやる気なの!?幾らあんたでも・・・!!」

光輝「大丈夫・・・やれるから。」

優花「・・・!・・・分かった。」

 

思慮深く考え無しに行動するとは思えない事は分かっていた優花は、勝算ありきで発言した光輝の言葉を信じ、急ぎハジメの元へと合流し、後方へと下がらせる。フリードは一番厄介なハジメがほぼ戦闘不能状態であると判断し、もう一人報告に会った厄介な相手にターゲットを定め、ユエ達を後回しにした。

 

フリード「貴様か・・・貴様も我が主の障壁となり得る絶対的脅威・・・ここで始末しておく!」

光輝「そうは・・・いかないよ。」

 

腰に差したスプリームソードを抜き、剣先を天に翳す光輝。円形の陣を描いた瞬間に陣から白く輝く鎧のパーツが出現、光輝の身体に装着された瞬間、まばゆい光を放ち一同は目を暗ませる。光が徐々に収まった瞬間、白の鎧を装着完了した光輝が登場していた。その姿にフリードは勿論の事、ハジメ達も驚きを隠せずにいた。

 

ユエ「白い・・・騎士?」

ハジメ「ランスロット・・・。」

フリード「なんだ?・・・・それは・・・。」

光輝「ランスロット・・・起動。」

 

鎧の胸の中に秘められた魔光神聖結晶が光輝の言葉に反応するかのように胸の中で光り輝き始め、頭部の両目が青く発光する。同時に青いマントを翻し、縮地を利用したトップスピードで空に舞うと、マントに纏わせた重力魔法で自由飛行を行う。そのまま灰竜の一匹に突進、手刀を使い灰竜の首を一瞬で一刀両断する。フリードはその動きを見て直ぐにランスロットが今現在の最高戦力と判断し、灰竜の一匹に指示を出し、極光を空に舞うランスロットに浴びさせる。直撃したかに思われたが、アダマンタイト製の鎧で出来たランスロットには全く意味を成さなかった。お返しと言わんばかりにランスロットは空中を縦横無尽に飛び回り灰竜達を翻弄、まずは徒手空拳だけで灰竜の顔面に拳を突き刺し次々と絶命させる。続いてスプリームソードから進化したアロンダイトの刀身に火・水・土・風の四大元素を纏わせた巨大なエネルギーソードを形成、変則的な動きで灰竜を一網打尽に次々と斬り伏せる。数に物を言わせ先ほどまで余裕だったフリードも直ぐに焦り始め、灰竜達に慌てて指示を出す。

 

光輝「(・・・想定以上の戦力だ・・・これなら・・・!)」

フリード「固まるな!!周囲を包囲して一気に叩け、敵は一体だ!」

「ルァアアアアン!!」

今度は生き残った複数の灰竜に指示を出し極光の一斉攻撃をランスロットに向けて放たせる間に、再び神代魔法を使う準備を整え始め奇襲攻撃を仕掛けようとするフリード。そうはさせまいとユエ達はフリードに攻撃魔法を仕掛けるが、またしても他の灰竜が障壁を形成しフリードの盾となる。

 

フリード「界穿!」

ハジメ「光輝!!後ろに気を付けろ!!!」

 

ハジメの叫びと最後の魔法名が唱えられると同時にフリードと白竜の姿が再び消え、ランスロットの背後に大口を開けた白竜がゼロ距離で極光が放たれる。この至近距離からの攻撃には流石に耐えられないと踏んだフリード・・・しかし、極光の攻撃が止んだ瞬間にランスロットは無傷で姿を現し、驚愕するフリードの眼前へ瞬時に移動する。回転回し蹴りを浴びせフリードを横っ飛びに吹き飛ばし、飛ばされた場所にまたしても瞬時に移動した瞬間に踵落としで地面にたたき落とすが、白竜が墜落するフリードの元へどうにか間に合いフリードを背中でキャッチする。地面への激突はどうにか免れるも、アダマンタイト製の鎧の踵落としの威力は凄まじく、フリードは頭部から夥しい出血を流し、吐き気を催しながら呻き声を上げる。恐らくは頭蓋に亀裂が入ったのだろう。

 

フリード「う・・・がっ!!・・あ!!・・あの攻撃を・・・耐えただと・・・馬鹿なっ・・・あの鎧がアザンチウム鉱石だとしても・・・・壊せないはずが・・・!!」

光輝「・・・魔光神聖結晶・・・最大出力・・・!!」

 

仲間と親友であるハジメが手痛い目に合わされ、内心ご立腹な光輝。頭は冷静になりながらも全力で敵を叩きのめす為に準備を始める。魔光神聖結晶の魔力を最大に放出させ、ランスロットは眩い光に再び包まれ鎧が刺々しく変貌し、超高機動状態に移行する。縮地を遥かに超える爆発的なスピードで変則的な動きで空中を飛び交い、そのまま体ごと体当たりする形で灰竜軍団の身体に風穴を空け瞬く間に倒す。数分間の超高機動状態が終わり元のランスロットに戻った瞬間には灰竜達は一匹残らず壊滅させられていた。その様子を見ていたハジメ達は、光輝の新たな力の前にただただ驚愕していた。

 

優花「は・・・ははは・・・何?・・・あの出鱈目な強さ・・・。」

シア「・・・すご過ぎるです・・・。」

ユエ「たった数分で・・・敵をほぼ壊滅・・・!」

ティオ〝それも・・・極光をまともに受けて無傷じゃと・・・あの鎧がアザンチウム鉱石で出来ているとしても・・・ありえんぞ・・・!〟

ハジメ「ったく・・・勇者さまさまって奴かよ・・・。」

 

地面に墜落したフリードを守るように灰竜から降りた亀型の魔物が障壁を発生させるが、無駄なあがきと言わんばかりにランスロットは悠然と歩きながら障壁ごと魔物をアロンダイトで斬り払う。全ての魔物を倒し、辿り着いた先には既にフリードと白竜しか居なかった。

 

フリード「・・・!(何なんだこの化物は・・・!!!)」

光輝「・・・始末されるのは、あんただったな。」

フリード「・・・ッフ・・・出来る事なら・・・この手は使いたくはなかったのだがな・・・貴様等ほどの強敵を殺せるなら必要な対価だったと割り切ろう。」

光輝「・・・何を言ってる?」

 

フリードは、光輝の質問には応えず、いつの間にか肩に止まっていた小鳥の魔物に何かを伝えた。その直後、空間全体、いや、グリューエン大火山全体に激震が走り、凄まじい轟音と共にマグマの海が荒れ狂い始めた。突如、下から突き上げるような衝撃に見舞われ、悲鳴を上げながらも必死にバランスをとるハジメ達。マグマの海からは無数のマグマ柱が噴き上がり始めている。

 

シア「ハジメさん!水位が!」

光輝「あんた・・・何した?」

 

シアの言葉に、ハジメ達が足場の淵を見れば、確かにマグマの海がせり上がってきていた。明らかにこの異常事態を引き起こした犯人であるフリードに怒りを押し殺し冷静な口調で聞く光輝。フリードは、中央の島の直上にある天井に移動しながら、その質問に応える。

 

フリード「要石を破壊しただけだ」

光輝「要石・・・?」

フリード「そうだ。このマグマを見て、おかしいとは思わなかったのか?グリューエン大火山は明らかに活火山だ。にもかかわらず、今まで一度も噴火したという記録がない。それはつまり、地下のマグマ溜まりからの噴出をコントロールしている要因があるということだ。」

光輝「それが要石・・・まさかっ・・・!?」

フリード「そうだ。マグマ溜まりを鎮めている巨大な要石を破壊させてもらった。間も無く、この大迷宮は破壊される。神代魔法を同胞にも授けられないのは痛恨だが・・・貴様等をここで仕留められるなら惜しくない対価だ。大迷宮もろとも果てるがいい・・・!!」

 

フリードは、冷たくハジメ達を見下ろすと、首に下げたペンダントを天井に掲げた。すると、天井に亀裂が走り、左右に開き始める。円形に開かれた天井の穴は、そのまま頂上までいくつかの扉を開いて直通した。どうやら、グリューエン大火山の攻略の証で地上までのショートカットを開いたようだ。フリードは最後にもう一度、ハジメ達を睥睨すると、踵を返して白竜と共に天井の通路へと消えていった。




ランスロットのせいでパワーバランス崩れそう・・・

ハジメに気のある園部優花はウルの町での騒動以降、ハジメ達の仲間として付いて行く

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