ハジメ「・・・これじゃ駄目だ・・・もう少し・・・!」
訓練終了後も鍛冶を続けていたハジメ。自分に良くしてくれた光輝達に何かしてあげたい、そんな想いから彼は良質な武器を作る事に没頭する。更に、近々七大迷宮の一つであるオルクス大迷宮を探索するという話が舞い込んできている為、それに間に合うように彼は励み続けた。オルクス大迷宮、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすいからということと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだ。
ハジメ「・・・よし!!」
光輝の為に作った武具と防具の作成に成功したハジメ。自分なりに作った今できる最高のモノを揃えたつもりだった。
■光輝
・メタリカルソード(光属性)
・鋼の鎧
■雫
・疾風刀(風属性)
・鋼のベスト
■香織
・スプラッシュロッド(水属性)
・鋼のローブ
■龍太郎
・火炎拳(火属性)
・鋼の道着
この国の鍛冶屋でも普通に売っている何てことはない普通の武具と防具ではあるが、ハジメなりに作った最高傑作と言っても過言では無いだろう。光輝達だけでなく彼の人柄の良さ故か、今まで自分を無能扱いしてきたクラスメートたちにも何か作ろうと思い、装備した者の防御力を少しだけ高めるブロンズブレスレットも人数分用意する。
ハジメ「どうにか間に合った・・・。少し寝よう・・・。」
自分の部屋に戻り、疲れ切ったハジメは早々と眠りに入る。その翌朝・・・早速自分が作った武器を光輝に手渡す。
光輝「・・・。」
香織「・・・。」
雫「・・・。」
龍太郎「・・・。」
ハジメ「あ・・・やっぱり国から支給された武器の方が性能良いよね・・・。・・・ごめん、変な物渡して・・・。」
龍太郎「おいおい、一度渡したもん返せってのか?冗談だろ?」
ハジメ「え?」
メルド「おいお前達。まだ宝物庫の武器を選んでないだろ?早く選べ。」
光輝「武器は、もう選びました。・・・これです。」
メルド「ん?・・・確かに質の良い武具と防具らしいな・・・だが言っちゃ悪いが宝物庫の武器の方が性能は段違いに上だぞ?良いのか?」
香織「はい!南雲君が作ってくれた物です!」
メルド「何!?(たった数週間でこれだけの装備を作るとは・・・下手したら国の鍛冶屋に匹敵するレベルだぞ・・・!)」
雫「彼の精魂込めて作った武器の方が、信頼に値します。」
メルド「・・・分かった!そこまで言うなら何も言わん!まして君達の親友が魂込めて作った武器なんだ!信頼して当然だろう!」
ハジメ「皆・・・ありがとう。」
光輝「それはこっちの台詞だよ。」
香織「うん!南雲君!素敵な装備をありがとう!」
ハジメのプレゼントを快く受け取った光輝達。早速ハジメ達はメルド団長率いる騎士団員複数名と共に、【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者達のための宿場町【ホルアド】に到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。食後にハジメはクラスメートたちに自分が作ったブレスレットを渡そうとするが、無能扱いしてきたハジメへの信頼が低いせいか誰も受取ろうとはせず拒否してしまう。その態度に激しく怒る光輝達4人であったが、明日から大迷宮に向かう為今から余計な混乱を招くべきではないと判断しここは堪える事となった。彼等4人は勿論ハジメが作ったブロンズブレスレットを装備する(先生も受け取る)。
ハジメ「結局受け取ってくれたのは4人と先生だけか・・・僕の腕もまだまだ未熟かな・・・。」
香織「南雲くん、起きてる?白崎です。ちょっと、いいかな?」
ハジメ「え・・・はい!」
ハジメは慌てて扉に向かう。そして、鍵を外して扉を開けると、そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。
ハジメ「・・・なんでやねん。」
香織「えっ?」
ハジメ「その恰好・・・もしかして天之河くんの入れ知恵で・・・。」
香織「ギクリ!そ・・・そんな事無いよ!うん・・・本当だよ!」
ハジメ「(僕に何をどうしろって言うんだ・・・)まぁいいや、えっと、どうしたのかな?何か連絡事項でも?」
香織「ううん。その、少し南雲くんと話したくて・・・やっぱり迷惑だったかな?」
ハジメ「・・・どうぞ」
ハジメは気がつけば扉を開け部屋の中に招き入れていた。光輝の考えがよく読めなかったが、香織の性的な恰好をあまり凝視しないように若干眼を逸らしながら飲み物を用意する。
ハジメ「紅茶で良い?味薄いけど・・・。」
香織「ありがとう」
嬉しそうに紅茶を受け取り口を付ける香織。窓から月明かりが差し込み純白の彼女を照らす。黒髪にはエンジェルリングが浮かび、まるで本当の天使のようだ。
ハジメ「それで、話したいって何かな。明日のこと?」
香織「明日の迷宮だけど・・・南雲くんには町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから!お願い!」
ハジメ「確かに僕は足手まといとだは思うけど・・・流石にここまで来て待っているっていうのは認められないんじゃ・・・」
香織「違うの!足手まといだとかそういうことじゃないの!」
ハジメ「え・・・?」
香織「あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど・・・夢をみて・・・南雲くんが居たんだけど、声を掛けても全然気がついてくれなくて・・・走っても全然追いつけなくて・・・それで最後は・・・。」
ハジメ「最後は?」
香織「・・・消えてしまうの。」
ハジメ「・・・そっか」
再び俯く香織を見つめるハジメ。確かに不吉な夢だ。しかし、所詮夢である。そんな理由で待機が許可されるとは思えないし、許された場合はクラスメイトから批難の嵐だろう。いずれにしろ本格的に居場所を失う。故に、ハジメに行かないという選択肢はない。それだけではない・・・今のハジメには大切な友達がいる。その友達だけに危険な思いをさせるわけにはいかない。ハジメは、香織を安心させるようなるべく優しい声音を心掛けながら話しかけた。
ハジメ「夢は夢だよ、白崎さん。今回はメルド団長率いるベテランの騎士団員がついているし、天之河君みたいな強い奴も沢山いる。むしろうちのクラス全員チートだし、敵が可哀想なくらいだよ。僕はまだまだ弱いし、実際に弱いところを沢山見せているから、そんな夢を見たんじゃないかな?」
香織「そんな風に自分の事弱い弱いって言わないで。・・・南雲君は十分強いよ。」
ハジメ「!」
香織「・・・変わらないね。南雲くんは・・・南雲くんは、私と会ったのは高校に入ってからだと思ってるよね? でもね、私は中学二年の時から知ってたよ・・・。」
その意外な告白に、ハジメは目を丸くする。必死に記憶を探るが全く覚えていない。う~んと唸るハジメに、香織は再びくすりと笑みを浮かべた。
香織「私が一方的に知ってるだけだよ。・・・私が最初に見た南雲くんは土下座してたから私のことが見えていたわけないしね。」
ハジメ「ど、土下座・・・あ!あの時か!」
香織「うん。不良っぽい人達に囲まれて土下座してた。唾吐きかけられても、飲み物かけられても・・・踏まれても止めなかったね。その内、不良っぽい人達は呆れて帰っちゃった」
ハジメ「そ、それはまたお見苦しいところを・・・。」
香織「ううん。見苦しくなんてないよ。むしろ、私はあれを見て南雲くんのこと凄く強くて優しい人だって思ったもの」
ハジメ「・・・え?」
香織「だって、南雲くん。小さな男の子とおばあさんのために頭を下げてたんだもの。」
ハジメ「あぁ・・・あれはただ単に身体が勝手に動いただけであって・・・。」
香織「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。・・・でも、弱くても立ち向かえる人や他人のために頭を下げられる人はそんなにいないと思う。・・・実際、あの時、私は怖くて・・・自分は雫ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった。」
ハジメ「白崎さん・・・」
香織「だから、私の中で一番強い人は南雲くんなんだ。高校に入って南雲くんを見つけたときは嬉しかった。・・・南雲くんみたいになりたくて、もっと知りたくて色々話し掛けたりしてたんだよ。南雲くん直ぐに寝ちゃうけど・・・」
ハジメ「あはは、ごめんなさい。」
香織「それで、よく光輝君から南雲君の事をよく聞くんだ。・・・光輝君が南雲君の一番の理解者だからね・・・プラモを一緒に作ってる時とかなんて作る事に夢中で結局話せず仕舞いだけど・・・その時の時間だけでも南雲君と一緒に居れて楽しかった。」
ハジメ「・・・天之河君、僕の事でどんなこと話してた?」
香織「自分の事を本当の意味で分かってくれてる優しい奴だって言ってたよ。ほら・・・光輝君に寄り添ってくる殆どの人って、見た目とか能力だけで評価して友達になろうとかしてくる人ばっかりじゃん。だから本当の自分の趣味を正直に打ち明けられる人が中々いなくて・・・そんな時に偶然知り合ったのが南雲君だって。自分の好きな事を共有しあえる友達にようやく出会えたって・・・そう言ってた・・・。」
ハジメ「・・・。・・・僕は、高校生活が憂鬱だった・・・自分の趣味のせいで、周りから見下されて・・・疎まれて・・・お昼休みが終わって教室から出て行って・・・屋上で一人スマホを使ってアニメを見て・・・そんな独りぼっちな毎日だった。・・・そんな時に、たまたま天之河君が来たんだ・・・。・・・気分転換に屋上でご飯食べたがっていたみたいだったね・・・。」
※回想
光輝『このアニメ・・・機動戦士ガンダムUCだね!』
ハジメ『・・・知ってるの?』
光輝『知ってるも何も俺このガンダムに出てくるプラモ殆ど作ったよ!ネオ・ジオングは高くてまだ作れてないけど・・・。』
ハジメ『アニメ・・・好きなの?』
光輝『うん。・・・なかなか俺の趣味と合う友達はいないけどね・・・龍太郎とか雫はバリバリのスポーツマンだし・・・香織は優しいから俺の趣味に合わせてくれるけど・・・結構気を使うしね・・・。』
ハジメ『・・・。・・・じゃあ、僕達趣味が一緒だね。』
光輝『うん!・・・今度一緒にプラモやレゴ作らない?スターウォーズにも最近凝ってるんだ!デススター作ろう!』
ハジメ『えっと・・・親の仕事の手伝いが無い日とかなら・・・。』
光輝『仕事の手伝いやってるの!?何の仕事!?』
ハジメ『ゲームクリエイターと少女漫画家の・・・。』
光輝『凄い・・・!もっと色々話したいな・・・!俺の名前知ってる?』
ハジメ『天之河光輝君でしょ?有名人だから分かるよ・・・ちなみに僕の名前は・・・?』
光輝『・・・・。・・・・ごめん。』
ハジメ『あはは、良いよ良いよ!・・・僕は・・南雲ハジメ。』
光輝『改めて・・・俺は天之河光輝。光輝で良いよ。』
※回想終了
ハジメ「その日からだけど・・・少しだけ高校生活が楽しくなってきた。友達が居なかった僕にとって出来た初めての友達だったから・・・本当に嬉しかった。」
香織「そっか・・・。」
ハジメ「この異世界に来ても天之河君は変わらなかった。僕の事を庇ったりしてくれたり、錬成師の僕の為に鉱物を探そうって提案してくれたりしてくれた。・・・天之河君を切っ掛けに、白崎さんとも坂上君とも八重樫さんとも仲良くなれた・・・天之河君が僕の世界を広げてくれたんだよ・・・。・・・だから、檜山君が天之河君を馬鹿にしてきたときは本当に腹が立った・・・自分がこんな風に怒れたことが本当に信じられなかった・・・自分で言うのもなんだけど・・・弱い自分がほんのちょっぴりだけ強くなれた気がするんだ。だから僕は、友達の為に戦いたい。友達だけに辛い思いをさせたくない・・・」
香織「・・・光輝君が・・・南雲君に友達と勇気をあげたんだね・・・分かるよ。・・・だからこそ、南雲君が無理しないか心配なの・・・その強い意志が・・・南雲君自身を追いつめそうで怖いから・・・。」
語りかけるハジメの言葉に耳を傾けながら、なお香織は不安そうな表情でハジメを見つめる。同時にハジメの違った側面の強さを見る事が出来たため、香織の中でハジメを惚れ直すきっかけにもなった。
ハジメ「それでも・・・それでも、不安だというのなら・・・」
香織「・・・なら?」
ハジメ「僕を守ってくれないかな?」
香織「え?」
ハジメ「白崎さんは治癒師だよね?治癒系魔法に天性の才を示す天職。何があってもさ・・・たとえ、僕が大怪我することがあっても、白崎さんなら治せるよね。その力で守ってもらえるかな?それなら、絶対僕は大丈夫だよ・・・。」
香織「・・・本当に頑固だね・・・。これ以上言っても、南雲君は自分を曲げないで私達の為に立ち向かうんだろうし・・・でも、うん・・・私が南雲くんを守るよ。」
ハジメ「ありがとう。」
香織「絶対に守るよ・・・南雲君の強い意志を・・・誰にも壊させない・・・南雲君がくれた、この守る力を使って・・・。」
ハジメからくれた装備を手にそう決心する香織。それからしばらく雑談した後、香織は部屋に帰っていった。ハジメはベッドに横になりながら、思いを馳せる。なんとしてもこれからより成長しなければと。無能の自分を信じてくれた友達の為に。ハジメは決意を新たにし眠りについた。深夜、香織がハジメの部屋を出て自室に戻っていくその背中を無言で見つめる者がいたことを誰も知らない。その者の表情が醜く歪んでいたことも誰も知らない。
あぁ・・・そろそろあのベヒモスか・・・