今回も日常編になります。タイトルの割には翼は登場しません。翼という1人の“人間”について一翔と奏が語り合います
ただ、前半は翼とタイトルは関係無しに不穏な感じになってます……
翼と対決した翌日の放課後、一翔はORCの基地へとやってきていた。
「……またチビスケたちが騒ぎ出した?」
「あぁ、そうなんだ」
前回と同様、ここ1ヶ月間の海の状況を報告された後、またチビスケやジョリーが騒ぎ出したということを木戸たちから説明された。
「騒ぎ出してから1ヶ月間は大人しくしてたんだが、昨日の夜にまた騒ぎ出してな」
「……えっ?昨日の夜?」
「あぁ、昨日の夜に騒ぎ出したものだから、かといって水族館側も閉館してるし、一翔をわざわざ呼び出すわけにもいかないと思―――って、一翔?」
チビスケたちが昨日の夜に騒ぎ出したと聞いて、一翔は昨日の出来事―――翼と戦ったことを思い出した。
「……でも、戦ったってことくらいでチビスケたちが騒ぐもんか……?」
「一翔……何か心当たりがあるのか?」
「……へ?あ、いや……考えてみたんですけど、何も思い当たらなくて……すみません」
「いや、謝らなくていいさ。こっちだって、何の収穫も無しなんだ。ただ、これは僕の憶測なんだが……どうも何か不吉なことが起きる前触れのような気がするんだ」
なんとも神妙な表情をしながら、木戸はそう予感した。
それから数日、一翔は学校から帰った後に自室でチビスケたちが騒ぎ出した原因―――数日前の夜の出来事について思い返していた。
(あの日はノイズが現れ、その後に風鳴翼が現れ、俺は戦った。だが、本当にそれだけで騒ぎ出すものなのか……?)
さすがにそれだけではないと思い、もう一度あの日の出来事を思い返す。すると、翼と戦った際に起こったあの現象を思い出した。
「……そういえば、何回か激突した際に光が発生してたな。まさか、それでチビスケたちが……」
一翔の言う通り、あの日の夜の戦いで、翼と2回ほど激突した時、謎の光エネルギーが発生していた。その時は特に気にも留めていなかったのだが、今思うと恐らくそれが原因でチビスケたちが騒ぎ出したのだろうと一翔は推測する。
すると―――
ピンポーン
インターホンが鳴ったので、モニターで誰が来たのか確認する。
[よー、今いいか?]
「天羽か」
そこには変装中の奏の姿があり、一翔はドアのロックを解除して奏を中に入れる。
「わざわざ
「んな固ぇこと言うなよ。それより、先日はあたしの相方が世話になったみてぇだな」
「……まさか、お前―――」
「あー、勘違いすんな。別に文句言いに来たとかじゃねぇよ。むしろ、ああしてくれた方が翼にはいい薬になったと思うぜ。まぁ、まだ考え方を改めてくれなさそうだけどよ……」
やれやれといった感じに話す奏。
「―――んで?文句言いに来たわけじゃないなら、何しに来たんだ?」
「なぁに、食事も兼ねて話すことがあるからさ、ちょっと付き合えよ」
「今からか?食事はともかく、話ならここでも聞くけど……?」
「ま、それもそうか……じゃあちょっとソファー借りるぜ」
そう言って奏はリビングのソファーに座り、一翔は反対側のソファーに座る。
ちなみに、なぜ奏が一翔の家を知っているのか……それは、初めて顔を合わせた後も何回か会うようになり、以前ファミレスで奢ってもらった借りを返そうと一翔自身が奏を自宅に招き、料理を振る舞ったことがあったからだ。
「それで、話すことってのは?」
「一翔、ここ1ヶ月間、ウルトラマンとしてノイズと戦ってきて、何か感じることはなかったか?」
「ノイズに関しては特に何もない、と言いたいところだが……最近のノイズは、どうも一筋縄ではいかなくなってきてる」
「―――というと?」
「光線技を避けたりだとか、ノイズ自身に学習能力が備わってきて、知能が発達してるような気がするんだ。あくまで俺の推測だが、どうにもそう考えざるを得ない」
「学習能力、ねぇ……」
一翔の言葉を聞いた奏は神妙な表情をし、持ってきていたノートパソコンを開き、キーボードを叩いてとある画像を見せる。それは地図であり、更にその地図には無数の点が表示されていた。
「これは?」
「ここ
「いや、さすがに多すぎやしないか……?」
奏の説明を聞き、そしてノイズ出現箇所を示す点の多さに一翔は驚きを通り越して無心になる。
「さっき、ノイズは学習能力でも備わってるんじゃないかって言ったよな?でもな、基本的にノイズってのは感情も知性も持たない、人間を襲うだけの化け物だ。そんな奴らが自力で学習すると思うか?」
「……まさか?」
「あぁ……ノイズは
以前からノイズが手強くなってきたのは人為的なものであると聞かされ、改めて地図の点の数を見ると、奏の言うことは断言出来るだろう。
「……ということは、これまでのノイズ出現には黒幕がいると?」
「そういうことになるな。二課の方もそう判断してる……つってもまぁ、どういう奴かは今のところ、皆目検討もつか―――一翔?」
奏が説明していくが、一翔は右手で口元を抑えながら黙り込んでいた。
(……天羽の言うように、もし本当に黒幕がいるとしたら……そいつのせいで、これまでたくさんの人たちが犠牲になったんだ……!そして何よりも―――)
一翔は内心で、ノイズを使役してるであろう黒幕に対する、今までノイズの犠牲になった人たちがいることや、
(……何があろうと「なぁ」必ずそいつを見つけ出す……「おーい」そしてそいつを「おい一翔!」ッ!?な、何だ?天羽」
「いや、こっちが何だなんだけど……どうした?急に黙り込んだりしてよ……」
「あ、すまない……―――というか、前から気になっていたんだが、天羽のやってることは良くも悪くも情報漏洩―――バレたりしたら天羽がやばいんじゃ……?」
「なぁに、心配いらねぇよ。実はここだけの話、二課の情報を漏洩してるのがあたし以外にもいるんだ。しかも、その漏洩先は米国政府だ」
奏からそのような事実を伝えられた一翔は、なぜ奏が現在単独で動いているのかが分かった。
「なるほど……天羽はその内通者を炙り出すためにも、囮として敢えて一時的に戦線離脱したってことか」
「ははっ、また鋭いこと。ただまぁ、ここ一月のノイズ出現の黒幕が誰なのか皆目検討もつかんように、その黒幕が米国政府に情報漏洩してる内通者と同一人物なのか別人なのかも、今のところ分からずじまいだ。それに、あたしが情報漏洩したのがバレたらそれはそれでいいとしても、漏洩先の相手がまさかのウルトラマン本人だと知られたらどうなるか心配だ……」
「いや、心配なら初めから情報漏洩するなよ……―――まぁどの道、その黒幕と内通者がそれぞれ別人だとしても、そいつらはそいつらで手を組んでやってるってこともありうるな。だからどっちにしろ、何が何でも炙り出す他ねぇってことか……」
「そういうこと」
そう言って奏はノートパソコンを閉じる。
その後、一翔の自宅を出て、2人はお好み焼き屋『ふらわー』に赴き食事をすることにした。ここは響と未来の行きつけの店であり、それを聞いていた奏が今回の食事の場と選んだ。基本的に外食なら付き合う一翔も、響たちと何回か来たことがあるので、特に異を唱えることなく承諾した。
「いらっしゃい。おや?カズちゃんじゃないか。今日は4人と一緒じゃないのかい?」
「まぁ、今日は最近知り合った別の知り合いに誘われまして……2人の席、空いてます?」
「空いてるよ。どこでも好きなとこに座りな」
ふらわーの店主と思われるおばさんと軽いやり取りをし、空いてる席を見つけて2人でそこに座った。
「お前さん、ここの人と仲良いのか?」
「いや、立花たちに何回か誘われたことがあって、そうしていくうちに顔馴染みになっただけだよ」
「……響たちとよく来るのか?」
「あぁ、立花がよく前置きを無しにして突然誘ってくることもあるから、たまに困ることもあるけどな」
「ふぅ~ん……」
一翔の説明を聞いて、奏はどこか面白くなさそうな感じに生返事した。
それからメニューを注文し、運ばれてきたお好み焼きの生地を鉄板で焼いていきながら2人は雑談を交わしていた。
「そういや、先日はあたしの相方が世話になった件なんだが……一翔は翼のことをどう思ってる?」
「どうって……まぁ俺から見たらだが、一番自覚すべき点を自覚出来てない感じがするな」
「自覚出来てない点?」
「あぁ、風鳴翼は自分のことを、国を守るための防人―――剣として生きてきたって言ってな。だがな、誰だって初めから防人として、剣として生きている奴はいない。まぁ、何が言いたいかというと……風鳴翼は防人や剣である以前に、自分はただの人間なんだと自覚すべきなんだ」
一翔の言葉を聞いた奏は、一瞬呆気に取られる。
「そういったところをちゃんと自覚してない感じがするし、そんなんじゃ自分を防人や剣だなんて言えはしないってことさ。まぁ、あくまで俺の持論だけど……」
「……ただの人間であることを自覚か……フッ、そうかもな」
すると、言っていることを理解したのか知らないが小さく笑った。一翔は奏が笑ったことに疑問を持つが、敢えて何も聞かずに翼に対することを話した。
「まぁ、そこを自覚したところで、俺と風鳴翼との関係がどうこうなるわけでもないんだがな……」
「ははっ、そうかもな。でもよ、一翔……出来れば翼のことは悪く思わんでくれるとありがたい」
「急にどうした……?」
「あぁ、いやな……翼は今でも、お前のことを信用してないし認めてもねぇんだけどよ……あたしもな、2年前にお前と出会うよりもっと前だったら翼のようになってたかもしんねぇんだ」
「どういう意味だ?」
「まぁ、メシ屋に来てるわけだから、一部省略させてもらうと……翼がいなかったら、あたしもお前のことを目の敵にしていたかもしんねぇってことだ」
そう語ってくる奏に対し、一翔は黙ったまま耳を傾ける。
「でもな、翼と一緒に戦って、ツヴァイウィングとして一緒に歌って―――そうしていくうちに、ウルトラマンに対する敵対心もなくなっていってな。翼と一緒じゃなければ、あたしも今の翼くらいにガッチガチになってたかも、なっ!」
奏はそう語りながら、片面が焼き上がったお好み焼きをひっくり返した。
「だからな、今の翼はあんなだが、それでもあたしが変わるきっかけを作ってくれた人物でもあるわけだから、どうかあいつのことは嫌いになんないでやってほしい」
「……」
そう言われ、一翔は少しばかり考えた後、口を開く。
「……俺は風鳴翼がどんな人物だったのかは知らないが、少なくとも天羽の言う今の風鳴翼は苦手だ―――が、だからといって嫌いなわけではない」
そう答え、奏がひっくり返したお好み焼きの片面にソース、青のり、マヨネーズを手際よくかけていき、かつお節も手際よく盛り付けていく。
「そっか……ま、翼はああ見えて結構抜けてるところが多いからな。翼と素のお前さんと比べたら、一翔の方が日常生活において何でもそつなくこなせてるよ」
「別に俺と比べなくても……風鳴翼にも何かしらの欠点はあるだろうけど、俺とは比べ物にならないくらいそつなくこなせてるような気が―――」
「悪いが一翔、その逆だ」
「……へ?」
「実はな、翼は欠点が少なからずなんてレベルじゃないくらい欠点がありすぎなんだよ。女子力が0と言っても過言じゃない。部屋だって何も片付けられてない汚部屋だぜ」
「えぇ……」
奏から翼に関する話―――所謂衝撃な事実を伝えられ、一翔はいつも見ていた翼とは違いすぎる面があったことにドン引きしていた。しかも、奏は全くオブラートに包むことなく暴露していた。
「……俺が言うのも何だが、相方としてフォロー入れて説明してもいい気が……そもそも、俺は素の状態で風鳴翼に直接会ってるわけじゃないんだし……」
「いいや、こればかりは愚痴らせてもらわないとあたしの気が済まん。そもそもあいつは―――」
(……嫌いになんないでやってほしいって言う割には、実は意外と腹に据えかねてたんだな、今の風鳴翼の状態に……)
実は、一翔の思ってた以上に奏は今の翼の状態をよく思ってなかったようで、先程の話題を皮切りに相方に対する愚痴をこぼしていた。一翔は奏の愚痴を聞き流しながら、焼き上がったお好み焼きを半分に切って自分側と奏側の鉄板へ移す。
そして自分の分のお好み焼きを食べやすいサイズまで切った後、その一部を箸でぶっ刺して口へ運ぶ。最初の一口だけとはいえ、一翔はこういうところだけは相変わらず行儀が悪い……。
「―――そんでもってだな、あたしは……って、なに呑気に先にお好み焼き食ってやがる!」
「いや、食べないと焦げるし……天羽の方も食べねぇと焦げるぞ?」
「あー悪いな……―――じゃなくてっ!いやじゃなくもないんだが一翔、あたしの話聞いてなかったろ!?」
「いやいや、聞いてたよ。要するに、天羽は風鳴翼に一言“バーロー”って言いたいんだろ?」
「全然違ぁぁぁう!!いや違くもないし怒ってやりたいのもあるかもだが、そもそもそれはあたしの中の人のネタだ!!」
「自分で言うか?あとな、天羽―――」
「何だよ!?」
「―――ここ、食事するところだってのを忘れるなよ?」
「……あっ……」
一翔のその一言で奏は我に返り、周りを見渡す。すると、カウンターの方にいるおばさんと目が合い、ニッコリとした笑みを向けられる。
“次騒いだら出禁よ”という威圧を込められた笑みを……。
「ご、ごめんなさいぃ〜……」
それを向けられた奏は、ただそう謝るしかなかった。
その後、食事を終えて会計も済ませた2人はそれぞれ帰路についていた。ちなみに、今回は割り勘で会計した。
(まぁ、腹に据えかねているようではあったが、少なくとも天羽なりに風鳴翼のことを思ってくれてるようだな)
一翔はそう思いながら自宅へ足を運ぶ。すると、ジャケットの右ポケットに違和感を感じ、その中からブレスレットを取り出す。ノイズ出現を知らせる点滅をしていた。
「……腹ごなしに行くとするか」
そう言って、一翔は人目のつかない場所を見つけ、ブレスレットを装着して光となって現場へと向かっていった。
どうでもいいですが、一翔と奏がどうして割り勘にしたのかは皆さんの想像にお任せします
次回、ついにアグルの状態で一翔があの少女と出会い、そして……!?
主人公にCVを付けるなら?(最終投票)
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松岡禎丞
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内山昂輝